鯨と蛸の呪い合い   作:スクリーム1st

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5話

「失敗、か。まぁそれも想定の内だったが」

 

盤星教代表役員、園田(そのだ)(しげる)はそう呟いた。

園田の気分を憂鬱にさせたのは、先日依頼した『星漿体の殺害』失敗の報である。

 

「天内理子は謎の呪霊に拐われ行方不明…直に他の星漿体が天元様と同化するだろうな」

 

盤星教は、天元を信仰の対象としている宗教法人である。

彼らにとって、星漿体と天元の同化は禁忌(タブー)として教典に示されている。しかし、無情にも同化は決まってしまった。放置すれば、盤星教は失墜するだろう。

呪術師の手前、あまり派手な行動は出来ない。つまり、彼らはかなりの窮地に立たされていたのだ。

そのため、今回の依頼は絶対に成功してもらう必要があった。その希望も潰えた今、園田の心中は諦念で満たされていた。

 

「その星漿体をもう一度殺すのも…今度こそ阻まれるだろう。それに、(伏黒)もまた行方不明…全てはその、謎の特級呪霊によるものか」

 

全てを諦めることで逆に思考が落ち着き、園田の思考は冷静に失敗の原因を確認していた。

と、そこに、一人の中年男性が入って来た。眼鏡をかけ、黒のスーツを着た彼は園田の側近であり、敬虔な信徒だ。名を、脅木(おどしぎ)という。

 

「代表、来客です」

「入信か?受付にやらせておけ」

「いえ、ただ一言『この状況を打開したくはないか』と」

「…」

 

『怪しい』の一言に尽きる客人に、園田は一筋の光を見ていた。或いはそれはただの願望だったかもしれないし、自棄になった末の思考放棄だったのかもしれない。

だが、いずれにせよ、園田はそれを通してしまった。冷静だったはずなのに。

 

 

数分後、盤星教は消滅した。

 

 

~~~~~~~

 

 

どこかにある、暗い部屋。

そこには、襖に姿を隠した状態で、呪術界上層部の役員達が集まっていた。

 

「未確認の特級呪霊が二体、そのうち一体は無下限術式でも防げない術式の持ち主だと…?」

「天内理子はどうでもいいが、今回の襲撃者まで誘拐したのが気がかりではある」

「どうでもいい、それが呪術界に危険を及ぼすものであるならば排除するのみだ」

 

彼らの心中にあるのは、自らの保身、それだけである。

凝り固まった頭脳は先を見通さず、臆病に過ぎる心は原因の排除でしか安堵できない。

 

「幸い五条と夏油は未だ従順だ。自らの役割に収まっている、という意味でな」

「であれば、その呪霊共に対しての捜索と指名手配の命を出すのがいい」

「聞いていたな、鳥辺野(とりべの)

「はっ、その通りに」

 

鳥辺野(たたら)。一級術師であり、上層部の方針を高専等関係各所に通達する役割を担っている女性である。

彼女はその言葉を聞き、速やかに部屋から退出する。その出入口は少々特殊であり、出た後にはただの壁しか残っていない。

 

「フゥ……毎回毎回適当な所にほっぽり出しやがって、入ったところと同じでいいだろ」

 

無論、それは無理な相談である。入ったところと同じ場所から出せば、待ち伏せや尾行している呪詛師に情報を与えてしまう危険性がある。

 

数分ほど歩いた所で煙草に火をつけつつ、鳥辺野は辺りの様子を伺っていた。

 

「なぁ、出てこいよ!こっちもイライラしてんだ、気は長くねぇぞ!」

「…ヘヘッ、バレてたか!」

 

現れたのは呪詛師の男。鳥辺野はその男の顔を見た事があった。確か、強盗殺人を数回繰り返し、数日前に死刑を決定されていた。階級は確か一級。執行は五条に任されていたはずだが。

 

「なんだ、お前まだ死んでなかったのか。特級も大したことないね」

「あぁっ!?何の話してんだ!?お前は黙って俺に全部取られてろ!」

「まぁいいか。コイツくらいならアタシでもやれる。地味だし、普通っぽいし」

 

次々と出てくる侮りの言葉に、男の怒りは限界を超えた。

 

「ふざけんじゃねえ、ぞぉ!!」

「呪詛師だったり、術師だったりするが、アンタらは何かしら熱いモノ(・・・・)を持ってるよな」

 

男から繰り出される打撃を適当にいなしながら、彼女は語り出した。先の言動とは裏腹に、凪いだ心で。

 

「だから、殺し(コレ)はアタシの仕事だ」

「っ!なん、ごぉあああ!!」

 

鳥辺野は、男の胸に指先を触れさせた。その瞬間、赤黒い炎が巻き上がり、男を包み込んだ。

 

「ひゃぁー、よく燃えるな、ホントに。アタシには分からんね」

 

そう言いながら、彼女は高専へと足を踏み出した。

 

