ジューダス・ビショップと最強のイマジナリーフレンド 作:束田せんたっき
新学期が始まると、クリスマス休暇中に帰省していた生徒たちが戻ってきた。談話室は久方ぶりに賑わっている。クィディッチの試合が近づいているのも関係しているのかもしれない。俺は端っこで静かに読書していた。
「うわああああ!!」
『ヴィーラ流 人に好かれる10の方法』から目を上げる。ネビルが入口付近に倒れ込んでいたのが目に入った。
「クハハッ! なァにやってんだアイツは」
生徒たちはミカエラのように笑っている。しかし俺は血相を変えて駆け寄った。ネビルの足はピッタリとくっついている。『足縛りの呪い』をかけられたに違いない。となると、談話室までウサギ跳びしてきたことになる。
笑わなかったハーマイオニーがネビルに杖を向けて唱えた。
「フィニート・インカンターテム 呪文よ終われ」
パッとネビルの両足が離れた。俺はネビルをハリーとロンの間に座らせる。
「どうしたんだネビル、自分に呪いなんてかけて」
「違うって! 僕はそんな変態じゃない!」
「なんだと!? ホグワーツに呪うような人がいるはずないし、何が起きたんだ!?」
「ジューダスはもうちょっと人を疑った方が良いと思うな!」
そんなバカな。さっき俺が読んでいた本には『人間を疑ってはいけない、微笑むべし』と書かれていた。どっちを信じれば良いんだ?
俺をジト目で見て、ため息を吐くハーマイオニー。
「それで、ネビルは誰にやられたの?」
「…………マルフォイに、図書館の前で突然杖を向けられたんだ。新しく知った呪文の実験台だって言われて……」
俺はポンッと手を打った。マルフォイの意図が瞬時に脳内を駆け巡ったからだ。
「なるほど。気になる子にはちょっかいをかけちゃうアレをしちゃったんだな」
「ちょっと黙ってて貰えるかしら」
「あっハイ」
ピシャリとハーマイオニーに両断されてしまった。結構いい線行ったと思ったんだけどなあ。
ミカエラは実ににこやかに言った。なぜそんなに上機嫌なんだろう。
「まあ元気だせよコミュ障クン。きっとそんなお前でも受け入れてくれる人がいるって」
近くに人がいるから喋れないの知ってて煽ってるよね? 真にたちが悪い。ミカエラは魔性の女? だった。
ハーマイオニーは強い口調で言う。
「マクゴナガル先生に言った方がいいわ! マルフォイにやられたって報告するのよ!」
「これ以上面倒は嫌だ」
ロンがチラリと俺を盗み見てから、口を開いた。俺がハーマイオニーの言いつけを守っているのか確かめたかったようだ。
「ネビル、マルフォイに立ち向かわなきゃダメだよ」
ハリーが言葉を継いだ。
「あいつはみんなを見下してる。だからといって屈服してつけあがらせちゃいけない」
あああああ、言いてえ〜。それは勘違いだって教えてあげたい。マルフォイ検定4級の俺に言わせれば、マルフォイはネビルと友誼を結びたいに違いないのだ。しかし、ハーマイオニーから発言を禁じられている俺にはどうにもできない。
ネビルは声を詰まらせた。目に涙を浮かべ、今にも泣きそうだ。
「僕が勇気がなくてグリフィンドールに相応しくないなんてわかってるよ。さっきマルフォイにそう言われたから」
ちょっとそれは看過できないよマルフォイ君。ホグワーツ生はみな自分の寮に誇りを持っている。今度会ったらみっちり教えなくては。
ネビルを励ましてあげたいが、お口にチャックしている状況では無理だ。
すると、ハリーがポケットからカエルチョコレートを出してネビルを励ました。その手があったか!
