鯨と蛸の呪い合い   作:スクリーム1st

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ご指摘いつもありがとうございます。気づけない所が多すぎて自分でも戦慄しております。


9話

「昔って程じゃないが、思い出すよ……なぁ?陀艮」

 

「あぁ、我々も前は馬鹿をやっていた」

 

10m程間隔をあけ、俺と陀艮は向き合っている。

 

「本気でやろう」

 

「あぁ」

 

互いの練り上げた呪力がぶつかり合い、少しばかりの風を巻き起こす。陀艮の目が細められ、威圧感が増していた。

肌がひりつく緊張。久々に全力を出せる機会。

高揚感が、心の中を支配していた。

 

「俺の事起こしたの、審判役のためかよ」

 

「よろしく」

 

「良いけどよ……」

 

腰を落とし、手を前に掲げ、我流で格闘の構えをとる。俺たちの訓練は、いつも俺の近接からだった。

陀艮は右腕を横に伸ばし、何かの準備をしている。腹に呪力が集まっていくのが見えるので、恐らくは式神を出そうとしているのだろう。

陀艮の術式は、「死累累湧軍(しるるゆうぐん)」というものだ。無限に式神を生み出すという効果を持ち、手数で言えば俺に勝ち目はない。

また、彼は水を生成し、操る術も持っている。その力は俺にもあるのだが、いかんせん練度が違う。何故なら、俺は術式の制御にかなりの時間を割いていたから。正面から水をぶつけても、効果は期待できない。

 

そして、伏黒が手を真上に挙げる。

 

「準備いいか?」

 

「いつでも」

 

「あぁ」

 

「じゃ、はじめ」

 

気の抜けた声と共に、手が振り下ろされた。瞬間、俺は地が割れるほどの踏み込みで、陀艮へと拳を叩き込もうとした。

しかし、それは目の前に現れたグソクムシの式神によって防がれる。

 

「「死累累湧軍」ッ!危ないな、また速くなったか!」

 

「成長が早いのは、呪霊(おれたち)の利点だからなァ!!」

 

勢いを変えず、突き進みながら陀艮にぶつけるように式神を吹き飛ばす。ぶつかりそうになったため、陀艮は式神を消滅させた。

そこで、陀艮は驚愕に目を見開く。

 

「式神に身を隠して……!」

 

「その通り──()ァ!」

 

「ぬぐっ……」

 

グソクムシの式神は、他の魚のような式神と比べて体が大きい。故に、伏黒と比べて1.2倍ほどある俺でも盾にする事が出来る。

出来た隙を利用し、顔を狙って殴り掛かるが、寸前で腕を盾にされる。

抜け出す隙を与えないよう、俺は更に攻撃を加え続けた。

 

「ハッ!抜け出せんだろ!?お前なら!!」

 

「フン……ぬぉああ!!」

 

「ッ!なんてパワー…」

 

左フックを繰り出すが、無理矢理手首を掴まれ空中へと投げられる。高さは5m程だろうか。

空中は足場が無いため、対応が限られる。手数も足りなくなり、最終的に全身を式神に噛みつかれ、降参するというのを一時期必勝パターンにされた。

が、今は違う。

 

「行け、式神達よ!」

 

「無駄だ」

 

「!一瞬で全てを喰らい尽くすか!」

 

腕の半ば程から、長い渦潮が発生する。その流れに呑み込まれた無数の式神達は、終ぞ帰ってくることは無い。その流れは、盃鑼の手へと流れ込んでおり、そこにある"口"に喰われてしまうからである。

生み出したのは50匹。陀艮も簡単にはやられないと思った数だが、読みが外れ、焦りにも似た感情を見せる。

 

だが、陀艮の中ではそれより大きい感情があった。それは、喜び。

盃鑼が明確な成長を見せたのは今に限った話ではないが、術式の操作で伸び悩んでいたのは陀艮も知っている。故に、それを乗り越えた彼に、子の成長に対する想いにも似たものを抱いてしまった。

彼は盃鑼を出来るだけ対等に見ようとしている。だが、海は万物の母となるもの。自身の根幹にあるものには、逆らえない。

 

そして、もっと見てみたい(・・・・・)、とも。

 

(大振りの薙ぎ払い、その後の隙はどうする!)

 

陀艮はすぐさま気持ちを切り替え、動きの速いピラニア型で攻め立てる。それに対し、盃鑼は何もしない。

終わりかと考えていた陀艮の思いに反し、盃鑼は────

 

 

(───何も、せずとも)

 

盃鑼に喰らいつこうとしたピラニアが、牙を突き立てた途端消えていく。何の抵抗もなく盃鑼は地面に降り立ち、再び格闘へと持ち込もうとする。

 

(実現出来ていなかった全身への術式反映!)

