タイトル通り、ルディ子だけでなく全方位曇る展開があるのでご注意ください。
正直書いてて「やりすぎかな?」と思いました。
閲覧注意。
前後編ともに、残酷な描写、アンチ・ヘイト要素があります。
閲覧注意。
目覚めると、身体に気怠い感覚があった。同時に、身体を支えるのがここ何日かで慣れ親しんだ硬い木材ではなく、真っ白いシーツの敷かれた清潔な布団になっていることに気付く。
意味もなく右手の平でシーツに触り、その感触を確かめた。
サラサラとした手触り。
フカフカで温かい。
ロアの屋敷で下宿していた時に使っていたものほど高級品ではなさそうだが、ブエナ村の実家で使っていたのが、たしかこのくらいだったな。
言い表せない懐かしさが、シーツに触れる右手から伝わってくる気がした。
「……?」
そこで、傍らに誰かが居るのに気が付いた。
その誰かは、私が仰向けに寝転がるベッドに突っ伏す形で眠っているようだった。
燃えるように鮮烈な赤い髪。
精悍でありながら、まだどこか幼さの抜けきらない顔立ち。
誰かだなんて他人行儀な言い方をするべきじゃないな。
見紛うことなきエリオットがそこにはいた。
普段は自信満々で悩み事なんて無さそうなその顔が、今は寝苦しいのか、不安げに歪んでいた。
その様子が何だか心配になって、私は右腕を動かして頭を撫でた。
「ぅ、ん……ルーディア……」
指先に、サラサラとした髪の毛の感触。
普段はガサツに見えるのに、意外と触り心地が良い。
そのまましばらく撫でていたのが良かったのだろうか、次第にエリオットの表情は幾分か和らいだ気がした。
と、そこで違和感。
あれ?
私の右手は、たしか……。
そう、確か、北神流の剣士に斬り落とされていた筈だ。
それで、結構な量の血が流れ出て、自分の身体がどんどん冷たくなっていく感覚があったのを覚えている。
できれば忘れたままでいたかったが、記憶は連続している。
そのはずだが、
「治ってる……」
切断されたはずの右腕は、二の腕の辺りに溶接されたような痕が残ってはいるものの、元通りに動かすことができた。
「起きたか」
部屋の隅からルイジェルドの声がした。
見れば、彼はいつものように壁にもたれて、槍を抱えて座っていた。
今気付いたが、彼と少し離れたところにはギースも居る。
こっちは仰向けに寝転がっており、微かにイビキをかきながら眠っていた。
「ルイジェルドさん」
「気分はどうだ?」
「まだ少し怠い感じがしますけど、体調はすっかり良いみたいです」
「そうか」
「……あの、何があったのかお聞きしても?」
そう尋ねると、ルイジェルドは怖い顔をした。
何か、勘に触ることでも聞いてしまっただろうか。
面食らっていると、彼は徐に居住まいを正して深々と頭を下げた。
え、なにこれ?
