Muv-Luv Alternative : Reincarnation 作:アレクシア少佐
...結局、悪夢を見て飛び起きて。
ベッドで横になっていたが、寝付けず朝になってしまった。
仕方ない、このままPXで朝飯を食べたら、そのまま行くか...。
肉体的な疲れも少し残っているし、悪夢のせいで精神的にも疲れているが、そんなことを言っている暇はない。
はぁ、と溜息を付きながらも、身支度を終えて部屋を出て、PXへ向かう。
「おはようございます、サクラさん。よく眠れ...なかったみたいですね...大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫...ありがとう、心配してくれて。」
PXに入ってたまと目が合い、声をかけてくれる。
タケルは...まだ来てないな。
「サクラ!こっちだ!」
呼ばれた方を見ると、冥夜が手を振っている。
いそいそと朝食のお盆を取り、冥夜の方へ向かう。
「おはよう、冥夜。それに榊と彩峰も。」
そう声を掛け、冥夜の隣に座る。
「...おはよ。」
「おはよう、サクラさん。」
彩峰はまだ眠たそうに、こっくりこっくりと頭を揺らしながら食べている...。
相変わらずだな。
「...サクラ、よく眠れたか?」
冥夜にそう聞かれる。
正直に言ったところで心配されてしまうが...冥夜に、嘘をつくのも罪悪感がある...。
「...あんまり眠れなかったかな。夜中に起きちゃって。」
はは、と適当に笑って誤魔化しつつ、嘘ではない事を言っておく。
...実際夜中に起きたしな。
「そうか...無理はするでないぞ?」
「わかってるよ、冥夜。」
話もほどほどに、朝食を食べ始める。
食事中にタケルもやって来る。
タケルが食べ終わるのを待って、みんなで座学を受けに行く。
...何度目かの講義だったが、飽きてしまって教本をパラパラとめくって目を通して時間を潰していた。
私は体力を戻すために訓練兵になったので、座学は必要無いが...忘れている事もあるだろうということで、一応受けている。
タケルも暇なのか考え事をしているのか、ぼーっとしているところに神宮司軍曹に指名されていた。
...まあ、すぐにスラスラと回答していたが。
冥夜達に、すごいだの頭が柔らかいだのと褒められていた。
その後の小銃組立実習は、ほとんど私とタケルの競争だった。
...それでも、10秒差をつけて私が勝ったが。
タケルには、もっと頑張れよ、と煽っておいた。
...決して、冥夜達に褒められていた事に嫉妬したとかじゃないからな?
「流石は、桜花少尉殿だ。タケルも十分早かったが、まさかそれ以上とはな。後でコツを教えてくれ。」
冥夜に褒められる。
「はは、何度も練習していくうちに慣れてできるようになるよ。でもそうだね...もっと手早くできるように、後で教えるよ。」
と、ちょっと照れくさく...笑って答えた。
夕方。
特にこれといって問題もなく、夕食の時間になる。
「ほんっと、すごいよ二人とも!」
たまに褒められる。
何度褒められても、嬉しいものは嬉しい。
「そんなことないよ。」
「みんなだって、絶対できるようになるよ。」
タケルと意見が重なる。
...こればっかりは、何回も繰り返しやって覚えるしかないことだ。
「謙遜するでない。」
「そうね、正直悔しいけど...これだけ差を見せられちゃね。」
「特別...ね...。」
特別でもなんでもない。
ただ...神宮司教官の教えが上手くて、何度も何度も練習していくうちにできるようになったことだ。
訓練兵として教えてもらうことは、ほとんどがそれだ。
「あんまり褒めるなよ...すぐ増長するからな、オレは。」
「じゃあやめましょう。」
「おいおい...。」
榊に軽くあしらわれているタケル。
「...でも、これからはそうはいかないわよ。絶対、勝ってやるから。」
