終戦後の艦娘たち   作:青色3号

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この愛おしき故郷の地で-Jervis-

最終便のチャーターバスの出発時間が近づいていた。ディーゼルエンジンのアイドリング音をBGMにウォースパイトはジャーヴィスと向き合う。白のブラウスとベージュのロングスカートという私服姿のウォースパイトと見慣れた青白基調の制服姿のジャーヴィス、その対比が鎮守府を去るものと残るものの対比を表しているかのように思える。一歩ジャーヴィスに近づき、ウォースパイトは言葉ジャーヴィスに向ける。

 

 

「それじゃあ、そろそろ行くわね。Jervis」

 

「はい…Ladyも、お元気で」

 

 

別れを惜しむものはウォースパイトだけではない。それまでウォースパイトの隣で泣きそうな顔をしていたジェーナスがジャーヴィスに駆け寄ってその華奢な身を抱きしめる。

 

 

「Jervis!」

 

「Janus…これが、永遠のお別れじゃないわ。生きてさえいれば、いつか会える」

 

 

ジェーナスの身体を抱きしめ返しながらジャーヴィスは儚い約束の言葉ジェーナスに向ける。戦争が終わり、祖国に帰る艦娘たち。それを見送るジャーヴィス。ジャーヴィスがこの国に残る決心をした理由はその光景を一歩引いたところから見つめている若き海軍将校の存在。

 

 

「行こう、Warspite」

 

「ええ、Ark…それでは、Admiral。長い間、お世話になりました」

 

 

アークロイヤルに促されウォースパイトはバスの客となる。それを合図にしたかのようにジェーナスがジャーヴィスの身体から離れ、涙でぐしゃぐしゃになった顔をジャーヴィスに向ける。最後の言葉を探して、でもそんなものは見つからないまま、ジェーナスはジャーヴィスにひとつ頷くとバスに乗り込む。

 

 

 

 

 

 

やがて、バスが走り出す。小さくなっていくバスをジャーヴィスはいつまでも見送る。バスが見えなくなっても、なおその場を動こうとしないジャーヴィスに提督は近づきその薄い肩を抱いて語りかける。

 

 

「行っちまったな」

 

「…ええ」

 

「本当に良かったのか?みんなと一緒に、帰らないで」

 

「私の帰る場所はここよ」

 

 

目を閉じ、自分の肩を抱く提督の掌のぬくもり感じながらジャーヴィスは付け加える。

 

 

「Darling…あなたが、私の港」

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日、深海棲艦はその姿を消した。

 

 

もう何度目になるかわからない大規模作戦、しかしその作戦を期に深海棲艦は急速にその勢力を減じていった。瞬く間に出現個所を減らし、個体数を減らし、いくばくもせず世界の海からいなくなった。

 

 

数か月後、各国政府は「深海棲艦との戦争終了」を宣言した。

 

 

艦娘たちを待っていたのは鎮守府の施設を目的替えしての半年間の社会復帰プログラムだった。海の上で、あるいは工廠で生を受け、生まれ落ちたときから艦娘としての戦いの日々を送ってきた彼女たちに与えられた教育プログラム、その中で基本的な社会知識を教え込まれた後、彼女たちは鎮守府から離れ、各地にそれぞれ居を構える場所を与えられ散っていった。

 

 

ウォースパイトたち海外艦娘が祖国に帰って数か月、とある中学校の教室―――紺のブレザーと濃緑基調のチェックのスカートの制服を纏い、他の生徒とは明らかに異質なブロンドのロングヘアを持つ碧眼の少女に同級生が呼びかける。

 

 

「ジェシカ!」

 

 

戸籍名にはまだ慣れていない。だから、反応が少しだけ遅れた。ジェシカと呼ばれた少女は自分を呼んだショートカットの同級生に机から顔をあげて応える。

 

 

「ああ、キョーコ…どうしたの?」

 

「ジェシカ大丈夫?なんだかぼーっとしてるよ?…隣のクラスの豊田君が、あなたに用だって」

 

