ここは船上の上。プールやシアタルームなど様々な施設が用意されている。だが今、この場所でもっとも注目を浴びているのはプールで遊ぶ女子生徒でもなければ、船上から見える景色でもない。
それは―――――――
「綾小路くん、一緒に映画でも見に行ってくれないかな?」
「櫛田が見に行きたいなら」
誰もがこの光景を疑っている。目をこすって現実化を確かめる者も多い。学年でもそれなりの人気を持っている櫛田と今まで目立った行動を全然していない綾小路が手をつないでいるのだから。誰もが驚きを隠せないのも頷ける。
この状況を説明するために時間を少し巻き戻すことにしよう。
―――――――――――
ことの始まりは1日前
今は夏休み。学校の計らいでリゾート船で過ごせている。本当は一人じゃなくて綾小路くんと一緒に過ごしたい。こんな経験はそうできるものでもない。それに少しでも綾小路くんに私のことを意識してもらうにはこのチャンスを利用しない手はない。
「あれは………」
さっきまでの気持ちは吹っ飛んで殺意だけが私の心の中に残っている。なぜなら、私の視線の先にある光景を説明したくもないけど、吐き気を抑えながら説明すると綾小路くんの近くに……邪魔者が束になっている。女どもが綾小路くんの側に居るだけで吐き気がしてくる。
すぐにでも離れて欲しいという気持ちが前に行き過ぎて気付いた時には行動に移してた。女たちをかき分けて私は綾小路くんの元までいっていた。
「どうしたんだ?櫛田」
「綾小路くん、ちょっと話がしたいから一緒に来てくれないかな?」
「悪いが今から須藤たちと食事を食べに行く約束をしているんだ。また今度ではダメか?」
ここで押すと自己中な女と思われるかもしれない。それに話は別に急ぐ話でもない。この船上に乗っている内に話が出来れば時間はいつでもいいしね。
「先約があるんだったら仕方ないね。それじゃあ、今日の夜は何か予定とか入ってたりする?」
「今日の夜だったら何も予定は入っていなかったと思うぞ」
「じゃあ夜に詳しい事はまた連絡するね」
綾小路くんと別れた後は適当に船の中を回ったり、自室に戻って暇をつぶしていた。女子たちからの誘いもあったけど、そんなことよりも今は綾小路くんのことで頭を埋め尽くされていた。
「はぁ……早く夜が来ないかな」
ベッドに腰を下ろしながら綾小路くんのことを考えていた。
「あの女たち…」
でも、綾小路くんのことを考えているとそれと同時にさっき一緒に居た女たちのことも思い出してしまう。綾小路くんは確かにカッコいい。それに頭も良くて優しい。もう全て揃っている完璧人間のような人物。そんな人を狙わない人が居ないわけがない。
そういう人たちのためにも『あれ』を実行した。でも、綾小路くんがそれを承諾してくれるかな。そこが一番の問題かもしれない。
「あ、そうだ。早い内に綾小路くんに時間の連絡だけしておこう」
綾小路くんに送るメールの文面を考えるだけでも1時間以上の時間を費やした。そしてそんなことをしていると夕食の時間が近づいてきたので適当な友達を誘って食事に行くことにした。
―――――――――――
もう夜も更けて生徒で外を出歩いている生徒はほとんどいない。まだ綾小路くんも私と一緒に居られるのを他の生徒に見られるのを嫌うはず。だからこそ、綾小路くんに迷惑を掛けず、でも、外出をしている生徒が少ない時間にした。
「ごめんね、こんな夜更けに来てもらって」
「大丈夫だ。今日は予定が入っていないから」
「綾小路くんの予定を取ってしまうのも悪いから単刀直入に言うね」
「ああ」
私は静かに深呼吸をしてから言葉を紡いだ。
「…わ、わたしと付き合ってくれないかな?…ってこれは変な意味じゃなくてね!!最近、なんか視線を感じることが多くて!ちょっと気持ち悪かったから誰かに彼氏の振りをしてもらいたくて!!!!」
「それを俺に?」
「う、うん。変な気持ちを抱かれたくもないし、見ず知らずの人に頼むのもちょっと躊躇って…綾小路くんだったら受けてくれかなと思って……だ、だめかな…?」
「彼氏の振りをすればいいのか?」
「え…え…い、いいの!?」
「ああ、別に振りをする程度なら問題はない」
「ほ、ほんとうに!?」
「ああ」
綾小路くん返事を聞いて私は飛び上がろうとしてしまった。自然と体が動いてしまいそう。それぐらい嬉しい。これで合法的に綾小路くんと一緒に居られるし、他の女の心をへし折ることも出来る。
「じゃあ、お願いできるかな?」
「わかった」
これから二人がどのような道を辿っていくのかは誰にも分からない。
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綾小路清隆に櫛田桔梗への恋心に近いものは生まれるのか?
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