ジューダス・ビショップと最強のイマジナリーフレンド   作:束田せんたっき

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真実はいつも1つ……?

 人の波に押されて俺たちは大広間から出た。一旦、入口付近の壁際に避難すると、ミカエラが口火を切った。オレンジの瞳はランランと輝いている。

 

「ジューダス、オレはトロールの侵入を手引したヤツがいると考えている。異論はねえな?」

「ああ、ホグワーツはイギリスで一番安全な場所だって言われてるし、トロールがダンブルドアの目をかいくぐれるとは思えない」

 

 ウンウンと満足げに頷くミカエラ。この騒ぎが始まってからどうにも機嫌がいい。初めて会った時も破壊だの何だのと言っていたし、秩序が崩れるのが好きなのかもしれない。テロリストかな?

 

 ズイッとミカエラは俺に近付いた。風にのってカボチャジュースの匂いが漂ってくる。この妖精はさっきまでに何リットルカボチャジュースを飲んだのだろうか。

 

「そこでだ。その犯人をオレたちが捕まえちまおうって訳だ」

「いやそんなお手軽感覚で言われても。大体、危ないだけでメリットなんてないよね?」

 

 虚を突かれたようにミカエラが固まった。まるで俺なら二つ返事でオーケーすると思っていたみたいに。俺はフリーズしたミカエラの前で手を振る。

 

「おーいミカエラ? やっぱりハイリスクノーリターンなんでしょ?」

「……バカが、リターンならちゃんとあるぞ」

「じゃあ言ってみてよ」

「………………えーっと、そうだなァ。た、例えば! 特別功労賞が貰える、とか?」

 

 賞のためだけに規則を破るのもなあ。俺があまり芳しい様子ではないのを見て取ると、ミカエラが畳みかけた。

 

「その賞のおかげで友達大量追加もあるかもな! 知らんけど!」

「よし行くか」

「他にも…………へ?」

 

 ミカエラがポカンとした顔を晒した。また何か俺言っちゃいました?

 

「それじゃあどうやって犯人を捜す? コツとかってあるのかな?」

「待て待て待て」

「どうした?」

 

 ミカエラは頭痛をこらえるように額に手をついた。言うことがあるなら早く言ってほしい。こうしている間にも、事態は刻々と動いているんだ。

 

「お前さっきまで日和ってただろ。意見変えるのが急すぎんだよ。多重人格なのか? いや、記憶喪失?」

「俺はただ、まだ見ぬ友を追い求めようとしただけ――」

「アーはいはい、もういいから。お友達教名誉信徒の思考を理解しようとしたオレが悪かった」

 

 何その宗教。俺が入りたいくらいだ。後でミカエラに紹介してもらおう。

 

「それで、ミカエラは怪しいと思ってる人いる?」

「この状況で犯人が取る行動は2つだ」

 

 そう言ってミカエラは指を2本立てた。俺は近くを通りががったスネイプ先生を石像の影に隠れることでやり過ごしていた。

 

「1つ目は単独行動。この混乱に乗じて、進行中の別の目的があるのかもな」

「それならスネイプ先生が怪しいね」

 

 見ると、スネイプはトロールの現れた地下室ではなく、4階に繋がる階段を上がっていった所だった。確かその先は『禁じられた部屋』があるはずだ。

 

 ミカエラが口を開きかけた時、誰かが俺にぶつかった。ロンと共に走っているその人物は振り向きつつ謝った。額にある稲妻型の傷跡が見え隠れしている。ハリー・ポッターだ。

 

「おっと」

「ごめんジューダス!」

「おい! どこ行くんだよ!」

 

 ハリーとロンはかなり急いでいるようで、気がついた頃には人混みの奥に消えてしまった。ミカエラが鼻を鳴らして、話を再開する。

 

「フン、次点で犯人は静観を決め込むだろう。その場合は、トロールを解き放った時点で犯人の目的は果たさていると考えられる」

「黙って見てるってこと? そんなことしてるのは失神してるクィレル先生ぐらいだけど」

「つまり、容疑者は絞られた訳だ。シャンプーしてないスネイプか、ハゲ疑惑のクィレルになァ」

「また髪の話してる……」

 

 しかし、いつもオドオドしてるクィレルがトロールを引き入れるとは到底思えない。となると犯人はスネイプなのだろうか?