 

言われてジェシカは机に座ったまま教室の前のドアに顔を向ける。少し顔をこわばらせた学生服姿の少年の様子が遠目にも分かって、ジェシカは少し首をかしげる。軽やかな身のこなしで椅子から立ち上がりジェシカは少年のところに向かう。

 

 

ジェシカ・カニングス―――否、戦後その名を戸籍名として貰い受けたJ級駆逐艦娘・ジャーヴィス。その彼女は自分に用があるという少年に近づくと親し気な口調で話しかける。

 

 

「What's the matter、どうしたの?」

 

「ああ、カニングス…君に、話があって…」

 

 

ここじゃなんだから、という少年の言葉に従ってジャーヴィスは少年の後を追うようにして廊下を進み階段を登る。校舎内のざわめきの届かない屋上で少年はジャーヴィスに向き合い、しばらくためらった後にジャーヴィスに向けて一気に言い放つ。

 

 

「君が、好きです!つきあってください!」

 

 

少年の爆発しそうな顔色が伝染ったようにジャーヴィスの頬も朱に染まる。驚いてその大きな瞳を見開いていたジャーヴィスだが、やがて目を伏せると申し訳なさそうに小さく呟く。

 

 

「Sorry、ごめんなさい…私、もうつきあっている人がいて…」

 

「そうなのか…」

 

 

力の抜けた声で呟く少年の放った質問は、至極自然なものだった。

 

 

「どんな、奴?カニングスのつきあっている人って」

 

「海軍の、中将さんで…」

 

「え!?」

 

 

気色ばんだその声にジャーヴィスは思わず顔を上げる。驚いた、というより愕然としたといった様子の少年の顔にジャーヴィスはようやく自分が何を言ったかを知る。

 

 

「あ、でも、中将と言っても若いのよ?まだ歳は…」

 

「それにしたって!海軍将校ってことは、大人だろう!?」

 

「そ、それはそうだけど…」

 

 

何も悪いことはしていないはずなのに、真実を告げただけなのに、なぜ自分は守りの姿勢に入っているのか。その理由もよくはわからないままジャーヴィスはただ少年が納得してくれるよう儚い望みをつなぐだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーん、そりゃあねえ…男子中学生には、刺激が強すぎたかもねえ…」

 

 

ダイニングテーブルに肘をついて頬を支え、空母艦娘・飛龍は向かいに座るジャーヴィスにそんな言葉向ける。飛龍とジャーヴィスと共同生活をマンションで営む蒼龍が眉をひそめて隣に座る飛龍にツッコむ。

 

 

「ちょっと飛龍、もう少しマジメに聞いてあげなさいよ。その男子の反応にジャーヴィスちゃんもショックを受けちゃったんだから」

 

「でもねえ~。中学2年生でオトナの殿方とおつきあいってのは多感なお年頃の少年にとってはちょっと刺激が強いわよ。提督って、今何歳だっけ?」

 

 

飛龍と蒼龍―――それぞれ"飛田琴美"と"蒼井琴音"という戸籍名を貰い受け都内の大学に通う身になった二人の前でジャーヴィスは小さな身体をますます小さくして囁くような声を出す。

 

 

「Darlingと…Admiralと、おつきあいしているのは、悪いことなの?」

 

「そんなことはないわよ?ふたりがおつきあいしているのは鎮守府にいたころからだし、みんな祝福していたし…ただねえ、ジャーヴィスが“中学生”の身分になった今、人によっては『援交』とか『パパ活』とか言い出しかねないからねえ…」

 

「ちょっと飛龍!」

 

 

気色ばんで蒼龍が飛龍の方に身を乗り出し舌鋒向ける。

 

 

「失礼じゃない、提督とジャーヴィスちゃんに!ふたりはマジメにつきあっているのに!」

 

「私が言うわけじゃないわよ。口さがない連中の中にはそういうことを言い出す奴もいるかもしれない、って話」

 

 