良い雰囲気だ、みんなが、私達を超えることを目標に頑張ってくれるのなら。
それだけ早く...身に付くってものだ。
「そなたらの加入は、隊にとって十分な刺激だ...ここで一気に崩れてくれるな?」
冥夜がそう言って、タケルと私を交互に見る。
「...サクラ、困ったことがあれば、すぐに私を頼るのだぞ?」
「冥夜、それはとてもありがたいし、嬉しいんだけどさ...みんなの前でそういうこと言われると、恥ずかしいんだよっ!」
冥夜は真っ直ぐに、その優しさを向けてくれる。
それはとても嬉しいことだが...言われる私は、ものすごく照れくさい。
「「冥夜(御剣)がサクラに、ねえ...。」」
珍しく、タケルと榊のぼやきが被る。
「なっ、なんだよっ!」
「御剣が誰か1人に、ここまですることってあんまり無いから...。」
「まさか冥夜、サクラのことが好きなのかぁ?」
榊が少し驚いたような表情で言った後、タケルが煽る。
「訓練で何でもできるタケルから学ぶ事は多い。今はそなたの背中を追うだけで精一杯だ。しかしサクラは、タケルと同じくらい座学も素晴らしいが...病み上がりという事情もある、手を差し伸べねばならぬ時がある。それだけだ。」
と、冥夜は言い切るが...その頬は少し、赤く染まっている。
煽ったタケルも、近くで話を聞いていた他のみんなも、少し驚いている。
「ま、まあいいわ...。でも、御剣の言う通り、二人のおかげで...これが、隊全体の底上げに繋がれば、総合戦闘技術評価演習は十分期待できるわ。」
「そうだな...失敗は許されないんだろ?」
「ええ...絶対に。」
「なあ...みんなに、聞きたいんだけどさ。」
タケルがそう、切り出す。
「なに?」
たまが可愛らしく...そう聞き返す。
「守りたいもの...ちゃんとあるか?」
「え...?」
「詳しく言う必要はないけどさ...そのために命を賭けられるような、そういうもの、あるか?」
昨夜、冥夜と私に聞いてきたのは、確認がしたかったからか。
そして、みんなの守りたいものも...。
「一体どうしたの?」
「...目的があれば、人は努力できる、そう言いたいのか?タケル。」
「オレは、努力は報われるものじゃなくて...報わせるものだと思ってるんだ。」
...守りたいものを守るための努力、か。
どれだけの努力をすればいいのか...想像もつかない。
きっと、どれだけ努力したって...終わりなんて無いのだろう。
「守りたいものが1度失ったら取返しのつかないものなら...なおさらだ。」
「努力は報わせるもの、か。言い回しは変だが...タケルの強い意志が感じられるな。」
「オレは2年ぐらい前まで...自分の命が一番大切だと思っていた。今でも、自分の命は大事だ。けど...それを危険にさらしてでも守らなきゃいけないものがあるのも、理解している...。」
...本当は、分かった気になっていた、だけだ。
この『白銀武』だって、前回の私だ。きっと...気になっている、だけなんだろう。
だけど...今、それを言ったって、口論になるだけだ。もしかしたら...殴られても、仕方がないくらいに。
どこかで...本当の意味でそれを、分からせてやらなければならない。
...けど、前回の私と同じような、たくさんの絶望を与えるのは...嫌だ。
私は、冥夜を、みんなを守りたい。それはタケルと同じ想いのはずだ。
だけどこの数日間...私がタケルでは無くなってしまったことを十分に理解して。
守りたい『みんな』の中に...タケルも、守りたいと思っている。
だから、なるべくタケルが傷つかないような方法で...。
「...なるほど、それでそなたは...。」
「...え?」
「徴兵免除を蹴って、ここへ来たのであろう?」
「...ああ、まあね。」
まあ...訓練兵として潜り込むための言い訳だけどな。
