Muv-Luv Alternative : Reincarnation 作:アレクシア少佐
「はぁっ...はぁっ...はぁっ...」
入隊宣誓も終わり、いよいよ訓練が始まった。
とりあえずは走り込みからなのだが...。
キツすぎる!
こんなにキツかったか!?と叫びたくなる程、メッチャキツイ。
...まあ、男から女になって、筋肉自体が減っているだろうしな。
白銀武の身体はもちろん、前々回...1周目を引き継いでいるから、この程度の訓練など余裕そうにクリアして、追加で走っている...。
まあ...1周目みたいに、まりもちゃんに怒られるほどへばってはないけどさ...。
男から女になってしまった、体力もそれ相応に落ちているだろうと予想して、
ある程度ペース配分を考えていたのが幸いだった。
それでも...キツいんだけどな。
身長が男の時より低くなった分、体重も落ちてるだろうし大丈夫だろ、と侮っていた。
...身長が縮んだ代わりに、胸に付けられた重りで結局...。
「はあ...はあ...。キッツ...。」
ぜえぜえと、息を切らしながらもなんとかゴール。
冥夜達ともそんなにつかず離れず、マズマズと言ったところだ。
「よし次!ケージにあるあの装備を担いで10キロ行軍!早く行けっ!」
お、鬼...。
「りょ、了解です~...。」
「なんだ...完全装備じゃないのか。」
タケルは余裕そうだな...って、前回の私もあんなこと言ってたっけ...。
「そうか白銀。貴様は徴兵免除で体力が余ってるって言うんだな?」
「いや、その...。」
...明らかな墓穴だったな。藪蛇ってヤツか?
「だったら貴様は完全装備でやれ。ついでに分隊支援火器のダミーも担いで行っていいぞ!?」
余計な事を言ったせいで、重量物を増やされるタケル。ざまあみろ。
「......了解ッ!」
腹を括る決心をしたようだ。
「はぁ...。」
この合間に、水分補給をしておく。
「サクラ、大丈夫か?病み上がりだというのに、よく走り込みについてこれたな。」
「んっ...はぁ、大丈夫だよ冥夜、これくらい。それにしても...想像以上に、体力が落ちててキツイ。」
「あんまり無理をするでないぞ?どうしてもつらければ、私に言うがよい。」
...なんか、男の時よりも優しい気がするな...。
いや、冥夜は元々優しいヤツだ、それは間違いない。
「はは...ありがとう。」
軽く礼を言って、完全装備を担ぐ。
...胸の重量物と合わせて、男の時よりも肩にのしかかってくる...気がする。
胸のデカい女って、大変なんだな...リンゴより少し小さいくらいの大きさの私でさえ、走っただけでへばっているのに。
...一通りの訓練が終わった。
肩と背中が、もう動かすのも辛いくらいの筋肉痛だ。
手足にも疲労が残っているが、まだ動かせる。
みんなは部屋に戻ったが...私は夜風に当たりたくて、グラウンドにいる。
そよそよと風を浴びながら、星空を眺める。
...みんな...今度こそは、絶対に誰一人欠けさせやしない。
物思いに耽っていると、冥夜の姿が見える。
「冥夜!...自主訓練か?」
「サクラか。そうだ、日課にしているのでな。サクラはどうしてここに?」
「私は...夜風に当たりたくてな。今日一日の振り返りとか、これからの事とか。考えるには丁度いいだろ?」
「そうか。...サクラ、そなたは時折、男のような口調になるな。神宮司教官とはまた違う...いや、悪いというわけじゃないぞ?」
...最近は、「私」と言うのにも無意識に言えるようになってきたが、普段の言葉遣いまではなかなか直せない。
「そう...だね。戦場が長かった、というのは言い訳になる...んだけど、直そうとは思っているんだけどな。これがなかなか...。」
「ふふっ、それでも気にしてはいたのだな。気にしていることをわざわざ指摘しまって悪かった、許すがよい。」
他愛のない会話。だけど、冥夜が笑ってくれる。
たったそれだけのことだが、それでも救われるような思いだ。
「...ありがとう冥夜。」
「む?何のことだ?」
「最初、泣きながら抱きしめてごめん。訓練の時、気遣ってくれてありがとう。今...話せて、嬉しいよ。」
思っていることを、言葉にする。
――貴様に背中を預ける仲間のために、自らの憂いは取り除いておけ。
――そして、それを後回しにするな。
――でなければ万が一の時に後悔する。自分を責め続ける事になるぞ。
たしか...甲21号作戦の前に聞いた...伊隅大尉の、最後の教えを思い出す。
ふと、照れくさくなって、笑いつつも目をそらしてしまう。
「そのようなことか。私にとっては...普通の事、なのだがな。嬉しいと思ってくれているのであれば、私も嬉しい。」
「っ...喋っているだけなのも何だし、ちょっと走りながらにしよう、冥夜。」
「ふふっ...そうだな。」
冥夜に嬉しいと言われて...喜んでしまう。
もう、女になってしまったのに、まだ冥夜のことが好きなのかもしれない。
男だったら...もう少し悩みも少なくて済んだのにな...。
自分の事、冥夜の事、みんなの事、訓練の事...。
どうでもいい雑談をしながら、冥夜と二人きりで軽く走る。
走り始めてしばらくした頃、誰かの人影を見つける。
「ん?何だ、白銀か。」
「何しに来たんだよ、タケル?」
かつての自分だが、今は私が冥夜と走っているんだ、と思って多少邪険に扱ってしまう。
「冥夜と...サクラか。っと...悪ぃ...。」
「別に構わぬが...順序というものがあるぞ?」
「サクラはいいのかよっ?」
「サクラは...まあ、初対面でな...。それに、訓練中も先に先に行ってしまうそなたよりも、私達の近くにいるサクラのほうが、仲良くなるのが早いのも当然であろう?」
