ジューダス・ビショップと最強のイマジナリーフレンド   作:束田せんたっき

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バカにつける薬は百薬の長しかない

 あの昼下りから、コリンの成長は目覚ましいものがあった。一歩踏み出す勇気を得たコリンは、ことあるごとにハリーを写真に収めている。朝食、休み時間、クィディッチの練習中……。ハリーの時間割を教えてあげた甲斐がある。

 

 俺がホクホク顔で夕食を食べていると、コリンがやって来た。

 

「師匠! 今日もいっぱい写真撮ってきました!」

「流石だコリン! おお! このスニッチを取った瞬間の写真! よく撮れてるじゃないか!」

 

 毎日撮影健康生活をしているお陰か、コリンのシャッタースキルは右肩上がりだ。これにはハリー・ポッターもニッコリだろう。

 ミカエラがプリンは飲み物と言わんばかりに、一口で食べた。

 

「もうお前らでハリー・ポッターファンクラブ作っちまえよ」

「それだ!」

 

 勢いよく俺は立ち上がる。ミカエラとコリンが目をパチクリとしばたたかせた。

 

「どうしました師匠?」

「俺たちで、ハリー・ポッターファンクラブを作ろう!」

「良いですねそれ!」

「ア、アホ過ぎる……」

 

 考えてみればおかしな話だ。なぜ『生き残った男の子』とあろう者が、ファンクラブの1つも持っていないんだ? こんなことがあって良いはずがない。

 背後から肩に手を置かれる。振り返ると、そこにはチャーミングスマイル賞が。

 

「誰のファンクラブを作るって?」

「ハリー・ポッターです」

「んー? 彼には早過ぎると思うよ。私のなら既にあるから、そこに入ると良い」

「俺とコリンはハリー・ポッターが良いんです!」

 

 うんうんとコリンが頷く。ロックハートは芝居がかった動作で、顎に手を当てた。

 

「そういうことなら、私が顧問になろう。ホグワーツでクラブ活動がしたいなら必要だろう?」

「良いんですか!?」

「有名人に二言はないよ。部室も私が用意するから、会員を集めておいてくれ。まあ、見つからないだろうけどね」

 

 あっけらかんとロックハートは言った。そしてミカエラが食べようとしたさくらんぼをヒョイっと摘むと、悠々と去っていった。

 俺はロックハートに呪いをかけようとするミカエラを宥めつつ、コリンに言う。

 

「明日はハロウィーンだ。ちょうど良い、ドラゴンクラブに負けないぐらい勧誘しよう」

 

 

 

 明けてハロウィーン。5時起きして朝食を済ませた俺は、早速大広間に来る生徒に勧誘していた。ミカエラはまだ空中で熟睡していたので置いてきた。

 コリンは今頃グリフィンドール談話室で勧誘しているだろう。

 俺は一人で歩いているルーナに声をかける。

 

「おはようルーナ! 良い朝だね!」

「おはようジューダス。今日も絶好調だね」

「それじゃあこの紙に名前を書いてくれ!」

「いいよ」

 

 ルーナは羽ペンと羊皮紙にサラサラと記入した。俺にそれを返してから首をひねる。

 

「ハリー・ポッターファンクラブ入会届……?」

「おめでとうルーナ! これで会員ナンバー003は君のものだ!」

「いや、それは別に要らないんだけど……。なにこれ?」

「読んで字の如し、ハリー・ポッターのファンクラブだ」

「……まあ面白そうだしいっか」

 

 ちょろい、ちょろいぜルーナ。早くも会員をゲットだ。

 ルーナは少し考え込む仕草をすると、口を開いた。

 

「これの活動内容は何なの?」

「活動内容……!?」

 

 その時、俺の全身を衝撃が駆け抜けた。雷にでも打たれた気分だ。まさに盲点。レイブンクロー恐るべし。

 

「え、えーっと……クディッチでハリーを応援するとか……?」

「それっていつもやってることだよね?」

「ぐぬぬ…………」

「他に活動がないならさ、ガルピング・プリンピー狩りもやろうよ」

「ガルピング・プリンピー?」

 

 何だそれは。ガルっとでピングーなプリンPなのだろうか? ますます訳がわからなくなったぞ?

