とあるスナイパーがいる世界にて   作:無ラーン

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3話

ボーダーに入隊してからというもの、俺の生活は「隠密」と「狙撃」、そして「理佐の説教をいかに聞き流すか」に集約されていた。

スナイパーの訓練では、東さんがわざわざ時間を割いてくれたこともある。

「いいかい。モールモッドは四本の足を活かした素早い動きが特徴だ。無理に目を狙うより、まずは機動力を奪うことを考えなさい」

「……了解っす。要は、動かなくすればいいんですよね。やってみます」

東さんは俺のやる気のない返事にも「……君なりの最適解を見つけるといい」と穏やかに返してくれた。本当にできた人だ。

一方で、接地型でどっしり構えて撃ってくるバンダーについても、「あ、あいつは動かないから楽でいいっすね」と自分なりに解釈して済ませた。

数少ないスナイパーでよく話すのが同い年の佐鳥賢

「ねえねえ!スナイパーライフルを二丁持って同時に撃つの、アリだと思わない!?俺、これを『ツインスナイプ』って名付けて極めようと思ってるんだ!」

「……え、? 二本同時ってどーやるのよ…まあ、佐鳥がやりたいならいいんじゃない。」

「酷くない!?今はまだ考えてる段階だけど、いつか絶対やってやるからね!」

熱く語る佐鳥を適当に受け流すのは、案外エネルギーを使う。あいつの変態的な構想に付き合っていると、こっちの貴重な料理時間が削られそうだったので、結局俺は一人で訓練室に籠もるようになった。

結果、東さんの理論をベースにしつつ、あとは自分の「勘」だけで帳尻を合わせる、省エネな独学スタイルが完成した。

B級に昇格してからは、ソロの隊員として防衛任務に駆り出される日々。

基本的には、その場でマッチングされた知らない先輩隊員と組まされるが、会話は最低限で済ませている。

「おい、新入り。配置につけ。もうすぐ来るぞ」

「……。了解。屋上から見てます」

俺はぶっきらぼうな先輩アタッカーから距離を置き、一人で屋上の影に寝そべるように陣取った。

馴れ合いは疲れる。俺は俺の仕事を、最低限の労力で片付けるだけだ。

「(……お、来たか)」

スコープを覗くと、四本足でビルを這い上がってくるモールモッドが三体。

それと、地上で砲撃準備に入るバンダーが一体。

パシュッ、という消音された銃声。

俺の放った一撃が、先頭のモールモッドの関節を正確に抜く。

続けて、地上で踏ん張っているバンダーのセンサーを目掛けてもう一射。

「(よし、終わり。あとは下の人たちがなんとかするでしょ……)」

「おい新入り、いい腕してんじゃねえか。次は俺が突っ込むから、援護を……」

「あ、先輩。そっちの二体も仕留めときました。自分、もう報告書書いていいっすか?」

俺はそう言い残すと、先輩が何か言い返す前にさっさと視線を外した。

別に嫌っているわけじゃない。ただ、誰かと連携してあーだこーだ言うより、こうして気楽に一人でやるほうが圧倒的に楽なのだ。

「いやー、B級ソロ最高。この自由、この気だるさ。これこそが理想のボーダーライフだわ」

のろのろと基地へ戻り、適当に事務作業を済ませてからスーパーへ向かった。

今日の俺には、どうしても手に入れたい食材があったのだ。

その日の晩、俺はキッチンで面倒くさそうに鍋をかき回していた。

メニューは、西洋ねぎ「リーキ」を丸ごと使ったグラタン。

「……ねえ。あなた、これ一本いくらしたと思ってんの?」

背後から、温度の低い声が響く。リビングには、いつの間にか上がり込んでいた理佐が、俺がゴミ箱に捨てたレシートを指先でつまんでいた。

「あー、それ?……一本当たり1000円。ちょっと高かったけど、必要経費だし」

「はあ?……馬鹿じゃないの」

理佐の目が、心底呆れたような冷たいものに変わる。

「たかがネギ一本に1000円?金銭感覚どうなってんのよ。少しは貯金でもしたら?」

「いや、リーキは普通のネギとは別物。焼けばわかるよ……ほら、できた」

俺は熱々のグラタン皿をテーブルに運び、理佐の前に置いた。

理佐はまだ納得いかないといった風に眉をひそめていたが、立ち昇るホワイトソースとチーズの香りに、わずかに視線を動かした。

「……毒味してあげるわよ。1000円もドブに捨てたんだから」

そう言って理佐が一口、リーキの塊を口に運ぶ。

噛んだ瞬間、特有の甘みが溢れ出したのだろう。理佐の眉間の険しさが、わずかに緩んだ。

「……。……悪くないわね。むしろ、かなり美味しいわ。味だけは認めてあげる」

「でしょ。1000円の価値はあったってことで」

「それはそれ、これはこれ。次、こんな無駄遣いしたら承知しないから」

口では冷たく突き放しながらも、理佐の手は止まらず、結局グラタンの半分以上は彼女の胃袋に収まった。

まあ、喜んでくれたなら、1000円なんて安いもんだ。

のんびりした夕食。自分の好きな料理を作って、幼馴染と家族振る舞うだけの気楽な日常。




ちょっと久しぶりに作ったもので
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