ジューダス・ビショップと最強のイマジナリーフレンド 作:束田せんたっき
「イッチ年生はこっちだ! イッチ年生は全員揃ったかー? よし、みんなついてこい!」
ひげもじゃの大男が先導して歩き出す。汽車から降りた俺たちは、列になって狭く険しい夜道を進んでいた。一年生たちは緊張からか口数も少なく、木々のざわめきと土を踏む音がいやに大きく聞こえた。
「みんな、ホグワーツが間もなく見えるぞ」
大男が振り返りながら言った。やがてその宣言通り、湖を抱えた壮大な城が姿を見せた。一斉に歓声が上がる。
「おォ、こりゃァスゲーな」
ホグワーツ城の無数の窓から光が漏れ出し、尖塔が幾つもそびえている。幻想的な光景だった。
「こっちだイッチ年生! 4人ずつボートに乗って!」
大男が岸辺につながれた小船を指した。俺は知り合いのハリーたちを探した。だがもう彼らの船は満員のようだ。仕方なく1人分空いているボートに座る。
「よーし、では進めえ!」
大男の掛け声で、一気にボートは湖面を滑るように動き出した。みんな黙って城を見上げている。
「全く、ハリー・ポッターは見る目がないね。この僕の誘いを断るんだから。クラッブ、お前もそう思うだろ?」
相席の男の子が静寂を破った。取り巻きらしき大柄の男子が頷く。男の子は気を良くしたのか饒舌に語った。
「それに忠告を無視して血を裏切るものと関わるなんてどうかしてる。父上が言ってたんだけど、あいつの父親のアーサー・ウィーズリーは能無しの落ちこぼれらしい」
取り巻きの2人が低く笑った。それに合わせてボートが揺れる。あれ? もしやこのボートハズレ? しかし友人をバカにされて黙っていてはジューダスの名折れ。俺は口を開いた。
「そうかい? 俺は良い人だと思うけどな」
「へえー。君、名前は?」
「え? ジューダス・ビショップだけど。もしかして友達になりたいの?」
金髪の男の子は手を口に当てて嘲笑した。取り巻きもそれに追随する。
「誰がビショップなんて聞いたこともない家の子どもと友達になるんだい? 寝言は寝てから言ってよ」
「友情に家は関係ないぞ」
「……馬鹿な君に教えてあげるよ。僕はドラコ・マルフォイ、聖28一族の出身だ」
マルフォイはUNOと宣言した時ばりのドヤ顔を決めた。何がそこまでの自信を彼に齎すのだろうか。俺は首をひねる。
「何それ」
「純血も知らないのかい? もしかして君、穢れた血?」
「だから何それ」
「もう話しかけないでくれる? 穢れた血に利く口はないんだ」
それからマルフォイはだんまりを決め込んだ。俺がどんな話題を出しても虚しく響くだけ。ただローブの裏のタグに『ごいる』と書かれた男の子は、ハンバーガーの話に興味を引かれたようだった。すぐにマル書いてフォイに止められたが。
そしてボートは地下の船着き場に到着した。全員が岩と小石の上に降り立つ。明るい赤毛のロンが、俺の肩を叩いた。
「あいつら汽車の時からああだから気にすんなって」
「友達として当然のことをしたまでだよ」
「そ、そうか」
ミカエラが呆れたように言った。
「友達が出来たらしたいことリストを埋められて満足か?」
「もちろん」
大男の後に続いて石階段を登った。大男がカエルを握りしめた男の子が躓きそうになったのを受け止めた。樫の木の扉の前で立ち止まった大男は、振り向いて言う。
「みんな、ついてきとるか? お前さん、ちゃんとヒキガエル持っとるな?」
大男が大きな拳で城の扉を叩いた。扉がバッと開いて、厳格そうな魔女が出迎えた。
「マクゴナガル教授、こちらがイッチ年生のみなさんです」
「ご苦労さまでした、ハグリッド。ここからは私が預かりましょう」
俺たちはマクゴナガル先生に連れられて、ホール脇の小さな部屋に案内された。生徒たちは不安そうにキョロキョロと見回している。
