剣神流はギレーヌに教わるものの、適性がないので初級のままです。
また、ギレーヌも一応水神流中級くらいの実力はあるだろうと思うので、ルーディアも中級の認可を得ています。
独自設定モリモリですみません。
エリス→エリオット
ちょっとエリオット曇らせがあります。ご注意ください。
魔界大帝キシリカ・キシリス。
ようやく到着した魔大陸の南端・ウェンポートで、
俺は彼女に出会い予見眼を手に入れた。
間接的にとはいえあのモザイク野郎のお陰で手に入ったと考えるとムカつくが、どんな道具も持ち主の使い方次第だ。
ポジティブにいこう。
魔眼をもらった後、俺は慣れない視界にフラつきながらも宿屋に帰り着き、1週間かけて魔眼の制御に成功した。
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さて、俺が身重の妊婦のように、
魔眼の制御にうんうん唸っていた頃。
ルイジェルドとエリオットは俺を置いて、毎日二人で出掛けていった。世が現代日本なら薄情な旦那と息子だが……
それはいいか。
彼らが帰ってくると、エリオットはいつも汗だくだった。
対照的に、ルイジェルドはいつものすまし顔。
しかししっとりと微かに汗をかいている。
毎日、二人して、汗だくになるようなことをやって帰ってきたのだ。
これはもしかして俺が四足歩行になってホ○ォとか鳴いた方が良い展開なのかと思ったが、女になっても残念ながら俺にそっちの気は芽生えていない。
エリオットとルイジェルドもそうだろう。
日常的に俺のパンツを嗅いでるスケベ犬と、
子供絶対守るマンだ。
当然だな。
おや、こうして並べるとエリオットの評価が酷いことになるな。
まあいい、俺だってエリオットのパンツを嗅いだことがあるんだからおあいこだ。
「あの、私に内緒で2人は何をしてるんですか?
仲間はずれは寂しいです」
しおらしさ全開で尋ねてみたところ、
ルイジェルドにはすまなさそうに無言で目を逸らされ、
エリオットには嬉しそうな顔で「まだナイショ!」と言われてしまった。
まあ、大方の予想はつく。
ルーディアちゃん大好きなエリオットくんは、
ルイジェルド先生に頼んで秘密の特訓とかをつけて貰ってるんだろう。
微笑ましい感じに表現してみたが、
その内容は実質帝級の戦士による、
凶暴な上級剣士の戦闘指南だ。
寂しいからと言って、せいぜい水神流中級な俺の挟まる余地はない。
そんなこんなで、一週間が過ぎた。
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で、現在。
魔眼の制御に成功したことを報告すべく、
ここ一週間の流れで特訓に出かけていた2人を追いかけているところだ。
昨日の夜にはルイジェルドに「明日から復帰できそうです」と産休から復職する感じで伝えておいた筈なのだが、
見ての通り置いてけぼりをくらってしまったのだ。
今日からは一緒に連れてってもらえると思ってただけに割と本心から寂しいのだが、秘密の特訓なのでは仕方あるまい。
そして、秘密の特訓なので俺は場所を知らないため、
道すがら冒険者ギルドへと顔を出す。
その辺の奴に聞いてみると、デッドエンドの番犬と狂犬が海岸の方で暴れている、と教えて貰えた。
伊達に一週間やってないな。
ちなみに、俺がデッドエンドの『飼主のルージェルド』だとは浸透していなかったらしく、「新人がちょっかいなんか掛けたら喰われちまうぞ」なんて忠告を頂いた。
失礼な、ルイジェルドは立派な大人だから子供に邪な感情を抱いたりはしない。
エリオットは……。
エリオットは、ほら、俺が15になるまでって言い含めてあるし、大丈夫さ。
たぶん。
そんな忠告をくれたおっさんは「嬢ちゃんも一杯やってかないか?」
と下心満載な目で見ながら誘ってきたが、
ここでニコリとルーディアスマイル。
角が立たないよう丁重にお断りしておいた。
まあ、俺とて成長期だし、ゼニスの遺伝子が仕事をしたのだろう。
11歳にしては、男好きのする身体に育ってきたとでも言おうか。それなりのモノをお持ちです。でへへ。
