【TS】無職転生 ルディ子 ss   作:みいけ

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11.「家族の時間」

「はいっ、父様、あ〜ん♡」

「なんだよ、照れるじゃねーか……あ〜ん♡

……んんっ、これ美味いなぁ」

 

料理をスプーンで掬いあげ、隣に座るパウロの口に運ぶ。

するとパウロは、だらしなく緩んだ口元をさらに緩めてその一口を受け入れた。

まるで雛に餌付けする親鳥の気分だ。

まったく、久しぶりの親孝行と思って甘いことはするもんじゃないな。

何が悲しくて三十路男のとろけ顔など見なければならないのだ。

 

「ですよねえ。あ、こっちもどうですか父様♡」

「おお」

 

先ほどの一口を飲み込むのを確認してから、新たにもう一掬い。

だらしないニヤケ面に食べさせる。

一連の動きを何度か繰り返すと、コップの水がなくなっているのに気が付いた。

即座に無詠唱で水を補充する。

おっと、口元にはソースが付いてるじゃないか。

仕方のないやつめ、ナプキンで拭ってやらねば。

 

そうやって甲斐甲斐しく世話を焼いていると、パウロの左隣から袖を掴む手が伸びていた。

 

「ん? どうした、ノルン」

 

そう、私の可愛い妹の1人、ノルンである。

彼女は少し涙目になりながら、睨むような目をこちらに向けてきていた。

全然怖くはないのだが、何かすごく嫌いなものを見るような目だ。

 

ええー……なんで?

可愛い妹に嫌われるなんてお姉ちゃん悲しい……。

などと思っていると、ノルンは「ふんっ」と可愛く鼻を鳴らして睨みつけるのをやめ、更に服を引っ張ってパウロを振り向かせた。

 

「……おとうさんはこっち!」

「お、おう?」

「たべて!」

 

そしてスプーンをしっかりと握り込んで、これこそが愛の大きさなのだと言わんばかりにやたらと大きな一口を突き出していた。

 

「あ、あ〜ん。

……うむ、ノルンに食べさせてもらうと美味しいなぁ」

「ほんと!?」

「ああ、本当だとも」

「おねえちゃんより!?」

「う、うむ、まあ……」

 

パウロの返事を聞いて、一転して勝ち誇った顔でこちらを見てくるノルン。

 

フフン、私の方がお父さんのことを好きなんだからね。

お父さんも私の方を選んでくれたのよ。

まるでそう言っているかのようなドヤ顔だった。

 

ノルンはパパっ子か。

 

我が妹ながら実に可愛らしい。

しかし聞き捨てならないことである。

 

「そんなっ! 私のことは遊びだったんですか!?」

「い、いや、お前に食べさせてもらうのも、もちろん嬉しいぞ」

 

裾を引っ張って再びこちらを向かせると、パウロは相変わらずだらしない笑みを浮かべていた。

 

困ったなー。

娘2人が取り合ってしまうなんて、オレも罪なパパだなー。

どっちかなんて選べないよー。

 

そんな笑みだ。

我が父ながら実に腹立たしいことである。

 

ここは一つ、「そんな玉虫色の答えは聞きたくありません」とか言って本格的に困らせてみたいところだが、そろそろ涙目のノルンが可哀想になってきたのでやめておくことにする。

 

 

パウロと仲直りして、4日後の夜。

私はミリシオンの商業区にある『レイジ・ミリス』というレストランに来ていた。

パウロの提案で、旅立つ前に家族で食事をしようということになったのだ。

 

グレードとしては中級の庶民的な店のようだが、店内の雰囲気は落ち着いていて過ごしやすい。感覚的にはサイ○リヤが近いだろうか。

この辺では米食文化がないので、ミラ○風ドリアは無さそうだが。

 

どことなく上品な感じがするのは、宿に併設された酒場と違って、客層が冒険者向けではないからだろう。

店内には、他にも家族連れや友人同士と思しき町人たちが4人掛けの丸テーブルを囲っていた。

 

4人掛けのテーブル。

そう、4人である。

今日の食事会には、私、パウロ、ノルンの他に、もう1人同席者がいるのだ。

 

「……なあ、ルーディア」

 

再び拗ねたノルンのご機嫌取りをパウロが始めたところで、右隣から声が掛かる。

この食事会のことを話したら付いてきてしまった、エリオットである。

 

