「今日も駄目だな~見ての通りだ」
漁師の所にきているゴンザレス太郎、サラ、フーカの3人は今日こそは船が出せるか聞いていたのだが、指差された方向を見ると浮いている流木を一飲みで食べてしまうミミックジラの姿が在った。
「喰うものが無くなったら居なくなるんだけど後数日はこのままだろうな」
「そうですか・・・」
結局諦めてその日も特に何もない村をウロウロして時間を潰す事にした3人。
実はフーカが水面を凍らせながら徒歩で歩けば渡る事は可能だし、ゴンザレス太郎にも『地形の変化受けない』のコードを発動すれば水面を歩いて渡ることが可能なのだが、サラが船に乗ってみたいと言うのでまだこの村に居る事にしている。
特に急ぐ旅ではないのもあるし・・・
「それじゃ私達は雑貨屋に行ってくるね」
「あぁ、俺はそこの食堂で軽く食事してるわ」
サラとフーカはちょっとお店でも見るかと言う事で二人で雑貨屋へ行く事にして、ゴンザレス太郎は小腹を満たす為に食堂で海鮮料理を食べるつもりだった。
最初フーカもゴンザレス太郎と一緒に行動するつもりだったのだがサラの・・・
「間食は太るわよ」
の一言でフーカも雑貨屋へ行く事にした。
何度結婚した相手でも、綺麗な自分を見せたいと言うのは乙女心なのだろう。
食欲に勝つとは恋する乙女はやはり凄いものである。
雑貨屋で何に使うのか良く分からない商品を笑い合いながら物色したサラとフーカ、今朝の事を考えながらもどちらから言葉に出す事もなくお店を見て回る。
その時、サラが貝殻で出来た飾りを手に取ろうとして別の人と指が触れる。
「あっごめんなさい」
「いえ、こちらこそ・・・」
見た目魔法使いのその女性はサラと指が触れただけでサラの魔力を感じ取っていた。
それはありえない量だったのだろう、伊達にカンストしていないのである。
「あっごめんなさい、あまりに凄い魔力を感じたんでビックリしましたわ」
「あぁ、驚かしてごめんなさいね。貴方も船待ち?」
「そうなんですよ、私のパーティも依頼を受けてこっちに渡って来たんですけど、このままじゃ期限切れになってしまいそうで・・・」
冒険者ギルドの依頼には当然ながら期限がある、それは道中なにがあろうと間に合わなければ依頼失敗となるのはサラも知っていた。
なのでその話を聞いていい加減自分にとっても他人にとっても何とかしないと駄目だと考える。
そんなサラの顔を覗きこむその魔法使い風の女性は・・・
「あの、すみません。貴女のその魔力を見込んでお願いしたい事があるのですが・・・」
「ん?なにかしら?」
「ここじゃちょっとアレなので店の裏に来てもらえませんか?」
少し悩むサラであったが、フーカが触る度に表情の変わるトーテムポールみたいな顔が沢山付いた置物で遊んでいた。
なので声を掛けて待ってて貰う事にして魔法使い風の女性の後を付いて行く・・・
「申し送れました。私、ローラと言います。」
「私サラよ、ところでお願いって?」
「それは・・・」
そこまで言って二人の前に一人の男が立つ。
青いローブを身に纏いサラの目を見つめたその男は怪しく笑う・・・
「昨日振りですねお嬢さん、この町で会うなんて偶然ですね」
「あなたは・・・えぇ、本当ですね」
「それでお仲間とは再会できましたか?」
「はい、おかげさまで」
「それは良かった。ドッペルドールはもう元の藁人形に戻ったと思いますが・・・」
そう言って青ローブの男はサラに向けて手を広げる。
その手にはいつの間にか藁人形が握られており。
「私達の仕事もこのドッペルドールを倒して狩る依頼を受けてましてね、もしよろしければその元に戻った藁人形いただけませんか?」
「あ~まだ宿に置きっぱなしだわ」
「そうですか、それでは・・・」
「何処に行くんですか?ドールマスター『ニウム』さん?」
サラのその言葉にニウムは表情を一変させて距離をとる。
「ちっユニークスキル『スキミング』か?全く厄介な、こうなったら作戦変更だ!」
「なにっ?!」
次の瞬間サラの体に大量の鎖が転移してきて体を拘束される。
恐ろしい事に鎖の一部は体内に埋め込まれるように皮膚の中に出現したのだ。
「ニウム様、捕まえました。」
「全く、もう少し役立ってもらう予定だったのに。仕方ないな、一度藁人形に戻すか」
そう呟きサラに手を伸ばす。
そして、ニウムの左手から黒いオーラが発生し、それが球体となって広がる。
それが横に立っていた魔法使い風の女性に触れるとその女性も藁人形に戻って地面に落ちる。
それはニウムの藁人形を変身させた状態から強制的に元の藁人形に戻す結界。
範囲に影響を及ぼすので一定の距離までは何も抵抗できず強制的に藁人形に戻されるのだ。
ニウムの口元が大きく歪む。
そして、サラはそれから逃げる為に後ろに大きく跳ぶのだった。