閲覧注意。
ちょっと倫理的にアレな生々しい話題が出ます。
ルイジェルドとエリオットが曇ります。
魔眼を手に入れて、エリオットと手合わせして、仲直りして。
色々とありはしたが、依然として渡航費用の緑鉱銭200枚の方は何も進展はない。
海を渡る方法も手に入らなかった。
一週間を無駄にした形となる。
これでは、ヒトガミに助言される前と何も状況が変わっていない。
エリオットを慰めた夜、俺は一人考える。
慰めたっても、前後からハグをするルーディアセラピーをしただけだが。
俺の成長してきた乙と牌にかかればチョロいもんだった。
俺が男でエリオットが女なら是非ともオトナな慰め方をしたいところだが、
やっぱりほら、15歳まで待ってもらう事になってるし、ね?
び、ビビってる訳じゃねぇし。
約束は約束だ、焦らずいこうぜ。
そんなことより、渡航費用。
それをどうするか、俺の中では一つの答えが出ていた。
「よし……売るか」
口に出してみると、やはりそれが最善手であるように思えた。
あの後エリオットは寝てしまったし、
何処かに行ったままのルイジェルドもまだ帰らない。
このチャンスを無駄にはすまい。
なので、俺は夜の質屋にアクアハーティアを持ち込みに行く事にした。
宿を出て、日の落ちた街を行く。
ひょっとするとルイジェルドにかち合って止められるかもと思ったが、そんな予想は外れて裏通りの方まで来ることができてしまった。
本当にどこへ行ってしまったのだか。
まあ、ルイジェルドに限って何が起ころう筈もない。
俺は渡航費用を稼ぐだけだ。
---
魔眼を貰う前に、街中の質屋には3軒ほど目星を付けておいた。
どうせ売るなら出来るだけ高額査定をして欲しいので、一通り回ってから売る場所を決めよう。
え? エリオットが悲しむって?
ルイジェルドも気にする?
なぁに、彼らだって必要な事には理解を示してくれるさ。
何ならまたセラピーしてあげればそれで済むし、
ルイジェルドには戦士の矜持ってやつで納得させるさ。
余ったお金で全員の装備を新調するのも良いな。
心機一転、『デッドエンド』のミリス大陸デビューだ。
よし、それで行こう。
「ウチじゃあンなもん扱えねえよ」
「緑鉱銭180枚。それ以上はこっちに金がねえ」
「杖一本に200も出す馬鹿居るわけねぇだろ」
が、しかし。
俺の目論見は大きく外れた。
行った先々でこんな風に断られてしまったのだ。
そうだ、普段使いしているから忘れていたが、
アクアハーティアは価値が高すぎるんだ。
確か、俺の10歳の誕生日パーティーの時には、
杖がどんな素材で誰が作ったのかをアルフォンスが説明してくれていたのだが、俺には「なんかすごく高いやつ」ってことしか分からなかった。
それでも、色付きの魔石でこのサイズとなると、
金貨100枚はくだらないんじゃないかと予想したのは覚えている。
金貨100枚。
えっと、確かアスラ金貨1枚が10万円くらいの感覚だから、
単純計算で1000万円かそれ以上。
で、緑鉱銭は1枚が1000円くらいだから、
仮に渡航費用分の200枚で計算しても、20万円相当。
割に合わなさすぎる。
いくら必要だからといって、せっかくエリオットがくれたものをそんな安値で叩き売りする事なんて出来ない。
……いいや。
本当は、そんな損得は抜きにしたって、
これはなるべく売りたくない。
せっかくエリオットが俺のためにとくれたものなんだから。
さて、どうしたもんか。
「そんな大金、いったい何に使うってんだ?」
3番目に訪れた質屋の前で考え込んでいると、
店主のオヤジが頬杖をつきながら尋ねてきた。
「ミリス大陸に渡る船賃で必要なんです」
「はあ? 嬢ちゃんどっからどう見ても人族だろ。
なんでそんなに要る」
「私が『デッドエンドの飼主』だからです」
「ほーん、嬢ちゃんがねぇ。
俺は親切だから教えてやるけどよ、
関所で見栄張っても種族はちゃんと調べられるからな」
それはもう知っている。
オヤジは俺が飼主だとは信じていない様子だが、
何か思案げにしていた。
「……ま、アンタが本当にデッドエンドの一味かはどうでも良い。要は嬢ちゃん、大金を稼ぎてえんだろ?
