ジューダス・ビショップと最強のイマジナリーフレンド 作:束田せんたっき
シーズン初のクィディッチ、グリフィンドール対スリザリンはグリフィンドールの勝利で終わった。それはめでたいことなのだが、ブラッジャーが狂っていたらしく、試合中ハリーを常に狙い続けていた。
そのせいでハリーは箒から墜落、骨折した。その上、骨折を直そうとしたロックハート教授が間違って骨を消してしまうというファインプレーで踏んだり蹴ったりである。
そして、夜の帳が降りた頃。俺はハリーのお見舞いに向かっている。新しく骨を作る時は大変な苦痛らしい。だから手土産に、俺はそれを耐える方法を図書室で調べた。コリンも来る予定だが、献上品のブドウを調達しているため、今はいない。
「秘密の部屋が開いてるんだから、こんな夜中に見舞わなくても良いんじゃねえか?」
「ミカエラ、初日が一番大事なんだよ? それにこの間の二日酔いの時も来てくれたから、行かなきゃ」
「お前なァ……」
それきり、ミカエラは口を閉ざした。仄暗い廊下で聞こえるのは、俺の靴音とどこかでピーブズが騒ぐ音だけだ。やがてコリンとの集合場所付近に差し掛かる。
「なァ、やっぱりやめねえ? 猛烈に嫌な予感がする」
「何言ってんの、コリンに悪いよ」
しかし、ミカエラの言う通り嫌な感じだ。月が雲に隠されてしまったせいかもしれない。そう思いながら、俺は曲がり角を曲がる。
そこには、ブドウを一房持ったコリンが倒れていた。
「コリィィィンッ!」
足をもつれさせながらコリンに駆け寄る。ひざまずいて揺さぶるが反応がない。その瞳は虚空を映している。その様は石化したミセス・ノリスのようで……。
「し、死んでる……!?」
「落ち着くのじゃジューダス。死んではおらぬよ」
知らぬ間にダンブルドア校長が隣で、膝をついていた。ミカエラがコリンの首からカメラを取り、中を開ける。モクモクと煙が上がった。
「ケホッ、ケホッ。ぶっ壊れてやがる」
「ふむ、『ふぃるむ』が溶けてしまっているようじゃの」
プラスチックが溶けた不快な臭いが漂う。ダンブルドアはコリンの足を持つと、口を開いた。
「ジューダス、頭の方を持っておくれ。このまま床に寝かせるのはちと寒そうじゃ」
そこで俺は、自分がロザリオネックレスを握りしめていたことに気がついた。
コリン石像を医務室に運ぶと、顔を蒼白にしたマクゴナガル先生が走ってきた。数分間俺から事情聴取をすると、静かに言った。
「私が寮まで送ります。今日はもう寝なさい」
マクゴナガル先生は、夜間外出の減点を忘れるほどショックを受けているようだった。ハリーと話したかったが、わがままを言うのは忍びない。俺は首肯した。
とんぼ返りでもと来た道を戻る。マクゴナガル先生の後ろ姿をぼんやりと眺めていると、半透明の小男が現れた。
「死ーんじゃった! 死んじゃった! コリン・クリービーが死んじゃった! 次は誰かな! 師匠かな!」
「失せなさいピーブズ!」
マクゴナガル先生が怒鳴る。ピーブズは食器を投げつけて、けたたましい音を鳴らした。マクゴナガル先生がそれを防ぐと、ピーブズは大笑いしながら飛び去った。
マクゴナガル先生が、自分に言い聞かせるように言った。
「気にすることはありませんよビショップ。ホグワーツには校長先生がいらっしゃるのですから。スリザリンの継承者の好きにはさせません」
その言葉を聞いても、俺は不安を拭うことができなかった。
寮の自室に着く。ネビルの小さな寝息が時折聞こえた。俺はベッドのカーテンを押しのけ、布団に潜り込む。ミカエラはさっきから何も言わない。それがどうにも気にかかった。俺は小声で話しかける。
「ミカエラ、コリン大丈夫かなあ?」
「あれぐらいならマンドレイクの薬で治るだろ。心配するこたァねえよ」
「でも他の人達も襲われて薬が足りなくなったら? もっと酷い襲われ方をしたら? 俺はどうすれば良いの?」
不意に頭にひんやりとした感触がした。視線を上げると、ミカエラが顔を背けながら俺を撫でている。
「あ、安心しろ。お前はオレが守ってやるから。一蓮托生って言ったのはジューダスだろ?」
「……出来ればみんなも守って欲しいな」
「あーもうわかった! 他の奴らも守ってやる! だからそうビビるな! らしくねえ!」
ミカエラなりに俺を元気づけようとしてくれているのだろうか。フフッと笑みが溢れる。