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海岸に着くと、何故だか知らないが懐かしい香りがした。
思い出すのは青髪の我が師匠、ロキシー。
彼女が脳裏に浮かぶのは海が青いからだろうか、
とても身近に彼女を感じる。
まあ、実際はシーローンで家庭教師をしてるんですけどね。
それはともかく、俺は制御に成功した予見眼を開いた。
眼前の、目にも止まらぬ速さで交わされる攻防を観察するためだ。
方や、歴戦のスペルドの戦士。
方や、赤髪の狂犬剣士。
普段なら俺にはギリギリ目で追えるか追えないかといったほどのハイスピード戦闘が、予見眼を介することによって展開の先読みがある程度出来るようになっていた。
便利だな、これ。
少しその様子を眺めていると、不思議なことに気がついた。
予見眼を通して見える未来が、エリオットの動きは1パターンしか映さないのに対して、ルイジェルドの動きは2パターン以上にブレることがあるのだ。
何だこれ。
その疑問が解消されないうちに、ひとまずの決着が付いたようなので、俺は2人のところへと向かった。
肩で息をして仰向けに倒れるエリオットと、
すまし顔のルイジェルド。
この一週間で見慣れた光景だな。
「ルーディア、来たか」
「はい、来ました。
もう、ルイジェルドさんもエリオットも、
置いていくなんてひどいじゃないですか」
言いつつ、持ってきていたタオルをエリオットに渡す。
続けて、無詠唱で生成した水をコップに注いでやれば、
ルーディアちゃん印の美味しいお水だ。
甲斐甲斐しい女マネの如く、これもエリオットに渡す。
「すまんな。お前ならば、
伝えずとも察してくれると思ってな」
「まあ、確かに居場所はすぐ分かりましたけど。
流石に置き手紙くらいないと、
察してあげるまでは出来ませんよ」
「そうか」
エリオットの息が整ったのは、すぐだった。
特訓を終えた彼はドヤ顔で、
「ルーディア! 強くなったぞ!
今ならルーディアの魔術にだって負けない!」
と報告してくれた。
うむ、実に闘争心がくすぐられる宣言だね。
「ちょうど良い。
ルーディア、魔眼を使っての接近戦はできるか?」
「まだ実戦では使ってないのでわかりませんけど、
2人の動きは追えてましたからね。
今なら、エリオットにだって勝てちゃうかもしれませんよ?」
フフンとこちらもドヤ顔で応戦。
するとエリオットは、最近では俺にあまり向けていなかった、
闘争心溢れる獰猛な笑みを浮かべた。
「受けて立ってやるよ」
「よし、それなら手合わせしてみろ」
「いいでしょう」
ルイジェルドの提案を皮切りに、俺とエリオットの久方ぶりの模擬戦が決まった。
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結論から言う。
俺はエリオットに勝った。
魔術なし、魔眼のみでの近接戦だったため、
完封と言える大勝利だ。
けど、あんまり気持ちの良い勝ちとは言えなかった。
エリオットは、悔しそうにしていた。
ルイジェルドと出会った時以来の涙まで流して、
悔しがっていた。魔大陸に転移してきてからこの方、
俺には決して振るわなかった八つ当たりの拳を振るう程に、
悔しがったのだ。
身動き出来ないように取り押さえたエリオットは、
彼にしては珍しく清々しいような表情で、
立ち上がると握手を求めてきた。
が、予見眼には殴りかかってくる姿が見えていた。
だから、少しビビりながらも余裕を持って拳を受け止めると、彼は見る間に不機嫌になって一人で帰ってしまった。
「……やり過ぎてしまったでしょうか」
考えてみればエリオットはこの旅の間、
事あるごとに「ルーディアは俺が守ってやる」と熱烈な言葉をくれていた。
その青々しくも実直な言葉は、俺の中の乙女な部分がキュンキュンしてしまうほどだった。
いやまあ、実際乙女ではあるんだが、気持ちの問題だ。
そんな言葉を掛けてくれていたエリオットが、