「……一週間も放っておいてすまなかった。
子供たちが他にも囚われていてな。
獣族の戦士と共に密輸船を襲撃し、その事後処理に追われていた。
……だが、その事にかまけてお前を危険な目に合わせてしまった。
俺のくだらん誇りがそうさせた。本当に、すまなかった……」
ああ、怒っていたんじゃないのか。心なしか、一週間ぶりのルイジェルドは何だか表情が読みづらいな。
まあいい。
それはそれとして、今回危険な目にあったのはルイジェルドのせいじゃない。結局、あんな目に遭っておきながら獣族を見捨て切れずに出しゃばった、自分が悪いのだ。
だから、バツが悪そうに頭を下げ続けるルイジェルドを見ていられなかった。
「か、顔を上げてくださいルイジェルドさん。
子供たちが危険だったなら仕方ないですよ。無事に助けられたんですよね?」
「……ああ」
「だったら、私から言うことは何もありませんよ」
「……そうか。すまん」
ルイジェルドは釈然としていなさそうな様子だが、本当に気にしないでほしいと思う。
獣族の子供たちを助けたとなれば、スペルド族の良い評判に繋がりそうだしな。ここ最近はあまりそっちの活動に力を入れられていなかったから、丁度良かったくらいだ。
「それで、森にいた連中は?」
「奴らも密輸人の一派だ。今回の襲撃は、かなり計画的なものだったらしい────」
そうして、ルイジェルドはことの顛末を淡々と教えてくれた。
事実関係が複雑で説明も長かったので、寝起きの頭には理解が追いついているか疑わしい部分もあるが、要するに、密輸人の組織が内部で足の引っ張り合いをしてたらしい。
密輸船で大量の子供を運ぼうとしていた派閥の失敗を利用する形で、別の派閥が森の襲撃に踏み切ることになり、そこに私が居合わせることになったのだとか。
「お前が戦った北神流の男、奴は北聖だ」
話の流れで、ルイジェルドはそう教えてくれた。
そうか、北聖……聖級の実力を持つ剣士か。
どうりで私の歯が立たなかった訳だ。
「ルイジェルドさんが倒してくれたんですか?」
「いや。俺が追いついた時には、既にエリオットが決着を付けていた」
「そうだったんですか……」
そういえば、意識を失う前にエリオットが来てくれていた気がする。あの時は意識が朦朧としていたし、確信は持てなかったが……。日頃言ってるように、きちんと助けに来てくれたのか。
お陰で命拾いをしたようだし、エリオットには頭が上がらないな。
ていうか、それってつまり、エリオットが北聖に勝ったってことだよな。
確かに、ウェンポートではルイジェルドを運んでくれる密輸人と渡りを付けるのに時間がかかったから、1ヶ月くらいの修行期間はあった。
でも、バトル漫画じゃあるまいし、1ヶ月修行したからって実際にはそう簡単に強くなれる訳ないと思うのだが、どんどん強くなってるな。
私との手合わせに負けて以来、相当頑張ったということだろうか。
「ルーディア。お前が無事目覚めたと、族長たちに伝えてくる」
「あ、はい。お手数おかけします」
一通りの説明を終えた後、ルイジェルドはそう言って外に出かけていった。
そういえば、結局獣族には誤解されっぱなしだったな。
こうして布団で寝かせてもらっていることを考えるに、ルイジェルドたちのお陰で冤罪は晴れたのだろうが、だからといってこっちのわだかまりは解けそうにない。
向こうだって気まずいだろうし、長居したって良いことはない。
早いところ、今日中にでもこの村を出よう。
「ん……」
話し声が眠りを浅くしたのだろうか。微かな声と共にもぞりと動いて、エリオットが目を覚ました。
寝ぼけ眼をくしくしと擦る様子は、普段とのギャップがあってちょっとイイ。なんて自然に思ってしまうということは、私の意識がだいぶ女寄りになってきたということだろうか。その辺の変化は感じるが、違和感はない。ならいいか。
「ルーディア……?」
「おはようございます、エリオット」
「……! ルーディア……っ」
とりあえず挨拶をしてみると、彼は一瞬キョトンとした顔をした。
かと思えば、涙を堪えるように顔を歪めて、私の名前を呼びながらギュッと抱きしめてきた。
おおう、なんだなんだ、甘えたさんか?
「良かったっ……ごめん、ごめんルーディア……。
守れなくてごめん……! 遅くなってごめん……!」
違った。
なんかこう、甘えてくるというよりは、心配してましたって感じがひしひしと伝わってくる抱擁だった。
まあ、そうか。
エリオットにしてみれば、無事に帰るって約束してた相手が片腕を切断されてたんだもんな。そういえば、別れる前にそんな約束をしていた。
そうか。約束の一つも守れなかったのだ、私は。
「私の方こそ、無事に戻るって約束を守れませんでしたよね。心配かけてすみません……」
「ちがう、ルーディアは何も悪くない!
