その日、ニーガタの町は静寂に包まれた。
住人の誰もが家に閉じ籠り、外に出なくなったのだ。
怪我を負うと呪われて消えてしまうので仕方ないだろう。
そして、更に恐ろしい事実が判明していた。
「どう?タツヤ?」
「駄目だ。リストに名前がない…」
そう、心無い天使による消滅の光で消えた人が、ゴンザレス太郎のコード『パーティーメンバーに加える』で戻せたので、もしかしたら戻せるかもと試していたのだが、リストにサラやデルタ、ナジム、アーニャの名前がなかったのだ。
これは本来有り得ないことである。
この世界のマスターデータに登録されているキャラデータが弄られない限り起こり得ない現象の証明でもあった。
「タツヤ…私、怖い…」
「大丈夫、俺が必ずなんとかする!」
過去の実績から信頼するフーカであったが、ゴンザレス太郎に何か良い案があるわけでもない。
事実、消えた人が何処へ行っているのかすら分からないのだ。
その後、二人は冒険者ギルドを出た。
そして、宿に戻り対策を考える二人だが圧倒的に情報が足りなさすぎた。
こうしている間にも町の人は何かの拍子に傷を作ってしまい、呪われて居なくなってるかもしれない。
焦り、不安、恐怖…
まさにニーガタの町の壊滅は目の前まで来ていた。
二人は知らなかったがこの時点で人口の約8割が既に消えていたのだ。
生き残りと言う表現が正しいのかどうかは分からないが、それでも自分の仕事として町を守る道を選んだ人は仕事に出ていた。
冒険者ギルドの職員、門番、衛兵・・・
彼等が居なかったらきっともっと酷い状況になっていただろう。
「とにかく、一度宿に戻って考えよう・・・」
「うん、でも・・・」
「互いに互いを守り合おうと思うんだけど・・・」
ゴンザレス太郎の案により、何があっても直ぐに対処できるようにその日はツインの部屋に移って休むことにした。
宿の従業員も既に消えており、戻っても宿泊している客も何人残っているのか分からない。
そんな状況だが、二人はとにかくこの事態をどうにか出来るのは自分達だけかもしれない、と言う最悪の事態を想定して話し合いを開始するのであった。
そして、その夜…
フーカとゴンザレス太郎の話し合いでは結局何も決まらず、頭痛のするゴンザレス太郎をフーカが膝枕で癒している時であった。
夜も更け砂漠の気温が一気に低下して極寒の世界に変わり始めた頃、ニーガタの町に一人の女性がやって来た。
深く被ったフードで顔も分からないが、そのフードを掴む手とチラリと見える銀髪でその人物は女性だと理解させた。
門番は怪我を負わないように夜の見張りを武器も持たず行っていたが、その女性の姿を見つけ慌てて立ち上がり声を上げる!
「君!この町は危険だ!今すぐここを離れるんだ!」
「もう手遅れよ、それよりここにゴンザレス太郎と言う男が来てませんか?」
風に被っていたフードが捲られその顔が月明かりに照らされる。
銀髪の少女のその姿に門番は言葉を失った。
月明かりに照らされるあまりの美しさに目を奪われたのだ。
その人物はかつてゴンザレス太郎に神の力を消滅させられたマリスだった人物・・・ミリーであった。