恋するウマ娘   作:とむじん

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ネイテイはいずれ万病に効く薬となるであろう


恋するナイスネイチャ

「……ねぇ」

「ん~?」

「……ねぇってば!」

「なーにさ、テイオー」

 

ぽかぽか、ぬくぬく。平日のお昼休み。暖かな陽光が射し込む中、校舎の屋上、給水タンクの物陰で、アタシーーナイスネイチャはトウカイテイオーを膝に乗せて後ろから抱き抱えていた。

秋から冬にかけて気温が下がっていく中、テイオーの子供体温が心地良い。まだわずかに暖かさが残る気温と相まって、ほんのりと眠気に誘われる。

そんな中、テイオーは恥ずかしさで頬を赤く染めながら、抗議をするように声を上げた。

 

「なんでボクのことを抱き締めてるのさ!」

「そりゃあ、そんな気分だったから?」

 

理由という理由はない。ただなんとなく、午前の授業中に人肌に触れたくなってしまったから、人気の少ない屋上まで来てテイオーを抱き締めているだけだ。

 

「な、なにそれ」

「いいじゃん別に。アタシ達、付き合ってるんだし」

「そうだけどぉ……」

 

アタシの言葉にもにょもにょと両手の人差し指をくっつけて、言葉に詰まるテイオー。抱き締める腕に力は全く入れていない。嫌ならアタシの腕をずらして移動したらいいだけなのだが、そんな様子は微塵もなく。つまり、テイオー自身も満更ではないと思っているということになる。

 

羞恥で体を固くして、無意識に背筋を伸ばしている姿に、なんとも言えない気持ちになる。具体的には、少し意地悪をしたくなった。

 

「テイオーは可愛いねぇ」

「ぅや……! ちょっとネイチャ、耳元で囁かないで……!」

 

吐息から逃げるように、テイオーはアタシから頭を離す。後ろから抱き締めている以上、逃げることはできないのだけど。

 

「まだ慣れないの? もう付き合ってから一月くらい経つよね」

「な、慣れるわけないでしょ! こんな恥ずかしいこと! むしろなんでネイチャは平気なっんぅぅ!?」

「……はちみーの匂いがする」

「っあ……嗅がないでってば!」

 

首筋に顔を埋めると、くすぐったいのかテイオーは体をよじらせた。ほんのりと漂う香り。いつもテイオーが好んで飲んでいるはちみーの香りだ。

ぎゅぅっと抱き締める腕に力を入れる。テイオーは少し苦しそうな反応を見せるけれど、決して拒絶はしなかった。

 

 

それが、アタシはとても嬉しかった。

 

 

★☆★

 

 

初めてテイオーを見た時、なんてキラキラと輝いている子だろうと思った。

 

人懐っこくて、元気で、レースの才能に溢れていて。敵わないなぁ、なんて思いながら、彼女のレースを何度も見返して、どうしたら勝てるのかを考えて。

 

才能の差に嫉妬して、レースに負けて悔しくて。でも、アタシもキラキラになりたい。キラキラを手に入れたい。心の中ではずっと炎が燻っていた。

 

日本ダービー終了時、テイオーが怪我をしたと聞いた時は思わず泣いた。有馬記念で復活を果たしたときは、心から喜んだ。テイオーがどう思っているかは分からなかったけれど、私は彼女をライバルだと思っていたから、まるで自分のことのように感じていた。

 

有馬記念でのライブが終わり、トレセン学園へと戻る道中。トレーナーの車の中で、ぼんやりとテイオーの事を考えていて。テイオーの表情や仕草、性格を思い出して。トレセン学園の寮に到着する頃には、恋心を自覚していた。

 

最初は動揺したし、しばらくテイオーの顔を直視できなかったけれど、悶々と過ごす内に、その恋心を受け入れることができた。

 

アタシは最初に見た時から、テイオーに一目惚れしていたんだ。いつもキラキラと輝いているウマ娘に。だからいつもテイオーのことを見ていたし、ライバルだと意識していた。

 

そう納得してからは早かった。恋愛なんてしたこと無かったから、少女漫画のヒーローを参考にして、アタシは全力でキラキラ(テイオー)を口説き落とした。

 