 俺が頭に疑問符を浮かべていると、ルーナが笑顔で語った。

 

「ガルピング・プリンピーは、空飛ぶ魔法生物なんだよ。ガーディールートで撃墜できるんだ」

「へぇーそんな魔法生物がいるのか。因みにガーディールートって何?」

「ガーディールートはエシャロットに似た植物なの。ハーブティーにすると美味しいよ」

「知らなかったわー。ルーナは博識だな」

「全部お父さんに教えてもらっただけだから、そんなんじゃないよ」

 

 どうせ細かい活動なんて決めてないし、ここはガルピング・プリンピー狩りも追加しとくか。ガーディールートのお茶会も楽しそうだ。

 

「採用だ。ガルピング・プリンピー狩りも活動に組み込もう」

「やったー。それじゃあお父さんにガーディールート送ってもらうね」

「有能だ……! 果てしなく有能だぞルーナ……!」

 

 これは300ジューダスポイントを贈呈しなくてはなるまい。ここに来てダークホースの誕生だ。

 

「師匠ー! 一人確保してきましたー!」

 

 我が弟子のコリンが帰ってきた。後ろに赤毛の女の子を連れている。

 

「でかしたぞコリン! 君は……ロンの妹のジニーじゃないか!」

「ハリー・ポッターファンクラブって言ったら一発で食いつきましたよ」

「それは言わない約束でしょ! コリン!」

 

 容赦なく鉄拳制裁されるコリン。弟子にちゃんと友達ができて師匠は嬉しいよ。

 俺は手を叩いて3人の注目を集める。

 

「さて、自己紹介アンド活動内容の議論といこうか」

 

 

 

「――というわけで、ロックハート先生、部設立の認可と顧問就任よろしくお願いします」

 

 雨雲で西日の差さない教室、俺と後輩3人はロックハートに部の活動内容を説明していた。議論が予想以上に白熱してしまい、こんな時間になってしまったのだ。

 途中から一緒にいたミカエラは「テメェ、見ているな!」と意味深な言葉を残してどこかに行ってしまった。ハロウィーンパーティーまでには戻ってきて欲しい。

 椅子に体を預けたロックハートが、目をもんだ。

 

「すまない、もう一回言ってくれるかな……?」

「ハリー・ポッターファンクラブ兼ガルピング・プリンピーハントクラブ兼生き残った男の子のブロマイドオークションクラブ兼コリンとハリーのトークショークラブ〜ミラノ風美しい友情添え〜の認可を――」

「一旦待とうか。なんでそんな闇鍋みたいなクラブになったんだい?」

『こいつです!』

 

 俺たちは一斉に各々を指さした。俺はジニーを、ジニーはルーナを、ルーナはコリンを、コリンは俺を、という具合だ。

 

「まずオークションってなんだ! 友情に金は必要ないだろ!」

「あたしん家は兄弟多すぎて家計が火の車なの! ちょっとぐらい儲けたって良いじゃない! それよりガルピング・プリンピーって何よ! 見たことも聞いたこともないわ!」

「ガルピング・プリンピーはいるもン。みんなで探したら楽しいよ。少なくともコリンとハリーのトークショーよりは確実にね」

「僕とハリーなら最高のトークショーにできるから! というか、師匠の似非イタリアンみたいな添え物こそ不要だと思いますけどね!」

 

 ここに来て内輪揉め勃発である。ブレインストーミングの鉄則を遵守したのが間違いだったか。

 俺たちは肩を怒らせて睨み合う。身じろぎでもしようものなら、刺されるかのような緊張感だ。そこへロックハートが、物怖じせずに言った。

 

「決まらないようならとりあえず『ロックハート教授のカッコ良さ研究クラブ』にしておくのは――」

『それはない』

「いやに息ピッタリじゃないか君たち!」

 

 どさくさ紛れにクラブの私物化を図るロックハート。到底許される行いではない。

 混迷を極める教室に現れたのは、意外な人物だった。扉が大きな音を立てて開く。

 

「勝手に人のファンクラブを作らないで貰えるかな!」

 

 くしゃくしゃの髪に、稲妻型の傷跡。我らがハリー・ポッターだった。

 

 

 

 結局、ハリーの一声によって、ファンクラブ設立は立ち消えとなった。非常に残念だ。ロックハートが代わりに自分のなら作っても良いと言ってくれたが、俺たちはその厚意を無下にすることで満場一致した。

 

 そして現在、ハロウィーンパーティーは宴もたけなわだ。向こうではフレッドとジョージがパーシーの赤毛をアフロにして、爆笑の渦が巻き起こっている。もちろんパーシーが顔を真っ赤にして、ブチギレているのは言うまでもない。そろそろシェーマスが何かを爆発させる頃合いじゃないだろうか。

 

 不意に灰色頭が出ていくのが目に入る。レインがボッチで大広間を後にした。どこか周囲を気にしている様子だ。孤独を感じたい年頃なのだろうか。

 