最初は、同伴を断ったのだ。

今日は久しぶりの親子水入らずだし、何よりエリオットとパウロは数日前に殴り合いの喧嘩をしたばかり。

その時の殺気立った様子を考えれば連れて行くのは得策ではないし、2人はもっと、色々丸く収まった後に落ち着いて話をさせた方が良いはずだ。

時間はあらゆる事を解決してくれるからな。

 

そう思って、頑として着いてくるつもりのエリオットを止めるようルイジェルドに助けを求めたのだが、

 

「お前たち親子が仲直りしたのなら、問題ないだろう」

 

あの子供好きは私たち親子が仲直りしたことに「良きかな」と頷くばかりで、エリオットに遠慮させることなど特にしてはくれなかったのだ。

 

しかし、まあ、付いてきてしまったものは仕方がない。

理由は私を心配してくれてのことだろうし、店に到着してからずっとだんまりを決め込んでいた彼がようやく口を開いたのだ。

あまり邪険にはしたくない。

 

「どうしました?」

「その、あの……」

 

いつものように何気なく聞き返すが、エリオットの反応は煮え切らない。

何かを言いかけては止めて、ゴニョゴニョと不明瞭な声が尻切れトンボになっている。彼らしくもなく目線だって合わせてくれない。

いったい、どうしたというのだろう。

 

「あ、もしかして何か食べたいのがありました?

もう、言ってくれたらすぐ取ってあげるのに。

父様たちの前だからって、今更遠慮なんかしなくて良いんですよ?」

「……食べたいのとかじゃなくて、その、アレだよ……」

「……アレ?」

「アレは、アレだよ。……分かるだろ?」

 

うむ、さっぱり分からない。

だがしかし、エリオットは何かを期待するような感じでこちらをチラチラと伺ってきている。まるで自分の言いたいことが当然理解してもらえるものだと思っているかのようだ。

 

私もエリオットとはもう長い付き合いだし、アレと言ったらコレ、というやり取りも無くはない。問題はそれが食事の席ではなく、野営の準備とか戦闘中のやり取りである事だが。

しかし、だからといって応用が効かない訳でもないはすだ。

エリオットが何をしたいのか、観察して、意図を読み取るのだ。

長年連れ添った夫婦が「おい、あれ」「はいはいあなた、お醤油ですね」ってやるやつと一緒だ。

 

目線はそっぽを向いている。

心なしか、顔は少し赤い。

怒っている? いいや違う、あれは恥ずかしがっている時の感じの表情だ。

飯時だというのになにかエロいことでも考えてるんだろうか。

目線の先に何かあるのか?

 

そう思ってエリオットの目線の先を追うと、なんとかご機嫌を取り直すことができたパウロが、ノルンに「あーん」されている光景があった。

 

うん、別にエロくはない。

ノルンの差し出した一口がやたらとデカくてパウロが口いっぱいに飯を頬張っているが、それだけだ。

これがもっと煽情的なお姉さんだったらそう思うのも分からんでもないが……。

 

そこにあるのは、幼い娘が大好きな父親に「あーん」してあげている、微笑ましい光景だけだ。

 

あ、そういうことか。

 

「……んふふ、仕方ないですね」

 

そうと分かれば、私の行動は早かった。

 

おそらく、先ほどパウロを甘やかしていたから嫉妬でもしたのだろう。

そう思うと、エリオットのことがなんだかとても可愛く見えてきた。

 

だから、その期待には応えたいじゃない?

 

「ほら、こっち向いてください。

はい、あ〜ん」

「……! ルーディア!」

 

するとエリオットは顔をパァっと輝かせて、照れつつも嬉しそうな表情で差し出した食事をパクリと食べた。

 

「美味しいですか?」

「おいしい!」

 

無邪気な表情で喜ぶエリオット。

その様子を見て、胸の奥に何かキュンとするものを感じた。

 

生前では、女が男のことを「かわいい〜」と持て囃す所をテレビなんかでたまに目にすることがあったが、俺は男の娘でない男の何が可愛いものかと思っていた。

 

でも、今なら分かる。

普段は凛々しく勇ましい男の子がふと見せるこの無防備な笑顔。

 

かわいい、甘やかしたい、世話を焼きたい。

そんな思いが胸の奥から湧き出てくるようだ。

……これが、母性本能というやつなのだろうか。

 

---

 

その後、食事会はつつがなく終わり、それぞれの宿に帰ることになった。

 

「そうだルディ。せっかくだし、今晩はオレたちの宿に泊まっていかないか? ここ数日は仕事にかかりきりだったし、家族水入らずで、なっ?」

 

と思ったら、別れ際にパウロが思いついたようにそう言った。

私としては、断る理由は特にない。

この4日間で一緒にいる時間もあまりなかったし、パウロがそうしたいというのなら吝かではないのだ。

ルイジェルドも、家族は大事にしろと言ってたからな。

 

でも、どうだろう。

パウロと仲良くしてたら、ノルンに嫌がられないだろうか。

 

「私は良いですけど、またノルンがむくれますよ?

