Sword Art Online―EXTRA ギルドユニオンのキセキ    作:まつK

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二話

「パンとミルク、あとリンゴを頼む」

 

「はいよ。パンとミルクとリンゴだね」

 

売り子のNPCに「あぁ」とだけ言って返す。

 

「まいどあり。またよろしく頼むよ」

 

システムメニューを開き、今しがた買ったアイテムがあることを確認して店を後にする。

店を出た後はそのまま拠点としている民家へと足を向けた。

カツッ、カツッ、カツッと石畳を踏む足音が辺りに響く。

辺りに人影は見当たらず喧騒は遥かに遠い。

大通りから離れている事と夕暮れ時ということをあわせても、とても9000程の人が居る町とは思えない静けさだった。

おそらくは混乱と逃避からくる、停滞と静寂。

それがあのゲームが終わった日から7日が過ぎた今の世界の在りようだった。

 

拠点としている民家は二階建てで、大通りからひとつ脇道に入った通りに立っている。

拠点にしているといっても、より正確に言えば二階にある二部屋のうちの一室を借りているだけだ。

この世界では特定の物件に対して、それに応じた金額を支払うことで一定期間その物件を占有できた。

規模の小さいものは民家の一室から、大きいものでは城一つと結構な種類がある。

占有することで、物件によっては様々な特典があったりもするのだが、基本的にはその場所への出入りに制限が掛けられるだけだ。

だが今のような先行きが不透明な状況で、不特定の他人と会わずにいられるプライベートな空間が持てるということは精神的にとても助かることだった。

今は、同室にディエス、隣の部屋にロミオとジュリエットがいるので個人の空間を持つということには失敗していたが。

もっとも、そのことに感謝するとこはあれっても、鬱っとおしく思うことはなかった。

無人となっている家の一階を通り抜け、ギィと音を立てる階段を上る。

階段を上りきってすぐの扉をノックすると、緩やかに扉が開いた。

 

「おかえりー」

 

夕食の途中だったのか、パンを片手に軽い口調で一人の少女が出迎えてくれた。

 

「ああ。ただいま、ディエス」

 

部屋の中に入ると、照明の明かりで窓ガラスに浮かび上がっている自分の見えた。

アバターではない、現実の自分の顔だ。

あの広場での出来事の際にこうなった。

この事件の首謀者と思われている茅場晶彦曰く、プレゼントだそうだ。

これが遊びではないと分からせるための演出なのだとしたら、確かに効果的かもしれない。

 

「どう?そっちは今日なにかあった?」

 

ベットの上に座り込み、広げたあった食事を再開しながらそう問いかけてきた。

 

「この街の周辺はもう何も出てきそうにないですね、これといって楽しい話もありませんでした。ただ少し相談したいことがあります」

 

「今でもいいけど、なに?」

 

「あー、ジュリエットとロミオにも聞いてもらいたいので、後で集まった時に」

 

「了解。あ、夕食たべた?まだだったらこれ食べる?」

 

「いえ、買ってきましたので大丈夫です」

 

部屋に一脚だけあるテーブルに先程買った食料を取り出す。

この部屋には他に私の使っているベットと椅子がひとつあるだけで、広さもビジネスホテルのツイン程度の広さしかない。

以前のアバターならともかく、ネナベであったことがバレてしまって、年頃の少女のディエスには、見知らぬ30過ぎの男性と寝起きを共にすることに抵抗感、もっと言えば拒絶感がありそうなものだが、彼女はそのあたりのことは気にならないらしい。

本心はわからないが少なくとも表面上は、そう見える。

あの広場での出来事のあと、それまでパーティーを組んでいた成り行きで、私たちは四人で揃って広場から離れ、この部屋で一晩を明かした。

次の日になって隣の部屋を確保したが、それ以上この街では寝床として使えるところは全て埋まっていた。

幼なじみであるらしい(ロミオはあくまでただの幼なじみと主張)ジュリエットとロミオに、別れて部屋を使ってもらうか、私が野宿するかと考えていたところ、

 

「いや、このへやでいいじゃん。なにか問題あるの?」

 

と逆にあっさりと問われて、この部屋を使わせてもらっている。

大の大人でも取り乱しているこの状況で、取り乱すことなく、あまつさえ他人にまで気をかけられる彼女には、敬意の念を浮かべずにはいられなかった。

ベットの上に食べ物を広げ、片っ端から食べ散らかしている今の姿を見ると、それもだんだん薄れていきそうではあるのだが。

 

「よくそんなに食べられますね」

 