手が触れ合うスキンシップから、壁ドンまで。何かを間違えているような気もしたけれど、テイオーを誰にも渡したくなかったから。テイオーにとっての1番をもぎ取った。

 

ちょっと強引なところもあったけれど、どうやらテイオーは多少強引な方が好みだったらしい。最後には、アタシの告白に頷いてくれた。

 

それからは、テイオーの意向もあって、周囲に内緒でお付き合いを始めることとなった。とはいえ、恋人らしいことは、時折屋上でテイオーを抱き締めることくらいしかしていないけれど。

 

 

★☆★

 

 

「……本当にどうしたのネイチャ。なんだからしくないよ?」

「テイオーがデートしてくれない」

「うぐ」

 

顔を後ろに向けて心配そうにするテイオーに告げた一言。微妙な表情で視線を戻したテイオーの背中に額をくっつけて、可能な限り密着する。

 

「テイオーは、アタシと付き合ってることが恥ずかしいの?」

「っ、ちがっ……!」

「もしかして、迷惑だった……?」

 

震えた声が、自分の口から漏れ出るのが分かる。同調するように体もわずかに震えて、その震えを抑えるようにテイオーの体を強く抱き締めた。

 

「ちが、違うよネイチャ! ごめん、そうじゃないよ!」

 

慌てたようにアタシの言葉を否定するテイオー。腰に回していた腕を外して対面で座り込み、うつむいたままのアタシの肩を掴む。

 

「ネイチャが悪いんじゃなくって……その」

「……ぐす」

「か、からかわれるのが恥ずかしかっただけ! 皆、ボクに恋人が出来たなんて知ったら、絶対からかってくるし……!」

 

マヤノとか、マックイーンとか、ゴルシとか……トレーナーとか……! テイオーは指折り数えて、からかってくるだろうメンバーの名前を挙げていく。

 

「だ、だから、ネイチャが嫌いとか、迷惑とかじゃなくて……」

「じゃなくて……?」

「ぅぅ……、す、好き、だよ。ネイチャのこと……。ネイチャは、ボクにとって1番大切な人、なんだから」

「でも、デートしてくれない」

「で、デートでも何でもするから! ネイチャが泣くと、ボク……どうしたらいいか分からなくなっちゃう……!」

 

アタシを慰めるためなのか、これまでされるがままだったテイオーから、初めて抱き締めてくれた。

頬に感じるお腹の感触。耳がテイオーの胸元に当たり、激しく鼓動する心音が聞こえてくる。緊張と、不安によるものだろうか。妙な体勢で抱き締められているため、ちょっと体が痛い。へたっぴなテイオーも可愛いなぁなんて、少し楽しい気持ちになってしまう。

そして、ぎこちなく頭を撫でるテイオーの手つきが心地よくて、アタシはゆっくりと目をつむった。

 

ーーーーーー。

ーーーー。

ーー。

 

「まあ、嘘泣きなんですけどね」

「な、え、ネイチャズルい!」

 

テイオーの感触をたっぷりと堪能した後、けろっとした表情のままアタシは頭を上げた。ぽかんと呆気に取られたテイオーは、頬を赤らめたままぷぅっと膨らませる。

 

「え~? だって元々、テイオーがずるずると先延ばしにしてたのが悪いんじゃん?」

「う、ぐぐぐ……」

「それに、『なんでもする』って言ったのはテイオーだし? 天下のテイオー様は、自分で言った言葉くらいは守るよね?」

「そ、れはぁ……」

 

何も言い返せず、テイオーは口を閉ざす。軽率に口にしてしまった言葉にちょっぴり後悔しているのか、手をぎゅっと握りしめていて。ちょっとやりすぎたかと思っていると、テイオーはキッと涙目で睨み付けてきた。流石、反骨精神逞しい。けど、顔が可愛いから全然怖くないなぁ。

 

「今日のネイチャはいじわるだ……!」

「ほうほう、これくらいで意地悪とは嘗められたものですなぁ」

 

アタシは目を細めて、分かりやすく舌で唇を舐める。ただの演技だけど、テイオーには効果抜群だったようで、びくりと肩を跳ねさせた。

そのままテイオーの肩を掴んで、耳元に口を寄せる。そして、耳の中に吐息が感じられるよう、ゆっくりと、ちょっとだけ艶かしく囁いた。

 

