Muv-Luv Alternative : Reincarnation   作:アレクシア少佐

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10. 記憶の正しさ

「...さて、マジメな話はここら辺にして。」

 

しんみりとした雰囲気になってしまったところで、タケルがそう切り出す。

 

「今度は何?」

 

「榊のこと委員長って呼んでいいか?」

 

飲んでいた合成玉露を吹き出しそうになる。

...そういえば、そんなことも言ったような。

 

「...はあ?」

 

タケルが急にそんなことを言い出すもんだから、みんなポカンとしている。

 

「冥夜、たま、彩峰...というのがオレの希望だ。オレのことはタケルでも白銀でもいい。...いや、白銀だとサクラと間違うのか、ややこしいな...。」

 

「開き直ったな...。」

 

冥夜は呆れつつも、苦笑しながらそう言う。

 

「...もうみんな私の事をサクラって呼んでるし、私の事はサクラでいいよ。白銀って言われたら、基本的にタケルの事だと思っておくよ。」

 

半ば諦めも混じっているが...『白銀』が二人になってしまった以上、仕方ない。

 

「オレは新入りだし...サクラと違ってまだ打ち解けてないしな...。演習の前には、早く打ち解けたいって思ってるし。」

 

「なるほどな。...まあ、呼び方はそなたの好きにするがよかろう。」

 

「なんか、私猫みたいですねー。」

 

たまがちょっと恥ずかしそうに言う。

 

「可愛いと思うけどな...ダメか?」

 

「ううん、別にいいですよー?」

 

たまはたまだから...。

 

「じゃあ私も、たまって呼ぼうかな。」

 

「えっ!サクラさんまでー!」

 

よし...これで、たまをたまと呼びやすくなった。

客観的にかつての自分を見ているせいか、なんか呼びづらかったんだよな...。

 

「あとそうそう、たまは敬語はやめてくれ。みんなにしてるみたいに、もっと馴れ馴れしくていい。あと、オレのことは『たけるさん』て呼んでくれ。」

 

「そ、そう...かな?」

 

「頼むよ...たまの場合、なんかそれがしっくり来るんだ。」

 

「う、うん...頑張りますっ!」

 

...客観的に聞いていると、結構恥ずかしいこと言ってるな...。

 

「あ、さっそく。」

 

「あ、が、がんばるね!た、たけるさん!」

 

「...呼び方を指定する人なんて...初めてみたわ。」

 

「なあタケル...私が言うのもなんだが、ちょっとキモイぞ。」

 

かつての自分に言うのもなんだが...キモイものはキモイ。

 

「まあまあ委員長...うるせえサクラッ!...で、彩峰は?」

 

「...別に、好きにすれば?」

 

...しかし、前の記憶がある分、改めて仲良くなるって難しいよな。

私は、性別も名前も全部変わってしまったから、それどころではなかったというのが本音だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...サクラさん。副指令が、サクラさんを呼んでいます。」

 

談笑を楽しんでいると、霞がそう話しかけてくる。

 

「ああ、霞。わざわざ教えに来てくれて、ありがとう。」

 

こく、と頷く霞。

相変わらず口数は少ない。

 

それもそうだ、彼女は他人の心を読める...というよりも、感じ取れる、と言ったほうが正しいのだろう。

その能力のせいで...人と関わることを、能力の存在を知られることを、極度に恐れている。

 

「霞...。」

 

タケルが驚いたような表情をしている。

それだけでなく、みんなもびっくりしている。

...霞が、脳みそのシリンダーの部屋、夕呼先生の部屋から出てくることは珍しいから当然か。

 

「じゃあみんな、私は副指令に呼ばれちゃったから、行ってくるよ。」

 

「いってらっしゃい。...長いこと話し込んじゃったわね。私達も部屋に戻りましょう、明日に疲れを残さないようにね。」

 

