ジューダス・ビショップと最強のイマジナリーフレンド   作:束田せんたっき

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混ぜるな危険

 翌朝、俺は眠たい目を擦りながら大広間に来ていた。ハリーとロンのことが心配で寝れなくて、新しくDADAの先生になったロックハート先生の『私はマジックだ』を読んでいたからだ。内容は自伝で非常に面白く、一晩で読破してしまった。

 一緒にいたミカエラは1ページで飽きてしまい、先に爆睡していた。なので俺とは対照的に、テンションが高い。今もフィルチに足を引っ掛けて遊んでいる。

『ヴァンパイアとバッチリ船旅』を読みながらトーストをかじっているハーマイオニーの隣に、俺は座った。

 

「おはよう、ハーマイオニー。ハリーたちがどうなったか知らない?」

「ええ知ってるわ。あそこにいるわよ」

 

 パタンと本を閉じて、ハーマイオニーは少し離れた席を見やる。ちょっと不機嫌そうだ。

 ハリーたちは居心地悪く朝食を食べている。

 

「一体何をやらかしたんだ?」

「ハリーとロンったら……もう、信じられないわ! 空飛ぶ車に乗って、暴れ柳に激突したのよ!」

「クハハハ! 傑作だなァ!」

 

 傑作なのか……? 確かにミカエラ好みの出来事ではあるが。

 その時、一斉にフクロウの一団が大広間に飛来した。ホグワーツの風物詩だ。

 シェーマスの声が響き渡る。

 

「ロンに吼えメールが来たぞー!」

 

 ロンが恐恐と手に持つのは赤い手紙。水を打ったような静けさの中で、ロンが封を切った。

 次の瞬間、ロンのお母さんの雷が炸裂した。

 

 

 

 最初の授業、薬草学に向かうべく、廊下を歩いている道中。俺は誰かに呼び止められた。 

 

「ジューダス先輩!」

 

 金髪の小柄な少年が駆け寄ってくる。首から大きなカメラを提げているのが印象的だ。

 

「僕、同じグリフィンドールのコリン・クリービーと言います。あなたがミスター・パッパラパーのジューダス先輩ですよね?」

「はじめましてコリン。ミスター・なんちゃらーは知らんが、俺はジューダスだ」

「あれ? 親切なスリザリンの先輩がこれを言うと喜ぶと教えてくれたんですけど……」

「ああドラコか。あいつはかなりのブラックジョーク好きだからな」

「あの野郎殺す」

 

 ミカエラが放った魔力が、空気を震わせた。コリンがビクッと飛び上がる。俺は浴び慣れているからなんともない。

 

「それで、俺に何か用でもあるのか? 友達にならいつでも、なんなら今すぐなろう」

「あ、ありがとうございます……。実はですね『生き残った男の子』であり英雄、ハリー・ポッター先輩とお近付きになるにはどうしたらいいのか教えてほしいんです」

「俺に話しかけたみたいにすれば良くないか?」

 

 何を言ってるんだろうこの一年生は。別にマルフォイのようなシャイにも見えないし、訊くまでもないと思うのだが。人間、眼と眼があったらみな兄弟だ。

 

「いや、無理ですよそんなの。畏れ多くて僕にはとても出来ないです」

「コリン、1つ良いことを教えよう。俺たちホモ・サピエンスは今から約20万年前にアフリカで誕生した訳だが、その時の先祖の血とミトコンドリアがみんなに受け継がれている。純血にもマグルにも、イギリス人にも日本人にも、当然コリンにも。あのハリー・ポッターでさえもだ。そう考えたら、英雄が親戚の兄ちゃんぐらいに思えてくるんじゃないか?」

「確かに……!? 僕、なんだか勇気が湧いてきました! いっぱい握手してもらって、家族の分までサイン入り写真もらって来ます!」

「おう! その意気だ!」

「オレは今、ヤバい奴がヤバい奴に触発される瞬間を見てしまったかもしれない……」

 

 コリンは元気に手を振って駆けていった。もうすぐ授業が始まるが、大丈夫だろうか?

 俺は再び歩き出す。出口付近の辺りでレインが、教科書を抱えてキョロキョロしていた。レイブンクローの一年生も一人一緒だ。

 

「ようレイン、昨日ぶり」

「げっ、あなたですか」

 

 あからさまに嫌そうな顔をされた。全く、これだからツンデレは。もっと素直になろう?