「……今度の休み、楽しみにしてるね」

「ひぁ……」

 

テイオーの頭を抱き締めて、そのまま一緒に横になる。予鈴までまだ時間があるしと、ちょっとだけお昼寝するために目をつむる。その間、テイオーは固まったまま予鈴まで動かなかった。

 

 

★☆★

 

 

ようやく訪れた休みの日。

いつもよりちょっとだけ早起きをして、気合いを入れておめかしをする。大きくは変えず、派手すぎないマニキュアを塗ってみたり、普段は使わないヘアピンやイヤリングを付けてみたり、友人に選んで貰った可愛らしい服を着てみたり。初めてのデートに我ながら浮かれていることを自覚して、頬がゆるむ。

 

初めてのデート。何度も行き先を考えては白紙にしてを繰り返した。結局、無難な場所に落ち着いたけれど、テイオーに楽しんで欲しかったから、結構頑張った。

 

ネックレスを付けて、姿鏡の前で自分を見る。いつものアタシのイメージの延長線で派手過ぎない。けれど今日はちょっとだけ、あか抜けた印象を持たせている。

 

ーーテイオーは、可愛いと思ってくれるだろうか。

 

なんて考えてから、頬をぴしゃりと叩く。弱気な事を考えてはダメだ。むしろ、可愛いと言わせる気持ちで向かわないと。

 

「行ってきまーす」

 

まだ寝てる同室のマーベラスサンデーを起こさないように部屋を出て、待ち合わせ場所まで向かった。

 

 

★☆★

 

 

時刻は8時50分。待ち合わせ時間まで10分程。テイオーの希望で、待ち合わせ場所は駅前となったため、広場のベンチで座って待つことにした。なんだか恋人っぽい事をしてるような気分に、少しだけ高揚する。……いや、付き合っているんだけどねアタシ達。

 

ドキドキと高鳴る心臓を落ち着けようと、大きく息をして周囲を見渡す。仕事に向かうスーツの男性。仲睦まじく腕を組んで歩く夫婦。体操着にスポーツ用具を持って集団で歩く女子高生。比較的大きな通りを、たくさんの人が埋め尽くしている。

 

そんな中、初々しく手を繋いで歩く恋人の姿に、アタシ達もあんな風に見えるのかなぁ、なんてぼんやりと見つめていると。

 

「ごめんネイチャ、遅くなった?」

「んーん、今来たとこ」

 

声が聞こえたため、定番みたいな返事をしながら視線を向けると、珍しい格好のテイオーが立っていた。

普段あまり見ないパンツスタイルに、軽く上着を羽織ったカジュアルな姿。けれど、それがとても似合っていて、思わずぼうっと見惚れてしまった。

 

「ーーイチャ、ネイチャ?」

「はっ! うん、なに、テイオー」

「大丈夫? 急にぼーっとして」

「あ、うん。大丈夫大丈夫! あはは、えーっと……テイオーが珍しい格好だったから、その、似合ってる。カッコいいよ」

 

アタシの言葉にきょとんと一拍置いてから、テイオーは目を丸くした。耳がぴょこぴょこと動いて、恥ずかしそうに視線を反らす。

 

「あ、りがと……。ネ、ネイチャもお洒落してきてくれたんだよね。凄く似合ってる。可愛いと思うよ」

「っ! ……ありがとね」

 

へにゃりと柔らかな笑顔で褒めてくたテイオー。言われたいと思っていたが、こう直球で伝えられるともの恥ずかしい。不意打ち気味な言葉に、アタシの耳や尻尾が大きく揺れる。返事も簡素なものとなり、どこか素っ気ない感じになってしまった。

というかアタシ、テイオーに攻められてない? テイオーよりも感情が大きく出てしまっていることが、ちょっと悔しい。心の中で『今日はアタシがテイオーをリードするぞ!』なんて意気込んでみる。

 

「それで、今日はどこに行くの? ネイチャが決めるって言ってたけど」

「うん。今日はテイオーに頑張ってもらうね?」

「ん……? ……え?」

 

 

★☆★

 

 

「さっすがテイオー、なんでも似合っちゃうなぁ。あ、次はこっちを着てみてくれる?」

 