 

「よし、とりあえずスネイプ先生を尾行してみよう」

 

 俺は駆け足でスネイプの登っていった階段に向かう。2段飛ばしで上がり、3階に差し掛かった。そこでは半透明の何かが倒れていた。走り寄ると、すぐに正体がわかった。

 

「この人って……ピーブズだ! ポルターガイストのピーブズが気を失ってる!」

「ピーブズゥ? ……あ」

「何かわかった?」

「わかる訳ねえだろ! このすっとこどっこい!」

 

 そんなに怒らなくても……。しかしなぜか既視感が凄い。これをデジャヴと言うのだろうか。

 ミカエラが嫌そうに蘇生の呪文をかけると、ピーブズは目を覚ました。

 

「ぅん? ここは……? ってその胸の十字架! お前さてはビショップ家か!」

「え? そうだけど……」

 

 俺のロザリオにピーブズは一瞬たじろいだ。しかしすぐに空中に浮き上がる。始めに中指を立てた手を額に持っていき、次に親指を下に立てつつ胸に動かす。そして左から右へ首を斬るジェスチャーをした。なんて汚い十字の切り方だ。

 

「ケッ、くそったれの十字教徒め。エンガチョエンガチョ」

 

 散々悪態を吐くだけでは飽き足らず、城のカーテンをメチャクチャにしながらピーブズは飛び去っていった。相当ビショップという苗字に恨みがあるらしい。

 

「あんなガキどもの悪戯心の集合体なんて放って置け。先急ぐぞ」

「了解。でも雰囲気がミカエラに似てた気が……」

「二度とその減らず口利けなくしてやろうか?」

「すみませんでした」

 

 ミカエラに平身低頭謝罪しながら、ラストスパートをかける。なんとか間に合ったようで、禁じられた部屋の扉が閉められた所だった。

 

「さあ行くぞ! あの陰険教師の企みを暴いてやれ!」

 

 ミカエラの言葉の端々から、期待が感じ取れる。スネイプ先生を捕まえる事がそんなに楽しいのか? それともこの部屋の先にあるもの?

 

 廊下の突き当り、重々しい閂で封じられた扉に手をかける。中から獣の悍ましい声が聞こえる度に、俺の心音が激しさを増していく。頬に冷や汗が伝った。俺はこの感覚を知っている?

 

 意を決して戸を引いたその時。スネイプ先生が跳び出した。何かから逃れるようにもんどうり打って倒れる。ミカエラはこの間にサッと中へ入り込んでしまったようだ。俺は杖を構えながらスネイプににじり寄った。

 

「スネイプ先生……? 何をしていたんですか?」

 

 ガバッと顔を上げたスネイプは、普段以上に土気色の不健康そうな顔色だ。俺の姿を認めたスネイプが目を見張ったのは一瞬で、瞬く間に鉄面皮を被り直した。

 

「それは我輩のセリフだビショップ。貴様の方こそなぜここにいるのだ?」

「それは……先生が地下室ではない方へ行ったから……」

「なるほど、グリフィンドールお得意の蛮勇を発揮した訳だな?」

 

 スネイプは不愉快そうに唇をめくり上げた。徐ろに壁に手を付き立ち上がろうとする。しかし止めどない脂汗が浮き、苦しげなうめき声を上げた。スネイプの足は、獣の咬傷で痛々しく血が流れていたのだ。

 

「大丈夫ですか!?」

「他人の前に自分の心配をしたまえ。それとも、トロール程度恐るるに足らんとでも思っているのか?」

 

 いつの間にか俺とスネイプ先生は大きな影に飲まれていた。荒い息遣いに、鼻を刺す異臭。ぎこちなく振り向くと、俺はスネイプが立ち上がろうともがいている理由を知った。知りたくなかった。

 

「ぐおおおおおおお!!」

 

 トロールが棍棒を横薙ぎに払う。俺は咄嗟に前転して回避した。とんでもない風圧が、人間程度プチっとされてしまう事を主張している。自分の足に応急処置したスネイプが俺の前に出た。

