夜が明ける前にニーガタの町まで戻って来たナジムとローグ、二人は休む事無くその足で冒険者ギルドへ向かった。
基本的に冒険者ギルドは24時間動いており、緊急の時にはここに報告を入れるのが基本となる。
火事や事故の場合もここに連絡を入れれば対処をしてくれるからだ。
街の治安維持の為にも領主等から一定額の経営資金を提供する代わりに有事の際に協力する取り決めとなっているのだ。
「いらっしゃいませ、あら?ナジムさんこんな夜中にどうしました?」
血相を変えて冒険者ギルドに飛び込むように入り受付まで行ったナジム、ダンジョンの最下層と言われていた階層に階段が在るのを遂に発見し、その下に降りた話をした。
「なるほど、そこで謎の言葉を話す魔物と対峙して脱出して来たと・・・」
ナジムの話に落ち着きながら控えを取る受付。
ナジムも分かっている事だが、冒険者として魔物に倒されて死ぬのは自己責任となる。
その為ここで仲間がやられて・・・等と騒いでも相手にして貰えないのは理解しているのだ。
「承りました。上に話を通して依頼として出させてもらいますね」
この様に魔物が直接町に危害を加えに来る時以外はギルドマスターから領主に話が行って、そこから討伐依頼が発行されそれで冒険者が数名や場合によってはグループで討伐に当たるのが通常となる。
ナジムもこの流れは理解しているので、焦っても仕方ないと割り切っていた。
「ところで、パーティを組まれていた2人はやはり・・・」
「あぁ、アーニャは多分もう・・・」
「そうですか、残念です」
「ん?ちょっと待て二人?何を言ってるんだ?なぁローグ・・・?」
ナジムは振り返るがそこに町に一緒に戻って来たローグの姿は無かった。
ニーガタの町に入る為に門で手続きをした時は確かに居たのに・・・
ナジムの脳裏に嫌な予感が浮かぶ。
そして、それは既に始まっていた。
もう直ぐ日が登るニーガタの町の夜は冷える。
砂漠と言うのは気温の変化が物凄く昼間は体温よりも高くなるのに、逆に夜は氷点下以下まで下がる。
そんな夜の町の中を徘徊する集団が居た。
その全員が暗くてよく分からないのだが、灰色の顔色をしており、体の何処かに明らかに致命傷と思える傷を負っていた。
その中には勿論最初の一人ローグの姿も在った。
突然その中の数名が近くの民家に入っていく。
砂漠の町の民家は窓が木で出来た蓋の様な物でそれを閉じているだけ、なのでそこから入り込むのは何も難しい事ではなかった。
そして、そこの寝ている住人に覆いかぶさるように武器を持ったまま倒れこむ。
「ぐぁ?!なっなにが・・・?!」
腹部に走る激痛に目を覚ました住人が見るのは灰色の顔をした町の住人。
恐ろしいまでの強い力で動けないように抑え込まれ、刺された傷口から灰色の何かが体を浸食していき、最後には寝ていた住人も全身を灰色にして起き上がり家から出て行く・・・
そうして人数はどんどん増え、100人に達しようとしたら突然全員踵を返して町から出て行く。
既に町の門番もその中に加わっており、日が昇る頃にはニーガタの町の入り口近くの全ての住人が一夜にして居なくなる怪事件が発生しているのであった。
朝、門番の交代で入り口に向かった門番が慌ててギルドに駆け込むまで誰一人気付かなかったこの事件は早速領主にダンジョンボスの話と共に報告され依頼書が発行される・・・
「頼む!デルタさん!アーニャを助ける力を貸してくれ!」
「だから無理だって、俺はこの町を守ると言う任務を永続的に受けているからダンジョンには行けないんだよ」
夜が明けてSランク冒険者『妄槍のデルタ』が来るまでギルドで待っていたナジムは土下座でダンジョンボスを倒す協力を頼んでいた。
しかし、デルタはこの町を離れる訳には行かないとこの話を断っていた。
そんなギルドにゴンザレス太郎達が丁度やって来たのだった。