やってきたのは最近オープンしたばかりのアミューズメント施設。併設されたデパートには、大人から子供までを対象としたショップが数多く立ち並んでいる。

アタシは、その一角にある服屋の試着室でテイオーを着せ変えていた。今日のカジュアルな服装は勿論、ガーリッシュ系やストリート系も似合うものだから、楽しくてブレーキがかけられない。

 

「ね、ねぇネイチャ……? 流石にこう、着せ替え人形にされるのは恥ずかしいんだけど」

「せっかく遊びに来たんだし、楽しもうかなって。はい、次の服」

「楽しいのはネイチャだけでしょ……って、チャイナ服なんてどこで見つけてきたのさ!?」

「おっとバレたか」

 

しれっと渡せば着てくれるかと思っていたが、そう上手くはいかないようだ。広げたチャイナ服を持ち上げたテイオーは、そのまま畳んで籠の中に放り込んだ。

 

「しかも、結構スリットが深い……」

「スレンダーなテイオーなら似合うと思って」

「き、着ないからね!? こんなところでなんて、恥ずかしくて着れないよ!」

 

ぐぬぬ残念。ただまぁ、これ以上は可哀想だし、これくらいで引こうとしたところで気付いた。

 

「『こんなところで』ってことは、二人きりなら着てくれるの?」

「きっ、着ないもん!」

「えぇ~、本当かなぁ?」

 

言葉に詰まりながらも、アタシから視線を反らすテイオー。ぱっと見、嫌がっているようにも見えたが、気付いていないのだろう。良く見ると、更衣室の鏡に反射したテイオーの表情が、どこか期待しているようにも見える。

アタシはゆっくりとテイオーに近付くと、周囲に聞こえないよう囁くように話した。

 

「本当に、着てくれないの?」

「う……き、着ない、けど……ね、ネイチャがどうしてもって言うなら、考えなくも、ない、よ……?」

 

なるほど。あくまでアタシが頼んだから、アタシの我が儘を聞いたから、なんてテイ(・・)なら着てくれるらしい。それじゃ、今度二人きりの時にでも頼んでみようかな……なんて、内心悪巧みをしてみる。

 

「ぅぅう、はい! もう終わり!」

「えー? まだ着て欲しいのあったのになぁ」

「もういっぱい着たじゃんか! 次はネイチャの番だからね!」

「え、ちょっと……!」

 

テイオーに引っ張られ、入れ替わるように試着室へと放り込まれた。足音が遠ざかり、数分してテイオーが戻ってくる。カーテンの隙間から買い物かごに入った服を渡されたので中を見てみると、普段アタシが着ないような可愛らしい服がいくつか入っていた。

 

「ほら、これ着て!」

「えぇ~……こんなふりふりした服、アタシには似合わないよ?」

 

テイオーのような可愛さや格好良さはない。突出した特徴もない普通のウマ娘だ。今日の服装も気合いを入れてきたけれど、あくまで自分に似合うと思う範疇のもの。自分の印象を大きく変えるような服装はしたことがないため、テイオーの選んできた服に戸惑ってしまう。

そんなアタシの言葉に対して、仕切りのカーテン越しにテイオーが言葉を返してくる。

 

「そんなこと言わないでよ」

「え……?」

「ボクが『ネイチャに似合う』と思ったから持ってきたんだよ。だから、そんなこと言わないで」

「ーーぁ、ぇ」

 

どこか拗ねたような声色。けれど、本心からの言葉。不意打ち気味にぶつけられたテイオーの言葉に、言葉が詰まった。

ぶわわっと頬が熱くなる。試着室の鏡に映る自分の顔が恥ずかしくて見られない。

ーーそんなこと言われたら、着るしかないじゃん……!