飛龍の言葉が胸に刺さる。海軍将校と中学生、その以前はなかった身分差がいきなり目の前に高い壁となってそそり立つ。その壁の越え方も分からぬままジャーヴィスは大きな瞳を不安に揺らしただ言葉なくすだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

軍人の仕事には基本切れ目はない。したがって、その休みも土日祝とは限らない。なのでジャーヴィスが10日ぶりくらいに提督と会えたのは、平日の放課後のことだった。

 

 

「Darling!」

 

「おお、ジャーヴィス。どうだ、学校での調子は?」

 

「…順調よ」

 

 

学校と家の通学路の途中にある喫茶店で提督の前の席に腰を下ろすジャーヴィスの答えが一瞬遅れたのは“学校”という単語に反応してしまったから。そんなジャーヴィスの些細なわだかまりには気づけぬまま、紺のジャケットとベージュの綿パン姿の提督はティーカップを持ち上げつつジャーヴィスに問う。

 

 

「今日は、制服姿なんだな」

 

「家に帰ったら遅くなっちゃうから学校から直接来ちゃった。いけなかったかしら?」

 

「いや、そんなことはないが…」

 

 

珍しく言いよどむ提督の様子にジャーヴィスが何か言う前に、提督がジャーヴィスに一言問う。

 

 

「ジャーヴィスは、何歳って話になったんだっけ?」

 

「…13歳」

 

 

その言葉がひどく重く感じられて、その言葉が自分と提督を隔ててしまうような気がして、ジャーヴィスは俯き絞り出すようにして答える。海の上で、あるいは工廠の金属チューブから産まれ、産まれた時からその姿を持つ艦娘たちに“年齢”を与えたのは戦後の艦娘社会復帰プログラムの担当官たちが行った“査定”だった。見た目と振る舞いなどからかなり大雑把に艦娘ひとりひとりに対して社会ステージの割り当てが行われ、ジャーヴィスもまた中学2年生という身分と13歳という年齢を与えられていた。

 

 

「あ、でも9月には14歳になるのよ!それに、鎮守府にいたころはちっとも見かけが変わらなかったけれど最近は背も伸びて…」

 

「俺は、来年の3月で30になる」

 

 

身を乗り出すようにして勢い込むジャーヴィスの言葉を折るような提督の一言。その言葉をどう受け止めればいいのか、自分に受け止められるのか、分からぬまま言葉失くすジャーヴィスの前で提督はそれ以上の言葉を放つこともなく無言で紅茶を口に運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

喫茶店を出て、駅近くの駐車場を目指す。提督の後について、駐車場の一角に停められたスポーツタイプのベンツに歩み寄る。提督がドアを開けてくれるのに従って助手席に腰を下ろす間、ジャーヴィスには何を提督に語り掛ければいいかわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

提督の運転するベンツはマンションの地下駐車場に滑り込む。結局、車内でも何もお話しできないままだった。いつもだったら、いくらでもお話しすることは思い浮かぶのに。いつもだったら、ふたりとも会っている間は笑顔が絶えないはずなのに。そんな思いに悲しさと焦りを感じるジャーヴィスを誘い、提督はジャーヴィスをエレベーターに乗せた。

 

 

 

 

 

 

 

マンションの一室、初めて足を踏み入れる提督の自宅のリビングにジャーヴィスは立つ。戦時中は鎮守府の一角に居室を与えられていた提督も戦後は市内のマンションに居を構えるようになっていた。男一人の所帯だけあって物が少ない、でもそれだけ片付いているリビングに立つジャーヴィスに提督は後ろから近づくとその肩を抱き自分の方に振り向かせる。

 

 

「ん、…」

 

 

上を向かせ、その桜色の唇を塞ぐ。ジャーヴィスが目を閉じ提督を受け止める。その小さな身体を抱き上げ、提督はジャーヴィスを寝室に運ぶ。

 

 

 

 

 

 