なら、アテが無え事もねえ」
「……ほう、その話詳しくお聞きしても?」
おっと、こんな所でイベントフラグか?
治安の悪そうな場所だし、何かのブツの運び屋をやれとかそういう類の話だろうか。
だとしたらヒトガミが助言して来なかったのは気になるが……さて、どんなアテなのやら。
「ま、アテって言うかよ。
見たところお前さん上玉だし、
色が分からねえ歳でもねえんだろ?
身体を売りゃあ、それなりに稼げるんじゃねえかと思うんだよな。なんなら、最初は俺が買ってやってもいい」
って売春かよ!
なんだなんだ、確かに昼間は冒険者ギルドでエロい目で見られてたのは分かってたし、自分でもムフフと思っていたが、言ってもまだ11歳だぞ?
この世界にはロリコンしか居ないのか?
「そうさなぁ、この街にゃ娼館なんてねぇから、
一発で緑鉱銭10枚くらいでどうだ?
俺みてえに稼いでるやつなら、そんくらいは出してやれる」
ウェンポートにはエッチなお店はないのか。
なら、相場なんて無視してふっかけ放題だと思うが……
緑鉱銭10枚って、1万円ってことだろ?
そいつはちょっと、フカしすぎじゃないだろうか。
上玉だって言うなら50枚、いや、せめて30枚は貰ってもいい気がする。
「で、どうする? やるってんなら、ちょっと中に来いよ」
「いや、ちょっと、急にそんなことを言われても……
ちょっと待ってください」
オヤジは勝手にヤる気満々といったニヤケ面だが、
正直言ってヤりたくはない。
初めては大事にしたいのだ。
こんな臭そうなオヤジとヤるくらいなら、
エリオットとヤる方が断然良い。
初めてじゃなかったらヤっても良いって訳でもないけど。
乙女ディア的には、大事にしてくれそうな奴じゃないと嫌だ。
でも、杖を売れない以上はそう言う選択肢も視野に入れる必要はあるか。
一回で少なくとも緑鉱銭10枚、
交渉次第ではそれ以上だもんな……。
20人もこなせば、渡航費はすぐに貯めることができる。
「その……旅を急ぐ身なので、本番はナシで、
手だけで済ませることはできませんか?」
「あ? 本番? 手だけって……ああ、
最後までヤるのは無しってことか。
ほー、考えたな。そういうのもあるのか」
そんな孤独に食事を楽しむサラリーマンみたいな言い方はやめてほしい。
「それと、仮に最後までするのだとしても10枚は安すぎです。せめて50枚は貰わないと」
「……なんだい嬢ちゃん、随分と吹っかけるじゃねえか」
「これでも良いとこの生まれですので、
安売りはできませんね。上玉なんでしょう、私は?」
交渉は強気に、だ。
これでダメでも、手だけで10枚稼げる可能性は残る。
本当は手でやるのも嫌だが、
もう200枚を稼ぐにはこれしかない。
「……30枚だ」
「え?」
「30枚出してやるから、最後までヤらせろ」
ギラついた目をしながら、オヤジはそう言った。
男の人っていつもそうですよね……! キッ!
いやまあ、知ってたけどね?
