エドヒーロー   作:マスケーヌ/東風ますけ

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東風です。この小説を読んで少しでも楽しめて頂けたら嬉しいです。


第一話「滅びた種族」

ワシの日常は常に、この埃を被った研究室で過ぎていった。ワシは青春をこの研究室で潰してきた。

そんなワシはこの研究室でとある研究をしている。ワシはこの研究に人生………いや。

“半怪人生”をかけてきた。

 

ヒトはヒトならざるモノをこう呼んだ。

「怪物」と。ワシはそんな怪物と人間の混ざり物。いわばハーフとでも言ったところだ。

 

さて、そんなワシはいつも通り研究をしていた。

そしてある日”違和感”に気がついた。

 

この世界にはドラゴンと呼ばれる種族がいる。

この世界にはヴァンパイアと呼ばれる種族がいる。

この世界にはシーサーペントと呼ばれる種族がいる。

 

そして、

 

この世界には妖怪と呼ばれる種族が”いた”

 

そう。「妖怪」はもういなかった。

それがワシは不思議で不思議で仕方がなかった。

 

何故「怪物」は生きているのに「妖怪」は滅びたのかと。

 

最初は、弱かったから。次に、数が少なかったから。更にその次に、元々いなかったから。

ワシは考えられることをいっぱいノートに書き綴った。ノートはいつしか三十冊にも上り、トランプタワーならぬノートタワーが出来上がってもワシは書き続けた。

 

”解”は見つからなかった。アテはもちろんなかった。だがワシはこの何と表現すればいいのかすらわからない”違和感”と向き合ってみたいと思ってしまったのだ。

 

■■■■■■■■■

 

二十九歳になった。論文の一つも出さないせいで世間はワシをニート扱いしてくる。違うのだ。出さないのではない。出せないのだ。そんなワシの反論には誰も聞く耳を持ってくれない。当然だ。いい歳した大人が働かずにそんなことを言っていては子供にさえ呆れられてしまう。だがワシはそれでも構わない!ワシが!!誰も知らない妖怪滅亡の謎を解き明かしてやるのだ!!!

 

ぐぎゅるるるるるるる。

 

腹の音が鳴り響く。そうだ。もう丸二日も食べてない。仕方がないのだ。お金がないのだから。十年間はワシが高校生の間に発表した論文や、執筆したミステリー小説の売り上げで何とかして来た。

 

が、流石にもうそれだけでは食いつなげない。

いっそ春を売ってしまおうか………。

いや、もうすぐ三十路にもなる半怪人のワシを抱きたがる変人なんてこの世の何処を探してもいないだろう。

 

ぐぎゅる、ぎゅるぎゅる、ぎゅーるるる。

 

腹虫先輩もお怒りだ。早く飯を食わせろと催促してくる。仕方がない。外に出てみよう。最悪の場合スーパーの試食コーナーで食い繋ごう。そんな最低最悪な、大人としてどうなのだという戦法を胸の奥で考えときながらワシは外に出てみることにした。

 

■■■■■■■■■

 

うむ。外はいいな。お日様を浴びると元気になる。そのまま腹も満たしてくれればワシは今すぐにでもお日様教を作るのにな。

 

っとと。転びそうになってしまった。

 

ヤバい。お腹が空きすぎて意識が朦朧としてきた………。

フラフラする。今にも飛べるんじゃないかと錯覚するほどフラフラする。

 

その後ワシはニ、三歩歩くと力を使い果たし、道の端に倒れ込んでしまった。

 

………ダメだ。立ち上がるだけのパワーがもう残されていない。

ワシが地面とキスしていると誰かの足音がこちらに近づいて来た。そして、足音の主が話しかけてきた。

 

「何だ?アンタ?腹減ってんのか?」

 

この無様な姿を誰かに見られたことが恥ずかしいわ。あーあ。顔が真っ赤っか。ワシは梅干しじゃないぞ。そんな茶番を脳内で繰り広げながら、ワシは頭だけをなんとか動かして上を見上げる。

 

そこにいたのはそれはそれは見事な。誰もがこの姿が正しいと納得してしまうような、そんな姿だった。

 

ワシの目の前には、ワシがずっと探し続けていた妖怪がいた。まさか行き倒れそうなタイミングで出会すとわ。もしかしたらマボロシかもしれない。でも、もしも、本物だったら。そんなふうに考えてしまう。

 

種族は河童か?緑色の着物を着ている。

河童はふと、何かを思い出したかのように手を、ポン。と鳴らした後に、着物の袖をガサゴソし始めた。

 

着物の袖からはサンドイッチが出てきた??????????????????