 

「下がっていたまえ。1年生が相対していい魔法生物ではない」

「でもスネイプ先生は怪我を!」

 

 スネイプは返答の代わりに、呪文を紡いだ。

 

「インカーセラス! 縛れ!」

 

 トロールの足を頑丈そうな縄が括る。トロールはバランスを崩して、前に転倒した。スネイプがそれを回り込んで避けながら、雨あられの如く魔法を繰り出す。

 

「ステューピファイ! ステューピファイ! 麻痺せよ!」

 

 幾本もの赤い閃光がトロールの胸を貫いた。効いてはいるのだが、トロールを気絶には至らせていないようだ。そうこうしている内に、トロールの足の縄が切れた。

 

「ふんぬッ!!」

 

 怒れるトロールは棍棒を床に叩きつけた。横っ飛びに避けるスネイプ先生だが、着地の衝撃で小さく呻いた。やはり傷のダメージがあるのだろう。

 

「セクタムセンプラ! 切り裂け!」

 

 不可視の斬撃はトロールの分厚い皮膚に阻まれた。かすり傷しか入っていない。お返しとばかりに棍棒が振り上げられる。このままではスネイプ先生が挽き肉に!

 

 俺は何も考えずにトロールとスネイプの間に割って入った。1年生で覚えている呪文なんて、たかが知れている。しかし俺は、1つだけ殺傷力のあるものを知っていた。

 

「ウィンガード・レビオーサ! 爆破せよ!」

 

 トロールの目玉付近が爆発し、トロールが怯んだ。その隙をスネイプは逃さない。

 

「インペディメンタ! 妨害せよ!」

 

 トロールの巨体が後ろに揺らいだ。イケる。この勢いで攻め続ければ。それは、明確な油断。

 

「ビショップ!」

 

 スネイプの声が飛んだ。急いで盾の呪文を張っているが間に合わない。俺に、どこからか飛来した赤い閃光が迫っていた。

 

「危ねえなァ」

 

 予見した痛みは襲ってこなかった。黒い髪に小さな背。ミカエラが、赤の閃光を握り潰す。

 

「あのクソ犬の先にもたァくさん守備があったしよォ。ただでさえ苛立ってんのに。ああ、キレそう」

 

 ミカエラがトロールに手を向け、握り締める動作をした。それだけで、トロールが青い顔で首を搔き始める。

 

「いくら魔力タンクとはいえ、ジューダスを連れてきたのは失敗だったか。まあいい。問題は……誰が失神呪文を撃ちやがったのかだ」

 

 失神呪文が飛んできた方向に、下手人は見えない。つまり、撃ち逃げされたということだった。ミカエラは不快そうにトロールをノックアウトすると、無言で飛び去った。有無を言わさぬ迫力だった。

 

「どういうことだ……?」

 

 対してスネイプ先生は、急展開を飲み込めていないようだった。呆然と立ち尽くしている。無理もない。先生視点では、突然失神呪文が消失したかと思えば、トロールが倒されていたのだから。

 

 マクゴナガル先生やフリットウィック先生の足音が聞こえる中で、俺はやっと一息ついた。まあ、ミカエラが来た時点で勝確だったのだが。

 

 

 

 あの後、マクゴナガル先生からは盛大にお小言を頂戴し、グリフィンドールの点数も差っ引かれた。しかし不機嫌そうなスネイプ先生の「グリフィンドールに1点」が聞けたので良しとしよう。点数としては全然釣り合ってないけど。

 

 それと、念の為の健康観察で医務室を訪れた時に、ハリーマイロニーの3人組と会った。彼らもトロールとリアルファイトしていたらしい。

 とどのつまり、あの日ホグワーツには2体トロールが侵入したようだ。PTAにダンブルドアが吊るし上げられるのは避けられないだろう。

 

 しっかし、ミカエラ、スネイプ、失神呪文撃ち逃げ犯はなぜ禁じられた部屋に行ったんだろうか。案外、フレッドとジョージの言うようにお宝が隠されているのかもしれない。その謎を解明すべく、我々調査隊はアマゾンの奥地へと向かった……。

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