どうやらコイツの中では、
もう俺を買うのは決まっているらしい。
商魂ならぬ性魂たくましいことだ。
それにしても、3万か。
流石に5万は無理だったにしても、ホ別で3万か。
納得出来なくもないギリギリのラインだ。
さてはコイツ、この手の取引に慣れてるな。
けど、流石に俺は本番まではやりたくない。
ここだ。
ここで譲歩したように見せかけて、確実に10枚を稼ぐのだ。
「ダメです、50枚です。
どうしてもと言うなら、10枚で手だけなら応じますけど」
「ぐ……」
「それでダメなら他を当たります。
今回はご縁が無かったと言うことで……」
押してダメなら引いてみろ。
俺が帰る素振りを見せると、
オヤジは焦ったように身を乗り出してきた。
「わかった! 最後までは無しで良い!
だが、30出すから、胸と口も使わせろ!
悪い話じゃないだろう!?」
「えぇー……」
そうきたか。
確かに、俺には自慢の胸部装甲があるし、
口って選択肢もあるにはある。
けど、洗えば済む胸はまだしも口は嫌だな。
「30枚で、手と胸だけなら応じます。
これ以上は譲歩しません」
「よし、決まりだな! 来い!」
そう言うと、オヤジは血走った目で近づいてきて、俺の腕を乱暴に掴んだ。
見ればたいそう興奮した様子で、下腹部には既にテントが設営されていて歩きづらそうだった。
……はあ。
マジでこれからそういうコトをする事になるとは。
いくら最後までしないからと言ったって、
初めての相手はエリオットが良かったな。
帰ったら甘えて上書きしよう……。
俺が諦めと共に、オヤジに店の奥へと連れ込まれようとしていた、その時だった。
「その手を離せええぇぇ!!!」
聞き慣れた怒鳴り声が、裏通りに響き渡った。
---エリオット視点---
「起きろ」
ルイジェルドに肩を揺らされ、俺は目を覚ました。
部屋はすっかり暗くなっていて、
いつの間にか眠ってしまったのだと分かった。
ルーディアは居なかった。
居なかったが、寝る前に抱きしめあったことを思い出して、思わず顔がにやけてしまう。どこに行ったんだろう。
「ルーディアを追うぞ」
「は?」
「杖を売りに行ったかもしれん」
「はぁ!?」
唐突に言われ、俺はにやけ面が吹き飛んだ。
杖を売る?
どうしてだ?
密輸人に話を付けてたんじゃなかったのか?
「なんで止めてくれなかった!」
「……すまん、俺の落ち度だ」
「ああもう、すぐに行くぞ!」
何も分からない。
けど、冗談じゃない。
俺がせっかくルーディアのために贈った杖を売るなんて。
ルーディアは、大切にすると言ってくれた。
実際、今日までずっと大切に杖を扱ってくれていた。
でも、やっぱりダメだったんだろうか。
気を遣って、嘘を言ってたんだろうか。
ルーディアくらいすごい魔術師には、あの杖でも物足りなかったんだろうか。
俺なんかがあげた杖じゃ……。
いや、ちがう。
ルーディアはそんな酷いことはしない。
ルーディアは、武器の手入れをする時間には、
いつも杖を大切そうに磨いていた。
要らないものに、あんなに時間をかけて手入れなんてしないはずだ。
きっと、必要なことだから手放そうとしているんだ。
もしかすると、本当は密輸人を見つけることができなかったのかもしれない。
そうだ、ルーディアにだって出来ないことはあるんだ。
でも、俺たちにそれを言い出せなくて、
仕方なく杖を売ってお金にしようとしているんだ。
そうに違いない。
なら、ルーディアにそんなことをさせたのは俺のせいだ。
俺が頼りないからだ。
俺なんかに、何ができるのかは分からない。
でも、絶対にルーディアを悲しませることはさせない。
ルーディアを連れて帰ったら、一緒に話し合うんだ。
---
ルイジェルドの追跡で、日の落ちた街を駆ける。
杖を売るなら質屋だ。
質屋を探して、薄暗い路地を走り抜ける。
こんな時なのに、俺はまたルイジェルドに頼りっぱなしだ。
今度からは俺だけでもルーディアを見つけられるように、
追跡術の指南をしてもらおう。
「あった」
「ルーディア!」
ルイジェルドの声に反応して、足を止める。
そこにあったのは、探していた質屋だ。
ルーディアは居なかった。
「なあ!