俺が、俺がそばに居なかったから、すぐに行かなかったから……!」
そう言うと、エリオットはさらにギュッと固く抱きしめてきた。けっこう力が強くて、ちょっとだけ苦しい。
「でも、最後にはちゃんと助けてくれたじゃないですか。
お陰で私は奴隷にならなくて済みましたし、こうして元気にもなりました。
それでいいじゃないですか」
「良くない!」
「もう、心配してくれるのは嬉しいですけど。何を気にしてるんですか……?」
そう言うと、エリオットは抱擁を解いた。
治療痕の残る右腕を見て、泣きそうになりながら口を開いた。
「だって……ルーディア、腕が……!!」
……ううん、何だろうな。
もう治してもらってくっついたし、特に痛みも残ってないから気にしないでいいのにな。
でも、安いもんだ、腕の一本くらい、とか言ったら今度こそエリオットが泣いてしまいそうだ。ありったけの夢と共に捜し物に行ってしまうかもしれない。
っと、エリオットはガチへこみ中なのだ、真面目に話をしないと。
「……過ぎたことはしょうがないですよ。治ったから痛みもありませんし、気にしないでください」
「でも、痕が残って……」
「あ、もしかしてキズモノにしちゃったとかですか?」
そう言うと、エリオットはコクリと頷いた。
女の肌に傷跡が残るのは、物騒なこの世界でも好ましく思われてはいない。
ギレーヌみたいに、剣に生きる奴は傷跡を武勇伝の種にしていることもあるが、基本的には良く思われない。嫁の貰い手がなくなるしな。
でも、別に私は気にしない。だって、
「このくらい服で隠せるから大丈夫ですよ。
……それに、私のことはエリオットが貰ってくれるんでしょう?」
ロアの屋敷で、誕生日パーティーの夜にした約束のことだ。
あの時は10歳だったから、もう2年前か。
寝る前にちょっと一緒のベッドで話をしていたら、酒に酔って興奮したエリオットに押し倒されたのだ。
当時は体格差もあんまりなかったし、魔術を駆使して怪我のない程度に跳ね除けたが、それでも彼は中々引き下がらないので、私が15歳になるまで待ってくれと言ってその場は収まった。
当時は男としての自意識が強かったし、エリオットのことも出来の悪い弟くらいにしか思っていなかったから、その場凌ぎの方便だった。成人年齢まで待つということなら納得してもらえるだろうと思ってのことだ。今振り返れば、我ながら酷い嘘をついたと思う。
その気もないのに、青い欲望を滾らせる思春期男子にお預けを喰らわせたのだから。
「……うん」
当時のことを思い返していると、目の前のエリオットも同じ記憶を辿っていたのだろう。顔を赤くして、普段からは考えられない程小さな返事をした。目も泳いでいる。
「ならいいんです」
「……わかったよ」
んふふ、愛いやつ。
何となく、布団の上に乗せられたエリオットの手を取ってみた。
両手で軽く揉むようにニギニギしてみるとわかるが、その手は年齢にそぐわず少しゴツゴツしていた。剣を振って、豆ができて、豆を潰して、それでもなお剣を振り続けた手だ。私なんかは豆が潰れるたびに治癒魔術で治していたから綺麗なもんだが、エリオットの手はそうじゃない。努力の手だ。
私を守るために剣を振って鍛えられた手なのだ。
「……んふふ」
「な、何だよ急に笑って……きもちわるいぞ」
「おっと、これは失礼。でも女の子に気持ち悪いは無いですよ」
「う、うるさい!」
そう言うと、エリオットはパッと手を振り払ってベッドから離れて行ってしまった。
「おーおー色男、ちったぁ素直になりゃいいのに」
「ギースには関係ない!」
「ひっでぇ」
そして、いつの間にか起きていたギースに揶揄われると、いよいよ決まりが悪くなったのか扉を開けて外へと出ていってしまった。
