ボーダーに入隊してからというもの、俺の生活は「隠密」と「狙撃」、そして「理佐の説教をいかに聞き流すか」に集約されていた。
スナイパーの訓練では、東さんがわざわざ時間を割いてくれたこともある。
「いいかい。モールモッドは四本の足を活かした素早い動きが特徴だ。無理に目を狙うより、まずは機動力を奪うことを考えなさい」
「……了解っす。要は、動かなくすればいいんですよね。やってみます」
東さんは俺のやる気のない返事にも「……君なりの最適解を見つけるといい」と穏やかに返してくれた。本当にできた人だ。
一方で、接地型でどっしり構えて撃ってくるバンダーについても、「あ、あいつは動かないから楽でいいっすね」と自分なりに解釈して済ませた。
数少ないスナイパーでよく話すのが同い年の佐鳥賢
「ねえねえ!スナイパーライフルを二丁持って同時に撃つの、アリだと思わない!?俺、これを『ツインスナイプ』って名付けて極めようと思ってるんだ!」
「……え、? 二本同時ってどーやるのよ…まあ、佐鳥がやりたいならいいんじゃない。」
「酷くない!?今はまだ考えてる段階だけど、いつか絶対やってやるからね!」
熱く語る佐鳥を適当に受け流すのは、案外エネルギーを使う。あいつの変態的な構想に付き合っていると、こっちの貴重な料理時間が削られそうだったので、結局俺は一人で訓練室に籠もるようになった。
結果、東さんの理論をベースにしつつ、あとは自分の「勘」だけで帳尻を合わせる、省エネな独学スタイルが完成した。
B級に昇格してからは、ソロの隊員として防衛任務に駆り出される日々。
基本的には、その場でマッチングされた知らない先輩隊員と組まされるが、会話は最低限で済ませている。
「おい、新入り。配置につけ。もうすぐ来るぞ」
「……。了解。屋上から見てます」
俺はぶっきらぼうな先輩アタッカーから距離を置き、一人で屋上の影に寝そべるように陣取った。
馴れ合いは疲れる。俺は俺の仕事を、最低限の労力で片付けるだけだ。
「(……お、来たか)」
スコープを覗くと、四本足でビルを這い上がってくるモールモッドが三体。
それと、地上で砲撃準備に入るバンダーが一体。
パシュッ、という消音された銃声。
俺の放った一撃が、先頭のモールモッドの関節を正確に抜く。
続けて、地上で踏ん張っているバンダーのセンサーを目掛けてもう一射。
「(よし、終わり。あとは下の人たちがなんとかするでしょ……)」
「おい新入り、いい腕してんじゃねえか。次は俺が突っ込むから、援護を……」
「あ、先輩。そっちの二体も仕留めときました。自分、もう報告書書いていいっすか?」
俺はそう言い残すと、先輩が何か言い返す前にさっさと視線を外した。
別に嫌っているわけじゃない。ただ、誰かと連携してあーだこーだ言うより、こうして気楽に一人でやるほうが圧倒的に楽なのだ。
「いやー、B級ソロ最高。この自由、この気だるさ。これこそが理想のボーダーライフだわ」
のろのろと基地へ戻り、適当に事務作業を済ませてからスーパーへ向かった。
今日の俺には、どうしても手に入れたい食材があったのだ。
その日の晩、俺はキッチンで面倒くさそうに鍋をかき回していた。
メニューは、西洋ねぎ「リーキ」を丸ごと使ったグラタン。
「……ねえ。あなた、これ一本いくらしたと思ってんの?」
背後から、温度の低い声が響く。リビングには、いつの間にか上がり込んでいた理佐が、俺がゴミ箱に捨てたレシートを指先でつまんでいた。
「あー、それ?……一本当たり1000円。ちょっと高かったけど、必要経費だし」
「はあ?……馬鹿じゃないの」
理佐の目が、心底呆れたような冷たいものに変わる。
「たかがネギ一本に1000円?金銭感覚どうなってんのよ。少しは貯金でもしたら?」
「いや、リーキは普通のネギとは別物。焼けばわかるよ……ほら、できた」
俺は熱々のグラタン皿をテーブルに運び、理佐の前に置いた。
理佐はまだ納得いかないといった風に眉をひそめていたが、立ち昇るホワイトソースとチーズの香りに、わずかに視線を動かした。
「……毒味してあげるわよ。1000円もドブに捨てたんだから」
そう言って理佐が一口、リーキの塊を口に運ぶ。
噛んだ瞬間、特有の甘みが溢れ出したのだろう。理佐の眉間の険しさが、わずかに緩んだ。
「……。……悪くないわね。むしろ、かなり美味しいわ。味だけは認めてあげる」
「でしょ。1000円の価値はあったってことで」
「それはそれ、これはこれ。次、こんな無駄遣いしたら承知しないから」
口では冷たく突き放しながらも、理佐の手は止まらず、結局グラタンの半分以上は彼女の胃袋に収まった。
まあ、喜んでくれたなら、1000円なんて安いもんだ。
のんびりした夕食。自分の好きな料理を作って、幼馴染と家族振る舞うだけの気楽な日常。
ちょっと久しぶりに作ったもので
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