さっき、女の子が杖を売りに来なかったか!」
「あ? それならさっき来たが、
なんだお前さんたち……ってうおおお!?
まてまてまて、殴らないでくれ!」
さっき来た。
つまり、間に合わなかったってことだ。
思わず、店主の胸ぐらを掴んで殴りそうになってしまう。
けど、ダメだ。殴ったらダメだ。
杖を返して貰えなくなるかもしれない。
「たのむ! その杖を返してくれ!
金は返すから! あれは大事なものなんだ!」
ルーディアはあれこれと理由をつけて、
素直には金を渡してくれないかもしれない。
でも、ルーディアにはあの杖を持っておいて貰わなくちゃダメなんだ。
そうでないと、俺は本当に、
ルーディアから与えられるだけになってしまう。
ルーディアだって手放したくないはずなのに、
それはダメだ。
「おい、おい、やめてくれ!
杖なんて買い取ってない、
そっちのあんたもなんとか言ってくれ!」
「買い取ってないのか?」
「そう言ってるだろ!
ここらの物価じゃ、
あんなもん買い取れる奴なんていねえよ!」
「…‥エリオット、降ろしてやれ」
ルイジェルドに言われ、
つい持ち上げてしまっていた店主を降ろす。
杖を、買い取ってない。
つまり、ルーディアはここで杖を売ってないんだ。
ってことは……どういうことだ?
「……槍を持った禿頭に、赤毛の小僧か。
あんたら、巷で有名な『デッドエンド』だな」
「ああ」
「あの娘、マジで『飼主』だったのか……」
「それより、買い取ってないと言ったな。
あいつは、その娘は、何か言っていなかったか?」
「何かって……ああ、他所をあたるって言われたな。
ここらじゃそんなもんに釣り合う程出せる奴は居ないって教えてやったんだがな……」
そうか、他の質屋に行ったのか。
確かにルーディアなら、
少しでも高く売るために何箇所かに交渉しに行きそうだ。
「店主、先程は連れがすまなかった。
悪いが、他の質屋の場所を教えてくれないか?」
「お、おう。まあいいけどよ……」
でも、ここら辺じゃ売れないって分かったのに、
ルーディアはどうして他の質屋に行ったんだ。
……ああ、そう言えばよく「ダメ元」なんて言っていたし、今回もそれかもしれない。
ルーディアらしいな。
なんにせよ、この街で杖が売れる可能性は少ないことが分かってよかった。
ルーディアは落ち込んでしまいそうだけど、
3人でまた話し合えばいいんだ。
俺とルイジェルドは、
店主が教えてくれた質屋を当たってみる事にした。
---
2軒目は空振りだった。
そして、最後の3軒目。
そこにルーディアは居た。
店先で、ちょうど店主と何かを話している所だった。
良かった、杖はちゃんと持っている。
旅の途中では「ホウレンソウが大事ですよ」なんて言っていたのに、ルーディアでも約束を守れないことがあるんだな。
後で、ちゃんと頼ってもらうように言わないと。
そんな風に、ホッと一安心した時だった。
「……あ?」
ルーディアが乱暴な手つきで腕を引っ張られて、
店の奥に連れて行かれそうになっていた。
店主の男はルーディアをいやらしい目つきで眺めていて、
ルーディアは何かを耐えるような顔で、
嫌がりながら従っていた。
その顔は、リカリスの街で見た、
弱々しいルーディアの顔だった。
「は」
腰の剣に手を掛ける。
「……エリオット、殺しはするな」
ルイジェルドが何かを言っているが、俺は止まれなかった。
「その手を離せええぇぇ!!!」
---ルーディア視点---
そこからは、いつものようにあっという間だった。
エリオットにこれでもかとボッコボコのフルコンボを決められた店主は、生きているのが不思議なくらいの有様だった。
半死半生とはこのことか。
エリオットたちが現れたのは偶然ではなく、
やはり俺を追ってきたとのことだった。
一応、店主との取引は合意の上だったので、
最低限必要な治癒魔術を施した。
「ルーディア! なんでそんな奴を助けるんだ!