 

「ご、ごめん。それじゃ、その……着てみるね」

 

声が上擦る。うまく返事ができなかった。

ーーテイオーにやり返されるなんて。

そこはかとない悔しさを感じながら、言われた服に袖を通す。

 

少し甘めの、可愛らしいフリルのついたワンピースに、カジュアルで少し大きめのデニムジャケット。鏡に映る自分の姿に、テイオーはこういうのが好きなのかなぁ、なんて思ってみたりして、恥ずかしさに悶える。

 

「……ネイチャ、着替え終わった?」

「え、ぁ、待ってーー」

 

テイオーの手によってカーテンが開かれた。肩を跳ねさせて、赤い顔のまま思わず胸元を押さえてしまう。一方テイオーは、ぽかんと口を開けたまま、視線をアタシに向けていた。

 

「ぁ、の……テイオー……?」

「ーー可愛い」

「……へ?」

「可愛い! ネイチャ可愛いよ! 思った通り似合ってる!」

 

まさに怒涛。幼い子供のように目を輝かせて、アタシに向けて褒め言葉を重ねるテイオー。津波のように押し寄せる褒め言葉のかずかずに、アタシの顔はゆでダコのように真っ赤になっていた。

 

「やっぱりネイチャには少し甘めの服が似合うよ! ふわふわで赤い髪色だからかな? 全体的にふわふわのしてて柔らかそう!」

「ぁ、あの、テイオー? 分かった。分かったから……」

「ジャケットも良く似合ってる! 全体的に甘すぎないよう印象を抑えてくれていて、ネイチャの可愛さが引き立ってるよ!」

「ぅ、さっき着せ替え人形にしたのは謝るからぁ……。も、やめ」

「ーー可愛いよネイチャ、凄く似合ってる!」

「~~~!?」

 

ーーやめて、やめてテイオー。声が絶妙に大きいから、周りに聞こえてるから。周囲の視線が刺さってるから。『あんなに褒めるなんてどれだけ可愛い人なんだ』みたいな視線が刺さってるから!

 

以前、レースの取材でテレビに映っていたナリタトップロードさんみたいに、『可愛い』という語彙のみで褒めてくるテイオー。アタシは水槽の金魚みたいに口をぱくぱくと開閉するだけで、何も言い返すことが出来なかった。

 

服は買った。

 

 

★☆★

 

 

買い物で増えた荷物をロッカーに預け、軽く食事を摂った後、デパートの反対側、本館であるアミューズメント施設まで足を運んでいた。小さな遊園地やゲームセンター、バッティングセンターなど、数多の娯楽施設が立ち並んでいる。

 

「うーん、テイオーは行きたいところある?」

「ボクはゲームセンターに行きたいかなぁ」

「よし、じゃあまずはそこに行こっか」

 

ーーと、そんな流れでアタシ達はゲームセンターまでやってきた。入り口の両替機で小銭を作り、目的のゲーム機を探して中を巡る。

あんまりゲームセンターに来ることはないのだが、クレーンゲーム機の中に鎮座されているぬいぐるみや、大きなモニターが付いているレースゲーム機を見て、こんな風なんだと楽しくなってくる。あ、あのぬいぐるみ可愛い。

 

「あ! ネイチャ、ダンスゲームがあったよ!」

 

テイオーが指差した先には、大きなゲーム機が並んでいた。大きな画面と金属の柵に囲まれており、足元には四方向に向けられた矢印が設置されている。初めて見るが、これがテイオーの言うダンスゲームなのだろう。

 

「へぇ、最近はこんなのもあるんだ」

「あれ、ネイチャは遊んだことなかった? それじゃ、お手本見せてあげるから一緒にやろう?」

「いいよ。頑張ってね」

 

テイオーはゲーム機に駆け出すと、コインを投入し、それに合わせて画面が切り替わった。難易度やプレイする楽曲を選択すると、画面の縁が派手な色に輝き始め、スピーカーから音楽が流れで始める。これは確か、短距離レースのウイニングライブで使われている曲だったかな。

ゲーム画面の上部から降りてくる矢印ーーノーツというらしいーーそれが画面下部の矢印マークと重なった瞬間に、テイオーは足元の矢印を踏む。なるほど、分かりやすいかも。

 

「やっ、とっ、ほっ」

 

流れるノーツの数やスピードはとても速い。画面右上には『ウマ娘モード・鬼』なる文字が書いてあり、ウマ娘の身体能力に合わせた難易度であることが分かる。鬼ということは、ウマ娘モードの中でも一番難しかったりするのだろうか。少なくとも私には、もう何がどうなっているのかが分からない。分かるのは、テイオーのダンスがとても上手いということだけだ。

というか、明らかにゲームと関係ない動きをしてるテイオー。それだけ余裕があるのか、終始笑顔のまま音楽が終了した。

 