 隣の女生徒がのんびりと言った。

 

「レイン、この人と知り合いなの?」

「知り合いと言いますか、親戚と言いますか……」

「へぇー、いいなあー。私一人っ子だからちょっと羨ましいかも」

「ルーナはこの人の本性を知らないからそう言えるんです!」

 

 ルーナと呼ばれた少女が、俺に手を差し出す。俺は握手に答えた。この子とも仲良くなれそうだ。

 

「私はルーナ・ラブグッド。よろしく」

「ジューダス・ビショップだ。レインは恥ずかしがり屋だけど、仲良くしてやってくれ」

「勝手に兄貴面しないでください!」

 

 ルーナは俺の斜め上、ちょうどミカエラの辺りをじっと見た。ミカエラが少したじろぐ。

 

「な、何だァ? オレが見えるのか?」

「あんた、魔力制御出来ないタチ?」

「え?」

「しわしわ角スノーカックが怖がりそうな感じがするもン」

 

 チラリとミカエラに目を向ける。イマイチよくわからない。

 

「ルーナはわかるのか?」

「なんとなくね」

「変な人同士で変な話始めないでください! 純粋に怖いです!」

 

 レインが会話をぶった切る。時計を一瞥して、顔を青ざめさせた。

 

「私たち、魔法薬学の教室がわからなくて困っていたんです。助けてください」

「オフコースだ! 二人ともついてきて!」

「おい、アホジューダス! オレたちも時間ないだろ!」

「可愛い後輩のためだ! 致し方なかろう!」

 

 『後輩が出来たらしたいことリスト』を埋める絶好のチャンス! 逃す訳にはいかない!

 

 

 

「ふいー。善行をした後は気分がいいねえ」

 

 ポカポカと暖かい庭を歩く。なんとかレインたちは魔法薬学の教室に間に合うよう送り届けたが、当の俺は完全に遅刻だ。

 

「お人好しなのもいい加減にしろよ? ただでさえ要介護者なんだからな、お前」

「まあまあ、スプラウト先生なら許してくれるでしょ」

「暴れ柳の養分にされそうになったら助けてやる」

 

 ミカエラの中でスプラウト先生はどんな悪魔になっているのだろうか? 賢者の石争奪戦の時に、スプラウト先生の仕掛けた罠に苦戦したのかもな。

 

「ジューダス、どこ行くんだ? 今年から第三温室に変わったはずだぞ」

「ああ、ありがとうミカエラ。第一温室のままだと思っていたよ」

「ったく、しょーがねえ奴だな」

 

 持つべきものはしっかり者のイマジナリーフレンドだな。俺はそう確信した。

 

「あれ? もう授業は始まっているよ、どうしたんだい?」

 

 第三温室の方向からロックハート教授が現れた。白い歯が日を浴びて光っている。

 

「すみません、後輩の――」

「ははあん! さては私の本に影響されて、遅刻して目立とうとしたんだね!」

「いえ、あの――」

「確かに『トロールとのとろい旅』にヒーローは遅れてやってくると書いてあるけれど、何も真似しなくても良いんだよ? 私のようなヒーローになるには、焦らない精神力も重要さ」

「ジューダス以上に人の話聞かねえなコイツ。世界って広いんだな」

 

 そんなことで世界の広さを感じないで欲しい。というか俺はSYOUTOKUTAISHI並にコミュニケーション能力抜群だから。ミカエラの理論は破綻してるから。

 気持ちよくペラペラ語っていたロックハートは、俺の顔を見て固まった。目が点になっている。

 

「き、君、もしかしてジューダス君?」

「ええ、多分」

「会いたかったよジューダス君! ああやっぱり! その碧い瞳が先輩そっくりだ!」

 

 何やら大盛りあがりのロックハート教授。俺の肩を掴んで凄い揺さぶってくる。首がガックンガックンして気持ち悪い。

 

「俺の親と知り合いだったんですか?」

「知り合いなんてチャチな関係じゃないよ! フィデス先輩は私のは……」

「は?」

「初めて心から尊敬出来た人だよ! 誰もが認めるレイブンクロー、いやさホグワーツ1の聖人さ!」

 

 ロックハートはますます爽やか度合いを増していく。キラキラしていて目に優しくない。

 だが久しぶりに親の友人に会えたのは素直に嬉しい。見たところ悪い人でもなさそうだし。

 

「いい加減にしてくださいロックハート先生! もう授業中です!」

 

 温室からスプラウト先生がずんずんとやって来た。普段の温厚さは鳴りを潜めている。

 ロックハートが慌てて口を開いた。

 

「それじゃあ『闇の魔術に対する防衛術』の教室でまた会おう!」

 

 逃げるように、というか実際逃げているのだろうが、ロックハートは去っていった。スプラウト先生が慈愛に満ちた目で、俺を見る。

 

「ビショップ、あなたも災難でしたね。ロックハート先生に捕まるなんて」

「あはははは…………」

「さあ今日の授業はマンドレイクの苗の植え替えです。ロングボトムが首を長くして待っていますよ」

 

 

 

 温室の中はグリフィンドールとハッフルパフの生徒でいっぱいだった。マンドレイクの鉢植えが乗った台の周りを、各々4人グループを作って取り囲んでいる。

 俺はネビルのグループに加わった。他にはシェーマス・フィネガンとハッフルパフの生徒がいる。

 ネビルが丸顔をほころばせた。

 

「遅かったじゃないジューダス。どうしたの?」

「ちょっと世界平和に貢献してた」

「さ、流石だね……」

 