静かにベッドにジャーヴィスを横たえる。期待と少しの怖さ、恥ずかしさがジャーヴィスの全身を駆け巡る。目をきゅっと閉じたジャーヴィスの上に覆いかぶさると、提督はジャーヴィスの肢体に掌を這わせる。

 

 

 

 

 

厚手のブレザー越しに提督の手の感触が伝わる。最初わき腹を撫でていた掌は、ジャーヴィスのお腹に移動し、そのまま上へ上へと這い進む。まだ発育途上の未熟な乳房に手がかかろうとしたところで、提督の動きが止まる。

 

 

「…Darling?どうしたの?」

 

 

いつもとは違う提督の様子にうっすらと目を開けたジャーヴィスの視界に映ったのは、困惑したような提督の表情。ジャーヴィスがそれ以上何か言う前に、提督の唇から思わずといった感じで言葉が漏れる。

 

 

「中学生…なんだよな…」

 

 

ガン、と頭を鈍器で殴られたような気がした。ショックを隠せないジャーヴィスから提督は起き上がり身を離す。そのまま背中をジャーヴィスに向け、提督は背中越しにジャーヴィスに言う。

 

 

「すまん、ちょっと用事を思い出した…送るから、今日は帰ってくれないか?」

 

 

見え見えのその言葉に、突っ込む気も起きなかった。のろのろとジャーヴィスは身を起こし、乱れた制服を直しながら、その制服の重く固い感触を呪った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰りの車中でも無言の時間が流れた。窓の外に流れる景色を見つめながら、ジャーヴィスには自分が何をするべきか分かっていた。もう、この人に重石は乗せられない。もう、この人の重石にはなりたくない。もしかすると、こうなることをもっと前から知っていて、そのことから目を背けていたのかもしれない。でも、もう見て見ぬふりはできない。自分の最も大切な人に、自分は自分のできることを、唯一できることをしなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて、ジャーヴィスの住むマンションの前に車は停まる。ジャーヴィスの座る助手席のドアを開けながら提督がジャーヴィスに声をかける。

 

 

「着いたぞ」

 

「ありがとう」

 

 

車から離れ、提督に背を向ける。自分がマンションのエントランスに消えるのを見送るつもりだろう提督に背中を向けたままジャーヴィスは言葉紡ぎ始める。

 

 

「ねえ、Admiral…私、本当に学校生活は順調よ?お友達もたくさんいて、楽しいの」

 

 

自分の肩が微かに震え始めるのを感じながらジャーヴィスはさらに言葉続ける。

 

 

「こないだなんか、隣のクラスの男子に告白されちゃった。Admiralがいなくなっても、すぐboy friendくらい見つかるわ」

 

 

少し舌足らずの自分の声が細かく震えるのを感じながら、それを疎ましく思いながら、ジャービスは言葉更に紡ぐ。

 

 

「私は、ひとりでももう大丈夫…だから、Admiral…」

 

 

そこでジャーヴィスは身を振り向かせ、提督に笑顔向けながら、涙に濡れた清浄で悲しい笑顔向けながら、最後に言葉放つ。

 

 

「…別れよ?」

 

 

それが、ジャーヴィスの限界だった。「さよなら」も「今までありがとう」も言えなかった。くるりと身を翻し、溢れ出す嗚咽も止められぬまま、ジャーヴィスは提督から駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何日前の話だろう、覚えていない。いくつの夜、枕を涙で濡らしただろう、覚えていない。ただ、日々は過ぎていった。ジャーヴィスの横を、時間は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

変わるものもあれば、変わらないものもある。いつもと変わらぬ、すっかりジャーヴィスにとって日常となった学校生活を終え、ジャーヴィスは中学の校門を潜る。と、黒塗りの高級車がジャーヴィスの目の前に停まる。車を降りた運転手―――濃紺の海軍制服姿―――が開けたドアから姿を表した人物の正体を捉えた瞬間、ジャーヴィスの呼吸が止まる。

 

 

「ここまででいい。基地には、自分で戻る」

 