榊の言葉を合図に、みんなぞろぞろと部屋へ戻っていく。

私も、霞と一緒に副指令の部屋へ...夕呼先生の部屋へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「...サクラさんは、私のこと、知っているんですよね。...こわく、ないですか?」

 

夕呼先生の部屋に向かう途中、霞が怯えるように...だけど、不思議そうに聞いてくる。

 

「霞、って呼んでもいい...かな?誰かの心を読めても読めなくても、霞は霞だ。そう...でしょ?どんな力を持ってようが、1人の人間なんだ...怖いとか気持ち悪いとか、思わないよ。」

 

『前の世界』で霞に答えた時と変わらない、素直な思いを、笑って答える。

 

きゅ、と私の手を掴む霞。

俯いてしまって、表情は分からない。だけど嬉しそうに。

 

「...はじめて、言われました。はじめて...。」

 

何度も噛みしめるように、呟いているのが聞こえる。

 

 

 

 

 

結局、夕呼先生の部屋に入ってからも、霞は私の手をずっと握っていた。

 

「あら...珍しい、どうしたの?」

 

夕呼先生が面白いものでも見つけたときのような...嬉しそうだ。

 

すると、霞は私の手を離して、夕呼先生のところへ駆けていく。

...うさぎのしっぽ、ついてたんだ。

 

「どうしたの?」

 

...霞と夕呼先生が、目の前で内緒話を始める。

仲間外れは悲しいな~。

 

わざとらしくそんなことを思ったところで、霞が振り返って、笑う。

先生もどこか...嬉しそうに見える。

 

「...なんですか?」

 

「別に、あんたのこと話してるって決まった訳じゃないでしょう?」

 

わざとらしい...。

 

はぁ、と溜息が出る。

 

「はいはい、分かりましたよ。それで、私に何の用事ですか?前の記憶のレポートはもう書きましたし...。」

 

何か、夕呼先生に呼び出される心当たり...思い浮かばない。

 

「あんたのレポート、読ませてもらったわ。あんたはもう知ってるだろうけど、社には他人の思考を読む能力がある。

その社が、あんたと白銀武の記憶は確かだ、と言っている。...あんたの妄想じゃない限り、ね。」

 

こくこく、と霞も頷いている。

 

「それで、あんたのレポートの内容...桜花作戦の成果だけ見ても、G弾を使わなくても凄乃皇があれば人類は希望が持てる。これだけでも十分な成果だわ。」

 

「そう...ですね。私は元々この世界の人間じゃないですが...甲21号作戦で、ハイヴを吹き飛ばした時...。」

 

思い出す。

凄乃皇に00ユニットになった純夏を乗せて...射程ギリギリまで護衛して、荷電粒子砲でハイヴを吹き飛ばした時の事を。

過酷な任務だったのは確かだった...だけどそれ以上に、勝つことさえ絶望的だったBETAとの戦いに...。

 

「あら、そんなに感動した?それとも、凄乃皇を護衛する任務で誰か戦死したのかしら?」

 

夕呼先生にしては珍しく、煽るような口調ではなく、優しい雰囲気で、言葉をかけてくる。

 

「いえ...そう、ですね。両方、ですかね。...あれ、泣くほどじゃ無いんですが...。」

 

ふと、自分の頬を涙が伝っていることに気づく。

後で知った事も多々あるが...あの作戦に参加し、そして散って逝った友軍は数えきれない。

だけど、それさえも報われるかのように...ハイヴを吹き飛ばしたときの感動を、今も強く覚えている。

 

「...すみません、夕呼先生。私...前の世界で、夕呼先生に言われたんですよ。『世界を救った、ガキ臭い救世主』って。ですが...私はあまりにも多くの、犠牲を出してしまった。救世主なんかじゃ、英雄なんかじゃないんです。ただの...1人じゃ何もできない、みんなの助けが必要な、ガキなんです。」

 

堰を切ったように...苦しみを吐き出すかのように、零してしまう。

その間も、無意識のうちに流れ始めた涙はとめどなく。

 

「そう...私がそんなことを言うなんてね。で、いつまで泣いているのかしら?」

 

はぁ、と溜息をつく夕呼先生。だけどどこか...普段と違って、優しい雰囲気だ。

 

「...すみません、まだ夕呼先生の話も聞いていないのに。」

 

「...話を戻すわね。あんたのレポートを読む限り、それが事実だとすれば、オルタネイティヴ4の目的は達成されたと言ってもいいわ。」

 

...どういう、こと?