冥夜との...初対面を思い出し、ちょっと恥ずかしい。
療養明けってことで、訓練中は冥夜が私の面倒を見てやれ、と神宮司教官に言われていたようだ。
みんなの中で、しっかり者でこういうことに向いているのが、冥夜だろうしな。
しかしそのおかげで、みんなと...特に冥夜と、ここまで打ち解けられたのは嬉しい誤算だ。
「...そんなもんか。すまんな、オレなれなれしいらしくてな...。」
「分かっていても癖は直らんか...もっとも、だから癖と言うのであろうが。」
冥夜がそう言いながら、タケルを見る...と、私の方もチラッと見てくる。
はいはい、男言葉の癖はなかなか直りませんよっと...。
「気を付けるよ...それより、二人で何してるんだ?」
「見ての通りトラックを走っていた。」
「まさか、何か罰でも食らったのか?」
「まさか。自主訓練だ、一応日課にしている。サクラとは偶々一緒になっただけだ。」
「今日の訓練で、思っていたよりも体力が落ちていたからな...。私は軽くランニング程度に、だな。」
折角雲もない夜なんだ、気持ちの良い風に当たって軽く運動くらい、いいだろう。
「私は一刻も早く衛士となり、そして戦場に立ちたいのだ。」
「...何でまた?」
「月並みだが...私にも、護りたいものがあるのだ。」
...この話はもう、3度目になる。
「そうか。それは何か...と聞いてもいいか?」
「この星...この国の民...そして、日本という国だ。」
...やっぱり、何度やり直したって冥夜は冥夜だ。
それでも、死の瞬間...最後の最後には、冥夜は実の姉...殿下のことを案じていた...。
冥夜が、この星、そして日本という国と民を護りたい...という想いは本物だと知っている。
だけど、心の中では...殿下の影として、ではなく御剣冥夜個人として...。
実の姉、煌武院悠陽殿下のことを、想っているんだ。
それはとても...素敵な事だと、思う。
「白銀、そなたにはないのか?」
「ん?...あるよ。」
「聞いてもよいか?」
「...地球と、全人類だ。」
...途方もない、大きな目標だ。
だけど、その中には冥夜やみんなも、含まれていることも知っている。
「別に対抗したわけじゃないぞ、念のため。」
「誰もそんなことは言っておらん。」
「そなたは...立派だな。」
「「そうかな?」」
っと...タケルと言葉が被る。目標だけ見れば...立派かもしれない。
だけど...守り切れないものも、手が届かないものだって、存在するってことを知ってしまった。
「なーんでサクラは、いちいちオレの言うことに突っかかってくるかね?」
「ふっ、バカでガキなタケルが、立派だって!良かったな!」
茶化すように、明るく振る舞う。...こうでもしないと、また冥夜に...謝ってしまう気がして。
「なんだと~!」
べち、と頭を軽く叩かれる。
「ふふっ、仲が良いのだな、二人は。それで...サクラ、そなたの護りたいもの...も、聞いてもよいか?」
「そうだな...冥夜やタケルみたいに、大勢を護る...ことは、私個人じゃ無理だった。だから...だから、共に戦場で戦う、仲間を...みんなを、死なせない、護りたい、かな。...結局、1人じゃ護れるものなんて手の届く範囲でしかないから...身の丈に合った護りたいもの、だよ。」
勿論、世界を...人類を護りたいという気持ちもある。
だけど...そのために、みんなを切り捨ててでも...なんて、もう嫌だ。
私の話を、神妙な顔をして聞いているタケルと冥夜。
「身の丈に合った...手の届く範囲、か。サクラの言う通りかもしれんな。私1人がどれだけ努力しあがこうとも、失うものは必ずあるだろう。」
「...そうか、だからまずは、自分の周りの大切なものを護る...手の届く範囲を、護れるようになってこそ、か。」
「そういうこと。私が冥夜を護って、タケルが私を護って、冥夜がタケルを護れば...ほら、誰も死なない...じゃない?それに、3人いれば...自分たちだけじゃなくて、榊や彩峰、珠瀬...みんなも守れるんじゃないかな?」
ガキの発想かもしれない。ただの、夢物語...届かぬ理想かもしれない。
それでも、前回できなかったこと...例えば、まりもちゃんにヴァルキリーズのみんな、全員でカシュガル攻略をすればどうだろう?
もっと大勢...国連軍だけじゃなく、米軍や帝国斯衛軍...みんな巻き込んだら、散って逝く人も...。
「...私は国を、民を護りたいというのは本心だが...そうだな。まずは、私の手の届く範囲...サクラの言うように、身の丈に合ったものから、護れるようになるとしよう。身近なものさえも護れぬようでは、大勢も護れまい。」
「...そう、だな。焦るだけ無駄、だよなサクラ?どうせオレが焦ったところで、今のオレにできることは、まずはみんなで少尉任官すること...くらいしかないしな。考えるのはその後でもいいだろ!」
二人とも、納得してくれたようだ。
冥夜はともかく、タケル...は、焦って失敗してしまう事が多かった...だから。
今度こそは、できるだけ焦らせないように...私が。
タケルは私自身だ、戦術機の操作や戦闘はよっぽど信じられる。
冥夜やみんなだって、最後の作戦まで一緒に戦ったんだ...信じるに足る。
タケルの心は、精神は...前回の私だ、ほとんど分かり切っている...。
今回は私というイレギュラーが存在するから、どう変化していくかは分からない。
「...ありがとう、二人とも。二人の元々の思いも、大切なことだと思う。だから、それも忘れないでほしい。」