ジューダス・ビショップと最強のイマジナリーフレンド   作:束田せんたっき

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雨降って地固まれ

 ようやっとゴイルから殴られた跡が、目立たなくなった日のことだ。俺はミカエラと連れ立って、ハグリッドの小屋へ向かっていた。

 

「ウゥー寒い。なァ、クリスマスプレゼントの礼なんて、もっと暖かくなってからにしようぜ」

「ただでさえタイミング逃しているんだから無理だよ。それに嫌なら1人で城にいても良かったんだよ?」

「チッ」

 

 ええ……? なんで舌打ちするのよ。俺の発言のどこかが地雷を踏んでしまったらしい。急激に不機嫌になったミカエラは、魔法で雪だるまを作っては破壊し、作っては壊しを繰り返した。たくさんのアホ面雪だるまが生み出されていき、同じ数だけ粉砕されていく。中々にシュールな光景だ。

 

 サクサクと白い雪に足跡を刻む。道なりに歩いていくと、ハグリッドの小屋が見えてきた。

 ミカエラは雪だるまマッチポンプに飽きたようだ。適当な木の枝を拾っては楽器に加工する遊びをしている。もちろん、ぶっ壊すまでがワンセットなのは言うまでもない。

 

「あれ? 外に誰かいる?」

「アイツはマル書いてフォイだな。とうとうあのウスノロ2人にも見捨てられたかァ?」

 

 小屋の窓にはマルフォイが張り付いていた。近付いてみても、俺に気が付いた素振りは見せない。小屋の中に釘付けだ。ハグリッドの他にも誰か小屋に居るのだろうか?

 マルフォイは何故ここにいるのか。答えは単純明快、仲良しの輪の中に加わりたいからである。俺の推論は間違っていないことが証明された瞬間だった。

 

 そっとマルフォイの隣に佇む。分厚いカーテンの隙間から、こっそり覗き込んだ。

 ハリー、ロン、ハーマイオニーが、ハグリッドの抱いている何かを見ていた。俺からは微妙に死角になっていて見えにくい。

 

「何だありゃァ?」

 

 好奇心の赴くままに、ミカエラと一緒になって窓ガラスに頬を押し付ける。息が窓ガラスを曇らせて、ますます見えづらくなった。

 諦めずに頑張った甲斐もあり、どうにかこうにか抱いている中身を垣間見ることに成功した。そしてソレは、マルフォイを絶句させるに相応しいものだった。

 

「ド、ドラゴン……だと……」

「クハハ、中々見どころがあるじゃねえかあの半巨人。オレと馬が合いそうだぜ」

 

 ハグリッドの魔法生物愛はドラゴンにまで向けられるらしい。満面の笑みのハグリッドを見れば、ドラゴンに並々ならぬ情熱があるのは明らかだ。むしろハグリッドは危険な生物程燃えるタイプなのかもしれない。

 

 しばし俺とマルフォイが呆然としていると、ハリーとマルフォイの視線がぶつかったようだ。マルフォイは踵を返して逃げ出した。偶然見つからなかった俺は、その背中を追った。

 

 

 

「ど、どこまでついてくるんだ!」

 

 無事にハグリッドの小屋から逃げおおせた俺たちは、校庭の片隅で向き合っていた。ビシッと人差し指を俺に突きつけた姿勢のまま、マルフォイは肩で息をしている。

 俺は全速力で走った疲れを癒すために、そばの木に寄りかかった。サムズアップして応える。

 

「別に良いじゃん。俺とドラコの仲だろ?」

「お前と友達になった覚えはない」

「またまたー、シャイなんだからー」

「失せろビショップ」

 

 完全にマルフォイからは目の敵にされているようだ。このままではあのドラゴンについて話し合えない。それは困る。

 

「まあまあ、ここは1つ、矛を収めて。あのドラゴンについて考えましょうや」

「そんなこと言ってビショップ、お前もポッターの仲間なんだろう。僕を騙そうったってそうはいかないぞ」

 