純夏を...00ユニットを使って、BETAの情報を...。

 

そこまで考えて、思い至る。

 

「理解したかしら?そもそも、オルタネイティヴ計画の目的...それは結局、BETAについての情報収集なのよ。オリジナルハイヴに存在する『あ号標的』と呼ばれている存在...それがまさか、地球上に存在する全てのBETAの親玉だなんてね。おまけに甲21号作戦と桜花作戦の情報、ハイヴ内の情報、BETAの行動パターン、学習能力...。挙げればまだたくさんあるけど、どれも人類にとって重要な情報なのよ。」

 

「...それはつまり、すぐにでも人類で共有して...オリジナルハイヴの攻略が必要...ですよね。」

 

BETAについての情報が、人類にとって非常に重要なことくらい、私にだって分かる。

だけど、結局のところ、オリジナルハイヴを潰さないことには、人類の存亡の危機は変わらない。

 

「そうね。でも、それができない理由も、今のあんたなら分かるでしょ?」

 

「...いきなりこんな情報を出したところで、突拍子も無い...それどころか、凄乃皇を自在に制御できるコンピュータも、まだ無い...ですよね。夕呼先生としても、いくら霞が確かだって言ってても...まだ、信用に足りるデータがない...ですよね?」

 

前回の夕呼先生にも、似たようなことを言われた気がする。

 

「正解。あんたの『未来の知識』とやらが正確かどうかなんて、誰にも分からない。だからあんたは...白銀武でもいいわ。私を信用させるだけの証拠を出しなさい。」

 

...何か、あっただろうか。

 

「ただ、前回のあんたは男の白銀武、だったんでしょう?だけど、この世界には、男の白銀武と、女のあんたが居る。」

 

「未来が変わるかもしれない...私達の記憶通りになるとは、限らない...そうですよね?」

 

前の世界でも言われたことだ...人類の敗北の未来から、勝利へ変える。

選択肢を変えると、当然未来も変わる。

良いほうに変わるにせよ、記憶にない未知の未来が待ち受けている...失敗すれば、再び敗北の未来になるかもしれない。

 

「分かってるじゃない。本当に、男の白銀武だったのかしら?」

 

「...はい?どういう意味ですか?」

 

「あんたが下手に言葉を濁して色々とばらしてくれちゃったせいで、あいつに質問攻めにされたのよ...。」

 

ああ...前の私だったら、きっと同じようにしていたはずだ...と思ってしまう。

 

「だけどあんたは、あいつと違ってそんなに焦っていないわね。本当に同一人物だったのかと、疑ってしまうほどに落ち着いているわ。」

 

「あはは...まあ、前の世界で、神宮司教官や伊隅大尉に...厳しく指導されましたからね。成長くらい、しますよ。それに...焦って喚いて文句言って、都合が悪ければ投げ出して...そんなの、もう嫌なんです。」

 

へえ、と言って、何か関心したように、私を見る夕呼先生。

 

「あいつは...タケルのことは、私が一番よく分かります。私はあいつだったんですから。だけど、タケルみたいに焦って何かに当たっても...状況は変わらない。自分だけでできることには限界がある、って、教えてもらったんです。」

 

「...そうね。凡人が1人でできることには、限界があるわ。天才だって、凡人よりもできる幅が広いだけで、ね。」

 

自嘲するように、そう言う先生。

 

「...世界は変わっても、まりもや伊隅は変わらないのね。」

 

夕呼先生が小さく呟くように何かを言ったが、私には聞こえなかった。

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