「何がおかしい!?」
「いや……ありがとうミカエラ」
一瞬、手の動きが止まったかと思えば、すぐに再開した。俺は優しく撫でられているのを感じながら、瞼を閉じた。
「良いってこった」
俺はオレが寝たのを確認して、雪のように白い髪から手を離した。すっかり安心した穏やかな表情で、すやすやと眠っている。
「さて、と」
おもむろに俺は振り返る。さっきからオレたちを盗み見ているクソネズミの方へと、オレは飛んだ。ネズミ――スキャバーズを魔法でつまみ上げる。スキャバーズは俺に気づいていないらしく、キーキーと喚き散らして暴れた。
そのままの状態で談話室に入り、スキャバーズを放り投げる。スキャバーズは逃げようと駆け出したが、進路上に失神呪文を打ち込むと急停止した。
オレは自分のこめかみを人差し指で指し、呪文を唱える。
「レベリオ 現れよ」
スキャバーズが「キィ……」と息を飲んだ。その『人間らしい』反応をしている時点で、正体を自白したようなものだ。
「オレは姿を見せたんだ。テメェも見せるのが礼儀ってもんだろ?」
ネズミに向かって指を振る。たちまちネズミみたいなおっさんの出来上がりだ。しばし呆然としていたおっさんだったが、気がついたように土下座した。
「盗み見て悪かった。目障りなら失せる。だからどうか、どうか私をダンブルドアに突き出すのだけはやめてくれ……」
どこまでも無様な姿を見せるスキャバーズ。はっきり言って拍子抜けだ。とてもアニメーガスという特異な能力を持っているとは思えない。
「スキャバーズ。オレはお前が誰で、なぜネズミの振りをしているのかには興味がねえ。ただその能力は買っている」
途端にスキャバーズは媚びた笑みを浮かべた。コイツに組み分け帽子を被せたなら、間違いなく帽子は『アズカバン!』と叫ぶだろう。
「私にできることならば何でもしよう。だから頼む、ダンブルドアだけはやめてくれ。アズカバンは嫌だ」
「それは結果次第だ。精々足掻け」
「そ、そんなぁ……。せめて約束してくれ、アズカバンはノーだと」
「アズカバンアズカバンうっせーな! なんなら今すぐにでもアズカバン送りにしてやろうか?」
苛立ちからか黒と橙の渦が漏れ、スキャバーズの脇を通り抜ける。スキャバーズが身を縮こまらせた。
「ヒィィィ! お許しください、お許しくださいミカエラ様……」
「チッ、オレが頼みたいのはたった1つだ」
「なんなりと」
オレは舌で唇を濡らす。談話室の暖炉の火が爆ぜた。
「『スリザリンの継承者』を探し出せ」
呆然とスキャバーズがオレを見る。鋭く睨むと、再度平伏した。
「なんだ、できねえのか?」
「断じてッ! 断じてそのようなことはございません! 謹んでお受け致しますッ!」
スキャバーズはそのまま土下座した、ゴキブリのような体勢で退出しようとする。オレはスキャバーズを呼び止めた。
「おい」
「な、何でしょうか……?」
「オレから逃げられると思うなよ?」
「ままままさか、逃げるだなんて……。滅相もございませんよ。ハハハ……」
スキャバーズは引き攣った笑み見せ、ネズミに変身した。脱兎のごとく談話室を後にする。
油断ならない男だ。実際、スキャバーズが隙を見せなければ、オレはアイツが人間だと気づけなかっただろう。
しかし、最近俺たちを監視しているのはスキャバーズではない。スキャバーズは俺に気づいていなかった。アー、面倒くせえ。
談話室の椅子に深々と座り、オレは独りごちる。
「まあ、継承者がウザいから探してるだけだけどな」
随分と奇妙な夢を見た気がする。ミカエラがロンのペットのスキャバーズを、なぜだか知らないが脅迫してる夢だ。俺、疲れてるのかな。
チョロチョロと足元をスキャバーズが通った。俺はしゃがんで話しかける。
「スキャバーズが人な訳ないもんなー」
スキャバーズが、そのずんぐりとした体型に似合わぬ飛び上がりを見せた。手足をバタつかせて駆けていく。
起きてきたネビルがギョッと目を丸くする。
「ジューダス、ネズミに話しかけてた?」
「そんな訳ないよ」
「だ、だよね……。医務室に連れていかなきゃいけないと思っちゃったよ」
「あはははは……」
もうスキャバーズに話しかけるのはやめよう。俺は固く誓った。