~~~~~~~

 

呪術高専の職員室では、臨時の職員会議が開かれていた。

 

「つまり、そのタコの呪霊と海藻の呪霊に全部横からカッ攫われた、と」

「んだそれは…次から次へと、よくもまあこんなに脅威が出てくるもんだ」

 

高専の職員、家入硝子と日下部篤也はそうこぼす。特に日下部の方は、眉間に皺を寄せてうんざりした顔をしている。

 

「んで、どーすんですか次期学長、信用問題っスよ」

「今から取り戻せばいい。鳥辺野から先程通達が来た。悟と傑にその二体の捜索、及び祓除の命令だそうだ」

 

報告の内容に、何人かの教員が顔を顰めた。しかし、それも仕方ないと言える。

今、彼らは任務の失敗で傷心している。特に夏油は、天内理子を目の前で攫われたのだ。

五条は鬱憤を晴らすように東奔西走しているが、夏油は明らかに疲弊している。そんな所に特級の依頼などありえない。

 

「夜蛾さん、アンタはソレに納得したんですか」

「している……ワケが無いだろう!!教え子をあのように扱われて、誰が……」

 

その思いは夜蛾も同様である。教え子が家畜のように使い潰されているのを見て黙っていられるほど、彼は温厚ではない。

 

「……すまん、取り乱した。悟と傑には私から連絡しておく」

「夜蛾さん……」

 

夜蛾が逃げるように職員室から出ていくが、追いかける者は誰も居なかった。

 

~~~~~~~

 

「まぁ、やっぱりそうなるよね」

 

額に縫い目のある女性、羂索は、テレビを見てはしゃぐ子を見て微笑みながら独り言る。彼にとって盃鑼の裏切りは計画の一部であり、予想した結末を迎えることに喜びすら感じていた。

 

「ここで裏切らないほど馬鹿じゃないと思っていたし、理性的でもないと思っていた。君は誰よりも平穏を望むが、その為の行動が感情に左右されていれば計画も意味は無い」

 

羂索は、数ヶ月前から密かに盃鑼を観察していた。陀艮との戦闘訓練や、術式の詳細、普段の生活から、彼は盃鑼の大凡の性格を把握する事に成功している。

 

「『呪霊としての力を高めるため、自らへ向く恐怖を強める』……単純だが、かなり運が良くないと取れない選択肢だ」

 

盃鑼の術式は、『神隠し』である。

盃鑼が密漁者を襲う時は、その船まで飲み込んで消滅させている。その海域での行方不明は既に界隈へと広まっており、新たな一つの怪異として名を馳せている。

つまり、盃鑼が船を襲えば襲うほどに呪霊としての強度は強まる、という事だ。

 

「考えてやってるのかは知らないけど、君、相当大きな存在になってるよ」

「香織」

「あら、仁さん。もうお帰りですか」

「あぁ、今日は君の誕生日だからね。早めに仕事を切り上げて来た。それと……はい、君が欲しいと言っていた鞄だ。プレゼントだよ」

「わぁ……嬉しいです、大切にしますね」

 

家に帰ってきた夫、虎杖仁(・・・)を迎えながら、彼は優しく笑みを浮かべる。

計画に必要な最後のピースが揃った事を思いながら。

 

呪霊操術(・・・・)……必ず手に入れないとね」

 

 

 

そのドス黒い思考に気づく者は、今ここに居ない。

 

 




術式考えるの面白い。でも名前つける知識がない。
盃鑼の術式名もあれでいいのかって思ってます。
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