階段を降りた先には扉が一つ在った。
「なぁ、これってもしかしてボス部屋ってやつかな?」
転生者であるナジムは前世の記憶を勿論持っており、ゲームとか小説とかでこういうダンジョンで階段を降りていきなり扉が在った場合、休憩室かボス部屋ってイメージを強く持っていた。
「その可能性はあるな、だがどうする?もし本当にボスが居るとしたら現状では厳しいかもしれないぞ」
慎重派のローグは危険だと判断し、ナジムに話を振る。
実際問題ここまで来るのにも結構回復アイテムも使用し、食料も心もとなくなっていた。
特にアーニャは娘がニーガタに居るので大怪我をさせたりしたら大変だという事も考慮していた。
「そうだな、もしもの事を考えて一度戻って情報を公開し、準備をもっとしっかり整えてからにしよう」
ナジムも実際に自分の命を掛けて冒険をすると言うのは考えない保守的な人間でもあった。
特に現代っ子と言われる様にボス部屋の前にはセーブポイントや回復ポイントが無いと文句を言うタイプでもある。
二人の実力は信頼しているがそれでも万が一と言う事を考えると無理はしたくない。
「あ・・・ああ・・・」
さぁ戻ろうとした時にアーニャが何か変な声を出した。
それに気付き二人が振り返ると・・・
目の前でアーニャの肌が徐々に灰色に変化していった。
そして、それに合わせるように二人の脳内に響く声が聞こえた。
「ようこそ、ここまで来て帰るとかありえないでしょ?さぁ中に入って僕と遊んでよ、じゃないとそこのお嬢さんみたいにしちゃうぞ」
その声を聞いてアーニャを見ると既に正気を失っており、白目になって扉の方へゆっくりと一人向かっていく・・・
まるで千鳥足と考えるナジムはアーニャの体を止めようとするのだが・・・
「冷たい?!」
その体を触って驚き、慌てて手を離す。
そして、フラフラと扉に触れたアーニャは両手で必死に押し始める。
長年固定されていた扉は徐々に動き出し開いていくのだが、その動きからかなりの重さがあるのだろう。
ゴキゴキボキッゴキキッ!!!
アーニャの両腕が異様な音を立て折れた。
だが腕が折れて変な方向に曲がっているのだが、アーニャは気にせず更に力を入れて扉を開けていく。
狂気の沙汰、それを見てる事しか出来ない二人はただ唖然とするばかり…
やがて、扉が完全に開いたら折れた両腕をダラリと垂らしながら部屋の中へと入ってく・・・
止めようと慌てて動いたナジムとローグだったが、部屋に入ると同時にドアが閉まり突然部屋の隅に置かれた石造の手にあるランプに火が灯り中を明るく映し出す。
そこは広い大きな部屋であった。
そして、その部屋の中央にそいつは居た。
「久しぶりに体が動かせる。この日を楽しみにしていたぞ人間!」
一見すると人に見えるのだが、肌が赤茶色で明らかに人間では無い事が分かる。
そして、そいつは立ち上がり近付いて来てアーニャに触れた。
するとアーニャは振り返りナジムとローグの方を向き、折れた腕で持っていた杖とダガーを構える。
操られてる?いや、違う・・・
そう、これは呪いであった。
※この世界の呪いとは状態異常の一種で、様々な特殊な状態異常を引き起こすものを一纏めにして呪いと命名されている。
「これは中々いい玩具が手に入ったもんだ」
愉快そうに笑うそいつに近付いて初めてその正体にナジムは気付いた。
それは意思を持つゴーレムだった!
ゴーレムはローグを指差し一言・・・
「殺せ」
次の瞬間ローグの腹部をアーニャのダガーが貫いていた。
明らかに人知を超えた速度で、折れて曲がっている腕から突き出されたダガーを避けることは出来なかった。
そして、その傷口からローグの体にもどんどん灰色が広がり、やがて全身を覆ってローグもアーニャと同じ様に肌が灰色になった。
しかし、この部屋が薄暗い為にナジムほ気付かない。
「ローグ?!くそっ!」
「くくくく・・・これで後一人・・・」
ナジムは緊急事態だと判断しユニークスキルを発動させる!
ナジムのユニークスキルは『近距離転移』!
だがこの転移には致命的な欠点が2つある、一つは移動距離。
数名なら一緒に連れて行けるが大体150メートル以内にしか移動できないのだ。
だがそれで十分!ナジムはローグの手を取りユニークスキルを発動させる。
アーニャは既に手遅れだと判断しローグだけでも逃がそうとしたのだ。
そして、二人は無事にドアの前に脱出する事が出来た。
「アーニャの事は仕方ないよ。とりあえず僕らは脱出してこの事を報告しよう」
コクンと頷くローグだったが灯りの魔法をずっと使っていたアーニャが居ない為、ナジムはここから自分の魔法で灯りを確保して脱出しないといけない・・・
その為、気付かなかったのだ。
既にローグの体は灰色となり一言も言葉を発していない事に・・・