「オレさ、BETAに勝つには...強い意志と、強い志を持ったヤツが集まって、互いに協力しあうことが絶対必要だと思うんだ。オレ達の誰かひとりが失敗をして失うものは...そいつのものだけじゃない...。」
「...わかりますっ!」
「ああ、だから頑張ろうぜ。」
「そうね...頑張りましょう!」
強い意志と、強い志、か...。
かつての自分の言葉が、こんなにも突き刺さるなんて、な。
「...タケル。もしも...もしも、誰でもいい...私でもいい、私達のうちの誰かが死んだ時。それはきっと目の前にBETAがいるときになるだろう。...お前は強い意志をもって、冷静に仲間守る...BETAを撃滅できるか?」
...沈黙。
それはそうだ、仲間を守りたい...絶対に死なせない。それは、私もタケルも共通の目的だ。
だけど...もしも、『前回』みたいに誰か大切な人が、目の前で殺されたら...。
私もきっと、平静を保つことは無理だと思う。
「ごめん、意地悪な問いだったな。きっと、平静を保つことは無理だと思う。...死んだのが大切に想っていた人であればあるほど...。だけど、実戦では...部隊内の、仲間の誰かが死ぬ事は十分にありえる。そういう想定...覚悟、と言ったほうがいいか。覚悟をしておくことだ。仲間が死ぬかもしれない、そういう覚悟が無ければ...守り切るなんて、到底できないと私は思う。」
「...そうだな。守りたい人の...最悪を想像して、覚悟しておいてこそ、絶対にそんな事にならないように、動けるはずだ。オレには...まだ、覚悟が足りないかもしれない。」
「タケルだけじゃない、冥夜、榊、彩峰、珠瀬...みんなも、自分が大切だと思う何かのために、覚悟をしておいてくれ。...自分たちのせいじゃないかもしれない、だけどいつ失われてもおかしくない...。」
...前回の世界の記憶が、頭の中を巡る。
まりもちゃんがBETAに食われた。
伊隅大尉、柏木は凄乃皇の自爆のために犠牲になった。
横浜基地を守る為に...涼宮中尉、速瀬中尉が死に、他の先輩も重傷を負った。
...そして、あ号標的を倒す為に...みんなが...純夏でさえも。
結局、生き残ったのは自分だけだった。
みんなの死の記憶が、順番はバラバラに...頭の中で何度も何度も、忘れるなとでも言うかのように。
もちろん...忘れたくなんてない記憶だ。
人類の未来のために...戦って死んでいった人たちを、誇りに思う。
「...私は、以前の部隊の仲間を...全員、作戦成功の為に死なせちゃったからさ。みんなには...私のようになってほしくないからさ...。」
「サクラ...。」
いつの間にか泣いていた私の涙を、冥夜が優しく拭いてくれる。
「ありがとう、冥夜。私は絶対に、みんなを守るから...。」
無理矢理に笑って、自分の意志を言葉にする。
今度こそは、もうみんなを失いたくない。
「サクラ、お前だけじゃない。オレもみんなを守るって決めてるんだ。...その『みんな』の中には、お前も入っているんだ、簡単に死ぬなよ!」
「そうだぞサクラ、タケルの言う通りだ。私だって、そなたを守りたいと、絶対に死なせないと決めたのだ。私が死ぬまで、そなたが死んだら許さぬからな!」
「私は...まだ、力不足だし少尉にもなってないけど...それでも、あなたたちの事は私が責任をもって死なせないわ。」
「...めずらしく、榊と同じ。」
「わっ、わたしもですよ~!」
...みんなに、思いが伝わってくれたのなら...少しは、未来も変わると信じたい。
それ以上に...そんな言葉を貰って、嬉しい。
「あはは...みんなありがとう。...そのためにもまずは、みんな少尉任官しないとな!」
みんなの優しさが嬉しくて、だけどちょっと照れくさくて。
ありがとう、と笑って言うも、顔を逸らして誤魔化してしまう。