ていうか、ギースとはもう顔合わせ済みか。初対面でどんな会話をしたのだろうか。
ギースはアレで命の恩人だから、あまり失礼なことをしていなければ良いが……。
一応、その辺のことは掻い摘んで説明しとくか。
そう思って、ギースに一言挨拶をしてベッドを降りた。身体は少し怠いが、行動するのには支障ない。エリオットを追いかけようと、入り口の扉に手をかけたその時。
「な、なんだよお前ら!!」
エリオットの大声が聞こえた。何か突拍子の無いものでも見たかのような声色からすると、あまり歓迎すべきではない相手が来ているらしい。
すわ密輸人の残党が潜んでいたかと一瞬焦るが、ルイジェルドの『眼』は生体レーダーだ。それは無い。となると……
扉を開けると、そこには9人の人間が並んでいた。
その内の3人は、警戒すべき相手ではなかった。
向かって左側、一番端にいるのはルイジェルド。
先程部屋を出たと思ったら、もう戻ってきたらしい。そしてその隣には背丈の低い獣族の少女が2人。密輸人から助け出したミニトーナとテルセナだ。
彼女たちは私の顔を見て一瞬ホッとしたように顔を綻ばせたが、すぐにその顔は不安げに歪んだ。その視線は移動して、さらにその隣にいる6人に向けられていた。
その6人。見覚えのあるような無いような、記憶の曖昧な顔ぶれも3人ほど混ざっているが、全員が獣族の戦士たちだった。男が5人に女が1人。
女の人はわかる。牢屋で看守をしていた、人の話を聞かないお姉さんだ。
真ん中の若い男も、わかる。私を縛り、牢屋に投獄した張本人のギュエス。こちらも人の話を聞く奴では無い。もう一人、その隣にいる老人は、たぶんギュエスに指示を出した上司だろう。後の3人は正直自信がないが、私を拘束した時に戦った戦士たちだろうか。
6人の顔の位置は低かった。
何故なら、全員が正座して待ち構えて居たからだ。
「え……?」
異様な光景に思わず喉がひくついて後ずさってしまう。
するとすかさずエリオットが私を庇うように前に立ち、苛立ちの篭った声音で怒鳴り散らした。
「何しに来た!!」
後ろに居ても、その声量は頭に響く程だった。正面にいる彼らにはもっとキンキン響いたはずで、ミニトーナとテルセナは涙目になって耳を押さえていた。エリオットの叫び声がエコーになって、森の中の村に木霊していく。
木霊が収まった頃、真ん中に居るギュエスが鎮痛な面持ちで静かに口を開いた。
「謝罪をさせて頂くべく、参りました。
……大恩あるルーディア殿に対して我らが及んだ愚行を、誠心誠意、謝らせて頂きたく……本当に、申し訳ありませんでした」
そう言うと、ギュエスや他の5人は突拍子もないことをした。
正座を解いたかと思うと、一斉にその場で逆土下座とも言えるような仰向けのポーズをとったのだ。
後から聞いた話でそれが獣族式の正式な土下座だったと分かり、その行動にも合点がいったのだが……。
少なくとも、病み上がりの純真無垢な少女(12歳)に見せるような光景では絶対にないと、その時の私は思った。だから、容赦なく整列したシックスパックの群生地を見せつけられて、「ヒッ」と情けない声を出してしまったことは、今でも避けようがなかったことだと思っている。
新手の恐喝かと思ったよ。
--- エリオット視点 ---
「ふざけてるのか!!」
仰向けになって寝転んだ獣族たちを見て、俺はまずそう思った。先程コイツらが謝罪にきたと言ったのは、嘘だったのだろうか。
ルーディアが密輸人と間違われて囚われていた話は、ギースから掻い摘んで聞いていた。ずっと牢屋に入れられていたにも関わらず、密輸人に襲撃された獣族を助けてあげたという話も。
これは、そんな相手に謝る態度じゃないと俺にでも分かった。