一週間の間に技を磨き、強くなった。
聞けば、ルイジェルドから一本取るまでになったそうだ。
並のことではない。
それを、俺が一番の手札である魔術を使うこともせずに、
魔眼の力だけで圧倒してしまったのだ。
逆の立場で考えてみよう。
守ってやると豪語していた歳下の女の子に、
頑張って鍛えた自分の力が及ばないのだ。
八つ当たりの一つくらい、したくなる筈だ。
「奴は、まだ子供だ」
「でも、私のために頑張っていたのに、それを私は」
「手加減してやればよかったと思っているのか?」
「そういうわけじゃ、ないですけど」
それこそ子供扱いだ。
エリオットの頑張りを嗤う行為だ。
「大丈夫でしょうか、エリオットは」
「奴は増長していた。これも必要なことだろう」
つまり、テングになってたから、
一度頭を冷やせと言うのだろうか。
ルイジェルドはそう言うが、でも、俺にはわかる。
ちょっと掴めてきたかなと思った頃合いに
伸び盛りのエリオットに、それはあんまり、良くないんじゃないだろうか。
「……そんなに心配なら、お前が慰めてやれ。
女なら、それぐらいできるだろう」
黙りこくる俺に、ルイジェルドはそう言った。
慰めてやれと言われても。
負けた相手に何か言われたって、気を遣ったおべっかにしか聞こえないんじゃないだろうか。
そういうのは、言うのはよくても、
言われた方はもっと惨めな気分になるだけだ。
いくらルイジェルドが数百年単位のボッチだからって、
そこまで人の心が分からない訳じゃないだろうに。
と、ここで俺は気付く。
ルイジェルドは、今、「女なら」って言ったか?
「……それ、まさか、身体を使って慰めろって事ですか?」
「守るものを確認できれば、男は自然と立ち直るものだ。
お前が決めろ」
今度こそ、俺は絶句した。
まさかルイジェルドが、そんなことを言うだなんて思ってもみなかったから。
そう言い残すと、ルイジェルドは宿ではない何処かへと去ってしまった。
--- エリオット視点 ---
ルーディアに負けて、俺は自己嫌悪になりながら宿屋のベッドで蹲っていた。
一週間頑張って、ルイジェルドからも一本取れたのに、
魔眼を手に入れたルーディアには手も足も出なくて、
悔しかった。
悔しくて、弱い自分に怒りが湧いて、
叫び出したくなるような無力さを感じた。
でも、本当は、そのこと自体はどうでもいい。
ルイジェルドに稽古を付けてもらって、
今度こそルーディアを守れるくらいになれたらそれで良いと思っている。
問題はそこじゃない。
あの時俺は、
自分の弱さの八つ当たりに、ルーディアに殴りかかった。
ほとんど衝動に身を任せて、
あろうことか守るべきルーディアを、
手合わせは終わったのに理不尽に殴ろうとしたのだ。
でも、そんな短絡的な行動にも冷静に対処できるくらい、
ルーディアは強くなっていた。
お陰で俺はルーディアを殴り飛ばさずに済んだが、
同時にとても情けない気持ちになった。
だから逃げ出した。
魔大陸に転移してから、俺はルーディアに頼りきりだった。
歳下だけど、ルーディアは賢く、強かった。
初対面のスペルド族にも怯えずに、会話をしようとするくらい強かった。
俺なんて、丸まって無様に泣きべそを晒していたと言うのに、すごいと思った。
格好悪いところを見られて恥ずかしいと思ったが、
それでも俺は安心していた。
ルーディアに任せておけば、自分達は何の問題もなくロアの屋敷に帰り着けるのだと思い込んで。
でも、間違っていた。
リカリスの街に着いた時、ルーディアは人攫いに拐われて、
見つけた時には涙を流して怯えていた。
その時はすぐにいつもの調子に戻っていたから、
やっぱりルーディアは強いんだと思っていたが、
街を出るときには、居なくなったルイジェルドを探しながらわんわん泣き叫んでいた。
そこまでして、俺はようやくルーディアにも弱い部分があるのだと知った。
とても賢くて、魔術が出来るのに剣まで振れて、
どんな相手にも臆せず関われるルーディアにだって、
出来ないことはあるのだと分かった。
守らなければと思った。