そいつはルーディアに、酷いことをしようとしたんだぞ!!」
「いえ、まあ、一応合意の上だったので……」
そう言うと、エリオットは信じられないモノを見たかのように愕然としていた。
まあ確かに、倫理観がおかしいこの世界でも、
好きこのんで身体を売ろうとする奴なんて居ないもんな。
「合意だと?
……お前、何をしようとしていた」
ルイジェルドも、あり得ない物を見る目を向けてきた。
ええー、それを言わせちゃう?
一応俺にも恥じらいってもんがあるし、
それをエリオットの前で言うのはちょっとな。
いやまあ、俺を心配してくれたのだろうし、
説明責任はあるか。
「……その、身体を売って、金銭を得ようとしていました。
この辺りでは、この杖は買い取って貰えそうになかったので……。あ、でも一応、
純潔を散らすつもりはありませんでしたよ?
流石にそこまでするのは気が引けるというか」
「ルーディア」
「はい?」
ルイジェルドに名前を呼ばれたので、口をつぐむ。
何だろうか、やはり相談も無しに杖を売ろうとしたことを『バチン!!』
「……少しは自分の身体を大切にしろ」
頬が熱い。いたい。
どうしてだ。
ああ、ルイジェルドに平手打ちされたのか。
「ルイジェルド! いくらお前でも──」
「俺たちは、そんなに頼りないのか?」
ルイジェルドはそう言って、悲しそうな顔をした。
その顔を見て、ルイジェルドに掴みかかろうとしていたエリオットは動きを止めた。
「今回の渡航費用のことは俺のせいだ。
俺がいなければ、お前にも、エリオットにも、
こんな思いをさせる事はなかった」
でも、ルイジェルドが居なければ、
俺もエリオットもどこかで死んでいたかもしれない。
「……昼間、俺はお前に、
女ならそれくらい出来るだろうと言ったな。
あれは、お前とエリオットの関係だから言ったことだ。
こんなことを許すためではない」
ああ。
ルイジェルドは、自分が言ったことのせいで、
俺が身体を売ろうとしたと思っているのか。
でもそれは勘違いだ。
成り行きで、そうした方が効率も良くて現実的だと思ったからだ。
「なぜ、密輸人を探さない」
「それは……密輸人は、ルイジェルドさんの大嫌いな悪党ですから」
「お前は、似たようなことがあれば、
その時もこういうやり方をするつもりなのか?
大切な杖を、自分の身を、顧みないつもりか?」
「……必要とあらば」
「……家族は大切にしろと言ったはずだ。
エリオットは、お前の家族なのだろう?」
「当たり前じゃないですか。何ですか、急に」
「お前は、大切な家族にそんな顔をさせるのか?」
ちょっと、話の流れが分からなかった。
でも、ルイジェルドがそう言ったから。
俺は、エリオットの顔を見て、初めて気が付いた。
いつも元気で、悩み事なんて一つもなさそうなエリオット。
そんな彼が、涙目になって。
悲しそうで、絶望したかのような。
見ているこっちが辛くなるような顔をしていた。
「エリオットはまだ子供だが、お前もそうだ。
少しは俺たちを頼れ」
その言葉を聞いて、俺は思い出す。
『ルーディアは俺が守ってやる』。
エリオットはいつもそう言ってくれていた。
俺は、その言葉を嬉しく思いつつも、でも心のどこかでは、
最後に頼れるのは自分だけだと考えていた。
守ろうとしている相手が、
必要ないと言わんばかりに無茶をする。
それは、何よりの冒涜だったんじゃないだろうか……。
「……ごめん、なさい。エリオット。
私、自分勝手で、貴方の気持ちを、全然考えてなかった」
ああ、泣くつもりなんてなかったんだけどな。
涙が止まらない。
そうか、俺は、
知らない間にエリオットを裏切っていたのか……。
