「タツヤ!どうしたのタツヤ?!」
サラが一緒に建物の中を走りながら聞いてくる。
敵前逃亡、まさに逃げていますと言う状況にサラは困惑していた。
「倒せばいいじゃない?いつもみたいに、ミリーだって…」
そう、サラは疑問に思っていた。
自分の愛する人はどんな逆境でもはね除ける強さを持っていた。
それは勇気を持つ者、勇者としての才覚。
その彼が逃げるのを第一に考えていると言うのが納得いかないのだ。
「駄目なんだ…勝てる気がしない…」
その言葉にサラは立ち止まった。
信用は積み上げるのに莫大な時間が掛かるが、崩すのは一瞬…と言う言葉があるようにサラの中でゴンザレス太郎に対する気持ちが一気に薄れていった。
「なに…言ってるの?」
「逃げなきゃ…あいつは異常だ…俺はサラまで失いたくな…」
パァン!
サラの左手が初めてゴンザレス太郎の頬を打った。
その目にあるのは失望。
今までサラに向けられた事の無い視線が突き刺さる。
「あなた…誰?私の愛した人はそんな弱音を吐いたりはしない!」
目に涙を溜めてサラは続ける。
平手とは逆側の手は強く握りすぎて血が滴っていた。
そんな二人の背後からシズクが歩いてくる…
「ふふふ、ゴン太君振られたの?ならこっちにおいで、私と永遠に何もかも忘れて幸せに生きよ」
先程までとは違い、まるで生きた人間のような言葉と仕草。
その甘い言葉はゴンザレス太郎の心を揺らす。
スペニには歯が立たない、そしてサラにも見限られた。
フーカはスペニよりも更に恐ろしいヤツのところへ行った。
もう何も考えたく無…
「黙ってろこのクソビッチ!」
サラの怒声が響く!
その怒声に空気が震え、辺りが静まり返る…
「な…なんですって…殺す!『聖剣召喚!』」
シズクの右手に光輝く聖剣が現れる。
魔族のサラにとってはまさに天敵のその武器、だがサラはそれに目もやらずゴンザレス太郎を見つめ…
「タツヤ、いえ、ゴンザレス太郎!私は戦うわ!例え勝てない相手だとしても私は逃げない!」
そう言ってシズクに向かって駆けていく!
それを見て手を伸ばすゴンザレス太郎…
彼の目にはシズクのステータスが見えていた。
サラと同じくステータスがカンストし、更に『能力全強化』でシズクのステータスはその1.2倍、その上サラの弱点属性の武器を手にしている、おまけに今のシズクはサラの得意な炎属性に耐性有り…
勝てるわけがない…
サラまで失う…
ゴンザレス太郎は声を出そうとした。
だが次の瞬間、彼の目に映ったのは肩から斜めに切り裂かれるサラの姿であった。