 

それは、例え今まで共に生きて来たとはいえ、想定外の反応を隠せぬ情報。

今までは単なる消滅の術式だと考えていたため、イメージが上手くいかないことや、全身を消してしまうリスクに対する恐怖が勝り、全身まで影響を及ばせることが出来ていなかった。

ただ捕食する術式であると理解し、身体の一部であるという意識が強くなった為か、今や恐れは無くなっていた。

本来そのようなことは呪霊に起こりえない。盃鑼が転生者であるが故の障害だ。

 

(触れれば負ける!)

 

そう考えたのか、陀艮は俺の攻撃を避け始める。横への手刀を首を傾けて躱し、首を狙ったハイキックを屈んでやり過ごす。つまりは、俺が攻撃していない方向へ移動して逃れる。

それを待っていた。

胴の長いウツボの式神を生み出され、無理矢理距離を開けられる、が。

 

「ッグ!?」

 

陀艮が何かに脚を取られ、体勢を崩す。俺が仕込んでおいた"口"が、地面に拘束した。

これで、陀艮は右脚を……。

 

「舐めるな……!」

 

脚が無傷のまま吐き出されると同時に、それを為したモノが姿を現す。

タコだ。周りからタコの足が生え、凄まじい力で周りの地面を叩き割る。それに巻き込まれる形で口が破壊され、陀艮は脱出を果たした。

呑み込むつもりが無かったとはいえ、離すつもりも無かった。アイツも成長してるんだろう。

俺が今まで術式を把握できてなかった分、陀艮には一歩も二歩も先をいかれている。

立ち止まってる暇はない!

 

(無理矢理喰らわせてやる)

 

指を前方へと突きつけると、俺の周りから呪力の塊が二つ飛び出す。弾丸は俺の周りに軌道を描きながら変質し、鋭い牙の生えた異形となった。

捕食の術式を持つ小型呪霊。コイツらの牙を喰らえば、防御すら意に介さず貪られる。

 

「「揺浪魚(ようろううお)」」

 

陀艮は追ってくる弾丸をなんとかして躱そうとするが、上手くいかない。

仕方なく、迎撃の選択をする。

 

(追尾かッ!しつこい……であれば!!)

 

「打ち落とす」

 

陀艮が立ち止まり、地面を強く踏み砕く。簡易的な印を組むと、そこを起点に、まるで海のような波紋が広がる。式神達も、尽く波に沈められる。

そして、一際大きな波が、盃鑼へと襲いかかる。

 

(このぐらいの厚さなら問題なく凌げる。別の目的が何か……)

 

「……ッ!これか!!」

 

突如として水面から出てきた蛸足が俺の足首に巻き付き、そのまま水面に叩きつけられる。背中から衝撃を受けたため、空気が押し出され、一時的な呼吸困難へと陥る。

 

(予兆が全く見えなかった……この大量の海水は、呪力感知対策のカモフラージュか!)

 

「がっふ……は……!」

 

「呑気に息を整える暇はないぞ!」

 

陀艮が接近し、よろめく俺に向かって殴りかかる。恐らくは俺の術式を警戒して、いつでも拳を止められるようにしているはずだ。

俺はまだ術式を纏ったまま動く事は出来ない。急制動をしても、十分立て直す時間はある。

と考えているだろう。

 

そこを突く。

 

(呪力の高まり!ここは一旦退い……)

 

「使わねーよ」

 

「!?ごはッ」

 

ただ呪力を強く溜めただけだが、効果は覿面。

それを術式使用の予兆だと勘違いした陀艮の顎先を強く殴り、ダウンさせることに成功した。

 

「ふ〜……ビビりすぎだぜ」

 

とはいえ、こんな手は最初の一回しか通じないだろう。負けない為にも、もっと頑張らなきゃだな。

 

 

 

 

 

「あ、終わったか?じゃ、勝負ありってことで」

 

適当な態度の伏黒に苦笑いしつつ、俺は陀艮を担ぐ。このまま自室で寝かせてしまおう。

そう思い、俺も運動場を後にしようとすると、後ろから二の腕を掴まれた。

 

「どうした天内」

 

「……敵は、強いか?」

 

「んー、強いぞ、俺より強い奴なんてゴロゴロいる。正直今の戦いだってぬるい方だ。殺しが無いからな」

 

「妾は、強くなれるか」

 

「……なれるさ。努力は裏切らないからな!」

 

話したい事を話せたのか、引っ張っている手が離される。

 

(……今度、天内がどういう扱いになってるか確認してこよう)

 

行方不明扱いならそれでよし、名を変えればいい。

ただ、未だに危険があるのなら……。

 

「あと少し、だな。お節介かもしれないが」

 

短い時間しか共に過ごしてはいないが、死んで欲しくはないのだ。




火礫蟲とか、土虫蠕定とか、呪霊が呪霊っぽいの生み出すの良いですよね。

拠点の隠蔽については、次回言及します。
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