Muv-Luv Alternative : Reincarnation 作:アレクシア少佐
どれだけの時間、寝ていただろうか。
目を閉じていても分かるくらいの周囲の明るさに刺激され、意識を取り戻す。
...ついさっきまで、夕呼先生と、霞と、『BETAによって人類が危機に瀕している世界』と、別れを告げたばかりのような、そんな気分だ。
心なしか、涙が流れている...気がする。
一周目...の記憶は、もはや曖昧になってしまっているが、それでも数年分くらいの記憶はあるだろうか。
オルタネイティヴ5の発動、人類の敗北、地球からの脱出...大切なものが失われていくのを、何もできずにただ眺めているだけのオレ...。
二周目...一周目の記憶は、この時点で既に曖昧になっていたが、絶望と後悔、もう何も失いたくない、人類を救う、希望を繋ぐ...ただそれだけのために。
甲21号作戦、横浜基地防衛戦、そして桜花作戦。
あれだけの経験をしておきながら、オレは今もまだ、自分はガキだと思う。
だがそれでも、一周目の無力だったオレ、二周目の途中までの、ただ理想だけを並べ立てて夕呼先生に当たっていたオレ...よりは、成長したんだと、思う。
「......?」
...ん?
これまでの経験を思い出し、感慨深くなり、目に涙も溜めていたが、よくよく思い返してみれば...。
夕呼先生は確か、オレはもう因果導体ではないから、転移して意識が戻る頃には、色々と記憶も無くなる...再構成される、と言っていなかったか?
...目を開ける。
よく見知った、何度も見た、オレの部屋の天井だ。
『あの世界』で、オレについて調べてくれた夕呼先生に見せられた...と思う、オレの部屋のように、荒れ果ててはいない。
本棚、ラジカセ、簡単なデスク。
...オレの部屋だ。
そこまで確認してふと、オレの背後...窓側に、人の気配を感じる。
純夏か?冥夜か?それとも、霞か?
...まさかな、と思いつつも、しかしなぜか心臓が破裂しそうな程に緊張しながら。
背後を確認する。
...オレが寝ていた。
どういうことだ?昔テレビで見たような、所謂「幽体離脱」ってやつか?
今のオレの意識はこの後消え去り、目の前に寝ているオレが本物...というか、本体なのか?
自分を、物理的に客観視してみると...衛士として鍛えていたとはいえ、結構筋肉あるなオレ。
何とはなしに、触ってみる。
ぺたり。
ぺたぺた。
...何の問題も無く、触れるが。
自分で自分を触る、奇妙な感覚に襲われつつも、案外筋肉ついてたんだなぁと感心する。
いや、待てよ。再構成されているのなら、衛士として鍛え上げた肉体も、元々の学生ぐらいになっているのではないのか?
ということは、...今のこの幽体離脱?の状況はさておき、ここは『BETAの存在する世界』なのか?
そんなことを考えてしまい、モヤモヤしていると。
目の前の『オレ』が、突然ガバッと起き上が...ろうとして、オレに気づき。
「...。」
「...。」
視線が交差する。
『オレ』は急に、顔が赤くなっていく。
「どうして赤くなってるんだよ!」
...あれ?
自分が発したとは思えない高い、女みたいな声。
「いやアンタこそ誰だよ!オレにアンタみたいな女の知り合いはいねぇっ!」
...。
女だって?オレが?
「どういうことだ...。」
「アンタが分かんなかったら、オレに分かるわけないだろ!」
...取り合えず起き上がってみるが、確かに髪は肩くらいまで伸びている。
衛士として鍛えてきた身体には、触ってみれば程よく柔らかな、林檎が二つ実っている。
極めつけは...過酷な戦場を共に潜り抜けてきた『相棒』がきれいさっぱり消えてなくなり、跡地には女の子のソレが...いや、今はそこまで確認しなくてもいい。
そして、再構築されたのかどうなのかは知る由もないが、なぜか白陵柊学園の女子制服を着ている。
...一応、下着もちゃんと付けているようだ。
「...今、...私の正体を話しても、信じてはもらえないだろう。いや、信じられるほうが怖い、な。」
オレ、と言いそうになったが、女になってしまったからには、言葉遣いにも気を付けたほうがいいだろう。
...どうなるかは分からないが、あいつら...207Bのところに、潜り込める可能性は高い。
今のうちに、矯正していくほうがいい...と、自分でも驚くくらいに冷静に考えられている。
「疑う気持ちは分かる。だがそれよりも、どうしてお前は泣いているんだ?」
「...。」
目の前の『オレ』...いや、オレ...私が女になってしまったのだ、目の前の『オレ』こそが、白銀武であり、自分は別の何者か...。
「いや、なに。長い...とても長い、変な夢を見ていただけさ。楽しいこともあれば、辛いこと...絶望だってある、悪夢だったさ。」
長い夢を見ていた、悪夢だったと聞き、この白銀武はまさしく、前回...二周目の『オレ』だ。
私...がなぜ、三周目になっているのかは分からないが、...まりもちゃん、甲21号作戦から散って逝ったヴァルキリーズのみんな...伊隅大尉。
そして、桜花作戦...207Bのみんな...冥夜。
今度こそ、あいつらを。みんなを。
失う事無く、あ号標的を撃破できるのだろうか。
「そうか。...本当に夢だったら、良かったんだけどな...。」
「どういうことだッ!?」
私が後悔するように、そう言うと、白銀武は動揺したのか、胸倉を掴んで詰め寄ってくる。
「そう焦るな、焦っても何も始まらない...。まずは服でも着替えて、外に出るぞ。」
そうだ、焦ったって何も解決しない。そんなこと...前回、前々回で、痛いほど思い知らされたじゃないか。
「そう...かもな。じゃあ着替えるから、出ていてくれないか?」
「ん?...ああそうか。」
そういえば、自分は女になったのだった。意識だけは男なのも、辛いものがある。
...という事は、いざ訓練兵になれたとして、あいつらと一緒に着替えなければならないのか?
今から既に、心が躍るようで、下手すれば月詠さんに切られそうで怖い。
「月詠さん...か。そういえば、前回...カシュガルから帰ったとき、挨拶できていなかったな...。」
冥夜を守ると、心に誓い。
月詠さん、3バカに武御雷を用意してもらい。
武御雷をハイヴ内で大破させたどころか、冥夜、たま、委員長、彩峰、美琴...純夏。
凄乃皇に乗っていた私、霞以外誰一人として生きて帰ることができなかった。
グッと心臓を締め付けられる。
自分を責める気持ちも、無いと言えば嘘になる。
だが、今ここで自責の念に駆られたとて、何かできるわけでもない。
それならば、再び最初から...折角の三周目だ、二度とそんな思いをしないようにするべきだろう。
「おう、お待たせ。」
「じゃあ行こうか、『横浜基地』へ。」
横浜基地、と言った時、白銀武は動揺したかのような、緊張したような表情を浮かべている。
...前回の私だって、外に出て、瓦礫の山となった町、自分の家にもたれ掛かって壊れている撃震を見て愕然と、絶望した覚えがある。
「何をぼーっとしてるんだ、早く行くぞ。」
白銀武の手を取り、強引に外へ連れ出す。
...今回こそは。
みんなを、誰一人として、失ってたまるか。