鯨と蛸の呪い合い   作:スクリーム1st

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4話

「妾を家に帰せー!!変態呪霊!!!」

「おいおい、変態ってのはねぇだろうよ、折角助けてやったのに」

「ああ。感謝すべきだろう」

「拉致られたのは変わらないのじゃ!!!」

 

ほんっと騒がしいな、コイツ。まぁ気持ちは分かるけど。そう愚痴りながら、俺は天内を床に下ろす。

ここが俺達の新しい基地、大海原のど真ん中の洞窟だ。日本の東に5万キロくらい。

壁には松明がかけられていて、それなりに視界は開けている。

 

さて、俺はこれからコイツを訓練に前向きにしなきゃならない。無理やり戦わせて、心を壊すことにでもなったら流石に可哀想だからな。

途中でコイツが起きたので、俺達が助けたってことを伝えたら少し態度が柔らかくなった。しかし、まだ完全には心を開いてはいないらしい。

 

「なぁ。お前、強くなりたいか?」

「な、なんじゃその悪魔の契約みたいな言い方は…」

「まぁそう気にすんな。で?どうなんだ?」

「………妾は、戦うのは、怖いのじゃ」

 

まぁ、そうだろうな。口調で隠してはいるが、本来ならまだ学校でお喋りしてるような歳だ。その恐怖を取り除くことは出来ないだろう。

ここで、ちょっとばかし彼女の意思を利用する。

 

「なぁ。今回はあの術師達が守ってくれちゃあいたが、そっから先はどうすんだ?」

「先?」

「あぁ。例えば、お前がフツーに授業を受けているとする。そんな所に呪詛師が殴り込んできたらどうする?クラスメイト諸共お前は殺され、終わるだろうな」

「っ…」

「術師の護衛も割と穴だらけだ。今回だって五条悟は刺客に侵入を許したし、俺たちが割り込まなければ死んでたかもしれない」

 

まぁ簡単に言うと、『死にたくねえなら強くなれ』って事だ。俺のこの世界での活動方針でもある。

天内は本心では死にたくないと強く思っているはずだ。そんな彼女にこの言葉は効く…はずだ、頼む!

 

「これから先、お前が星漿体である限り、今回のような事は起こり続けるだろう。そんなリスクを抱えながら普通に生活出来るか?無理だろ」

「でも…私は今までの生活も捨てたくない」

「尚更無理な話だろう。呪詛師の中には非術師なんてどうなってもいいと思ってるヤツらなんかごまんといる。そいつらから完璧に護衛をこなすことが、在野の術師に出来るか?」

「…じゃあ、どうすればいいの…」

「最初から言ってるだろ、お前自身が強くなるんだよ」

「!」

 

今の表情、ハッとした感じに目を見開いた…ように見えた。これは、修行を選択肢に入れて貰えた、ってことでいいのか…?

 

「どっちも取りたいなら、選択出来る腕を増やしたいなら強くなれ。俺を倒せるくらいにな。そうすりゃ、多少の我儘も通るハズだ」

「……それしか、ないんじゃな?」

「少なくとも俺はそれしか知らん」

「…分かった。妾は強くなる。そして、妾の周りの人達を守るのじゃ!!」

 

目が変わっている。先程の迷って泳ぐ目から、決意が固まりまっすぐとした目になった。

これで彼女を特級相当までにすることが出来れば、陸でのコネもかなり増やせるだろう。狙われるリスクや行動の選択肢もかなり多くなる。

呪術師から狙われない立場を作れれば、俺達は一応安全に過ごせるだろう。それこそ宿儺みたいに、五条悟に我儘通して貰うとか。

 

それも全て今の段階では皮算用。ひとまずは、ここでの生活に慣れてもらわんとな。

 

 

「天内よ、お前は野宿の経験はあるか?」

「いきなり何を…ハッ!そういえばここは!」

「その通り!ここはただの洞窟だ!ちょっと入口が限定されて、秘密基地みたいになってはいるがただの洞穴だ!」

 

この洞窟に入るには、外側から一度潜航して来る必要がある。しかも、そこからの距離はおよそ15km。専用の乗り物か、呪霊でもなければ侵入は困難だろう。

洞窟の壁ごとぶち抜かれる心配もない。俺の術式を使っているからな。

 