「んー、確かに大概残念な味だけど、いくらでも食べられるっていうのは、なかなか贅沢なもんよー」

 

次々と食べ物を口に運ぶ彼女は、確かに楽しそうに見えた。

 

「それに、結構な味のバリエーションあるしね」

 

「私は食べなくていいなら、できれば遠慮したいくらいです」

 

先ほど買ったパンを口元へと運ぶ。

あるかないかの仄かな香りとパサッとした食感、それとほんのわずかな苦味。

三日くらい外にだしっぱなにして干からびさせたパンのようだが、確かにここがゲームの中にもかかわらず、本物のパンを食べているような気にさせられる。

茅場晶彦のイカレタ宣言でゲームでの死が現実の死に直結すると言われるようになってから、このゲームに歓迎できないいくつかの変化があった。

そして今そのうちのひとつの状態になっている。

文句を言いながらも、食事を摂っているのもこのためだ。

ゲーム風ににあわせていうなら、状態、空腹あるいは飢餓。

おおよそ、6時間~8時間ほど時間が経過すると、のどの渇きと腹が減ったような感覚がやってくるようになった。

もっとも、これは空腹感を我慢さえできれば放置してもステータスにマイナスとなる要因はなく、餓死という最悪の事態にならないことも、これの解消法に気が付かけなかった一部のプレイヤーの経験からわかっている。

そしてこの状態の解消は簡単だ。

食材、食品アイテムを一定量食べさえすれば空腹感は消えてくれる。

最も安価な食品は1コルから売っており、時間をかけて探しさえすれば街の中でも無料で採取することもできる。

なのでこれだけならばそれほどの事ではなかったのだが、これに追加された味覚のという要素が相まって大きな不満の種となってくれた。

この街で手に入る食事が総じてまずいのだ。

二日目に初めてに食べた最安価のパンは最後まで食べる事を断念せざるを得ないほどの代物であったし、今食べているこの街で最も値の張るものでさえ、現代の食料事情になれた舌には不満の元にしかならない。

食事に関してはこだわりがあったわけではなく、どちらかというと食べられさえすれば不満はない、というスタンスであったのだが、美味いメシというもののありがたみがここに来てわかった。

まずい飯とは日々の生活全体から瑞々しい潤いを奪っていくものなのだ。

水で薄めたようなミルクで、パンを飲み込んで、酸っぱすぎるリンゴをデザートとして今日の夕食を終えた。

コンコンコンと扉がノックされた。

椅子から立ち上がって、扉を開ける。

 

「こんばんわ」

 

「お邪魔する」

 

ジュリエットとロミオの二人が入ってきた。

毎日こうして集まって、情報交換や雑談などを行って過ごしていた。

ロミオがディエスの隣に座り、ジュリエットが椅子腰掛ける。

 

「それじゃあ早速、ジュリエット」

 

「ん、なんだ?」

 

「昨日の続きで、『新歓コンパ16人抜き』の話お願い」

 

「ちょ!?……キョウちゃん!」

 

壁に背を預け座っていたロミオが、はじかれたように驚きの声を上げ、ジュリエット視線を向けた。

 

「あー、なんとなく、つい……」

 

ジュリエットは、ロミオからの視線を微妙に逸らしながら呟いた。

 

「ついじゃ、ないでしょ、ついじゃ。それに、ほらそんな話じゃなくて、もっとこう、今日の報告とか新しい情報とか話し合うことがあるでしょ!」

 

ロミオが気炎をあげる。

 

「まあ、そうですね。まずは今日の報告から」

 

私の短い賛同の声にロミオに笑顔が浮かぶ。

だが、ここは流れに乗っておくときだと判断した。

 

「今日は特になにもありませんでした。私からは以上です」

 

笑顔から一転、裏切られたものの絶望感がロミオから見て取れた。

 

「私は、パース。今日はなんにもなかった」

 

「俺からも特別にはないな。後はロミオ、今日一日一緒だったが、なにかあったか?」

 

「うっ……何も……ないです」

 

その口調からは、悔しさが滲み出ていた。

 

「それじゃあ、ジュリエットお願い」

 

「ちょっとその話なし、やめやめ!」

 

話始めようとするジュリエットを阻止せんと、ベットから立ち上がるロミオに、ディエスが絡みついて止める。

一番年下のはずのディエスに、いいようにからかわれているのは、ロミオがそういう性分なのだろう。

この、ゲームに閉じ込められるというおかしな状況下にいても、こんな空気でいられることの幸運に改めて感謝した。

 

「そういえば、おじさん何か相談事があるんじゃなかったけ?」

 