「ホグワーツ入学おめでとうございます。新入生のみなさん――」
マクゴナガルが寮の組分けについて説明した。その後、マクゴナガルが出ていくと部屋中に新入生の話し声が溢れた。今ならミカエラと話しても気付かれないだろう。
「組分けってどうするんだろう」
「脳みそでもパカッと開けて調べるんじゃねえの?」
「何それ怖い」
突然、後ろの方で一年生の悲鳴が鳴った。驚いて振り向く。原因はすぐに判明した。壁から20ものゴーストがフワフワとすり抜けてきたのだ。
「ミカエラの仲間? でもあの人たち半透明だ」
「お前明日からジューカスって呼ぶぞ。オレは妖精、アイツら幽霊。おわかり?」
「ご、ごめんって」
そうだよな。種族を間違えるって親友失格だよな。俺はミカエラは闇の妖精さんだと頭に叩き込んだ。
「もうすぐ組分け儀式が始まります。さあ一列になって」
戻ってきたマクゴナガルが誘導を始めた。指示に従ってホールに入る。蝋燭が宙を舞い、天井が星々で輝いている。その美しい光景に、誰かが息を呑んだ。
一方で俺は緊張から心臓が早鐘を打っていた。しかし、頭の後ろで腕を組んで寝っ転がっているミカエラを見ると、自然と落ち着いた。こんな時でも平常運転かよ。
マクゴナガル先生が一年生の前に台とその上にボロボロのとんがり帽子を置く。大広間が静寂に包まれ、大勢の視線が汚い帽子に集まった。すると、帽子がピクリと動き出した。つばのヘリが口のごとく裂け、歌を歌い出す。
「私はきれいじゃないけれど、人は見かけによらぬもの――」
低い声が広間に響き渡る。そんな中、ある歌詞の一節を俺の耳が捉えた。
「――古き賢きレイブンクロー、君に意欲があるならば、機知と学びの友人を、ここで必ず得るだろう――」
意欲あります。超あります。4つの寮なんて碌に知らなかったけどレイブンクローがいいかもな。ミカエラがジト目で俺を見た気がした。
「――スリザリンではもしかして、君はまことの友を得る、どんな手段を――」
まことの友! まことの友って言ったのかあの帽子! ああもうスリザリン一択だろ。他を選ぶなんてどうかしてる。以降の歌詞は耳に入らなかったけど、スリザリンって心に誓ったから大丈夫だろう。
「アボット・ハンナ!」
マクゴナガルの凛とした声で、家名のABC順に呼ばれていく。一年生が帽子を被り、次々と寮に振り分けられた。それぞれ寮生たちが歓声とともに新入りを迎え入れる。Bishopの俺の番はすぐに回ってきた。
「ビショップ・ジューダス!」
ゆっくりと前へ歩み出る。みんなの視線が質量を持って突き刺さっているように感じた。古めかしい帽子を手に取り、頭にのせる。視界が遮られ、横で漂うミカエラも見えなくなった。寮って個人の意向も反映されるのかな。
「スリザリンが良い。スリザリンが良い」
「グリ――! え?」
組み分け帽子が何かを叫びかけた。しかし、俺の言葉が届いたのか、咄嗟に飲み込んだ。生徒たちのざわめきが聞こえる。
「ふーむ。スリザリンが良いのかね?」
「スリザリンが良い。まことの友欲しい。スリザリンが良い」
「しかしだね、強大な闇の力にも臆さない君の勇気は光るものがある。グリフィンドールに入れば大成できるのだが、どうかね?」
そんなもんいらん。俺はスリザリンが良い。スリザリンで友達100人作るんだ。
「おいアンポンタン。友達なんてどこの寮でも出来るだろ。それに、オレじゃ不満か?」
「あ、それもそうだね。じゃあグリフィンドールでお願いします」
「グリフィンドオオオォォォオオオル!」
帽子を取られた俺は、グリフィンドールの席に向かった。グリフィンドール生たちから、口々に歓迎の言葉を浴びせかけられる。席に座ると、隣のメガネをかけた上級生に話しかけられた。