それに家族水入らずと言うなら、母様たちが見つかってからでも……」

「……だからだよ。もしかすると、もうたった2人だけの姉妹かもしれないんだ。仲良くしないと」

 

ゼニスに、リーリャに、アイシャ。

パウロの言葉に、まだ見つかっていない家族のことが頭をよぎる。

 

「父様がそんな不吉なことを言わないでください」

「……そうだな、すまん。

でも、まあ、なんだ。

そうじゃなくたって、久しぶりに娘と一緒に過ごしたいっていう親心も汲んでくれよ。それともあれか? ルディはもう親父と一緒の布団は嫌な年頃か?」

「嫌じゃないです」

「なら、いいだろう?」

「そうですね。家族3人、川の字になって寝ましょうか」

「なんだそりゃ」

 

パウロには通じない。そりゃそうか。

 

「そういうことなので、今晩は父様たちのところにお邪魔しようと思うんですが、いいですか?」

「なんで俺に聞くんだよ。ルーディアが決めたらいいだろ」

 

あらエリオットったら聞き分けが良い。さっきの餌付け効果かな?

 

「……家族は、大事だもんな。わかってる」

 

……なんてな。

何も考えてないように見えて、エリオットなりに気遣ってくれているのだ。

なら、それに甘えるか。

 

「じゃあ、いったん宿から必要な荷物を取って来ますので。

すぐにそちらに向かいます」

「ああ。待ってるぞ」

 

 

そうと決まれば、お泊まりの準備だ。

程なくして着いた宿でルイジェルドに報告をして、必要な分の着替えやアメニティグッズを取り揃える。

これが現代日本ならルームウェアも歯ブラシも備え付けのサービスがあるところだろうが、これまで使ってきた冒険者用の宿にそういったものはなかった。

自前のものを用意しなければならないのだ。

 

「明日はどうする?」

 

と、手持ちの背嚢に必要なものを詰めていると、ルイジェルドから声がかかる。

そういえば、予定を決めていなかったな。

 

「先日もお話しした通り、当面の金は稼がなくても良くなりましたし……そうですね、休日にしましょうか」

 

パウロと仲直りしたその日に、ミリス王札20枚の軍資金を渡してもらったことは話してある。

中央大陸への渡航についても、ガッシュ・ブラッシュなる人物の手紙という当てをルイジェルドが持ってきてくれた。

冒険者ギルドの依頼も、この3日で緑葉虎の討伐を始めとして目ぼしいものは大体手をつけてしまった。

 

となれば、あとは心身を休めて旅に備えることくらいしかやることはない。

滞在はいつも通り一週間にするとして、残るは明日と明後日の2日間。

週休2日制ってやつだな。

 

「そうか。ならば、お前は家族とゆっくり過ごしてくるといい」

「父様には溜まった仕事があるので、一日中一緒にとはいきませんよ」

「妹もいるのだろう? たしか、ノルンと言ったか。父親がそうなら、寂しい思いをしているはずだ。姉のお前が構ってやれ」

 

そう言って、ルイジェルドはいつものように薄く笑いながら、先日のリンゴを1つ手渡してきた。

 

「……あの妹にも、ルーディアのすごさを分からせてやらないとな」

 

エリオットは、口を曲げながらも後押ししてくれるようだった。

 

ノルンには嫌われちゃってるみたいなんだけどなぁ……。

……ま、だからこそか。

パウロも、仲良くしないとって言ってたしな。

私としても、あの可愛い妹にはちょっとでいいから好かれたい。あと数日で旅立つことを考えれば、ちょうど良い機会だ。

 

「……そうですね。

ありがとうございます、2人とも」

「礼には及ばん」

「……ふん」

「では、ルイジェルドさん、エリオット。

行ってきます」

 

2人の見送りを受けて、宿を出る。

 

しかし、どうやって仲良くなったものか。

あの年頃の女の子となると、初めて会った時のシルフィくらいしか知らない。

シルフィと仲良くなった時にはどうしてたっけな。

 

いじめっ子たちから助けた後、たしか、泥まみれだったからお湯で洗ってあげたんだよな。それで、一緒にシルフィのおつかいに付いて行って、遊び代わりに魔術を教えるようになって……。

