魔物の街アムステルダの王の間。
そこにアムステルダの幹部達が集まり、会議を行なっている。
「はい、伝説のゴンザレス太郎タツヤらしいです。」
「そうか・・・確かにあんなモノが個人で出来るのは伝説の存在しかないよな」
アムステルダのギルドマスターである猫男が王のノロへ報告する。
魂石の攻撃でも倒すどころか逆に強化してしまった化け物を、一時的に無力化したその力の一端を一同は見たのだ。
そして、彼等が居る近くの町のギルドマスターであるリルダーツから通信の魔道具で得た情報を提示する。
「しかし、目標は現在遥か上空で今もなお巨大化を続けております」
「彼に・・・託すしかないのか・・・」
最早この世界の者達に手を出せるレベルをはるかに超えた異次元の戦いであった。
人間から見たら異常な戦闘能力を持つ上位種族とされる魔族であるが、彼らですらゴンザレス太郎の存在は遥か雲の上の存在なのであった。
彼らにできる事はただ一つ・・・祈る事のみであった。
時を同じくしてニーガタの町から西へ向かった巨大な川を挟んだ街。
そこの富豪が祈りを捧げていた。
この富豪こそがこの世界で話題になった、回収された心無い天使の肉体を買い取った人物であった。
そして富豪は眠った状態のまま動かない心無い天使に近付きその手を舐める。
「もう直ぐこの世界は終わるらしい・・・お前はこの体質のせいで永遠に美しいままだ。」
富豪の元へもゴッドウエポンの情報は流れてきており、それを聞いたこの男は世界の終わりを確信していた。
最後の最後まで一目惚れして財産を散財し、買い取ったこの天使と共にありたいと願うこの男は、動かぬ心無い天使に愛を呟く・・・
手を舐めても胸を触っても反応もせず、少しでも力を入れたら『絶対物理遮断』により弾かれる。
しかし、それすらも2人をさえぎる障害としてこの男にとっては愛を燃え上がらせるだけなのだ。
「だ、旦那様!大変です!空を・・・空をご覧下さい!」
「なんなんだ騒々しい」
男を呼ぶのはこの屋敷のメイド、そしてメイドは窓から見えるそれを指差し男はそれを見て驚愕する・・・
空一面に心無い天使が整列していたのだ・・・
しかも自分の屋敷に在る動かないヤツではなく、空を飛んで自らの意思で動いている。
それを見れば先程まで愛していた動かないモノなど単なる玩具にしか見えなくなるのに充分であった。
そして、この時世界中に心無い天使の姿が観測され、世界を救おうと神が光臨したと勘違いされる・・・
「タツヤ!本当に大丈夫なの?!」
「大丈夫だと思う・・・元々ミリーの作戦だろ?」
「それはそうだけど・・・」
世界を転移で移動しながらゴンザレス太郎とミリーは、世界に残されている赤砂から魔物として心無い天使を作り出す作業に回っていた。
そして、それをアモンと戦う事で使えるようになったフーカに使われたスキル『永続的洗脳』を使用し、数多の心無い天使を操っていく。
ゴッドウエポンが移動した場所の赤砂は全て取り込まれ消え去っていた。
その為に各地を移動しながらゴンザレス太郎のスキルで操れる範囲で生み出し、洗脳して集合場所へ誘導する。
「ほら、次行くぞ」
「うん・・・なんだろうこの予感・・・」
ミリーの中に小さく沸く悪い予感・・・
だが目の前のゴンザレス太郎を信じるしか今は手は無い。
今もなお遥か上空で巨大化し続けるゴッドウエポンは地上をその体で闇に染めていく。
だが時間が経てば太陽は沈む、その時にきっとゴッドウエポンは太陽を追いかけるか落下してくるだろう。
日暮れと共に動き出すと予想している彼等は時間と戦いながら戦力を集結させる。
「慌てないで、落ち着いて移動して下さい!」
「ををを・・・天使様・・・」
「ううう、天使って言われてる・・・」
フーカ、サラ、チカ、ダマの4人------と言ってもダマはフランス人形だが------は近くの町の住人を避難させていた。
ゴンザレス太郎によって転移をスキルに付けて貰い、街の人を次々と魔物の街の広場へ移動させる4人。
特にフーカとサラの魔力はカンストしている、なので膨大な魔力を使って一度に大量の人間を送り届ける事が出来る。
そこに元々影転移によって住人を少しずつ移動させていた影使いガイアと、避難民を集めていた賢者が協力し、順調に人々の避難を完了していっていた。
その中でも避難に協力せず絶望に自暴自棄になる人間も多数居たが、チカの姿を見て天使に救助されていると勘違いし予定外に救助ははかどっていた。
それを見たサラとフーカも神化による神力発動モードを発動させ、背中に天使の羽を出現させ純白の羽を生やした女神の様な姿で避難を行なっていたのだ。
「タツヤ・・・こっちは順調よ、頑張って」
空に浮かぶゴッドウエポンによって闇に包まれた地上から空を見上げるフーカ。
様々な人々の思いは交差するが、願う一点はただ一つ。
世界の命運はゴンザレス太郎に託され勝利を願われているのであった。
「ふふふ・・・頑張って、もう直ぐだ・・・」
別次元に存在する冥は一人、愉快そうに独り言を言いながら世界を観測し続ける・・・
誰にも届かないその呟きを知る者は居ない・・・