ロミオの武勇伝と、それに関わるいくつかのエピソードが語られ終わったころに、ディエスがそう尋ねてきた。

夕方、ディエスにああはいったが今までの光景を見ていると、話すべきか正直迷っていた。

あるいは適当な話題で、お茶を濁して終わることも考えた。

だが結局は自分の考えを優先させた。

居住まいを正して、口を開いた。

 

「塔を攻略しようと思う。その計画も考えた。それについて意見が欲しい。そしてできれば3人に協力して欲しい」

 

部屋の空気が張り詰めたものになる。

私はそのまま、その計画の概要と、計画に関して思いつく限りのことを、今は全てを話すことが誠実さだと考え話した。

 

「アタシはその話乗った」

 

話が終わると、ディエスがいつもどおりの軽い口調で賛同してくれた。

 

「そんな即決しなくても、よく考えてからでいいんですよ?」

 

「どうせ、そろそろ攻略には行こうと思ってたし、行くなら、なにかの指針があったほうがいいに決まってる。丁度よかった」

 

ジュリエットは無言で深く考え込んでいた。

そんなジュリエットを、じっと見ていたロミオが声を上げる。

 

「わ、私も、やります」

 

「なっ――」

 

「べ、別にジュリエットの考えの、後押しをしようとか言うのじゃないからね!私がさっき聞いたこと、今までのことを考えて決めたの。さあ、あとはジュリエットだけ。どうするの!?」

 

まくし立てるような早口でジュリエットに問いかける。

ふっーと、ジュリエットがため息を吐く。

 

「お前が行くなら、俺がついて行って、面倒を見なけりゃだろ」

 

そうしてジュリエットも賛同の意を示し、私達の攻略が始まった。

 

 

 

二日後の朝、話し合った攻略計画の始まりとして、私たち4人はパーティーメンバーを募るために街の大通りへと来ていた。

ここは恐らく今現在この世界で最も人口密度の高いところになっている。

一部のプレイヤーたちは攻略の為この街の外へいっているが、それでもいまだ数多くののプレイヤーがこの街にはいた。

元テスターや目端の利くプレイヤーは早々に宿屋等を確保してそこを寝床としていたが、この街の宿泊可能施設にも限りがあった。

あるいは、私たちの様に拠点をシェアできれば、もっと多くの人がが拠点を得られていたのだろうが、なんらかの縁がなければ全くの他人同士にそれは難しいだろ。そうして溢れた多くのプレイヤーが、拠点となっている宿屋や商店の多い大通り に、一人ではいられず、かと言って他人とは肩を寄り添り沿ってはいられず、といった微妙な距離で集まって野宿を行っていた。

 

「この辺りですかね。じゃあ、行ってきます」

 

これから始める事を思うと気分が重くなる。

有るはずのない胃が痛んでくるような気がして、おもわず胃薬が欲しくなった。

 

「いってら『ちょっと待った』」

 

ロミオとジュリエットの声をディエスが声高に遮る。

 

「ダメダメだね」

 

何故かちょっと得意げにダメ出しをするディエスに三人の視線が集まった。

 

「鏡が無いのが残念なくらい辛気臭いな顔してる。そんな顔じゃあ、誰もやってこないね」

 

その言葉に釣られて手のひらが自然と頬にいく。

 

「んー、確かに……」

 

渋い顔でジュリエットが控えめな同意を上げた。

 

「そんなにひどい顔してましたか?」

 

「リストラされたことを家族に伝えられずにいる、公園でブランコに乗ってる人って顔だね」

 

やたらと具体的な事例を挙げてきた。

思わずかぶりを降る。

 

「それは――確かにひどい顔だ。ところで……そうだな、その人はまだ公園にいると思いますか?」

 

「んにゃ。テレビドラマで見ただけだからね」

 

「それはなにより」

 

投げやりな感想を述べながら、妻と娘のことを思い浮かべる。

そうやって自身の中にあった暗く重い感情を隅に押しやりニヤっと笑みを浮かべた。

 

「こんな顔でどうですか?」

 

「んー、合格。いい顔になった。あと二十年若かったらオトモダチから初めてあげてもいいよ」

 

「……顔で男と選ぶのは感心しません。それと私まだ30歳です」

 

ディエスの軽口を流しながら、幾分軽くなった気持ちで大通りへと足を進めた。

 

「『あー、外に一緒に狩りに行く方を募集します。こちら4人パーティーです。経験のない方でもO

 

Kでーす。ご一緒ににいかがですか~?これから狩りに――……』」

 