「しかし、中将閣下…」

 

「ここまででいいと言っている」

 

 

純白の海軍将校制服、肩章の示す中将の階級。忘れようもない、一瞬たりとも忘れられたことのない深い眼差し。ジャーヴィスの想い人―――今なお、想い人。

 

 

「ジャーヴィス、」

 

 

威厳ある海軍将校の制服を纏った、迷子の子供のような不安げな表情をした青年。その揺れる瞳がジャーヴィスの姿を捉える。射すくめられたように動きの取れないジャーヴィスに提督はただ一言向ける。

 

 

「…ちょっと、時間をもらえるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

駅前からタクシーに乗ったのは覚えている。それぞれ制服姿の海軍将校と金髪碧眼の女子中学生という組み合わせに好奇心を刺激されただろう運転手がちらちらとバックミラーを覗いていたのも覚えている。それ以上のことは思い出せないままにジャーヴィスは海岸に連れてこられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

砂浜に押し寄せる波が、一定のリズムで波音を響かせる。海風が、ジャーヴィスの長いブロンドヘアを靡かせる。ふたり、水平線に向かって波打ち際に立ち、海風に身を任せる。どれだけの時が経っただろう、ようやく提督が口を開く。

 

 

「悪かったな、突然」

 

「…ううん」

 

「この一週間、ずっと考えてた…どうしたら、ジャーヴィスを取り戻せるかを」

 

 

勢いよく顔を上げ、隣の提督を見上げる。ジャーヴィスの視線を頬のあたりに受けながら、提督が呻くように言葉続ける。

 

 

「わかっている…未練だ、って。俺はもう、ジャーヴィスにとって重石でしかないんだって。それでも、あまりに勝手だけど、わがままだけど…」

 

 

そこで一度言葉切り、提督は苦しげな顔ジャーヴィスに向け、その瞳まっすぐに見つめながら告げる。

 

 

「…俺には、ジャーヴィスが必要なんだ。ジャーヴィスがいなくちゃ、ダメなんだ。許されないのかもしれないけれど、未来ある少女相手に許されることじゃないのかもしれないけれど…」

 

 

気づけば、ジャーヴィスは首を振っていた。溢れる涙拭うこともせず、ただ首を左右に振っていた。その唇から、言葉漏れる。抑えきれない、言葉漏れる。

 

 

「私が、darlingの重石になっているんだと思っていた…私が…」

 

「…なんで?許されないことをしていたのは俺だ。戦時中、何度もお前らを死地に送り込んで、戦争が終わってからも、お前を、ようやく未来を手に入れたジャーヴィスを自分に縛り付けて…」

 

「縛り付けられてなんかいない!」

 

 

甲高い声でジャーヴィスは叫ぶ。まだ幼い、舌足らずな声で、必死に叫ぶ。

 

 

「私には、darlingが必要なの!Darlingがいなくちゃ、私はダメなの!…私が重石になっているんだと思った、だから別れようと思った、だけど別れることなんでできるはずなかった!」

 

 

ああ、

 

 

なんで、

 

 

なんで、この人と別れられるなんて思ったんだろう。

 

 

なんで、この人と離れられるなんて思ったんだろう。

 

 

 

思い返せばあまりに明らかな真実、その真実にジャーヴィスは打ちのめされる。愛しくて、愛しくて、愛しくて、この人から離れるなんてできるはずもなくて。

 

 

 

 

 

小さな身体をぶつけるように、ジャーヴィスは提督にしがみつく。ゆっくりと提督の腕がジャーヴィスを受け止め、抱き寄せる。冷たい海風からジャーヴィスを守るように、その小さな存在を抱きしめる。

 

 

 

 

この腕の中を、終の棲家と定めよう。カモメが、港と添い遂げるように。あなたが、私のただ一つの港。ここが、私の故郷の地。

 

 

 

 

そうジャーヴィスは心に刻む。二度と、愛しいもの見失わないと誓う―――

 

 

 

 

 

 

 

 

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