同時に、周囲から大きな拍手が響いた。テイオーのダンスに見惚れている際に、いつの間にかギャラリーが集まってきていたようで、沢山の人に囲まれていた。テイオーはギャラリーに手を振りながらアタシの元へ戻ってくる。

 

「さっすがテイオー、やっぱりダンス上手だね」

「えへへ、ありがと。それじゃ、一緒に踊ろうよ」

「ぅえ!? この衆人環視の中で……?」

「当然! ほら、こっち来て」

 

テイオーに手を引かれ、ゲーム機の前に立つ。テイオーが再びコインを投入すると、『協力モード』とやらを選んでいた。それぞれの難易度をプレイして、その総合得点がランキングに入る仕組みらしい。

 

「あの、テイオー? アタシ初心者なんだけど、大丈夫かな……?」

「大丈夫! 勝ち負けは気にしなくていいよ。ゲームなんだから、一緒に踊って、楽しいって思ってくれたら嬉しいな」

「そっか……うん。それじゃ、頑張ってみる」

 

テイオーが画面をタッチすると、音楽が流れ出した。ウイニングライブで普段歌っている曲だ。これなら、リズムの取り方は熟知している。後は、画面のノーツに合わせて足元の矢印を踏むだけだ。

 

「わ、わ、これ、結構難しいな」

 

けれど、普段踊っているダンスと違い、ノーツに合わせなければならないため、思った以上に難しい。なんとか揃えて足を動かすが、なかなかタイミングが合わない。

けれど、回数を重ねれば慣れるもので、『協力モード』が終了する頃には、テイオーの選択した難易度でもなんとかクリアすることが出来るようになった。まぁ、結果はお察しの通りだったが。

 

「ひ~、やっぱりライブとは勝手が違うなぁ」

「でも、最後の方は全部踏めてたし、上手くなってたじゃん。皆もそう思うよねー?」

「やめて」

 

やめて。と言うも既に遅く、周囲のギャラリーから歓声があがる。『上手かったぞ』『初心者とは思えなかった』『ネイちゃん最高』なんて言葉が端々から聞こえーーあれ!? 最後の人、商店街の八百屋のおっちゃんの娘さんじゃん! あぁもー、また変な噂が流れるじゃないか! とんだ伏兵に、恥ずかしさで真っ赤になった顔を手のひらで覆う。

 

「ほら、もっかいやろうよネイチャ。多分、吹っ切れた方が楽だと思うよ?」

「……ぬぁー! やってやりますよ! もー!」

 

もうどうにでもなーれ! なんて、顔をあげてゲーム機へと向き直る。なんだかんだ、テイオーと協力して踊るのは楽しかった。だから、周りは気にしない。折角のデートなんだから、めいっぱい楽しんでやる!

 

「テイオー! どうせならランキング入りを目指すよ!」

「望むところだ!」

 

 

★☆★

 

 

それからひとしきりダンスゲームを楽しんだ後、ギャラリーに別れを告げて、遊園地へと足を運んでいた。思ったよりも時間を使ってしまい、閉園時間も間近であったため、一番空いていた観覧車へと慌てて乗り込む。

結局、ダンスゲームでランキング入りすることは叶わなかったが、テイオーと一緒に遊んだのはとても楽しかった。それこそ、ずっと続いて欲しいと願うくらいに。

 

「わぁ、綺麗……!」

 

観覧車が回り、ゴンドラがゆっくりと高く登っていく。半分ほどの高さになると、視界が開けて、遠くの景色が見えてくる。

夕日に照らされた町。ビルのガラスが陽光を反射し、日が沈んでいくはずなのに、徐々に明るくなっていくような錯覚を起こす。遠くに見えるのは海だろうか。テイオーは窓に手をついて、食い入るように景色を見つめていた。

 

「ーーー」

 

そんなテイオーの横顔を、アタシは景色も見ずに眺めていた。ころころと表情が変わるテイオーの顔に、口元が緩む。夕日がテイオーの瞳で反射し、キラキラと輝いている姿に、アタシは釘付けになった。

……今日一日テイオーと遊んでみて、改めて思った。アタシはテイオーが好き。楽しそうに笑顔をキラキラと輝かせている、そんなテイオーがアタシは大好きだ。

 