「マルフォイが10人束になったってネビルには敵わないよ。だってほら、アイツは腐れスリザリンに入れられただろう?」
ぬわあああ!! ポッティー! 貴様も寮差別主義者だったとは! 魔法界の英雄がこれでは、いつまで経ってもホグワーツは統一しないぞ。なるほど、これが社会の縮図か……
「ありがとうハリー、偉人カードはあげるよ。集めてただろ?」
そう言って、ダンブルドアのカードをハリーに渡すと、ネビルは自室に戻っていった。慌てて俺は追いかける。
「むむむー! むむむむむむむー!」
「えっ? どうしたの?」
ネビルは目を丸くしたが、正体が俺だとわかるとすぐに平常心を取り戻した。なんか釈然としない。
ミカエラが信じられないものを見るような目で、オレンジの瞳を見開いた。
「も、もしかしてガリ勉ちゃんの命令をバカ真面目に守ってるのか?」
コクリとうなずいて気づいた。ここにはハーマイオニーはいないから別に喋ってもいいのだ。
ミカエラは「負けた……」と隅で丸まっているが、大丈夫だろう。彼女は強い人だ。
「ネビル、俺の言いたいことは1つだけだ。マルフォイとしっかり話し合おう」
「む、無理だよそんなの。マルフォイだって嫌がるに決まってる」
「君にこんな言葉を贈ろう『人は対話によって理解しようとし、理解して離れていく』」
「やっぱりダメじゃん!」
あれ? おかしいな、もっと違うことを言おうと思ったんだけど。こんな時はミカエラだ。ミカエラは隅っこで体育座りしながら、白い手を俺に向けていた。口は三日月に裂けている。舌を操られたのだ。
ネビルにはハグリッドのロックハート……間違った、ロックケーキを押し付けて、お茶を濁す。マジで万能だなこれ。
寝室から出て、談話室にとんぼ返りする。俺に赤っ恥をかかせて機嫌を直したミカエラもふわふわとついてきた。耳元であくびをされる。
「ふわあァ…… 睡い、そろそろ寝ようぜ。なんで戻るんだ?」
「『ヴィーラ流 人から好かれる10の方法』を置いてきちゃったんだ」
「あんなカス本、暖炉にでもくべてりゃいいんだよ」
「いや、あれは人生のバイブルにしてもいいくらいの啓発本だよ。目からウロコの連続。一回読んでみ? 飛ぶよ」
「それはもはやドラッグじゃねえか」
ホグワーツの指定教科書にしていいと思う。それぐらい素晴らしい書物だ。この本を著したデラクールさんには無限の敬意を払いたい。
因みにクリスマスに貰った『聖書』と『私はマジックだ』はまだ読んでいない。読めたら読もう。
「こんなアホみたいな会話に付き合ってられねえ。オレは寝る」
「了解」
ミカエラは大きく伸びをして、寝室に飛び去った。クリスマスからたまに徹夜しているようだし、たまにはゆっくり寝るのも良いかもしれない。
談話室をキョロキョロと辺りを見回す。目当ての本は即見つかった。何やら話し込んでいるハリーたちの机に載っている。本を手に取った時、聞き捨てならないハーマイオニーの発言が鼓膜を打った。
「ニコラス・フラメルは我々の知る限り、賢者の石の創造に成功した唯一の者!」
「ん? 賢者の石って言った?」
ビクゥ! と揃って肩を跳ねさせるハリーたち。どうしたどうした、ロンのが感染ったのか?
脂汗を垂らしながらロンが言った。
「いいい、言ってないよ! 何だよ賢者の石って!?」
「いやバチコリ言ってたよね? ニコラス・フラメルがどうのーって」
ハリーとロンは困ったようにハーマイオニーに目配せした。みんなの知恵袋、それがハーマイオニー。仲良し過ぎてジューダス妬けちゃうなあ。
「もしも私が言ったとして、ジューダスはどうして訊いたのよ?」
ハーマイオニーの切り返しが鋭い。まさかうちのイマジナリーフレンドが言ってたなんて答えられる訳がない。ここは誤魔化すしかねえ。
「あー、ちょっと口笛したくなっちゃった」
「そうはならないでしょ」
俺は口笛で『怒りの日』のイントロを演奏した。かなりの自信作だ。孤児院時代の練習の賜物でもある。吹き終わった時、水を打ったような静けさが俺を迎えた。
「ブラボー! ジューダスブラボー!」
グリフィンドール談話室は万雷の拍手に包まれた。ほとんどの生徒が、スタンディングオベーションしている。3人を呆気にとらせれば良かったのだが、いつの間にか全員を魅了してしまったらしい。
「本当に、あなたって何者……?」
ただの友情至上主義者です。
次の日の昼過ぎ、グリフィンドールvsハッフルパフの試合が行われるスタンドに、生徒たちが詰めかけていた。今回は寝坊しなかったので、ネビル、ロン、ハーマイオニーと見ている。
