Muv-Luv Alternative : Reincarnation   作:アレクシア少佐

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マブラヴオルタネイティヴの最後の場面から。
一部読みにくいかもしれません。


1. 最後の転移

あの時、こうしていればよかったのではないのか?

 

そう後悔しても、何も取り戻すことはできないし、ただひたすらに心が押しつぶされそうになる。

 

 

桜花作戦。

 

BETAの戦術伝播パターンが想定していたものよりも遥かに効率的で、光線属種の登場や人類が用いてきた戦術の劣化版コピーまがいの行動を見せたBETAに対し、早急になんとかせねばなるまいと、人類が実施した最初で最後の大作戦。

 

そこでオレは、オリジナルハイヴ...カシュガルハイヴへ突入し、あ号標的を撃破するという大任を任され、これを成し遂げた...はずだ。

 

桜花作戦は成功した。

 

だが、失ったモノはオレにとって、あまりにも大きすぎた。

 

桜花作戦だけで、元207Bのみんな、そして00ユニットとなった純夏までも。

 

桜花作戦の直前に起きた、甲21号作戦、そして横浜基地防衛戦。

先任の先輩方も、この二つの戦闘によって殉職、或いは負傷。

 

オレが大切なモノだと想っていた人達のほぼ全てが、この1ヵ月以内という短い期間に失われてしまった。

 

またそれだけでなく、帝国連合艦隊にも多大な犠牲が出ているし、桜花作戦では世界各国に大きすぎる犠牲が出ていることも知っている。

 

それでも、それだけの犠牲を払ってでも、あ号標的は撃破した。

 

何か、やりきれぬ絶望感、自分だけが生き残ってしまったという罪悪感に押し潰されそうになる。

 

 

だがそれでも。

 

オレがこの、BETA蔓延る世界から去る時がやってくる。

 

 

 

英霊の眠る、重力異常の残る横浜基地周辺でも、季節外れに咲き誇る、桜の木。

 

 

 

――ありがとう。

 

 

 

みんなを、先輩を、多くの方々を、死なせてしまった。

だがそれでも、絶望に押し潰されることなく、それでも前に進まなければならない。

 

一人前の人間とは、どういうものなのか。

 

そういう、大切な事を、教えてもらった。

 

「まだ、消えてなかったみたいね。」

 

そう声を掛けられ、振り返ればそこには、夕呼先生と、霞が居た。

 

「先生...?」

 

なぜ、ここに?

 

「社がここだって教えてくれたのよ。...挨拶は済んだ?」

 

人類の未来の為に。オレがあ号標的を倒す為に。

 

自らの命が失われることさえも厭わず、散って逝ったみんなに。

 

「...はい。終わりました。」

 

「そう。じゃあ、もう『この世界』に思い残すことはないわね。」

 

「...そう、ですね。」

 

本当に、何も思い残すことはないだろうか。

 

あ号標的を撃破したとはいえ、まだ地球にもBETAは存在している。

まして、月や火星にも、遥か彼方にもBETAは我が物顔で闊歩していることだろう。

 

「...まあ、無いって言えば嘘になりますけど。」

 

...それが分かっているのに、オレは。

 

「先生に、吠え面かかせられなかった事...ぐらいですかね。」

 

「......。」

 

「『向こう』の夕呼先生に約束してたんですよ。」

 

「ふふっ...それは、残念だったわね。」

 

本当に残念だ。せめて夕呼先生に一泡吹かせて...。

 

「まあとにかく、お帰りなさい。よくやってくれたわ。」

 

「なんですか、いきなり...?」

 

「アンタが帰還してから、顔合わせてなかったでしょ?悪かったわね、バタバタしてて。」

 

「何を言ってんですか先生。作戦直後に顔を見に来た事なんて、今まで一度も無かったじゃないですか。今更ですよ。」

 

あらそうだった?と続ける先生。

...先生なりに、別れを惜しんでくれているのだろうか。

 

まさかあの夕呼先生が、わざわざ顔を見に来てくれたのも。

 

......まさかな。

 