観覧車が頂上に近付く。テイオーはアタシの視線に気付いたのか、目をぱちくりと瞬かせた。

 

「ネイチャ、景色は見ないの?」

「んー? テイオーの目に映ってる景色をみてるから」

「……ち、直接見た方が大きく見えるよ?」

「……訂正するね。アタシはテイオーを見ていたいんだ。アタシはテイオーが大好きだから。今だって、夕日に照らされた町よりも、テイオーの方がキラキラ輝いて綺麗に見えるよ」

 

……我ながら歯の浮く台詞に、頬が熱くなる。その熱はテイオーにも伝播し、顔を真っ赤にして座席に座ると、そのままうつむいてしまった。

困らせてしまっただろうか。あまりにも綺麗なテイオーの横顔に、無意識に口走っていた。決して嘘ではないが、今言う言葉でも無かったような気がする。

 

「ずるいよ」

「……え」

 

ぽつりと、テイオーの口から言葉がこぼれた。その意味がアタシには分からなくて、咄嗟に言葉が出てこない。

テイオーが顔を上げた。頬を赤らめ、今にも泣き出してしまいそうなほどに表情をくしゃくしゃに歪めて、アタシを見つめていた。

 

「ネイチャはずるい」

「な、何が……?」

「ボクの方がネイチャのこと好きなのに! いつだって、ネイチャはボクより先に褒めてくるの、ずるいっ!」

「なーー」

 

ーーーーー。

ーーー。

ーーな、え…ぇ…?

 

「なんだよ、それぇ」

 

へにゃりと、耳が垂れる。頬を膨らませ、子供のように拗ねるテイオー。その背後にぷんぷんといった効果音が浮かんでいそうな姿に、思わず笑ってしまう。

 

「今のテイオー、はちゃめちゃに可愛い」

「あー! ほら、また!」

「わがままだなぁ。ほら、じゃあ何か言ってみてよ」

 

テイオーに向かって、手を広げる。狼狽え、戸惑うテイオーの姿に、口角が上がる。そんなアタシを見て、負けず嫌いが発動したテイオーは、硬い動きでアタシに近付くと、ゆっくりと首に手を伸ばし、抱き付いてきた。

 

「……ネイチャ」

「ん?」

「キス、してもいい?」

 

その言葉に、アタシの体も思わず固まった。恥ずかしさに変な声がでそうになるが、無理矢理噛みしめて飲み込む。テイオーの体の震えが伝わってきたからだ。心臓の激しい鼓動が流れてくる。首に回された腕が熱い。あのテイオーが緊張でカチコチになっている姿に、アタシの体温も熱くなってくる。

 

「えー……テイオーのえっち」

「もー、茶化さないでよ……!」

 

拗ねた声で文句を言うテイオー。アタシも恥ずかしいんだから、これくらいは許して欲しい。けれど、まぁ、これだけ頑張ってくれたんだから、答えてあげないとダメだよね。

 

「あはは、ごめんごめん。……うん、いいよ」

 

テイオーの瞳に視線を合わせ、目を瞑る。視界が暗くなったことで、観覧車の揺れる音と、テイオーの体温や吐息以外が感じられなくなる。

テイオーの体が動く。アタシの体に響く振動が、観覧車の揺れなのか、テイオーの鼓動なのか、アタシ自身の鼓動なのかが分からない程に体を密着させてくる。吐息が近付き、テイオーの唇がアタシの唇に触れようとした。

 

瞬間、ガコン! とゴンドラが揺れ、アタシとテイオーの前歯がガチン! と盛大にぶつかった。痺れるような痛みが歯茎に広がる。

 

「いっ!」

「たぁ~!」

 

二人揃って口を押さえて悶絶する。どんなタイミングだと外を見ると、ゴンドラは観覧車の半分より下まで下がっており、もう少しで一周する頃だった。

 

「あ、もうここまで下がってたんだ」

「気付かなかった……」

 

口内に広がる痛みが和らいだ頃、ゴンドラがゆっくりと降り口に近付いたため、アタシとテイオーは係員に挨拶をして出口に向かう。無言の間。なんとなく気まずい雰囲気に、アタシはテイオーから視線をそらして歩き出しーー。

 