ネビルが審判の顔を見て、口を開いた。
「今日の審判はスネイプ先生だ。大丈夫かなあ……」
「まああの先生なら、安心だな」
「ジューダスのその信頼はどこから湧いてるの……? 僕は心配だよ……」
みんなスネイプ先生を疑い過ぎだと思う。ロンやハーマイオニーなんかは、ハリーの箒に呪いをかけたのはスネイプだと断定していた。今も2人ともピリピリしている。俺的には、スネイプ先生を燃やした放火魔の方がヤバいのだが。
「アーア、ダンブルドアが来てるじゃん。ラジコン・ポッター出来ねえじゃねえかよ」
ミカエラが苦々しく送る視線の先には、真っ白なひげの我らが校長が座っていた。良かった。あの人が目を光らせているうちは、呪いも放火も出来ないだろう。
試合が始まると、赤と黄色の魔法使いたちが宙を舞った。ハーマイオニーは、手を組んで見守っている。
「さあ、プレイボールだ! アイタッ!」
ロンの赤い頭を誰かが小突いた。オールバックにした金髪、マルフォイだ。
「ああ、ごめん。ウィーズリー、気が付かなかったよ」
マルフォイはクラッブとゴイルにニヤッと笑った。仲がよろしいようで何よりです。
「この試合、ポッターはいつまで箒に乗っていられるかな? 誰か、賭けるかい? ウィーズリー、どうだい?」
「俺は1ガリオゥッ!」
ロンが答えないようなので、俺が代わりに答えようと口を開いた。しかし、ミカエラに足を踏まれたので、うめき声しか出なかった。痛い。
「これ以上マヌケを晒すな! ジューカスが!」
クィディッチでは、スネイプ先生の厳正なる審査の結果、ハッフルパフにペナルティキックが与えられていた。どこからどう見てもスネイプのインチキだが、それは俺の知見が浅いだけなのだろうか?
ロンに無視されても、マルフォイは続けて言った。
「グリフィンドールの選手がどんなふうに選ばれているか知ってるかい? 可哀想な人から選ばれてるんだよ」
マルフォイはそう言って、俺やネビル、ロンを見た。競技場では、ハリーがスニッチを探してグルグル飛んでいた。
「ウィーズリー、君もなるべきだ。実家が貧乏で気の毒だからね。脳みそがないロングボトムも選ばれるんじゃない?」
「ぼ、僕は君なんかが10人束になっても敵わない価値があるんだぞ!」
ネビルがつっかえながらも、真っ赤になって反論した。偉いぞネビル。友人とは、忌憚なく物を言い合える関係だ。しかし、マルフォイたちは大笑いして、バカにした。
やれやれ、マルフォイにはSEKKYOUが必要なようだ。構ってほしくてもやり過ぎだ。
「ドラコ・マルフォイ」
厳かに立ち上がる。席を跨いでマルフォイと向かい合った。
「友達になりたいなら、意地悪するのはやめるのを強く勧める」
「はぁ? 何言ってるんだいビショップ。お前がみんなに何て言われてるか知ってる? 『話の通じないビショップさん』だって」
な、なんだって!? 俺はちゃんとコミュニケーション取れてたと思っていたんだけど、まやかしだったというのか? 悲しいかな一方通行。
「ロン! ハリーが!」
ハーマイオニーが叫んだ。上空を旋回していたハリーが急降下したのだ。観衆は息を呑み、大歓声を上げた。
「ご愁傷さまに。ウィーズリー、ポッターはきっとビショップのように箒の制御を失敗したに違いない!」
今まで抑えていたようだが、ロンはとうとうブチ切れた。マルフォイに馬乗りになり、地面に組み伏せる。一瞬、ネビルは怯んだが、助勢した。
俺も眼の前のクラッブから拳を振るわれる。咄嗟に横に反れて回避した。
「何するんだ! 暴力反対!」
既に、ロンとマルフォイ、ネビルとゴイルの乱闘は勃発してしまった。辺りにネビルの悲鳴が木霊する。なんで俺も頭数に入れられてるんだろう。
必死にクラッブの攻撃を凌ぐ。いつの間にか、ミカエラが俺の隣に浮かんでいた。黒髪を楽しげに揺らして言う。
「ジューダス、そこを避けて右フックだ!」
言われた通りにすると、綺麗にクラッブの頬に拳がめり込んだ。なんかごめん。
「そしてジャブ! しゃがめ! そこで左ストレート!」
ミカエラの指示に従って体を動かす。みるみる形勢が逆転していった。クラッブは驚愕の表情を浮かべながら、俺のパンチをいなしている。
「そしてアッパー! ……あ」
「そげぶっ!」
少々調子に乗ってしまったらしい。アッパーを食らわせようとしたところに、ゴイルの鉄拳が俺の顔面に突き刺さる。ネビルよ、もうちょっと持ち堪えてくれよぉ……
後で知ったことだが、俺たちが乱闘騒ぎしている間に、ハリーはスニッチを捕獲していたようだ。しかも最速記録更新で。凄い。