「た・つ・や」
フーカによって首を無理やり捻られて意識を失っている間にキスをされたゴンザレス太郎は、意識を取り戻したら何故かフーカが抱きついていて、目の前でサラが肉眼で確認できるくらいの赤いオーラを笑顔で発していた。
「ちょっと待てサラ、俺は何もしてないぞ!」
「うん分かってる。言い訳は聞かないわよ」
「何も分かってねぇ?!」
慌ててサラを止めようとした時にサラの赤いオーラが一瞬で消える。
その現象に3人の表情が同じ方向を見た。
「そこまでにしておけ、ギルド内での揉め事はご法度だぞ」
そこには先程のあの男が立っていた。
ゴンザレス太郎達を離れた場所で見ていたのは妄槍のデルタである。
サラの魔力のオーラを一瞬で消したのは目の前の男の仕業だと理解したゴンザレス太郎、フーカの背中に手を回し一応守りつつ戦いの体勢を・・・
「だから待てって!」
ゴンザレス太郎はそれを避けた。
目に見えないそれは空中で飛散したのか壁に当たる事無く消える。
そう、これが妄槍のデルタの異名の原因となった魔力で作られた見えない槍であった。
その効果は『固形で無い物を食らう』である!
周りの一同にはゴンザレス太郎がよろけた様にしか見えなかったのであろうが、既に攻防は始まっていた。
「一方的に攻撃を仕掛けておいて待てってのはどういう了見ですか?」
「ん?あぁ今のが見えたのかお前?大丈夫だ、当たっても単なる沈静効果があるだけだから」
「一般的にそれを攻撃を受けたと言うのですがね」
「ま、まぁそうだな。とりあえず気を取り直して・・・」
そう言うと男は決めポーズを取りながら語る!
ダブルパイセップスで胸筋をアピールしながら笑みを浮かべる男は名乗る!
「我こそはニーガタの町を守るSランク冒険者『妄槍のデルタ』である!」
デニムさんとはまた違ったどちらかと言うと、遊び人と言った感じのその男がデルタだと聞いてゴンザレス太郎は予想通りと考えた。
あの射程距離を攻撃範囲にしているのに手ブラで居たその時から気にはなっていたのだが、サラの魔力で作られたオーラが消えたと言う事はデルタは魔力を喰らって力を付ける事が出来る!
「ほぅ、その目はなにかを理解したようだな。」
「別にこちらから危害を加えようとする気はありませんので出来れば見逃して欲しいんですけど・・・」
「クククッ・・・Sランク冒険者と聞いて態度も変えなければ普通に話し返してきたのはお前が初めてだよ」
そしてデルタは手にしていた酒を持ち上げ。
「お近づきの印だ。飲むがいい」
「男と間接キスする趣味はありませんのでお断りさせてもらいます。」
「クックックッお前面白いな、名前を聞いても良いか?」
「ゴンザレス太郎です」
「…ゴンザレス太郎?」
「はい、ゴンザレス太郎です。」
「いや、だってお前その女さっきタツヤって…」
「ゴンザレス太郎です。」
場が静まり返るがゴンザレス太郎は一切引かずデルタを見つめ続ける。
明らかに力の差を感じているのに対等な態度を見せる辺り、流石Sランク冒険者と言うべきだろう。
「分かった分かった。ゴンザレス太郎な、覚えておくさ」
そう言ってデルタは酒を片手にいつも座っているのだろう、奇妙に空いてる席に座り込み酒を飲み始める。
そして…
「ブー!!!!辛ぇ?!!」
サラの仕業であった。
自分の出したオーラを消されたので、お返しに飲もうと口を開けた瞬間に魔海の水を蒸発させて作った激辛スパイス『辛子塩』をデルタの持つ酒に入れたのだ。
デルタが出た以上他の冒険者たちがゴンザレス太郎にちょっかいを掛けるわけにもいかず、遠巻きに見守るだけであった。
「あの…この銅貨1枚はどうしたら…」
受付の女の子はいい加減涙目になっていたのだった、