ニウムの死によって村は元通りの姿を取り戻した。
今まで何事も無かったかのように村の人々の記憶は改ざんされ、その夜から普通に船が渡り始めたのだ。
「はぁ?ミミックジラ?そんなのが現われたら王都から討伐隊が出されるって」
っと漁師の方々もこの数日の出来事が嘘だったかのように語っていた。
この町に来てからの数日がまるで夢だったかのように思えた事に3人はその事実に驚愕していた。
今までの敵と違い、力だけではなくそれ以外の能力で奴等は襲ってくる・・・
そう考えてた3人はその日、宿に戻っていた。
「それで、お兄ちゃん達は本当に私を連れてってくれるの?」
「あぁ、俺達もテンジクに向かってるからね」
宿に戻って初めて口を利いてくれた少女、名前は『スウ』と言う。
彼女は記憶を無くしていた。
ただテンジクの町に両親が居て、そこに帰りたいと言う事だけを覚えており、ゴンザレス太郎達は彼女を連れてテンジクへ向かう事を考えていたのだ。
「それでスウちゃんは他に覚えている事無いの?」
「サラお姉ちゃん、ごめんなさい・・・」
「いえいいのよ、でも何か思い出したら教えてね」
「うん!」
ニウムが生きているうちはまるで夢遊病に掛かっていた様に一言も口を利かなかったが、ニウムの死以降徐々に様子が変化した事から時間が解決してくれるかもしれない、そう考え3人は一緒に行動する事を決めていた。
そして、翌朝、サラの念願だった渡し舟に4人は搭乗していた。
「ふぁ~凄い凄い!船すごーい!」
地球の記憶を持つゴンザレス太郎からしたら物凄く小さい船では在るが、それでもこの文明が妙に偏った世界からしたら結構凄い構造となっているこの船。
大きさは個人所有のヨットクラスで、1回に20人くらいが運べるというから凄いものだ。
風を帆で受けながら魔力を使って進むこの船を動かす船主は、初日にゴンザレス太郎に断りを入れた漁師であった。
「あん?兄ちゃん俺のこと知ってるのか?」
っと向こうの記憶は無くなっていたのだが・・・
そして、同じこの船に乗っている冒険者の中に見覚えのある人物も居た。
野営を襲った盗賊だった男の一人だ。
勿論、ニウムの作った偽者ではなく本物の方で、特に何かをしてくるって訳ではなかったのだが襲われた経験を持って居る事もあり・・・
「お姉ちゃん私大丈夫だよ?」
「いーえ、スウは美人さんだからこわーい男の人に狙われたら大変だからね!」
っとサラが妙に警戒し全属性防御結界に加えゴンザレス太郎のコード『HP減らない』に『水上歩行』を掛けて更にフーカの結界で守ると言う完全要塞と化していた為・・・
「ところでそのお嬢さんは何処かの王族で?」
っと乗る時に聞かれたくらい船の一角を貸切り、4人分の料金を支払い絶対保護を行っていた。
そんな明らかにおかしな集団が対岸の町に辿り着いて最初に見た光景が・・・
「なに・・・これ・・・」
そこは一度壊滅し復興作業中の街であった。
「あぁ、兄ちゃん等は知らないんだな?数日前になんか突然大津波が街を襲ってな・・・」
その言葉を聞いて青ざめながら知らない振りをする一同・・・
そう、数日前サラが魔法でミミックジラを吹き飛ばした時に発生した大津波である。
ゴンザレス太郎達が居た側はフーカが守ったが、対岸であったこちらは酷い事になっていたのである。
「とっとりあえず次の街を目指すか!」
ゴンザレス太郎のその一言に二人共無言で頷き、そのまま更に西へ向かって旅立つのであった。
丁度その頃、通過した復興中の街の冒険者ギルドに一つの緊急依頼が発生していた。
『街の西側にアンデットが大量発生!規格外な魔物のアンデットも多数目撃されている為Aランク以上の冒険者を大量に求める!』