そうやって世話を焼いて、気付いた時には仲良くなっていた。

友達の馴れ初めってのは何気ないもんだ。

 

今回は友達ではなく実の妹な訳だが、世話をしてやるというのは良いかもしれない。幼い兄弟といえば、ご飯を食べさせたり、風呂に入れたり、寝かしつけたり。どれも前世のおかげで勝手は分かっている。

 

ご飯はさっき食べたから、寝る前の湯浴みなんてどうだろう。

距離を縮めるのに、裸の付き合いはもってこいだ。

思えば、シルフィと本格的に仲良くなったのも、あの雨の日に一緒に湯浴みして、男の子じゃないと分かってからだったもんな……。

 

などと考えながら歩くこと10分程度。

パウロたちの宿に着いた。

1階のラウンジにはパウロの部下がたむろしており、何人かが思い思いに挨拶をくれた。

 

「おーい! 団長、娘さん来たよ!」

 

と、呼びかける団員の向く方にパウロの姿を見つけた。

何やら真剣な顔で、他の数人と書類を眺めながら話し合っていたようだが、こちらに気付くと手を振ってきたので振り返す。

傍にはノルンもいる。

パウロの腕に抱きつくような格好で、くしくしと目を擦っていた。

眠そうだ。

 

「早かったな、ルディ」

「そう離れてませんでしたからね。

それより、仕事は長くなりそうなんですか?」

「あー……ちょっと、な。

奴隷にされた転移者の情報が新しく入ってな」

「そうでしたか。……ノルンもその様子ですし、終わるまで私が見ておきましょうか?」

「っと、ノルン、眠かったか? 気づいてやれなくてすまんな……」

「ん……ねむくない……」

 

大人の話は子供には退屈だったろう。

それでも一緒にいるのだから、ノルンは本当にパウロのことが好きなんだな。

その気持ちを少しはお姉ちゃんにも向けてもらいたいところだ。

 

「ルディ、来て早々で悪いが、任せてもいいか?」

「ええ、もちろんです」

「ほら、ノルン。お父さんちょっと長くなるから、お姉ちゃんと一緒に仲良くしててな。

……これ、部屋の鍵。頼りにしてるぞ、お姉ちゃん」

 

ノルンは眠気でぼんやりとしているからか、すんなりとパウロの手を離して私の背中に乗っかった。

部屋の鍵を受け取りながら、悪戯っぽい笑みを浮かべるパウロに振り返る。

 

「これくらい朝飯前ですよ」

「夕飯後の間違いだろ?」

 

ふむ、確かに。これは一本取られたな。

まあ、さて。

予定とは少し違うが、世話をするという意味では同じだ。

何、妹の一人や二人、完璧に寝かしつけて見せらぁ。

 

「あれ、ノルンちゃん、もうお休みですか?」

 

と思っていたら、通りかかった女性が声をかけてきた。

たしか、パウロの部下の一人だったか。

相変わらず露出の多いビキニアーマーで、思わず深淵に目が吸い込まれそうになってしまう。

 

「ヴェラか」

「パウロ団長、お風呂には入れてあげたんですか?」

「いや、まだだが、眠そうだしな」

「んもう、女の子なんだから毎日綺麗にしてあげなきゃダメですよ。ルーディアちゃんもまだでしょう?」

「え、えぇ、まあ」

 

旅の途中じゃ、1日や2日くらいならわざわざ水浴びせずに体を拭くだけで済ませることもあった。

別に風呂嫌いって訳じゃない。むしろ好きだ。

しかし、移動効率を考えれば致し方ないことも多々ある。

そんな私からすれば、別に無理してまで毎日入らなくて良いとも思うが……。

 

「じゃあ、一緒に公衆浴場行きましょっか!

最近出来たみたいで、気になってたの!

2人とも私が面倒見ますし、いいですよね、団長?」

「ん? おお、そういえば商業区にそんなのがあったな。

そうだな、連れてってやってくれるか?」

「はいっ!」

 

考え直した。

休日である今、風呂に入らないことにどれほどの意味があろう。

仲良くなるためにも、ノルンを風呂に入れてやろうと考えていたじゃないか。

そんな私をヴェラが風呂に誘ってくれるという、絶好の機会。

全力で応えるべきだろう。

 

「ヴェラさん、お世話になります!」

 

こうして私は、秘密の花園へと導かれていったのだった。

 

 

 

……え、本当にいいの?

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