 頭が冷えてきたのか、いつもの高慢ちきな表情に戻るマルフォイ。それを見てミカエラが口を開いた。

 

「このアホ解放してもいいんじゃね?」

 

 いいや良くない。東方には3人寄れば文殊の知恵ということわざもあるしな。俺は瞬時に組み立てた推測を語る。

 

「おそらくあれははぐれドラゴンだろう。ハグリッドたちは保護しているんだと思う」

「脳天気で羨ましい限りだよ。少なくともそんな理由で飼っている訳がないね」

「流石は性善説の信奉者、人呼んでマッドのジューダスだなァ」

「じゃああんたらはどう推理してるのさ」

 

 言ってから失言に気付く。ここにいるのは俺とマルフォイの2人だけという設定だった。お茶を濁さなければ。マルフォイは怪訝そうに眉を吊り上げた。

 

「あんた『ら』? まるでもう1人いるかのような言い草じゃないか」

「それではここで一曲、歓喜の歌」

「おい、質問に答えろ」

 

 口笛で伴奏の音を出しつつ、腹話術でドイツ語の歌詞を熱唱する。初めはガミガミと文句を言っていたマルフォイも、次第に口を閉じて聴き入っていた。さあ、そのまま何を言おうとしていたのか忘れてしまえ。

 ミカエラがどこか遠いものを見るような目で言った。

 

「もうこれだけで飯食ってけるんじゃないか?」

 

 いやいや、俺はまだまだだ。俺が幼い頃に孤児院にやって来た大道芸人から手解きを受けたのだが、彼は音圧、響き、音色全てで今の俺を上回っていた。それを超えなければお金を取るなんてとてもじゃないけど出来ない。

 曲を終えると、マルフォイは暫時余韻に浸っていた。純血の令息にクラシックは刺さったらしい。俺は指揮者のようにお辞儀をした。

 

「ご清聴ありがとうございました」

「あ、ああ。いい演奏だった…………って違う! ビショップ、お前は……あれ?」

 

 クククッ、計画通り……! 俺の目論見にまんまと嵌ったようだ。音楽は世界を救う。

 

「もうこれオブリビエイトだろ」

 

 失敬な、俺は記憶を消したのではない。それ以上の感動で記憶を塗り替えただけだ。

 ん? 待てよ、そもそもこの状況おかしくないか? 俺はマルフォイに疑問をこぼす。

 

「そういえば何で俺とマルフォイは集まってたんだっけ?」

「バカかビショップは。それはもちろん……いや、何でもない。僕は帰る」

「お、おい。待てよフォイフォイ」

「僕に変なあだ名を付けるな!」

 

 マルフォイは照れ隠しに怒った振りをして去っていった。何か重大なことを忘れている気がするが、マルフォイと仲良くなれたし良いか。

 

 

 

 それから少し経ったある日のこと。ロンが犬に噛まれて医務室に行ったと聞いた。当然、俺はお見舞いに行くことにした。

 『友達が出来たらしたいことリスト』もだいぶ埋まってきた。残っているのは高難度クエストだけだ。そしてその内の1つが、今達成される。

 マダム・ポンフリーに断ってロンのベッドに向かうと、先客のマルフォイとすれ違った。雨降って地固まるとも言うし、先の喧嘩で心を通わせたのかもしれない。

 

「やあマルフォイ、奇遇だね」

 

 無視された。マルフォイは俺を忌々しげに睨みながら、横を通り抜ける。その手には本が抱えられていた。

 ……挨拶もしてくれないなんて、実に嘆かわしい。俺はその背中に声を投げかけた。

 

「ドラコ、その本は何?」

「次馴れ馴れしく呼んでみろ、父上に言ってお前を退学にさせてやる」

 

 苛立ちを隠さずに立ち去ったマルフォイ。

 一部始終を見ていたミカエラが、深刻そうに眉をひそめた。

 

「本格的にこのキチガイのネジを締め直す時が来たのかもしれない……」

「誰がキチガイだ誰が。俺は生まれた時から正気だ」

「狂ったヤツラはみんなそう言うんだぞ、コンコンチキ君」

 