「エリオット。人族には馴染みが無いだろうが、これは獣族にとって最大級の謝罪と降伏を示す作法だ。……ふざけている訳ではない」
「……そうなのか」
ふざけている訳ではないのなら、今のは俺の早とちりだったことになるが……それでも、頭を下げるポーズだけ見せて終わりだなんて、やっぱり納得いくはずがない。
後ろに隠したルーディアが、獣族を見た途端こんなに怯えているのだ。牢屋に入れられただけじゃ、あのルーディアがこんなに怯える筈はない。
ギースは「牢にぶち込まれていた」としか教えてくれなかったが、きっと何か、それ以上の酷いことをされたのだ。それがギースが牢に入る前か、入った後にされたことなのかによっては後であの猿顔を問い詰めないといけないが……今はコイツらだ。
「……じゃあ、その謝罪は何に対してのものだよ」
「せ、聖獣様や子供たちを救ってくれたとは知らず、捕らえて……い、衣服を奪い……縄で縛って、冷水を浴びせました……。ほ、本当に、申し訳なかった!!」
「は……?」
「わ、私は…………情報を話させるために、い、嫌がる彼女の裸体を……な、眺めて、辱めました……申し訳ありません!!」
それを聞いた瞬間、俺はまず、ギュエスともう1人の戦士の無防備な腹を踏みつけにした。2人はくぐもったうめき声を上げたが、それだけじゃ済まない。
「汝の求める所に大いなる水の加護あらん、清涼なるせせらぎの流れをいまここに『ウォーターボール』」
水魔術を使って、まずはその2人を水濡れにした。ルーディアと同じ目に合わせるくらいじゃなきゃいけないと思ったから、そうした。
それに続いて、他の男2人と、ギュスターブも同じようにルーディアにした仕打ちを吐いたので、同じように踏みつけて水濡れにした。
ルイジェルドは何も言わなかった。
「ヒッ……」
それを隣で見ていた女戦士が、悲鳴を上げた。
……そこそこ露出度が高くて、胸も大きい。獣族特有の耳や尻尾もあってすごくそそられ…………いやいや、こんな時に何を考えてるんだ。今はそんな場合じゃない。
「で、あんたは?」
努めて身体を見ないようにしながら、俺はその女戦士にもルーディアにやった仕打ちを聞いた。
「わ、わ、私は……牢に入ったルーディア殿にみ、水をかけて……食事を与えませんでした……情報を話させるために、よ、4日間ほど……本当に申し訳ありませんでした!!」
飯を4日も抜いた。……この女が、一番ルーディアの苦しむことをしたのか。
まだ魔大陸の旅が始まってすぐの頃、次の町までの途中で食料が足りなくなって、2日ほどを僅かな食糧でなんとか乗り切ったことがある。あの時は食べられる魔物を狩ることもできなかったから、本当に餓死してしまうかと思ったほどだった。
その時よりも、長い苦しみ。
何も無しで許せるはずがない。
「待ってくれ!!」
そう思って、女の方にも踏みつけと水掛けをしようと思ったら、ギュエスが叫んだ。
「そ、そいつは……ラクラーナは、雨季が終わったら結婚を控えているんだ!!
図々しい事だとは分かっている、だが、嫁入り前の身には禍根が残るようなやり方はやめてくれ! 彼女は俺の指示に従っただけなんだ!!」
「うるさい!!」
嫁入り前の身? そんなの、ルーディアだっておんなじだ。
俺は構わず女の方に行って、まずは腹を踏みつけにした。
次はウォーターボールの詠唱を……、と、ルイジェルドが腕を掴んできた。
「……エリオット、獣族にとって冷水をかけられるのはこの上ない屈辱だと聞く。女の身では尚更な。許せない気持ちはわかるが……その女には、4日間の断食をさせれば良いだろう」
ルイジェルドまでなんなんだ。
ルイジェルドは、ルーディアのことが悔しくないのか?
怯えて縮こまるルーディアを見て、せめてそれに見合うだけの罰を与えるべきだとは思わないのか!?