まるで、学生時代の呼び込みのバイトだなと思いながら声を張り上げる。

何度か同じようなことを繰り返し呼びかけたあと、あたりを見渡し反応を伺う。

この通りにいるプレイヤーの耳には届いてはいたようだが、名乗り出てくるプレイヤーはいなかった。

ひと呼吸ついて、再び声を上げ通りを歩く。

成果は上がっていないが反応は悪くないと思う。

いくつかの好奇心の混じった視線を受けながら、区画一つ分を過ぎたところで最初の成果が上がった。

 

「すいません。少しよろしいですかな?」

 

声を掛けてきたのは壮年と老齢の間といった年齢の、しかし闊達そうなプレイヤーだった。

 

「はい。ええと、なんでしょう?」

 

「ご一緒させてもらえればと思ったのですが、行く先などはもう?」

 

「ええっと。一つ先の村近辺のモンスターを、と」

 

「なるほど。それと、全くの初心者なのですがそれでも……?」

 

「はい。構いません」

 

努めて明るく答える。

さらにいくつかの問いを受け答えをすると相手は満足げに頷いた。

 

「それでしたら、一つパーティーを組ませていただけますか?」

 

相手から望んでいた言葉が出てきた事に、自然と笑みが浮かんだ。

 

「是非に。よろしくお願いします」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。私の名前は……」

 

そう言いかけてから、彼は何かを考えるような素振りを見せたあとに、堪え切れないといった様子で肩を震わせて笑い始めた。

 

「……どうかされました?」

 

「し、失礼……」

 

周りと自身を見回し始めた私に、笑いを収めながら手を挙げてこちらを制してきた。

 

「この顔が元に戻るまでは大して気にもしなかったのですが、この年になってこんな名前を名乗る自分が想像以上に愉快でして」

 

「はっはっは、確かに。ですが、それならこれからもっと愉快なことになりますよ。なにしろ、剣を持ってモンスターを狩りに行くんですから」

 

「なるほど、その通りですな。ジークフリートといいます。……改めてよろしくお願いします」

 

そのあとも、ジークさんを連れだって通りを一廻りしたが、あとひと押しが足りないのかそれ以上の人は集まらなかった。

そのまま三人の元に戻り、ジークさんを紹介した。

予想以上に集まりは悪かったが、誰も落胆することな言葉を挨拶を交わしていく。

 

「それじゃあ、次はアタシ達の番かな」

 

「はい」

 

ディエスは腕まくりをしてやる気をみせ、ロミオは口元を引き締め意を決したという顔をしていた。

 

「あの……あれは?」

 

「人の集まりが悪かったので、追加の募集をと思いまして」

 

黄色い声を上げパーティーの募集を始めた少女二人を見て、ジークさんに理解の色が浮かび、面白そうに笑い始めた。

 

「くっくっく、なるほどなるほど。これなら私もこちらに釣られるべきだったですかな」

 

このご老人は、見た目以上に中身もまだ若いようだった。

 

「釣られるなんて人聞きの悪い。ただ、私のようなおじさんよりも、彼女たちのほうが名乗り出るに楽かとは思いますが」

 

程なくして二人が10人ほどの人を、引き連れて戻ってきた。

半数以上はディエスが、強引に引っ張ってきていたように見えたが、今回は気にしないことにした。

これから行く狩りの内容などを説明すると、二人ほどが無言で立ち去っていったが、それでもほとんどの人は残ってくれた。

総勢12人、丁度よく2パーティーを組み、装備や経験の有無を確認した上で街を出発した。

目標は1日目と同じく《ビック・フレンジー・ボア》だ。

雑談を交えながら、ややゆっくり目に草原を走る。

多少時間が掛かりながらも、目的地についた。

下調べは昨日のうちに済ませてあり、仕様の変更がないことは確認済みだ。

 

「それじゃあ、まずは私のパーティーでやってみます。そちらのパーティーの方々はみていてください」

 

そう言って《ボア》と相対する。

今回は私の後ろに、二人の初心者プレイヤーがおり、《ボア》を挟んだ向こう側には両手剣から、片手剣と盾に持ち変えた、ディエスを含めた三人のプレイヤーがいる。

 

「いきます」

 

私は掛け声を上げ、《ボア》に切りかかり、そのままやってきた《ボア》の反撃を盾で受け止めた。

 

「アタシたちもいくよっ。さっき言ったとおりに、最初はアタシと同じ場所からスキルを撃つだけでいいから」

 

私が盾で受け止めた事をみて、ディエスが攻撃に移り、その後ろにいたプレイヤー達も遅れて攻撃に参加した。

二人のプレイヤーの当たったり当たらなかったりの攻撃に、ディエスも合わせていたが、やがてターゲットがディエスへと向かった。

 