 まあ他者とは常に未知の塊だ。これからゆっくり俺が狂っているという『誤解』を解いていこう。

 

 ベッドには顔色の悪いロンがまぶたを下ろして横たわっていた。右手にグルグルと包帯が巻かれ、傷の酷さを俺に感じさせた。

 

「ロン、お見舞いに来たよ」

 

 ロンは薄目を開ける。俺と視線が交差すると、少し狼狽えた。

 

「や、やあジューダス。来てくれたんだ」

「友達なんだから当たり前さ。気分はどう?」

「大丈夫だ、問題ないよ」

 

 本当に大丈夫かあ? 今も冷や汗を垂らしているし、視線だって忙しなく動き回っている。強がっているようにしか見えない。

 だが心配をさせたくないというロンの親切心かもしれない。ドラコ・マルフォイだって気を揉んだだろうしな。

 

「ん? ドラコ……? ドラコ、ドラゴ…………あ、ドラゴン」

 

 ロンは思いっきり体を飛び上がらせ、痛みでうめき声を上げた。思い出した、確かロンも共犯だったか。

 尋問するために俺が口を開いた時、マダム・ポンフリーが薬を持って来た。痛みを堪えているロンを見て、血相を変えて叫ぶ。

 

「今日の面会はおしまいです! 帰ってください!」

「待ってください! 患者に訊きたいことが! 必要なことなんです!」

「患者には休養が必要です!」

 

 取り付く島もない。あっという間に俺は医務室から追い出された。マジマーリンのひげ。

 

 

 

 あの後、俺とマルフォイでハグリッドたちの悪事を暴く、ドラゴン探偵団を結成した……かったが出来なかった。あれよあれよと言う間に、フィルチの手によってなぜか深夜徘徊していたハリーたちは捕まってしまった。ついでにマルフォイも一杯食わされて捕まったことになっている。実際、一晩でグリフィンドールの得点が大量に失われていた。

 

 そしてこれも不思議なことだが、ドラゴン云々はハリーたちがマルフォイを釣るためにでっち上げた嘘だということになっていた。では俺が見たアレは何だったのか? まさかデカいトカゲということでもあるまい。

 

 謎が謎を呼ぶ。完全に今回の一件に関して俺は、部外者、或いは蚊帳の外だ。満たされぬ好奇心を紛らわすには誰かと話すしかない。

 ということで、俺はシェーマスたちに愚痴っていた。

 

「――つまり、ハリーたちが深夜徘徊をしていたのには深〜い理由があると思う」

「何が深〜い理由だよ。ハリー・ポッターは『塔残った男の子』になった。それだけじゃないか?」

 

 ハリーが捕まったのが天文台の塔だったからそう言ってるのだろう。相変わらずシェーマスはギャグをかましてくれる。

 黙って話を聞いていたディーン・トーマスが首をひねった。

 

「それで? その理由は何なの? 根拠は?」

「理由は……わからないけど……」

「やっぱりジューダス疲れてるんだよ。僕も最初は信じられなかった。あのハリー・ポッターが一晩でグリフィンドールを最下位にしたなんてね」

 

 そう、ハリーは今や英雄から一転、グリフィンドールの寮杯獲得を阻止した戦犯扱いを受けている。一緒に捕まったハーマイオニーやネビルはまだ有名じゃなかったからマシだが、生き残った男の子となれば、その風当たりの強さは計り知れない。

 

 だからこそ、何とかしてハリーを助けたくて情報を集めているのだが、状況は芳しくない。どうしてかハリーたちは俺を避けているようだったし、同室のネビルもあの夜のことを話すのは頑なに拒んだ。マルフォイと会話なんて至難の業だ。

 

 俺の沈黙を見て、シェーマスが気遣わしげに言った。

 

「ほら、もうすぐ期末テストだしさ。気分切り替えていこうぜ!」

「ああ、そうだね」

 

 ハリー・ポッター。君が何を企んでいるのか、絶対に暴いて見せる。

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