ゴンザレス太郎達が出発して1時間が経過した頃、浜辺から少し離れた場所に6つの藁人形と人数分のロープが落ちていた。
そう、その場所はゴンザレス太郎達が縛り上げた6人が居た場所である。
そして、その藁人形の前に一人の人物の姿が在った。
「なるほどなるほど、あれが噂の…」
青いローブに身を包み、前屈みの姿勢のその人物は地面に落ちていた6つの藁人形を拾って、その内の一つを頭に近付ける。
目を閉じたまま暫くそうして、ゆっくりと藁人形離して微笑む…
「良かった、縛られた時にちゃんと触れたみたいだね」
そう呟いたその人物の腕から藁人形を包み込む赤い光が出て藁人形を包み込んでいく…
そして、その藁人形は赤い光の中ですくすくと巨大化し、驚くことに下着姿に上着を羽織っただけのサラに変身した。
「あぁ…魔王の娘か…なんて美しいんだ…」
無表情の偽サラは頬を撫でられ、ハッと驚いたように意識を取り戻す。
真っ直ぐにその人物を見たサラは慌てた様子で動き出す。
「なっ何よ貴方?!ここは何処?タツヤ?タツヤは?」
「おやおや、お目覚めですかお嬢さん」
頬を触られていた手を払って辺りを見回すサラ、だがそこにはフーカもゴンザレス太郎も居ない。
そして、ステータスがカンストしている自分が無意識に払った相手の手が何ともない事実に気付かない…
「貴方はドッペルドールに体をコピーされたみたいですね」
「ドッペルドール?」
「この辺りに住まう魔物です。人に触って自らをコピーしてその人間と入れ替わって隙を見て人を食らう恐ろしい魔物です」
「そ…それじゃあ?!」
聞かされた話を鵜呑みにして、慌てて駆けていく偽サラ…
それはそうだろう、この状況で記憶がしっかりと在る自分が偽物だとは思いもしないのだから。
「さぁ試練は与えられた。どう乗り越えるか楽しみにしてるよ」
笑みを浮かべる男がもう一つの藁人形を手に持ち、再び赤いオーラが藁人形を包み込み、やがてそれは一人の魔法使いの姿になる。
黒いローブに身を包んだその人物は今の状況を理解しているのか、サラと違い戸惑った様子もないまま目の前の人物を真っ直ぐに見詰める…
その視線に笑みを浮かべ、青いローブの人物は曲がった腰をそのまま沈め頭を垂れる。
「ニウム様、お久しぶりでございます」
「ふふふっ、さぁ楽しいショーを堪能しようじゃないか」
魔法使いは地面に魔方陣を作り出し、その魔方陣に吸い込まれるように二人の姿は消える。
ゴンザレス太郎達を追いかける自身が本物だと思っている偽サラ。
新たなる波乱の幕開けであった。