 ミカエラが戻ってくるなり、カボチャジュースを飲み干した。祭りの騒ぎで、こちらを注目する人が誰もいないからこそ、できる荒業だ。

 

「ミカエラ、遅かったね」

「近頃監視されてる感覚があってな。鬱陶しいからとっ捕まえて絞ってやろうと思ったんだが、逃げられちまった」

「そういうことなら、俺にも言ってくれても良かったんじゃない? 俺たちは一蓮托生だろ?」

 

 真っ直ぐにミカエラのオレンジの瞳を見つめる。溶けた鉄があっちこっちへ泳ぐ。

 

「いや、オレはお前を荒事に巻き込みたくないというか……」

「俺もミカエラが荒事に関わって欲しくない」

 

 ミカエラが顔を伏せて押し黙る。黒髪の奥の表情は伺えしれない。遠くでシェーマスがシャンデリアを爆発させる音が聞こえた。

 

「…………わかった。ジューダスがそう言うなら――」

「ようジューダス! ハロウィーン楽しんでるか?」

「一人でいるなんてもったいないぜ!」

 

 いつの間にかそばに来ていたフレッドとジョージが、肩を組んできた。手にはジョッキに注がれたビールを持っている。

 

「ビール!? なんでビール飲んでるの!?」

「なんだ、バタービールを知らないのか?」

「ちょっとアルコールの入ってるホグワーツ生の嗜みだぜ」

 

 並々とジョッキを満たす、黄金色の液体を渡される。シュワシュワと泡立っていて、なんだか美味しそうだ。恐る恐る一口飲む。

 

「何これ! 美味しい!」

「だろ?」

「これを飲めば嫌なこともパーだ」

「かったるいスネイプの魔法薬学のレポートも」

「間抜けなフィルチの罰則もな」

 

 この世にこんな旨い液体があるなんて知らなかった。俺はグビグビとバタービールの、のどごしと甘味を堪能する。そんな俺たちのテーブルに影が差した。

 

「かったるくて悪かったな」

「誰が間抜けだって? ええ?」

 

 眉間にしわを深く刻み込んだスネイプ先生と、肩に抜け毛の乗ったフィルチ管理人。まさかのご本人様登場である。

 フレッドとジョージが悲鳴を上げて逃げ出す。

 

「ウワーッ! 嫌われ者の2大巨頭が来たぞー!」

「ロックハートも加えて三銃士だ!」

「あっこら待て!」

 

 フィルチがフレッドとジョージを追うべく走っていった。多分追いつけないだろう。

 俺はそれを肴にバタービールを呷る。体がポカポカして、多幸感が溢れ出る。

 

「ああ~、バタービールうめぇ〜」

 

 ぼんやりとした視界に、スネイプが2人映る。ダブルセブルスだ。

 

「ビショップ、貴様飲み過ぎではないか?」

「スネイプ先生ぇ〜、いつから分身の術使えるようになったんれすかぁ〜?」

 

 ミカエラの呆れた声が聞こえる。それだけで耳が幸せになる。

 

「たった一杯でへべれけになってやがる……」

 

 ガクガクと体を揺さぶられる。薬品みたいな匂いがするから、スネイプ先生か? 頭に霧がかかったように、思考が鈍い。

 

「もうバタービールを飲むのはやめろ! フィネガン! ロングボトム! この飲んだくれを取り押さえろ!」

「そんな殺生な〜! 俺のバタービールれすよそれは〜!」

「ジューダスごめん! 君のためなんだ!」

「スネイプ先生! ジューダスを取り押さえたら評価に色つけてくださいね!」

「もう末法だ! ここは地獄だ! メシアなんていない!」

「何訳のわからんことを言っている! 大人しく医務室に運ばれたまえ!」

 

 酒を寄越せ! アルコール! 酒精! ミカエラはどこ!? 友達だ! 神様!

 

 

 

 あの後のことについては、一切記憶がない。しかしミカエラによれば、俺は随分と泥酔して暴れたようだった。鎮圧するのにかなりの人員が割かれたらしい。

 

 そして、今後俺にはアルコールの入った飲料はおしなべて与えてはならないことになった。二日酔いで頭が痛いので、これは俺も大賛成だ。

 

 あと、秘密の部屋が開かれたようだ。サラザール・スリザリンの作った隠し部屋で、『穢れた血』を抹殺する怪物がいるという。最初の犠牲者はフィルチの飼い猫のミセス・ノリス。今も俺の隣のベッドで石化している。気の毒に、退院したら見舞いのキャットフードを贈ってあげよう。

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