「レポート、読ませてもらったわ。あれだけの量...あんたにとって辛いことの連続だった直後なのに、悪かったわね。」

 

「いえ、別に...『この世界』のために、役に立つことはできる限りやっておきたかったので...。」

 

それに、無我夢中でやってなければ、喪失感と絶望感に、耐えられなかったかもしれない...。

 

「それこそ、いつ消えちまうかわかりませんからね。」

 

それでも。

 

この場所に...来る時間が残されていて、本当に良かったと思う。

ここは、オレにとって...『この世界』での故郷みたいなものだから。

 

「そうね、じゃあ、急ぎましょうか。」

 

「何を、ですか?」

 

はいこれ、と拳銃を手渡される。

 

「あんたはもう、因果導体じゃない。ここであたしを殺しても、別世界のあたしが死ぬことはないわ。...あの時撃たなかったのは、そういう理由もあったんでしょうけどね。」

 

言われてみれば...。

 

あの時は、純夏のことで頭がいっぱいで、そこまで回らなかったな...。

 

「それに、鑑が存在しない今回の転移は、本当の意味で、『この世界』から消滅するのよ。今度こそ、あんたが『この世界』に存在した事を覚えている者は誰一人、いなくなる。...まあ、だから姿を消したあんたが疑われて、『この世界』に悪名が残る心配もないわよ?」

 

そう言い、ちょっと悪戯っぽく笑う先生。

 

「それとも、あんたの質問に答えてから、にしましょうか?聞きたい事や言いたい事、それこそ山ほどあるわよね?」

 

真っ直ぐ、オレの目を見て話す先生。

 

「泣き言や恨み事は最後にするって、言ってたわよね?...今がその、最後なのよ。」

 

...。

 

「気持ちだけ、受け取っておきます。」

 

と言うと、呆れたような表情、態度になり。

 

「なによ、このために、わざわざ時間割いてここまで来たのよ?」

 

「すみませんね、無駄足で。...先生は、まだまだ『この世界』にとって、必要な人間です。それに...人類のために戦って、これからも苦しみ続けるでしょうから...。」

 

夕呼先生だって、手塩に掛けてきた伊隅大尉やヴァルキリーズを失って、全く悲しくないはずがない。

それに、これから『この世界』は、残存するBETAの掃討、破壊された街の復興、二度とBETAの着陸ユニットを落着させないための防衛線の構築...。

パッと考えられるだけでも、大変な道のりが待っている。

 

「成程、それでチャラってことね。そんな事でいいなら、楽な取引だわ。幸い、その程度で苦しむほどヤワじゃないしね。」

 

「ははは...そうでしたね。」

 

確かに、夕呼先生はヤワじゃない。目的に対して厳格で冷酷だ。

 

だけど...それが本性じゃないことも分かっている。

 

 

そんな人間だったら...あの時、オルタネイティヴ4が失敗した時、あんなに泥酔するまで酒を飲んで泣きわめいたりしない...。

 

伊隅大尉を安心させるために、姉妹の安否なんて確認しない...。

 

死に征く純夏のために、オレと二人きりになれる時間なんて作らない...。

 

先生は、道を指し示す者が負うべき重責を、真っ向から受け止めて...自分の手を汚す事から逃げていないんだ。

 

――自らの手を汚すことを、厭うてはならないのです。

――道を指し示そうとする者は、背負うべき責務の重さから目を背けてはならないのです。

 

いつか聞いた、殿下のお言葉を思い出す。

 

そして先生は、苦しみや責任をすべて、自分の中だけに止めて。

絶対に、弱音を漏らさないんだ。

 

 

「どうしたの?やっぱり、撃ちたくなってきた?」

 

「先生...オレは自分で決めて、自分のために戦ったんですよ。結果は全て、自分で背負います。先生のせいにして、被害者面する気なんてないですから...。」

 

オレは結局、最初の頃、何も知らずに、都合の悪いことを他人のせいにして泣きわめいていた。

 

「そんな事をしても、何も誤魔化せないって、嫌と言うほど思い知らされましたからね。」

 

 

「...そう、まあいいわ。気が変わったらいつでも言いなさい。」

 

