異世界ツクール   作:昆布 海胆

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第21話 現実は常に苛酷

「ヤバイー!」

 

メールがゴンザレス太郎のスキルで戻ってきたヤバイに抱き付く!

何が何だかよく分かってないヤバイはキョロキョロと見回し、一同の拍手の中困惑した表情のまま頭をポリポリ掻いている。

 

「あれっ?俺、確かあの天使どもと戦って…」

 

そのヤバイの口をメールが口で塞ぐ!

突然の行動に周りから「おー」とか関心の声が上がった。

 

「ヤバイ、私やっぱりあんたが好きなんだ!お腹の中の子供と3人一緒に暮らそっ!」

「はっ?えっ?んへぇ?!」

 

戦いで死を覚悟して、気付いたら突然メールに抱き付かれ、そのままキスされて突然の告白に子供が出来た発言、そしてプロポーズとフルコースで迫られたヤバイの頭の中はまさしくヤバイ!

 

「おっ俺の子か?!」

「そうだよ、あの時の子だよ」

 

どの時だよと突っ込みが入りそうでヤバイ。

お子様にはちょっと刺激の強い話が続きそうなので、ゴンザレス太郎は次の人をスキルで戻す。

 

「デニム…あぁ、大丈夫なの?」

「大丈夫っとはこれじゃ言えないな、もう冒険者は引退をしなくてはならないだろう」

「いいよ、私のために戦ってくれた結果だろ?私が養ってやるよ」

 

こっちはこっちで宜しくやってるみたいなので次の人に移るゴンザレス太郎…

どうでもいいがジルの魔力なら、デニムの傷ぐらいであれば直ぐに全快出来る回復魔法が使えるってのは言わないでおこう…

 

そうして、次々と消された人もどっちか分からない人もゴンザレス太郎はスキルで出して一同はその時を心待ちにする。

そう、全員がゴンザレス太郎がフーカを復活させるのを待っているのだ。

だがゴンザレス太郎には一つの予感があった。

誰にもそれは言えず、遂に最後のフーカを呼び出す時が来た。

 

「いいのよゴンザレス太郎、私はフーカも好きだから」

 

サラはゴンザレス太郎の考え込んでいるのを少し勘違いしているようである。

だが見当違いのサラの言葉に笑顔で頷いてスキルを発動させる。

 

「スキル『プロアクションマジリプレイ』発動!」

 

もう慣れた手付きで項目の中からフーカを選びそして、決定を押す。

次の瞬間、目の前に出現した赤と黄色のオッドアイがゴンザレス太郎を見ていた。

周りからは歓声が上がるが、ゴンザレス太郎だけはその目を見て気付いてしまった。

そして、彼女から出た一言で場は凍りつく。

 

「貴方、誰?」

 

ゴンザレス太郎は分かった。

いや、分かってしまった。

そして、周りに居た人だかりの中で見ていた彼女の姿を見つけてフーカは飛び出す。

 

「シズクー!良かった。生きてる、シズクが生きてる!」

「えっ?ちょっと、フーカさん?」

「なによシズク?いつもみたいにフーカちゃんで良いのよ」

 

そうなのだ、ここに居るフーカはゴンザレス太郎とずっと一緒に居たフーカではなく…

最初の転生タイムリープを行う前のフーカなのだ。

 

「ちょっとフーカ!ゴンザレス太郎にお礼くらい言いなさいよ!」

 

流石に様子がおかしいと感じたサラがフーカに詰めかける、だがそんなサラに冷たい視線を向けて彼女は伝えた…

 

「ゴンザレス太郎?なにその変な名前?あの人タツヤだよ。もしかして偽名使われてるの?!」

「フーカ、あなた…」

「サラ、良いんだ。もう、良いんだ…」

 

ゴンザレス太郎は涙を堪えながらサラにそう告げる。

今のフーカは歴史を繰り返す前の記憶しかなく、ステータスもその時のものである。

下手すればサラの身体能力でちょっとしたことで大怪我をするかもしれないというのもあった。

 

こうして、心ない天神が魔海一面に浮かぶのをそのままにして、一同は魔物の町へ帰還し翌日住んでいた町に戻して貰うことになった。

 

勿論フーカの豹変振りにクラスメイトも驚き、記憶の差異を埋められないままゴンザレス太郎達の説得で彼女は学校にまた通う事となった。

町に帰ってからは記憶がおかしくなっていると本人には説明し、本当の両親の住んでいた家はこの世界には存在せず育ててくれた老夫婦の元へ連れていき事情を説明した。

 

そして、ゴンザレス太郎は帰宅後数日間両親と共に暮らし、フーカと顔を合わせる事が無いように旅に出る決心をした。

あれから時が流れたが、神は何処へ行ったのか分からないままなんの音沙汰も無いので警戒する必要も無いだろうと言う一同の結論であった。

ゴンザレス太郎が一人向かったのは以前話を振ってくれたSランク冒険者『猛激のタイガ』の元で、そこでしばらく厄介になりそのまま消息が途絶えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「これでどうかな?」

 

表示されたメーターが右端まで行き画面に『アップデートが完了しました』と表示され、満足げに頷くのは白い空間に白い姿で居る神マリスであった。

 

「あれからもう10年くらい経つし、流石に人類は全滅してるだろうから新しく世界を作り直すかな」

 

心ない天神達を異世界に放置して、滅ぶのを待っていたマリスは思い出したかのように異世界のアップデートを完了させる。

それはあの世界にユニークスキルを3つ以上持ってる存在は居ないと言う証明でもあった。

そう、フーカのユニークスキル『転生タイムリープ』はシズクが生きているため消滅したのであった。

 

「しっかし、人間が絶滅しないと新しい世界を作り直せないなんて不便な仕様だよな~」

 

愚痴りながら世界のフォーマットを選ぶマリスだったが、表示されたのは『エラー!人間が存続しているためフォーマット出来ません』と表示された。

 

「えぇ?!嘘だろ!心ない天神達が蹂躙している世界で10年も生き続けてるなんてどんだけだよ!?」

 

驚くマリスであるが異世界をリセット出来ないのにかわりはなく、仕方無く様子を見るためその世界を覗いて驚きの声を上げるのであった。


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