「第一次侵攻」
その日は、いつもと変わらない長閑で平和の一日になるはずだった。いつもと違ったのは朝起きたときに、頭が痛かったことくらいだった。今考えるとそれが非日常への合図だったかもしれない。そうして布団にくるまって痛みに耐えていると甲高い声が聞こえた。
「おきて~~もういってきますするじかんだよ~」
いつもは可愛い声で癒されるが、今は頭に響くからほんとにやめてほしい。
「うぁぁ」
「おかあさーん、おにちゃんしんでるー」
「将太、早く起きなさい。って顔色悪いわよ!大丈夫!?」
「うん、大丈夫。」
「今日はお母さん親戚の葬式に行かないといけないからもう出るけど、昼に凛のお迎えよろしくね。本当に苦しくなったら幼稚園の後に病院にいきなさいよ」
「ごはんテーブルにあるからちゃんとたべてねー!」
心配そうに話すのは俺の母さんだ。そして朝から元気なのはかわいいい妹だ。「わかった、いってらー」と言って一人にしてもらう。生まれてこのかた12年と少々こんなに頭が痛くなることなんてなかったからちょっとこわいな。とりあえず顔でも洗ってすっきりしようと部屋を出て洗面台に向かって顔を洗って鏡を見ると、真っ青になっている自分の顔が映っていた。
「あー、すげぇ顔色。やばいな、俺死ぬのかな。」と体調が悪いせいで思考がマイナス寄りの考えになってしまう。取り合えず、寝ようという結論になって自分の部屋に戻った。布団にくるまって、もう一度寝たけど痛みが引かない。
母さんに幼稚園に迎えに行った後で病院に行くことにしたと連絡した。母さんは、「帰るのは夕方になる」と息子が苦しんでいるのになんで帰ってこないんだと思っていたら、何でも葬式会場で違う親戚が心臓発作で亡くなったらしい。「タイミングが良すぎてリアクションに困るね」と軽口を叩いていたら心なしか頭痛が酷くなっていった。罰が当たったんだろうか。
「やばい、本当にやばい。」と這う這うの体で家を出て幼稚園に向かう道の途中だった。その時が日常から非日常へ変わった瞬間だったんだろうな。
空に黒い穴が存在していた。
今まで感じたことがないほど強い痛みが、俺の頭に訪れた。人生最大級の痛みに対して、俺は何も出来ず意識を手放し、気絶した。気絶して倒れる瞬間物凄い風圧が体を叩いて俺の体は枯れ葉のように吹っ飛んだ。飛ばされた先にあったコンクリートブロックに頭をかすめたことによる痛みで失神から目が覚めた。状況を確認しようと目線を上げると巨大な白い身体の怪物が家を破壊していた。
(なんだよ、あのでかい怪物。いやそんなこと考えている場合じゃない。幼稚園、凛、早く、行かねーと)
力を振り絞って立ち上がるが、現実は笑えるほど非常だった。黒い穴から同じでかい怪物達が、次々と現れて妹がいる幼稚園を破壊した。
それからの記憶はあまり覚えていない。
走って
転んで
泣き叫んで
息を切らして
足が痙攣して
走った
たくさん走った
意識がはっきりしたのは、疲労や怪我によって足が止まったときだった。足が動かない。疲労か怪我のせいか、理由は分からないが足がうごかなくなってずいぶん時間がかかるのに足が動く気配がない。
同じ場所でずっといるのは危険だ、早く移動したほうがいいと分かっているのに足が動かない。何もする気が起きない。それはそうだろ。目の前で妹がいる幼稚園が潰されたんだから。何よりあそこで逃げた自分に心底見損なった。もういやだ。何もしたくない。何も考えたくない。死にたい。
俺が生を諦めかけた時に声が聞こえた。
「葉子!!葉子!!返事して!!どこにいるの!?」
自分と同じくらいのメガネの女の子が家の瓦礫をどかして声を荒げていた。声の場所を探すと傷だらけの手で瓦礫をどかしている女の子が見えた。生を諦めていたはずの俺は、なぜかその子が気になった。それと同時に腹がたった。無視すればいいのに声をかけてしまった。
「何してんの…、早く逃げないと死ぬよ」
「葉子が!親友が!埋まってるの!!助けて!!」
「無理だよ、この瓦礫の山見ろよ。どうせ死んでるよ...」
「やってもいないのになんで分かるの!?葉子はきっと生きてる!!」
「この瓦礫の山で生きているわけないだろ!!ありもしない希望に縋るなよ!!」
怒鳴ってしまった。冷静に考えれば無視すればいいのになぜかむきになってしまった。静かになったメガネの女の子を見て、この女の子はさっきの自分と同じ絶望を味わっているんだと考えると自己嫌悪に陥った。その時だった。
「それでも...それでも自分から可能性を0にしたくない。助かる可能性はある」と振り絞るように俺に伝えると傷ついた手で作業を続けた。
「お前は下がってろ。俺がやるから」僅かな可能性を信じて行動している、その背中を見てさっきまでの自分を恥じた。目の前で妹が死んだわけでもないのに、勝手に絶望して諦めている自分を。
「え、でも...」
「俺も低い可能性に信じてみたくなったんだよ」と少しぶっきらぼうにメガネの女の子に下がっているように指示して瓦礫をどかす。俺はその親友のいる場所が分からないからメガネの女の子の指示した所の瓦礫をどかしていった。
指示に従って瓦礫をどかしていくこと1時間後、人の髪の毛らしきものが見えた。
「おい!メガネ!いたぞ!!」
「っ!!葉子!葉子!」
「華...?」
「ちょっと待って、今 どかすから」
「お願い!」
「任せろ!!」なんとか屋根をずらす。結構な重労働だ
「つかまって、立てる?葉子」
「なにこれ」呆然としている様子の葉子?まったく同意見だ。ほんと何だろうな。
「ってかこいつ誰?」見知らぬ人である俺に対して不審がる様子を見せる葉子?まぁそうだよな、自分と同年齢の男子が救出の手助けをしてられらんだからな。
「自己紹介は後だ」
「とりあえず逃げるぞ」
「行こう、葉子」
「待ってお母さんが、お母さんたちが...」家の残骸を見る葉子?。
「「大丈夫」」
「誰もいなかったから」と話すメガネ。
「待てよ、取り合えず応急処置するぞ」二人の怪我の酷さに提案した。逃げる方が優先と反対したが、応急処置をしないと余計に逃げるのが遅れると無理やり説得し応急処置をした。メガネは指の爪が剝がれていて酷かった。多少怪我が残るかもしれないな。葉子?と呼ばれていた子は右足に罅がはいってるな、これは。
応急処置を二人にした後で避難所に二人を送った。避難所に送り届けたときに二人に何か言われた気がするが正直覚えてない。早く凛のいた幼稚園に向かわなければならないからだ。避難所の人に連絡先と伝言を任せて俺は避難所を飛び出した。
「そういえばアイツらの名前知らねーや、凛と避難所に戻った時に改めて教えてもらおうかな」
2時間後、ボロボロになりながら凛をおぶって、避難所に戻ってきた俺の姿があったとさ。
「華さんはこんなこと言わん」(某見ろやくん)だったかもしれませんが許してちょ。
多分痛みとかアドレナリンとかでハイになってたんだ!!ワシは間違ってない!お前が見間違えたんじゃ!