「……ごちーん」

「ぶはっ!? くはは、や、やめて」

「や、だって、あのタイミングで揺れるとは思わないじゃん」

 

唐突にテイオーの放った声にアタシは盛大に吹き出した。良い雰囲気でキスしようとして前歯をぶつけたのだ。初キスのはずなのに、ロマンチックの欠片も感じられない。けれど、なんとも締まらないそれがアタシ達らしくて、とっても心地よくて。アタシとテイオーは目を合わせると、大きな声で笑い合った。

 

そのやりとりにアタシは、幸せだなぁって、そう思えた。

 

 

★☆★

 

 

それから数日。あれ以降、テイオーは付き合っていることを隠さなくなった。いろいろと吹っ切れたようで、同室のマヤノにも話したらしい。とっくにバレていたようだけど。

 

マヤノやマックイーン、ゴルシ、テイオーのトレーナーにはからかわれたようだが、嫌な気持ちにはならなかったようで、むしろパートナーがいないトレーナーにマウントをとって煽っていた。そんなことをしてるからからかわれるのでは?

 

案の定、言い合いになっていたのをたづなさんに止められていた。まあ、なんだかんだで仲はいいんだよね。どう見ても子供の喧嘩にしか見えないし。

 

ただまぁ、そんな関係に嫉妬もしちゃう訳でして。

 

 

★☆★

 

 

そして今、アタシはいつもの屋上でテイオーを後ろから抱き締めていた。

 

「あー、テイオーあったかい……けど寒い……」

「もう秋も終わるからね。そろそろ屋上も厳しいかなぁ」

「冬になったらどこでテイオーに抱き付けば……空き教室でも探してみる?」

「ボクに抱き付かないって選択肢はないの?」

「ない」

 

ぎゅぅっと、テイオーの腰に回した腕に力を入れる。どこにも行かないように、繋ぎ止めておくように。

そんなアタシに優しく触れるように、テイオーの手のひらがアタシの手の甲に重ねられた。困ったように言葉を紡ぐ。

 

「ボクはどこにも行かないよ」

「うん。でも、テイオーは速いから」

「ネイチャは追いかけてくれるでしょ」

「……うん、そうだよね」

 

そう、追いかければいい。テイオーがどれだけ先を行こうとも、追いかけて、追い付いて、その手を引けばいい。テイオーは誰にも渡さないーーなんて。アタシ、自分で思ってる以上に独占欲が強いみたいだ。

 

「ね、テイオー。またデートに行こうね」

「勿論。クリスマスもあるし、楽しみだなぁ」

 

白い吐息が空気に溶けていく。もう冬も近い。

次のデートでテイオーの冬服が見られるのかと考えながら、これからたくさん作るだろうテイオーとの思い出を想像して、ひとり微笑んだ。




ナイスネイチャ
本作のネイチャは恋愛においてテイオーより強者だが、基本、心構えをしてから攻めるタイプなので、不意打ち等の突発的な出来事に弱い。そのため、真価を発揮するのは1対1の時であり、1対多になるとすぐ負ける。

トウカイテイオー
本作のテイオーは恋愛においてネイチャより弱者だが、デートで外出をする時は無意識に周りの人やファンを巻き込んでネイチャを攻めるため、勝率は意外と高い。

マヤノトップガン
テイオーとネイチャの関係を初日で見破った傑物。
マヤ、分かっちゃった。

マーベラスサンデー
目覚まし時計。

ナリタトップロード
アヤベさんと猫カフェに行った時は『凄く凄くて可愛いです! うわぁ、可愛い。可愛いですね! 凄い、すっごく可愛いです!』を繰り返していた。

メジロマックイーン
にやにやしながらテイオーの後ろで『へぇ~、そうなんですの』と言い続けた。最後には追いかけっこになった。

ゴールドシップ
テイオーとネイチャの関係を聞いた瞬間、全力で学園中に広めた。

テイオーのトレーナー
精神年齢が中学生で止まってる30歳児。基本善人で悪口の語彙が無い。婚活をするも、中身が中学生なので恋愛対象として見られたことがない。

八百屋の娘さん
ネイチャのファン。学園中に二人の関係を広めたのがゴルシなら、商店街中に広めたのがこの人。ネイチャが帰宅すると、商店街メンバー総出で祝われた。
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