「俺、頼ってもらえるように頑張る」
「……うん」
「だから、お前もちゃんと俺を頼ってくれ」
「うん」
「約束だからな」
「……はい!」
エリオットに抱きしめられる。
胸が高鳴る、と同時に安心感に満たされる。
ああ、そっか。
なんだかんだと言いつつも、
俺は気付かない間にそうだったんだ。
俺は……いや、私は。
エリオットのことが、好きなんだ。
---
「……さて、作戦会議を始めます」
宿屋に戻ってから、私たちは作戦会議を開いた。
議題はもちろん、渡航費用のことについてだ。
「この街に着いた時にも話したと思いますが、
一番現実的なのは、密輸人を探す方法です」
「ああ。情けないことだが、
俺もその方法しかないと思っていたところだ」
「良いんですか? さっきも言いましたけど、
奴らはルイジェルドさんの大嫌いな悪党ですよ」
ルイジェルドの意外な言葉に、
私は確認の意味を込めて繰り返す。
「お前にばかり苦労をかける訳にもいかんだろう。
俺は今回、全ての悪事に目を瞑る」
「本当にいいんですか? たぶん密輸人は、
子供を攫って奴隷にする片棒を担いでますよ」
「……ああ」
「本当に我慢できますか?」
「この槍に誓っても良い」
「先っちょだけだからとかもダメですよ?」
「さき……? 言っている意味はよく分からんが……。
俺は、まだお前の信用を得られていないのか……?」
「いえ、すみません。
ちゃんと信用してますし、信頼しています。
今のは忘れてもらって大丈夫です」
いかんな、雰囲気が暗いからどうにもふざけたくなってしまった。身も心も女になると決めた以上、
あんまりこういう言動はしないようにしとかないとな。
あ、俺がルイジェルドとばかり話しているからか、
エリオットがムッとしている。ははは愛い奴め。
心配しなくても俺、あいや私は君のものだよ。
「……でも、ルーディアは密輸人を見つけられなかったから杖を売ろうとしたんだろ?」
「えっ? まだ方針も決まってなかったので探してすらいなかったんですけど、どうしてそう思うんですか?」
「だ、だって魔界大帝に会ったのも、
密輸人を探している時だったんじゃないのか?」
ああ、あの時自由行動にしようと言ったのを、エリオットは俺が密輸人を探しに行ったのと勘違いしていたのか。でも、
ヒトガミのことはまだ言わない方が良いと思うし……。
「すみません、あの時はただ単に観光してました」
「……そっか」
あれ、なんか落胆してる? まさか失望された?
えっと、俺、じゃなくて私も、
流石にそんな手際よく動けないわけで、えっとえっと。
「す、すみません、私も港に着いて浮かれてたもので……
こ、今回の不手際は反省して今後のサービス向上に努めますというかなんというか」
「別にそんなに謝らなくても、怒ってないぞ。ただ、
ルーディアもすごい所ばっかりじゃないって安心しただけ」
「そ、そうですか」
すごい所?
私なんて、むしろ至らないところだらけのような気がするが……まあいいか。
「じゃあ、とりあえず、密輸人を探す方向で行きましょう」
「ああ。だがどうやって探す?」
「そういう輩は大抵、
仲介人を挟んで捕まるリスクを減らしているものです。
明日はまず、冒険者ギルドで情報屋を探しましょう」
「なるほどな」
「さすがルーディアだな!」
でへへ、褒めてもおっぱいしかでませんよエリオットくん?
ま、前世のゲーム知識だけどな。
理には適っているはずなので、
そう大きく間違っているとも思わない。
そんなわけで、今後の方針は決まった。
無事にミリス大陸へ渡れるといいな。
ちなみにルイジェルドが夜遅くまで帰らなかったのは、2人に気を利かせようとしたからです。