『遂に…遂にこの時が来たよ!』
真っ暗な中で影が揺らぐ。
闇の中の闇と言う見えるはずの無いそれは闇の中に小さな黒い穴を作り出す。
そしてその穴の中へ体を細く変形させ入っていく・・・
『さぁ、世界で遊ぼう』
闇の中に在った影は黒い穴の中へ入って消えていった。
数々の要素が重なり合った時に初めて実現する時空の穴。
それは刹那の時だけ繋がる異次元へのゲートであった。
その出口は・・・
「いっけぇえええええええええええええええ!!!!!」
ゴンザレス太郎の放った対消滅エネルギーが収束核融合エネルギーを飲み込み消滅させたその一瞬。
粒子消滅によりこの世界に刹那の時だけ空間に穴が開いた。
それはその瞬間に入り込んでいた。
粒子消滅している最中の収束核融合エネルギーから出てきたそれは焦らず、まるで風に飛ばされる紙の様に空を舞って行く。
そして、宇宙へとゴッドウエポンを飲み込みながら消えていったそれを眺めながら視線を地上へ向ける。
「やっと会えたね」
黒い靄のような塊はそのまま何処かへ飛んで行く・・・
地上ではゴンザレス太郎がミリーによって治療され意識を失っていた。
それもあり、誰一人としてそれに気付く者は居なかった。
「んっ・・・ここは・・・」
「タツヤさん!目が覚めましたか!?」
ゴンザレス太郎はベットに寝かされていた。
その顔を覗き込むのはアーニーであった。
「避難しなかったのか?」
「私の家、町の端に在りましたから連絡届かなかったんですよ」
事実街はゴンザレス太郎とゴッドウエポンの戦いで崩壊していた。
だが端に在り、あまり影響を受けなかったアーニーの家だけが破壊されず残っていたのだ。
あの後、ゴンザレス太郎が勝利したのを確信したアーニーは彼らを迎えに行った。
そして、全員を家に招待したのであった。
「そうか・・・迷惑をかけたね」
「いえ、全然大丈夫ですよ」
アーニー、ゴンザレス太郎を見詰める瞳が潤んでいる。
彼女は自身の母親の体を治したのはゴンザレス太郎だと確信していた。
一緒に来たサラやフーカやミリーやチカと女性ばかりが彼の傍に居るのを見て、私も立候補したら一緒に居られるのかな?とか考えていたりする。
自身を死のループから救ってもらい、母親も助けてもらい世界まで救ったゴンザレス太郎に惚れるなと言う方が無理であった。
「みんなは無事なのか?」
「はい、皆さん大した怪我も無く、今は一緒に料理を作ってますよ」
「そうか・・・」
ゴンザレス太郎はゴッドウエポンに勝利した事で冥が言っていた事を思い出そうとするが、頭の中に靄が掛かった様に何も思い出せない。
とりあえず、危機は去った。
次は町の復興をしないと…と考え体を起こす。
「まだ駄目ですよ!」
「いや、もう大丈夫」
立ち上がって手を握って感触を確かめる。
最後の意識の中で自身の腕が消滅したのを覚えていたのだ。
「起きたって事伝えないとな」
「肩貸しますよ」
アーニー、一応冒険者であるのでそれなりに力もある。
ゴンザレス太郎の腕を肩に回して歩く補助をしながら隣の部屋へ行くと・・・
「だからなんでキスしたのかって聞いてるのよ!」
「タツヤを助ける為に必要だからに決まってるじゃないの!」
「そもそもラストエリクサー渡さないサラのせい・・・」
「フーカ貴女どっちの味方よ!」
「だって・・・折角手に入れたアイテムだから使ってみたかったんだもん・・・」
「嘘ね、しかも2回目のキスはどういうこと?!」
「いやほらっ勝利の女神のキスってやつで・・・」
3人が言い争う横で鍋を混ぜるチカ・・・
心ない天使の姿であるが、その表情は楽しそうであった。
チカにとってこういう賑やかな光景は二度と見れないと思っていた光景でもあったから仕方在るまい。
「あっタツヤ!」
「おっ起きたのね!」
「うん・・・良かった」
3人がゴンザレス太郎に気付き今まで言い争いしていた筈なのに態度を一変させて仲良くする。
女って怖い。
「皆、心配かけたね。それと・・・」
ゴンザレス太郎はチカの方へ視線を向ける。
「ご飯もう直ぐ出来ますから食後にでもゆっくり話しましょう」
チカはそう言い鍋の方へ視線を移す。
ゴンザレス太郎はチカに対して不思議な感覚をずっと感じていた。
そして、それはフーカもであった。
まるで・・・
一方魔物の街アムステルダではゴッドウエポンの消滅と共に町の人々の仮住まいの件の議題に話が進んでおり、ノロは(今日は帰れないな・・・)と考えていた。
崩壊した街の復興もそうだが、避難させた人々を無事だった村に戻す作業も必要で、これからが大変ではあるが世界の危機は回避された事に誰もが安堵していた。
「まさか本当に倒してしまうとはね・・・」
「ノロ王子、とりあえず・・・」
「あぁ、彼を表彰するってのは後回しになりそうだな・・・」
世界が受けた被害は予想以上に大きい。
ゴッドウエポンに殺された人間の数は1万人を軽く超えていた。
これからアムステルダが復興の拠点となっていくのだろう・・・
そして・・・
「はははは・・・やっとこれで・・・」
黒い靄はとある男が買った動かない心ない天使の元へ来ていた。
そしてその体内へ入り込んでいく・・・
そう、この傷一つない心ない天使はワザと回収させられていた事を誰も知らない・・・
黒い靄が入り込み、心ない天使の中で一つの動力源としてエネルギーが生み出される。
それはゴンザレス太郎が作り出したアレと同じ、対消滅による無限のエネルギーであった。
「ふむ・・・体の異常はなさそうだ。」
起き上がった心ない天使の中から発生した黒い対消滅エネルギーがその体を包み込み、心ない天使は堕天使の様に黒く変化していく・・・
頭から角が生え、手の爪は凶器のように変化し、背中が隆起し、禍々しい姿へと変化していく・・・
白かった羽は黒と紫のカラフルな色に変わり、まるで別物の姿となった。
「ふはは・・・ふはははは・・・遂に・・・遂に私は次元の壁を突破して・・・」
「誰だ?!な・・・なんだ・・・おまえ・・・」
心ない天使の置かれていた部屋から声がしたので、持ち主の男が部屋に飛び込んできた。
そして、その禍々しい姿を見て恐れ慄く・・・
力を持たない普通の人間でもその内部に蓄えられているエネルギーを直感で感じ取ったのかもしれない。
そして、目の前のそれが口元を歪ませたのが彼の最後に見たモノであった。
「あーこれはちょっと威力がありすぎるな」
地上にクレーターが出来上がっていた。
それは何かが落ちて出来たクレーターではなく、消滅した形のクレーターであった。
「さて、それじゃあお礼を言いに行こうかな」
一人でそう呟きそいつは空を飛んで移動を開始する。
1000年で世界が1周するこの世界の終わりは着々と近付いているのであった。