「変わらないから、大丈夫です。それに、泣き言ももう、言いませんから。」

 

先生に訊きたい事、確かめたい事なんてそれこそ、山のようにある。

 

だけど。

 

もう、それをいちいち確かめることに、意味なんてない。

 

 

 

「じゃあ、そうね。前向きな話でもしましょうか。」

 

「前向きな話、ですか...?」

 

「特に何、ってわけじゃないわ。...あんたが消えていなくなるまでの、暇つぶしみたいなものよ。」

 

消えていなくなる、か...。

 

「じゃあ...先生お得意の、推測ってヤツを聞かせてくださいよ?」

 

「推測?...何の?」

 

「オレが戻る世界って...いったい、どんな世界になるんですかね。」

 

「さあ...ハッキリとした事なんて、私にもわからないわ。ただ、こっちから干渉して、あっちの世界で発生した事象が消滅することだけは、確かね。...そして、あんたが戻されるのが、『元の世界』の10月22日という事も...。」

 

だったら、少なくとも、まりもちゃんや純夏は...。

 

「安心しなさい、あんたが関わって起きた事象なら当然、再構成されるわよ。」

 

それなら、安心しても。

 

「他にも、あんたや鑑が関わった世界は再構成されるだろうけど...どのみち、起点となる10月22日が再構成される以上、そこから分岐する世界も変わる運命だけど。」

 

 

「その上で、あんたが『元の世界』に帰るにしても、どうするにしても、『この世界』の鑑の思念と...あんたの意志が、大きく影響してくるはずよ。」

 

「オレの意志はともかく...純夏の思念が、ですか?」

 

「あんたの転移現象に関わる、すべての原因だからね。」

 

...成程。

 

「あんたと鑑が関わった、一連の転移現象から、世界の在り方には人の意志が大きく影響する事が確認できたわ。これは、因果律量子論で、予見されていた現象なのよ。」

 

先生が、色々と理屈をこねてた割に、事あるごとに「意志を強く持て」とか言ってたのは、そういうことだったのか...。

 

「...匙を投げてたワケじゃないわよ。」

 

...ともかく、あっちの世界のまりもちゃんや純夏に起きた事が解消されるなら、それだけでもいい。

例え、オレが忘れられたままの世界でも、みんなが無事なら。

 

そして、『この世界』に生きている人たちに、未来が、希望が残されたのなら。

 

...それでいい。

 

オレはまだいい。

 

昨日までの戦いの果てに、この世界の戦いの果てに、何があるのかを知っていたから。

 

だけど...。

 

 

犠牲になっていったみんなは...何も知らずに、人類の勝利の可能性だけを、信じて。

何も聞かずに、何も知らされないまま、戦っていた...。

 

 

それでも、みんなは、あいつらは。

 

自分の道を自分で切り開き、進んでいった。

 

そして...自分の命さえも代償に、未来の可能性を、希望を、この世界に生きる人々のために差し出したんだ...。

 

 

...ダメだ、今、オレがここで涙を流したら...。

あいつらの、想いを。

 

 

「...先生。」

 

「何?」

 

「あいつらが命懸けで守った『この世界』は...。BETAとの戦いは、この先どうなると思いますか...?」

 

「やっぱり、そこは気になるのね...。」

 

元は、BETAの存在しない別世界から来たとはいえ...。

前回、そして今回と、この世界で長く戦い続けてきたオレは、感覚的にはもう『この世界』の人間になってしまっていた。

 

「聞いたから、どうだっていうわけでもないんですけど...。」

 

「たぶん...しばらくは、安心してくれていいんじゃない?あんた達が残してくれたもの...理論や数式、XM3...。生還する事で、あんたが持ち帰ってくれた『あ号標的』のリーディングレコーダー...。これだけでも、人類は少なくともあと30年は、大丈夫よ。」

 

「...30年。」

 

「...不満?長くてもあと10年以内に確実に滅亡するって状況だったのに、貴重な時間を20年も稼いだんだから、大したものよ。」

 

「わかってます、むしろ、そんなにあるんだって、驚いたんですよ。」

 

