今の私は普通だ。周りからどんな風に映っているのかは分からないけど、もう後戻りはできない。私は綾小路くんなしでは生きていけない。自分でも薄々自分の精神状態は異常をきたしているんじゃないかと感じてはいるんだ。それでも大好きな綾小路くんと居られるんだから幸せなんだ。
どんな時でも絶対に側に居なくちゃ。今も私は綾小路くんの隣で手を握られている。誰かに手を握られることがこんなに心強く感じたのは初めてだ。
最初はただの一目惚れだった。綾小路くんが大好きで少しでも近くに居たかった。でも今では綾小路くんが近くに居ないと精神が落ち着かないまでになってしまっているんだ。本当に自分が情けない。綾小路くんに迷惑を掛けることしかできない。そんな私にも綾小路くんは優しい声で囁いてくれる。「オレが近くに居るから大丈夫だ」「お前は何も心配をすることはない」。それを聞くだけで安心できる。
「綾小路くん、大丈夫かな?」
「大丈夫とは?」
「私の手汗とか?」
「別に問題ない」
「そっか…それは良かった」
綾小路くんと私の手が繋がれているところを見ると…私の手を綾小路くんの手が包み込んでくれている。私の手よりも綾小路くんの手の方が大きくてたくましい。
そんなときに私の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。声の聞こえて来た方向に視線を向けると同時に誰かに腕を掴まれた。
「櫛田ちゃん」
「…って放して!!」
私は掴まれたと同時に手を払いのけた。掴んできたのは山内だった。生理的にも精神的にも綾小路くん以外の人に触られるのは本当に無理。これは男だけに限った話じゃなくて女でもだめだ。今の私は綾小路くん以外の人間を受け付けない。
「…な、なんだよ……」
捨て台詞を吐きながらも山内は帰っていった。その後ろ姿を見ることなく、隣の綾小路くんの胸に体を預けた。ここだけが私の精神が落ち着くことが出来る場所だ。
「ごめんね、綾小路くん」
「別にいい。お前がこれで落ち着けるのなら」
「本当にありがとう。私は綾小路くんさえ近くに居てくれればこれから先ずっと生きていける。だからずっと側に居てね」
「ああ」
私は綾小路くんの胸に体をうずめるような体勢になっているから綾小路くんの顔は見れない。どんなことになったとしても私は綾小路くんの側から離れられない。それぐらいに私は綾小路くんとしか生きていけなくなってしまった。
―――――――――
「あの綾小路くんがお付き合いしている女性ですか……」
「誰のこと言ってんの?」
「1年Dクラスの綾小路清隆くんとお付き合いしている、1年Dクラスの櫛田桔梗のことですよ。真澄さんが船上でお付き合いしているという噂を聞いたというので調べてみたんです」
「それでそいつに何か用があるの?」
「はい。こちらに戻ってきたら一度拝見してみようと思うのですが、それよりも前に一度何らかの接触を持っておくべきかもしれませんね。お願いできますか、真澄さん」
「私に拒否権がないのに聞いてこないでよ。断れるのならとっくの昔にあんたからの命令を断ってるわ」
「命令だなんて…私はあくまでお願いをしているだけですよ」
「よくそんなことを言えるわね」
綾小路清隆に櫛田桔梗への恋心に近いものは生まれるのか?
-
生まれる
-
生まれない