「ルーディアなんて、水を掛けられただけじゃない! 裸にまでされて、知らない男に見られたんだぞ! 嫁入り前の身だっていうのも一緒だ!! ルーディアだけがこんな目に遭わなきゃいけないなんておかしい!!」
だから、俺はルイジェルドの掴む腕を無理矢理振り払って、ウォーターボールの詠唱を始めた。
「汝の求める所に大いなる水の────」
「もういいです!」
だが。
俺の詠唱が終わる前に、後ろから抱きしめられた。
「もう、もういいんですエリオット。彼女のことは許してあげてください。……辱められる苦しみは、きっとエリオットが思ってるよりも辛いものです。だから、いくら仕返しだからって、やっていいことじゃありません」
「でもルーディアだって」
「私は獣族じゃないから、水くらいどうってことありませんでしたよ! ご飯の方が辛かったですから、彼女が同じだけ断食するというのなら文句はありません」
「……でも」
「エリオットが一生恨まれるような事はして欲しくないんです。お願いします」
「…………」
正直、納得いかなかった。
でもルーディアの切実な声を無視することだけはできなかった。
構えた左手を下ろす。
「……わかったよ」
「すまない、すまないルーディア殿……!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……!」
ギュエスと女が、ルーディアに何度も謝った。
何度も、何度も。
それを聞いていたルーディアは、背中の陰からおずおずと出てくると、困ったような顔をしながら応じた。
「い、いいんですよ、誤解は解けましたから!
それに、この腕だって治してもらいましたしお互い様でしょう?
聖級治癒のスクロールだって貴重なはずなのに、
「2枚だと? 腕を治すのに使ったのは1枚だった筈だが」
すると、静かだったルイジェルドが疑問の声を上げた。それと同時に、ギュエスたちが青い顔をした。元々真っ青だった顔に大量の冷や汗が浮かんでいて、今にも気絶しそうな様相だった。
それに構うことなく……いや、気付かないまま、ルーディアは冗談めかすような口調で続けた。
「え? あ、はい。いやぁ、お腹空き過ぎちゃったので逃げようと思ったんですが、縄だけを焼くことが出来なくて。もうどうにでもなれーって、魔術で全身火だるまになっちゃったので、あれがなかったら危うく死んでしまう所でしたよ〜」
「え……?」
「……ほう」
ルーディアの言っていることの意味があまりよく分からないでいると、ルイジェルドが動いた。仰向けのギュエスに詰め寄って、その胸ぐらを掴んで持ち上げた。
「……ギュエス。貴様、捕虜の扱い方を部下に教えていないのか?」
「……い、いや、そのようなことは断じて」
「ならば、なぜ貴様の部下は、ルーディアが焼身自殺する程までに追い詰められていた事に気付かなかったのだ」
「そ、それは」
「後から来た時に貴様は言っていたな。『身柄は拘束したが、命の安全は保証しよう』と。あれは嘘だったのか……?」
「そ、れは…………自分の目に届かぬ間の事だったとは言え……ルイジェルド殿を裏切ったことに、なります」
「……ルーディアは生きていた、その首で償えとまでは言わんが……責任を取れ」
そう言うと、ルイジェルドは掴んでいた手を離して、ギュエスがドサリと地面に落ちた。ギュエスの顔は、蒼白を通り越してどんよりとした土色になっていた。元の肌が色黒だから分かりづらいが、確実に他の面々よりも具合の悪そうな顔になっていた。
「……いや、我らは大恩あるルーディア殿に決して許されぬ仕打ちをした。聖獣様を、子供たちを、そしてこの村までを賊どもから救ってくださったルーディア殿に、恩を仇で返す愚行の限りを尽くした……。
足りないかもしれないが……どうか、どうかこの戦士長ギュエスの首に免じて、一族のことは許して欲しい……」
そう言うとギュエスは膝立ちになって、背中に携えていた剣をゆっくり抜いた。
そのまま剣の腹を自分の首に押し当てたかと思うと、覚悟を決めたように固く目を瞑った。