グリフィンドール談話室に行くと、掲示板に人集りが出来ていた。何事かとミカエラと一緒に覗き込む。
「ディーン、この騒ぎは何?」
「先生方が『決闘クラブ』を開くらしい。最近、なにかと物騒だから行ってみようかな。ジューダスはどうする?」
俺はミカエラを一瞥して、口を開いた。
「俺は良いかな」
「どうして?」
「安全だからだよ」
「…………ああ、そういえばジューダスは去年クィレルと戦ったもんな。そりゃあスリザリンの継承者なんか目じゃないか」
ディーンは納得がいったように頷いた。そういう訳ではないんだが、まあいいか。チョイチョイとミカエラにローブを引っ張っられる。
「ジューダス、決闘クラブ行くぞ」
「え? 必要なくね?」
「オレが守れない時はどうするつもりだ?」
「そんな時があるとは思えないけど……」
ということで、一週間後。とある大部屋にホグワーツ生が詰めかけていた。もちろん決闘クラブが開かれるからである。中央の台に深緑のローブを纏ったロックハートが上がった。ざわめきが大きくなる。
「静粛に!」
次いで台上に躍り出たスネイプ先生が言った。しんと静まり返る。闇の力に対する防衛連盟名誉会員が、口火を切った。
「ありがとうございます『助手の』スネイプ先生。まあ先生が言っていただかなくても、私のカリスマでどうにかなりましたけれどね」
「御託は要らないですよロックハート『教授』。さっさと始めましょう」
それからロックハートは決闘の作法について、簡単に説明した。そして、スネイプ先生と実演(完膚なきまでに叩きのめされていたが、負けを認めていない)した後、生徒に呼びかけた。
「模範演技はこれで十分! それでは実際に生徒同士で組んでやってみましょう!」
ロックハートはキョロキョロと見回し、ハリーに目を留めた。かと思えば、突然俺を指さした。
「ハリー・ポッターとジューダス・ビショップにやってもらいましょうか!」
「待ちたまえ。ビショップには我輩の寮生と戦ってもらおうか」
そう言って、スネイプはマルフォイを推薦した。俺とマルフォイが台上に進み出る。ミカエラが楽しげに言った。
「魔法使いの決闘において、最も重要なことは相手の魔法に当たらないことだ。これを意識して立ち回れ」
俺は粛然と頷いた。マルフォイが顎を引いて俺を睨みつける。
「いつまでもそのヘラヘラした顔でいられると思うなよ」
「ドラコはブラックジョークが上手いな」
「ファーストネームで僕を呼ぶな!」
「勝利条件は相手の杖を取ること! 両者構えて!」
ロックハートが声を張り上げる。空気が張り詰めていく。俺とマルフォイはお辞儀をした。
「3、2……」
「フリペンド!」
マルフォイがフライングで呪文を放つ。俺は咄嗟に飛び退って避けた。
「流石ドラコ! 勝利に貪欲だな!」
「僕は! ビショップのその余裕が! 嫌いなんだよ!」
互いに杖を構え直す。ロンが口パクで『マルフォイなんてぶっ飛ばせ』と言っているのが見える。
「次はこっちからいくぞ。ウィンガー――」
「フッ、浮遊呪文で何ができる?」
「ウィンガード・レビオーサ! 爆破せよ!」
「何ィ!? プロテゴ!」
マルフォイが盾の呪文で爆破を防いだ。辺りに硝煙が立ち上る。晴れると同時に、マルフォイの杖が唸った。
「サーペンソーティア! 蛇よ出よ!」
「蛇か! スリザリンらしいな!」
しかし蛇は俺に向かうでもなく、脇に逸れ始めた。アーニー・マクラミンの隣りにいるハッフルパフ生に威嚇している。制御できていない。
女子生徒の悲鳴が上がる。スネイプ先生の声がした。
「不味い! 離れろ!」
その時、シューシューと不思議な音がした。蛇の動きが止まる。音の出処はハリー・ポッターだ。ハリーが蛇に歩み寄ると、生徒の人垣がさっと割れた。
蛇とハリーは一言二言会話したかに見えた。その間に、スネイプ先生が蛇を魔法で消し去った。
「ポッター、貴様……」
ロンが大急ぎでハリーの手を取り、部屋を出ていった。ハーマイオニーも一緒だ。3人がいなくなった途端、生徒のひそひそ声が溢れ出した。
「アイツ、パーセルタングだったんだなァ」
「ミカエラ、それって蛇と話せる人のこと?」
「アア、サラザール・スリザリンの能力として有名だ。つまりハリー・ポッターがスリザリンの継承者――」
「良いなあ……」
「は?」
「だって、蛇と友達になれるんだよ? 最高じゃん」