 

正直、理解が追いついていないが食べ物をくれようとしてくれていることは確かだ。ワシは起き上がってサンドイッチを受け取る。

 

「いただきますっキャ」

 

モシャモシャ。モグモグ。

 

嗚呼。咀嚼とはこんなにも幸せなモノだっただろうか。今はただ、食べることに集中しよう。

 

モシャモシャ。ゴクッ!

 

お腹が空いていたワシは一分もせずにサンドイッチを完食した。

 

「ごちそうさまでしたっキャ」

 

「何で行き倒れていたの?」

 

うぐっ。この河童、いきなり痛い所を突いてきやがる。まぁご飯も貰ったし、答えないってワケにはいけないよな。

 

「そりゃあまぁ、色々っキャ」

 

「ふーん。色々………ねぇ。んで詳しく言うと?」

 

「お金がない。っキャ!」

 

「なんでないんだよ?めっちゃ金持ってそうな家を持ってるだろ?髪留めもオシャレだし」

 

「そ、それはお金があった時に買い揃えた物だから………って!そんなことよりも!君!名前は?」

 

「ああ。俺の名前か。俺の名はルーベルト。アンタは?」

 

「ワシはキャロ。ワシの名前なんてどうでもいいっキャ!とりあえず家で話そうっキャ!」

 

河童は「いいぜ」と言った後に裾からキョカ・キョーラを取り出して飲み始めた。ワシがジーっと見つめるとワシにもキョーラをくれた。

 

いい奴だなこの河童(チョロい)。

 

■■■■■■■■■

 

〜ワシの家〜

 

「え!じゃ、じゃあルーベルトは江戸からタイムスリップして来たってコトっキャ!?」

 

「正確には戻ってきた、だな。俺は元々現代でひっそりと暮らしていたんだが、ある日、江戸にタイムスリップしちまってな。江戸では三年間暮らしたんだ。んで、アニメとかゲームが恋しくなったから帰ってきた」

 

「三年も!いやー、ルーベルトに会えてホントよかったっキャ。コレでワシの研究も猛スピードで進むっキャよ(猛スピードどころか解そのもの)」

 

ルーベルトな「そりぁよかったな」と言いながら麦茶を啜っている。メッチャ飲み物飲むやん。この河童。まぁ、河童は水と密接な関係を持つ種族なのでおかしいと言う訳ではないが、それにしても飲み過ぎだ。そんなことはまぁまぁどうでもいい。

 

「あ、そうそう。俺の他に”二十人”。河童を連れてきたから」

 

「!?」

 

「まぁ別にアイツらは満足したら直ぐに江戸に帰るだろうから気にしなくていいぜ」

 

「ルーベルト。一つ聞いていいっキャ?」

 

「なんだ?」

 

「もしかして妖怪ってこの時代にまだいる?」

 

「いる」

 

「あっ(察し)」

 

なんということでしょう。ワシが十年かけた研究が、なんということでしょう。河童の手によって、水の泡ではありませんか。

 

「脳内で改築している所悪いがキャロは一つ、勘違いをしている。それは、『純血』の妖怪は現存しないということ。俺以外はな」

 

ルーベルトパイセン(ワシより年下だけど)曰く、現代に来た河童や江戸に住む殆どの妖怪は人間や怪物との混血らしい。混血の場合、純血よりも妖力が弱まり、妖怪らしさが無くなっていくらしい。逆に純血は妖力が高まり、色々なことができる反面、身体能力が低下するらしい。

 

怪物と妖怪の決定的な差。

それが身体能力であると、ワシは初めて知った。

 

「なんでルーベルトは現代で産まれたのに純血だったっキャ?」

 

「俺は「河童の里」で育ったんだ。里は元々百人以上の大規模なものだったが、時代が流れるに連れ数が減っていった。そして最後の純血が俺!っていうシンプルな話さ。そもそも純血である必要なんて何処にも無いんだぜ」

 

「え?でもさっきルーベルトは純血の方が能力を使えるって言ったっキャよ?」

 

「確かに、能力”は”強いさ。でも力っていうのは心、技、体。の三つが揃って初めて使えるんだよ。そういった意味ではむしろ、混血の方が強い」

 

「成る程。血についてはよくわかったっキャ。それでルーベルトは純血を繋ぐ為に時代を行き来しているっキャね?」

 

「え?違うよ?俺、嫁さんはもう決めてあるから」

 

マジか。こんな見るからに童貞な河童に先を越されるなんて………。

そういえばワシ、男の知り合いいねぇや………。

はぁ。相手なんていないよなぁ。三十路手前の社会性皆無なワシの相手なんて………。

 

バンッ!

 

ルーベルトが机に手を乗っけて立ち上がる。

そして何故かこちらを指差す。

 

「俺の嫁さんは………お前だぁ!キャロ!」

 

「ファ?」

 

春を売ろうとしていたワシに、春が来ました。

 

 

 

 

 

 

 


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