「本業じゃあないけど……うっし、来い」

 

盾を構えて、攻撃を受ける。

 

「今度はこちらの番です」

 

ディエスたちと同じように攻撃を始める。

一日目に私達がロミオに取った作戦を、より突き詰めた形になる。

お手玉をするように、攻撃を繰り返し、多少の時間はかかったものの、程なく《ボア》を倒すことができた。

 

「お疲れ様でした。それじゃあ、次はそちらのパーティー」

 

「おう、任しておけ」

 

同じく盾を持ったジュリエットが自信ありげに頷く。

こちらは、ジュリエットと参加者の中に一人だけいた経験者に盾役をお願いしていた。

最悪ロミオに盾を持ってもらうことも、想定していたのでこの点は幸運だった。

こちらも問題なく終わり、本格的に狩りを始めた。

最初は全員がおっかなびっくりといった、ぎこちない動きだったが、それぞれの盾役がカバーに入り危険がないことがわかると、その硬さも次第消えていった。

そして、攻撃のコツを掴み、レベルやスキルが上がってきた頃には、心なしか余裕すらが感じられるようになった。

太陽が南中に達しようとするくらいで、予定通り一度街に戻ることにした。

もう少しできる、という声も上がったが今回は遠慮してもらった。

クエストを精算し、近くの村へ。

そこから転送ポータルを利用して街にもどる。

転送にも料金がかかるが、今日の狩り分で十分に支払える。

ほどなく、街で朝募集をかけた場所まで戻ってきた。

 

「今日はありがとうございました。久しぶりに気分が晴れましたよ」

 

ジークさんが、言葉通り晴れ晴れとした顔でそういった。

 

「いえいえ、こちらこそ。それと、もうしばらく付き合ってください」

 

こちらの意味ありげな言葉に、好奇心を刺激されたようだった。

そこへ、ディエスがやってきて一個のパンを渡してまわった。

パン自体はこの街で売っている、普通にまずいパンだ。

狩りに行った全員に、パンを渡し終わると、あたりに聞こえるように声を上げた。

 

「はーい、皆さん狩りお疲れ様でしたー。ここでお得な情報をひとつ。何も言わずに今渡したパンに、クエストでもらったクリームをつけて食べてみてー」

 

自らも率先してパンを食べ始める。

そして、言われるままにほかのプレーヤーたちも食べ始めると、全員が感嘆の呻きを上げた。

そして立ったまま感嘆の声を上げながらパンを食べる、シュールな集団ができていた。

甘いクリームで好みはあるだろうが、食べ難いパンから食べられるパンへと変わっていた。

この街の食事情からすれば、十分にうまい部類に入る。

 

「パンはそこらの店で売ってるから、まだ食べたい人は買って食べるといいよ」

 

話は以上と、自分もパンを再び食べ始める。

そこへ周りで話を聞いていた一人のプレイヤーが駆け寄ってきた。

 

「な、なあ。もしよかったら俺にも、それひとつ分けてくれないか?」

 

「んー、タダで?」

 

「……」

 

プレイヤーが押し黙る。

 

「一応これ、外で危険なモンスターを倒して取ってきたもんなんだけど」

 

ディエスが若干高圧的な態度で告げる。

 

「物々交換でもいいけど、なにかもってる?」

 

「あー、いや、特に……」

 

ディエスは考えるそぶりを見せたあと、少し優しげに続けた。

 

「仕方ない、なら少しついて来て。無いなら手に入れるしかないでしょ」

 

「えっ、え?」

 

うろたえるプレイヤーを強引に連れていく。

彼女が向かった先は、街中を回るだけで報酬が貰えるいわゆるお使いクエストの一つだ。

ほどなくクエストを終えたふたりが戻ってくる。

 

「はい、これ報酬でもらったポーションと交換ね。……数?こっちは一つだけ出すからそっちはいくつでもいいよ。あとこれおまけのパン」

 

交換を済ませたプレイヤーがパンを食べ、また嬉しそうな声を上げた。

そこでジュリエットが声をかける。

 

「他にもこれが欲しいというのがいたら、クエストから付き合うが?」

 

その言葉にまた、何人かのプレイヤーが集まってきた。

 

そして最後に私がこう告げた。

 

「また、午後から狩りの募集をします。興味ある方は是非にー」

 

そうして、ほんの少しではあるが停滞していた世界が動き始めた。

 

 

 

 

 




次話 攻略を始める話2
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