呪霊とは、人間の負の感情から生まれる化け物だ。その『負の感情』には、もちろん恐怖も入っている。

言ってしまうと俺は、『海での行方不明』に対する恐怖から生まれた呪霊だ。多分。消滅の術式も、それを極限まで強く、拡大解釈した、要は神隠しを力ずくで起こすというものだ。

そして、この洞窟には術式による神隠しをしている。そこにあるはずなのに認識できない、そもそも攻撃のしようがない鉄壁の守りだ。…五条の六眼なら簡単に看破できるだろうが。

万が一見つけられても、陀艮の水流で洞窟の表面を覆っている。これを突破できるのは、それこそ特級くらいだろう。他の奴には絶対…ほとんど…恐らく破れない。…物理的な防御はそのうち見直した方が良さそうだ。

 

「じゃ、じゃあ、柔らかい布団も、温かいお風呂も…?」

「陀艮、よろしく」

 

指を鳴らして、陀艮に合図を送る。

 

「あいわかった」

 

陀艮が水を生み出し、その水流から段々と湯気が出てきている。陀艮は術式を強化した結果、熱湯を生み出せるようになったのだ。

 

「こっ…これはまさか!」

「これがバスタブだ」

「うぉおおお!!真っ白!!」

 

以前ゴミ捨て場にあったバスタブを一ヶ月かけてキレイにし、どうしても落ちない汚れを術式で消滅させ、新品のような輝きを取り戻させた。我ながらいい出来だと思う。

用意したバスタブに、陀艮が湯を注いでいく。

 

「わぁ…」

「おーい、化けの皮剥がれてんぞー」

「『化け』いうでないわ!…でも、これは、その…ありがとう」

「「!!」」

 

俺と陀艮は、目を見合わせた。だってそうだろう。今更だが、俺達は考えてみれば超危険な誘拐犯。自分をいつ殺すか分からないと言うのに、どうしてここまで心を開けるのだろう。

 

「おい…今更だがお前、呪霊を信用してるのか?」

「本当に今更な質問じゃな…どうせ抵抗しても無駄じゃろうし、それなら徹底的に利用させてもらおうと思っただけじゃ」

「それにしては随分情が入っているようだが」

「うるさいタコォ!!」

「それは悪口か…?」

 

ちょっと評価を修正しよう。修羅場をくぐり抜けて成長したのか、はたまた何処か壊れてしまったのか。陀艮が威圧しすぎたのか?

いずれにせよ、彼女は俺が思っているようなか弱い少女ではないようだ。

 

「なぁ…ずっと聞きたかったんじゃが…黒井はどこじゃ?」

「黒井?誰?」

「妾の使用人じゃ。そこのタコが会っているはずじゃぞ?ほら、黒い服とスカートで」

「ああ、あの人間なら、気絶させるだけに留めておいた。あの状況で殺すのは、盃鑼の作戦に支障が出そうだったからな」

「陀艮…っ!俺の事考えてくれたんだな!」

 

黒井さんの事は現時点で俺が知ってるはずがないので、適当に嘘をついておく。

というかお母さん陀艮ちゃんがこんなに優しく育ってくれて嬉しいわ!

…男だろって?呪霊だから無性だよ!!

 

「その黒井さんは多分、今頃呪術高専に保護されてるだろう。大丈夫さ。あそこには天元の結界があるし、唯一破れるやつはこっちで捕縛済みだからな」

「それなら良いのじゃが…」

「……なぁ陀艮。お前の式神で黒井さんの様子を見られるか?」

「ふむ、やってみよう。だが、ここは陸からかなり離れている。式神をそこに送るのは少し時間が掛かるから、後で報告しよう」

「本当!?ありがとうタコ!」

「む…私には陀艮という名前があるのだが…」

 

へぇー、そこの二人の仲は順調そうだな。特に天内なんか、訂正された今もタコって呼ぼうとしてるし。陀艮も嫌がってはいないみたいだ。高専襲撃前までは人間嫌いだったはずなんだけどな。

 

「それじゃ、俺は他の仕事を済ませてくるわ」

「何をするんじゃ?」

「んー…お前用の教官をスカウトしてくる」

「教官…」

「見たらちょっと驚くかもな」

 

多分、実際に伏黒と会ったら驚くなんてものじゃ済まないだろう。目の前で恩人を殺されかけてるワケだからな。

でも、そこら辺は当人同士で頑張って貰うしかない。伏黒のコミュ力に期待しよう。

 

そう思いながら、俺は伏黒を捕らえている別室へと向かった。

 

 

 

 




モチベください
頑張らねば

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