Muv-Luv Alternative : Reincarnation 作:アレクシア少佐
大変ありがとうございます。
タケルとも軽く雑談し、タケルも含めて3人で軽く走って、部屋に戻ってきた。
汗をかいてしまったし、シャワーでも浴びに行くか...。
シャワー室、の手前の更衣室に入る。
...。
そういえば、女になってしまったから...自分の、とはいえ女の裸を見なければいけないのか...。
まあ...朝にも、訓練用の動きやすい服装に着替えたり、下着は交換しないといけないから、チラッとは見たんだけどさ。
服をすべて脱ぎ、ロッカーに入れ、改めて自分の身体を見る。
しかしなんてことはなく、自分の身体だ、当たり前だが何も変な気持ちなんて湧いてこない。
...男の時だったら、もっと動揺していたかもしれない。
3周目、怪我をした覚えなんてないのに、手足や脇腹に...傷の跡がある。
裂傷を、縫合したような...そんな傷だ。
その傷をまじまじと見ていると、またあの突き刺すような頭の痛みが、私を襲う。
...また、経験したことのないはずの...記憶が、頭の中に入り込んでくる...。
何とも言えない気持ち悪さに、立っていられなくなって更衣室のベンチに倒れ込んでしまう。
...女の私が、誰か...見覚えのない、だけどみんなに少し似ている仲間たちと訓練に励む記憶。
少尉任官式を終え、まりもちゃんに祝福された少し後...コード991が発令された記憶。これは前の世界でもあったことだけど...記憶の中の自分は女だし、仲間も見覚えが無い。
...なんとかBETAを処理した後、落ち込む私を励ますまりもちゃん...。
その背後に迫る兵士級に気づいた私は、まりもちゃんをかばって...兵士級に殴り飛ばされて、散らばっていた何かの破片に手足や脇腹を切り裂かれる記憶。
...動けない私を尻目に、私よりも距離が近かったまりもちゃんに襲い掛かる――
――兵士級になすすべなく、腕と頭を、引きちぎられ、噛み砕かれる、まりもちゃん。
「うっ、ぐっ...うぅ...。」
そんな経験、したことなんてない...はず。
似たような事は...あったけれど。
状況、方法は違うけれど...やはり自分の目の前で、大切な人が殺される記憶...。
「...サクラッ!?どうしたのだ、大丈夫かッ!?」
冥夜の声が聞こえる。
克服したと、乗り越えたと思っていた、まりもちゃんの死。
だけど...覚えているはずのない絶望の記憶に、前の世界のまりもちゃんの死が重なる...。
そして自分が男だろうと女だろうと...『元の世界』に逃げて...。
そこでも、まりもちゃんは...。
嫌な記憶ばかりがフラッシュバックして、涙が溢れ出て止まらない。
「うぅ、ひっく...うああ...。」
声にならない声が零れる。
頭の中は、冷静なのに...冷静だからこそ、嫌な記憶と正面から向き合ってしまう。
...冥夜が焦りながらも、私の背中をさすってくれる。
「サクラ...大丈夫だ、私がそなたの傍にいる。」
「めい、や...ごめん...。」
「謝るでない。知り合って二日程だが...そなたはもう、私達の大切な仲間だ。仲間が苦しんでいるのに、放っておけるわけがなかろう?」
...冥夜には、関係のないことなのに、優しくそう言ってくれる。
今まで溜めこんできたモノが、記憶が、感情が...押し寄せてくる。
「うッ...うわああぁぁ!!」
冥夜を力いっぱい抱きしめて...情けなく、泣き叫んでしまう。
痛いくらいかもしれないのに、それでも冥夜は優しく抱きしめ返してくれる。
「...辛かったのだろう、私にはそなたの苦しみは、想像もできんが...私でよければ傍にいる故、すべて吐き出すがよい。」
どのくらいの時間、冥夜に甘えて...冥夜を、抱きしめて泣いていたか分からない。
それでも、全部吐き出せた...と思う。
「...ありがとう、冥夜。おかげで...今までの辛いことや嫌なこと、全部出せて少し楽になれたよ。」
「ふふっ、そなたの事を少し誤解していた。そなたの覚悟や護りたいもの...訓練に必死に取り組む姿を見て、こんなにも心の強い人間がいるのかと思っておった。だがそなたは...私には想像もできない、多くの絶望を見てきた...普通の女の子なのだな。」
...鋭いな、冥夜は。
「ところで、そなたもシャワーを浴びにきたのではないのか?先ほどの運動で汗をかいたのであろう。ずっとそのままでいると、風邪をひいてしまうぞ?」
...そういえばそうだった。
見れば冥夜もシャワーを浴びに来たらしい。
「ではせっかくだ、共にシャワーを浴びるとしよう。」
「めッ...冥夜、一緒に!?」
「む?嫌なのか?」
「い、嫌じゃ、ないけどさ...。」
女になって、まだ数日だ。
自分のは、着替えなどもあるから見慣れたけど...。
「では何も問題なかろう。行くぞサクラ。」
「あっ、ちょっ...。」
冥夜に腕を引かれて、シャワー室に入っていく。
...結局、照れくさくて...冥夜の方を1度も、真っ直ぐ見ることができなかった。
勿論、お互い裸だから...というのもあるが、それよりも泣きわめいて、慰めてもらったことが恥ずかしかった。
更衣室で着替えの服を着ながら、冥夜と話す。
「...誰しもが一つや二つ、人に言いたくないことや辛いこと、苦しいことがあるものだ。サクラ...私でよければ、いつでもそなたの傍にいる。私だけではない、榊や珠瀬、彩峰、白銀もいる。」
「そう、だね。だけど、他のみんなと違って冥夜にはもう、2回も泣いてるところを見られてるから...これからも、冥夜に甘えてしまうかもしれない...。ごめん、冥夜。」
「だからそなたは...謝るでない。神宮司教官に言われたから...というのもあるが、私個人として、そなたのことが好きなのだ。」
...冥夜が、私の事を個人的に好きだと?