 スプラウト先生がネビルとハッフルパフ生の肩を軽く叩いた。

 

「ジューダスは後から来たので、事故が起きないようしっかり説明してくださいね。私は全体の監督をしなければいけませんから」

「はい、先生」

 

 ハッフルパフ生の男の子に耳あてを渡される。俺が礼を言うと、彼はにっこりと笑った。

 

「アーニー・マクラミンです。君はお友達教教祖のジューダスでしょう?」

「なぜそれを?」

「爆発が得意なシェーマスが言ってたので」

「シェーマスゥ?」

「事実だから良いじゃないかよ」

「事実無根なんだよなあ」

 

 マジでこれの元凶誰なんだ? 見つけたらギッタンギッタンに叩きのめして、友達になってやる。

 ミカエラが透明化させた耳あてをつける。

 

「マンドレイクは様々な身体変化系の呪いの対抗薬になるが、引っこ抜いた時の悲鳴を聞くと死ぬからな。これはまだ苗だから死にはしないが、ちゃんとつけとけよ」

「了解」

 

 軍手もつけて準備完了。植え替え先の鉢をシェーマスとアーニーが構える。みんなで頷き合い、俺とネビルはマンドレイクを土から引き抜いた。

 

 次の瞬間、ネビルが気絶した。薬草学が得意なのとドジなのは、関係ないらしい。

 

 

 

 変身学の授業では、ロンの杖がセロハンテープでぐるぐる巻にされている以外は、概ね平穏に進んだ。どうやら杖を折ってしまったらしい。

 ミカエラに直せないか聞くと、「作るのと直すのじゃ勝手が違え。産むのと蘇らせるぐらいにはな」と返された。俺は壊さないように気を付けよう。

 

 昼食を終えて、ぶらぶらと歩いているとコリンを見つけた。柱の陰に隠れ、どこかをじっと見つめている。

 こっそり隣に佇み、視線を追う。その先は中庭のハリーだった。

 

「コリン」

「わわっ!? ……なんだ、ジューダス先輩。驚かさないでください」

「サイン入りツーショットは貰えたか?」

「まだですけど……」

「そうだな。まずは俺がお手本を見せるか」

「まーた変なスイッチ入ったよ。オレは知らねえかんな」

 

 俺はコリンの手を引いてハリーの元へ歩く。ロンとハーマイオニーと談笑していたハリーが、こちらを見た。

 

「ハリー、今暇?」

「暇だけど、どうかした?」

「俺とツーショット撮ってくれ」

「ん?」

「俺とツーショット撮ってくれ、出来ればサイン入りで」

「いや聞こえてるよ!」

 

 俺はハリーと肩を組むと、コリンに言った。

 

「よっしゃ撮ってくれ。はい、チーズタルト」

 

 パシャリとシャッター音が鳴り響く。コリンのインスタントカメラが火を噴いた。出てきた写真を持って、コリンが駆け寄る。

 

「撮れました!」

 

 どれどれと写真を覗き込む。肩を組む俺とハリー、そして俺の右隣で腕を組んだミカエラ。いい写真だ。

 

「ナイスピクチャーだ! よし次はこのコリンと撮ってくれハリー! サインはその後で頼む、マッキー借りてくるから」

「ちょっと待って! この女の子誰!?」

「何言ってるんだ! 影の錯覚だろう!? 世の心霊写真もそんなもんだ! それよりサイン入り写真を早くプリーズ!」

 

 目にも留まらぬ速度で写真をしまう。ミカエラさんや、あんた写真に映るんかい!

 

「サイン!? 誰がサイン入り写真を求めてるんだい!?」

 

 ロックハート教授、参戦。

 

 

 

 あの後、サイン入り写真を茶化しに来たマルフォイや、サイン入り写真という言葉に誘蛾灯に集る蛾のように引き寄せられたロックハートにより、場は大いに掻き回された。

 

 そのせいでコリンはサイン入り写真を手に入れられず、俺は怒り心頭だ。そのことを謝ると、コリンは「全然大丈夫ですよ師匠!」と言っていたが、無理しているに相違ない。

 

 闇の魔術に対する防衛術はロックハートの個人テストで幕を開けた。ロックハートの好きな色や、作中での名言を答えるというものだ。満点はハーマイオニーただ一人で、俺は50点だった。『私はマジックだ』を読んでいたことが功を奏した。

 

 そしてピクシー小妖精をみんなで捕獲しよう、という実技になったのだが…………。

 

「ペスキピクシペステルノミ! ピクシー虫よ去れ!」

 

 ご覧の有様である。大量のピクシー小妖精が無秩序に暴れ回り授業は崩壊だ。必死にロックハートが呪文を唱えているが、あれなら殴る方が早そうだ。

 引っかかれるロン、飛び交う教科書、シャンデリアに吊り下げられるネビル、奪われる俺の杖…………あ。

 

「死に晒せやクソ妖精――!」

 

 闇の妖精の怒りが爆発した。

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