「ようこそグリフィンドールへ! 僕は『監督生』のパーシー・ウィーズリーだ。困ったことがあったらなんでも訊いてくれ」
「どうも。俺はジューダス・ビショップです」
パーシーと名乗った赤毛の生徒の張られた胸には、キラリと光るバッチがついている。ウィーズリーということはロンの兄だろうか。俺とパーシーは握手を交わした。
「それにしても珍しいね。5分以内のハットストールはたまに見かけるけど、組み分け帽子が寮の名前を言いかけるなんて聞いたことがないよ」
「あの、ハットストールって何ですか?」
「帽子が組み分けで悩むことさ」
話している間にも組み分けは進行していた。ロンやハーマイオニーたちはグリフィンドールに来たし、高飛車なマルフォイは速攻でスリザリンに決まった。ハリー・ポッターがグリフィンドールに決定すると、ここのテーブルは一際大きく沸いた。そして、全ての組分けが終わった。
鼻が折れ曲がったザ・魔法使いのお爺さんが、教職員テーブルの中央で立ち上がった。手を大きく広げ、満面の笑みを浮かべている。
「おめでとう! ホグワーツの新入生、おめでとう! わしが校長のダンブルドアじゃ。歓迎会の前に、一言言わせていただきたい。そーれ! わっしょい! こーらしょい! どっこらしょい! 以上!」
ダンブルドアは席につき、出席者全員が拍手喝采した。ミカエラが口笛を吹く。
「あんなのが校長とか最高だな」
テーブルに置かれた金の皿が、たちまち美味しそうな料理で溢れた。奪い合うように取り分け、俺はステーキにかぶりつく。肉汁が口いっぱいに広がった。
「クハハ、なんだアレ! まるで蝶番いじゃねえか!」
爆笑しているミカエラの視線の先には、首をパカパカとさせているゴーストがいた。ほとんど首なしニックとロンが言っているのが耳に入る。
そういえばトレローニーはどこだろう? ふと教職員テーブルを見ると、ダンブルドア校長と目があった。俺が会釈すると、校長は優しげに目を細めた。このような眼差しを受けたことがないので、なんだかムズムズする。しかし隣席のマクゴナガルに呼ばれて、目を逸らしてしまった。因みにトレローニーは本当に引き籠もっているらしい。
「全てを見透かされてるみてえで気持ち悪ぃな」
「ミカエラは誰にも感知できないんじゃなかったっけ?」
「魔法の深淵を覗いてるような変態は別だ。オレの溢れ出る魔力に気付いたのかもな」
忌々しそうに吐き捨てると、ミカエラは俺のテーブルに潜り込んだ。足の間の奥に溶けた鉄色の双眼が浮かぶ。
「それより飯だ飯。こんな大勢から飯テロ喰らって我慢できるわけねえだろ」
「何でそこで食べるの?」
「脳たりん、何もない所で物が消えたら不審がられるだろうが」
それもそうか。俺はステーキやヨークシャープディングを皿に取った。誰にも見られていないことを確認してから、テーブルの下に降ろす。小さい口に次から次へと料理が吸い込まれていった。
「こりゃァ旨え。ここの屋敷しもべ妖精は腕がいいな」
「屋敷しもべ妖精? 人が作ったんじゃないの?」
「こんな大量の料理、作りたがる奇特な人間はそうそういねえ。こういう家事雑用は大体、屋敷しもべがパパっとやってんだよ」
童話で見たような妖精が実在するらしい。俺はカボチャジュースを煽った。
「へぇー。妖精ならミカエラの仲間だね」
「ハァ!? 何言って…………いや、当たらずといえども遠からずか。とにかく! あんな奴隷根性全開のイカレポンチどもとオレを一緒にするな! ぶっ殺すぞ!」
「はいはいわかったわかった」
宴もたけなわになると、ダンブルドアの音頭で変な校歌を大合唱した。そして、監督生のパーシーの引率で寮に向かう。道中、ピーブズの来襲があったものの、無事に太ったレディまで辿り着いた。余談だが、相部屋の仲間はネビル・ロングボトムという男の子だった。