頭が悪く、何もできない俺がどうやって、とも思った。
でも、俺には剣があった。
ギレーヌに教えてもらって、それだけは自信を持つことができた。
だから、剣を振るってこの子を守ってあげなければならないと理解した。
それからは、屋敷にいた時みたいに、ルーディアを叩いたりするのはやめることにした。
たまに、我慢が効かなくなって身体を触ったり、匂いを嗅いだりしてしまうことはあったが、彼女を痛めつけるようなことは間違ってもすまいと決めていた。
それなのに、さっきルーディアに負けた時。
弱い自分が悪いのに、怒りのやり場が分からなくて、
ルーディアを殴りそうになっていた。
……あんなことをして、きっと彼女に嫌われてしまったに違いない。
ルーディアは優しいから、
身体を触っても、匂いを嗅いでも、
嫌がる素振りは見せなかったように思う。
俺のルーディアが好きな気持ちが、伝わっていたから許されていたのだと思う。
でも、さっきの俺は、ルーディアの事なんて考えもせず、
自分のことのために暴力を振おうとした。
最低だ。
---
「────エリオット?」
泣き疲れて少しうとうとしていた頃、
ルーディアの声が聞こえた。
泣いているところを見られたくなくて、
顔を膝に埋めたまま、俺は彼女の気配を感じ取っていた。
ルーディアは部屋の入り口の辺りでウロウロしていたが、
やがてベッドに来て、俺の隣に腰掛けた。
ふわり、とルーディアの匂いが微かに鼻をくすぐった。
守りたい、一緒にいたい、触れ合っていたい。
そう思える、安心する匂いだ。
「その、さっきは、すみませんでした。
エリオットはせっかく頑張ってきたのに、
私なんかが調子にのって……」
ルーディアはそう言った。
謝らなきゃいけないは俺の方なのに。
彼女に悪いところなんて一つもないのに。
悪いのはルイジェルドから一本とって、調子に乗っていた俺なんだ。
「なんでルーディアが謝るんだよ」
手合わせの後に殴りかかったことだって、
俺が謝らなきゃいけない。
それなのに、俺は優しく寄り添ってくれるルーディアに、
突き放すようにしか言えない。
そんな自分が嫌だ。
ルーディアは、少しの間黙っていた。
そして、ゆっくりと、何かを後悔するみたいな口調で、
こう言った。
「だって、エリオットはちゃんと頑張っていたのに、
私の魔眼は、その、ズルだから……」
ズル。
何がズルいんだろうか。
ルーディアがどんな魔眼を手に入れたのかは手合わせの前に聞いていたし、一週間も掛けて制御出来るようになったのも知っている。
魔眼の力だって、正真正銘ルーディアの力だ。
「だから、その。
エリオットは自分で努力して強くなったのに、
私のは、偶然手に入った力で、
私が努力して手に入れたものじゃないから。
……だから、ズルいんです。
ごめんなさい」
「……そっか」
正直、何がズルくて謝っているのかはよく分からなかった。
だって、ルーディアだって、魔眼を手に入れたのは偶然でも、
魔眼を扱えるようになるために一週間苦労したのは同じじゃないか。
……まあ、ルーディアがズルだって言うなら、
多分そうなんだろう。
よく分からないけど、俺はそれだけ分かればいい。
それよりも、言わなきゃならないことがある。
「なあ、ルーディア。……ごめん」
「え?」
「ルーディアのことを守るって言ったのに、
急に殴ろうとしたりして」
「……なんだ、そのことですか。
気にしてませんよ。へっちゃらです」
そう言うと、ルーディアは俺の後ろに移動して、
背中から抱きしめてくれた。
俺よりも小さい身体で、細い腕で、
ギュッと包み込んでくれた。
背中に当たる胸の感触に、思わず鼻息が荒くなってしまう。
「これで仲直りしてくれますか?」
「……前からも抱きしめてくれないと嫌だ」
「……もう。エリオットはえっちですね……」
振り返り、その小柄な身体を抱き締める。
温かくて、柔らかくて、
俺の大好きなルーディアの匂いがして。
「ちょ、ちょっとエリオット、匂い嗅がないでください」
絶対にこの子を守るんだと、俺は決意を新たにした。