思っていたよりも、状況は良くなった...らしい。

 

「火星圏までのBETAを駆逐するのに、どうやってもあと20年はかかるはずよ。そこから先に何年上乗せできるか...それとも、できないのかは、あたし達次第。」

 

「そうですね。この宇宙は...BETAで満たされているようなもんですから。」

 

「そうね。でもそれ以上に大きな、未解決の問題があるわ。」

 

BETA以上に大きな、深刻な未解決問題って...。

 

「それまでに人類が、相克や利害関係をどれだけ克服、解消できているのか。先の20年...いえ、未来そのものが人類に残されるのかは、そこに懸かっているのよ。...あんたのおかげで、BETAとのコミュニケーションが不可能ではない事が証明されたわ。知的生命体がBETAの背後にいるとなれば、講和の可能性だってある。だから、相応の研究は継続されるけど、あくまで軍事利用前提での話。相互理解だ何だは、直面する脅威を排除してからになるわね。」

 

BETAと、いやBETAの親玉と講和、もしくは継戦...。

 

「和平するにしろ継戦するにしろ、権利を盾に身勝手な事を考えるバカは絶対に出てくる。そうなれば今まで通り、人類は内輪で戦いながら、BETAに対処しなければならない。...BETAとのコミュニケーション以前に、人類同士のコミュニケーションが必要なのよ。」

 

西側と東側。自由主義と共産主義。

 

BETAの侵略、侵攻があり、破滅の危機はすぐそこまで来ていても、手を取り合えない人類...。

 

「...先生。オレ達がやった事って...みんなが、あいつらが命と引き換えに手に入れたものって...。ちゃんと、意味、あります...よね?」

 

「...当たり前でしょう?...あんたは、あんた達は間違いなく、『この世界』を救ったのよ。たとえ、誰一人知る事が無かったとしても...その事実は絶対に変わらない。たとえ...誰一人、あんた達に感謝しなかったとしても...人類に未来を残してくれたあんた達に、あたしは感謝するわ。」

 

...先生。

 

「ありがとう白銀...あんたは、『この世界』の救世主よ...。」

 

他の誰でもない、夕呼先生にそんなことを言ってもらえるなんて。

...先生...ありがとう、ございます...。

 

「...じゃあ。救世主を生んだ先生は...聖母みたいなもんですかね...。」

 

そう言うと、夕呼先生は困ったような嬉しいような、微妙な表情をして。

 

「...やめてよ。そういうの。」

 

...へへっ。

 

「何よ。」

 

「吠え面は無理でしたけど...先生に今の顔をさせただけでも、良しとします。」

 

「ふふっ...じゃあ、これで心置きなく消滅できるってわけね?」

 

夕呼先生がそう言った直後、視界が少し、明滅したような気がした。

 

「...どうやら、時間が来たようね。」

 

いよいよ、『この世界』から消え去る時が...。

 

「先生...あとは、よろしくお願いします。」

 

「さようなら...。ガキ臭い救世主さん...。」

 

満足げな、しかしどこか心配しているかのような、夕呼先生。

哀しそうに、困ったような、霞。

 

「霞...。先生を、助けてあげてくれ...。」

 

「...はい。」

 

霞が、力強くそう答えてくれる。

 

「みんなの事...誇らしく語ってやってくれ。頼むぞ...。」

 

「...はい。私...平和になったら...必ず、海を見に行きます。」

 

ああ、霞との約束...果たせなかったな。

 

「...ああ、思い出、いっぱい作れ...。」

 

「私...あなたが、どこの世界にいても...ずっと、見ています。私は...あなたを、絶対に忘れません...!」

 

霞...。

 

「この気持ちが...純夏さんのものなのか、自分のものなのか...わかりません...。でも私は...あなたが、好きでした...。」

 

「...そうか...。ありがとう、霞...。」

 

「......また、ね...。」

 

「...ああ、またな...。」

 

言い終わったとき、目の前が完全に真っ白になり...意識を手放した。

次に目が覚めたら...オレは...。

 

 

 

 

 

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