「そなたは...辛いことから逃げず、向き合い、そして乗り越えることができる。きっと、いくつもの地獄を見てきたのかもしれぬが...。」
「...ありがとう、冥夜。私も...冥夜の事が、好きだ。」
私も、冥夜の事が好きだ。
この気持ちが...単なる、友達としてのものなのか、それとも...。
いや、私は前の世界の記憶があるから...冥夜の事を知っているけど、冥夜は私の事をまだ知らない。
だからまずは、冥夜に私の事をもっと知ってもらいたい。
それに、この気持ちが、どういう好きなのかも、まだよく分からない。
「...サクラは正直なのだな...。面と向かって、そういう事を言うとは...。」
上ずったような、照れているような冥夜の声。
冥夜の顔を見れば、ほんのりと頬が赤くなっている。
「冥夜、もしかして照れてるのか?...冥夜にも案外、可愛い所があるんだな!」
「ばッ、馬鹿者!照れてなどおらぬ!シャワーの火照りがまだ残っているだけだ!あ、明日も朝から訓練がある故、部屋に戻るぞ!」
「ふふっ...。」
...こんな関係が、続いていけばいいな。
冥夜と一緒に、並んで歩く。
...視線を感じるのは、きっと月詠中尉だろう。
部屋の前まで一緒に来たところで、
「ではサクラ、また明日だ。私の部屋はそなたの隣だ、何かあれば私を頼るがよい。」
「...うん、そうするよ冥夜、ありがとう。じゃあまた明日。」
そう言って別れ、冥夜も部屋へと戻っていく。
私も割り当てられた自分の部屋へ入り、すぐにベッドに寝転がり目を瞑る。
――サクラ、落ち着けサクラッ!
誰かが私の名前を呼んでいる。
そうだ、夕呼先生に作ってもらったOSのお披露目...演習をしていて...。
突然、コード991が発令された。それで、私は今、BETAを倒そうと...?
目の前には要撃級が複数、眼下には戦車級が数えるのも嫌になるほどひしめき、時々兵士級か闘士級かの頭がちらりと見える。
「ッ...ああああああああああああああッ!!死ねッ!!死ねッ!!」
無我夢中で、トリガーを引く。引き続ける。
でもそれでも、目の前のBETAに銃弾が当たっているはずなのに...全然数が減っていかない。
「やめろサクラッ!退け!撤退しろッ!」
誰かの叫び声が聞こえるが、そんなことはどうでもいい。
目の前のBETAが憎くて...。
こいつらのせいで、地球は...私達の大切なものは、奪われたんだ。
「やめてくれサクラッ!それは実弾じゃない!ペイント弾だぞッ!?」
「白銀!早く退かないと、囲まれるッ!」
無我夢中で、トリガーを引き続けて...銃弾を撃ち続ける。
...場面が切り替わる。
どうにかBETAを撃滅した後。
私は、催眠と薬で我を失って戦っていたこと...。
みんなの、仲間の声さえもシャットアウトしてしまっていたこと...。
何よりも、自分の操縦に自信があったが故に...そんな状況で、冷静な判断もできず大勢の兵士の命を奪ってしまったかもしれないということ...。
すべてに、押し潰され、心が折れてしまっていた。
戦場の跡地で、ただ無言で、無表情で...座り込む。
どれくらいの時間、そうしていただろうか。
背後から...訓練兵として育て上げてくれた、神宮司軍曹に、慰められる。
情けなくて、恥ずかしくて、自分が許せなくて。
軍曹の顔を見ることはできなかった。
だけど、励ましのおかげで、少し元気が出てきたんだ。
だから...こんな、大勢の、軍曹の教え子も死んだかもしれない戦場の跡で。
情けなく...座り込むだけの私を案じて、励ましてくれた軍曹にお礼が言いたくて。
「――軍曹、ありが...ッ、危ないッ!!」
軍曹の背後に、兵士級が音もたてずに近づいてきていて、あと一歩で軍曹が...。
というところで間一髪、かばうことができて――
「うぐッ!?」
兵士級の長い腕に、殴り飛ばされて。
...運悪く、何かの破片に切り裂かれて...。
「白銀少尉ッ!くッ...!」
一瞬、殴り飛ばされた私を目で追った軍曹は、私が怪我をしてしまって...血を流すのを見てしまって。
少しの動揺が、隙を生むには十分だった。
「あッ...がッ...」
軍曹の腕を掴む兵士級は、そのまま――
恐ろしい光景を...夢を見てしまったのか、飛び起きる。
心臓が破裂しそうな程、ばくばくと激しく鼓動している。
全身にびっしょりと、嫌な汗をかいてしまっている。
...明かりを付け、鏡を見れば、青ざめた顔をした私。
「はあッ...はあッ...。」
何なんだ。
前の世界で経験したことに似ている...。
だけど、仲間が誰なのかも分からないし、そもそもみんなと違って夢の中の仲間は男だった。
...夢の最後に、引き裂かれた教官は、まりもちゃんだったが。
それでも...みんな、私にとって...大好きだった、大切な人だった気がしてならない。
「はあ...。」
少し落ち着き、時計を見れば、寝始めてからまだ1時間程だ。
...あんな夢を見せられて、また眠ることに...恐怖を感じてしまう。
乗り越えてきたはずのトラウマを...やはり、また見たくはないと思ってしまう。
...全然眠れていないが、あんなモノを見てしまって、もう寝る気になれない...。