「へぇ、君も転生者だったのか」
鍋を囲みながらゴンザレス太郎達はチカから話を聞き終えていた。
転生なのかは微妙な感じではあったが、肉体が新しくなっているので一応転生と言う事にして話を進めていた。
そして・・・
「いや~ごっつぅ美味いなぁこの鍋」
「ダマ、もう元通りの話し方で良いよ・・・」
ミリーが鍋から自分で器に取って食事をしているフランス人形にジト目を向ける。
こんなんだが一応この世界を作った神の一人なのだ。
「とりあえず私とミリーが知らないって事はデウスが転生させたんやろ?」
「まぁ、そうだろね」
2人してチカを見詰めるが、ゴンザレス太郎とフーカはそんなチカにやはり違和感を覚える・・・
まるで他人な気がしない彼女…心ない天使の中に入っているからだと言い切ってしまえば簡単なのだが・・・
「タツヤさーん、まだお鍋要ります~?」
台所からアーニーが声を掛けてくる。
この鍋はアーニー家族が料理してくれているので全員で美味しく頂いていた。
食材に関してはゴンザレス太郎がコード『アイテム減らない』で少ない食材を増やして提供していたのでアーニーの母親のシルディーは嬉々として料理を行なっていた。
アーニーの妹のサーヤもお手伝いして和気藹々と食事を取っていた。
『ドクン!』
その時であった。
まるで星が鼓動をしたような振動が地面から伝わり、誰もが初めての感覚に驚いた。
誰一人口を開く事が出来なくなり、まるで今すぐに自分の命が終わる様な感覚を受けていたのだ。
その中でゴンザレス太郎とフーカのみが立ち上がり家を出て行く。
残された者達はその場を動く事すらも出来ず、2人が出て行くのをただ眺める。
そして、再び星の鼓動の様な物が響く!
『ドクン!』
それと共にその場に居た人達だけでなく、二人を残してこの世界の全ての人が意識を失った。
アーニーの家を出たゴンザレス太郎とフーカは互いに口を開く事無く転移で移動する。
行き先は町から数キロ離れた荒野であった。
転移が終わり着地すると共に全身から一気に汗が噴き出しその場にへたり込む2人。
口を開く事も出来ない、ただ圧倒的な存在が物凄い速度で近付いて来るのだけが分かった。
やがて地平線にそれは姿を現わした。
黒と紫のカラフルな羽と原型を留めてない男とも女とも分からない姿。
ただ視線を向けるだけで絶望が心を埋め尽くす、そんな感覚に襲われる2人。
『やぁ、やっと会えたね』
そいつは空中で法則を無視した動きをし、凄い速度で移動してきたにも関わらずその場で急停止して言葉を発する。
ゴンザレス太郎は無理やり自らの体を動かしてそいつを見詰める。
だがそいつが視線を向けているのが自分ではなくフーカだという事実に疑問を持つ。
『それとそっちの・・・タツヤと言ったかな?君には本当感謝してもしきれないよ』
言葉を自分に向けて発せられた。
それだけで謎の感情が体の中から溢れ出る。
危険だ…
理由は分からないがとてつもなく危険な感情がゴンザレス太郎の中を駆け巡る。
言霊でもなく、それが何かは分からない。
ただ目の前に居る存在が自分の遥か上に位置する存在であると言う事だけが本能で理解できた。
『さぁ、私と共に行こう私達は二人で一つだ』
そいつが手を差し伸べる、それに対してフーカが立ち上がり手を伸ばす。
しかしゴンザレス太郎はフーカの表情に気付く!
険しい顔付きでフーカが必死に抵抗しているのが直ぐに分かったのだ。
だが体が全く動かない、やがてフーカの体がそいつの元へ向かい手を伸ばす。
その時、フーカの目から一筋の涙が流れた。
「コード『極限突破ぁあああああああ』!」
フーカの涙を見てゴンザレス太郎は己の体の事を気にせず、現状を打破する為にあのコードを発動させた!
それによりまるで体中を透明の糸で縛られていてそれが切れたように体の周囲で何かが切れる音がした。
『へぇ・・・流石この世界の理論を越えた存在だ』
そいつはフーカに伸ばしていた手を引きゴンザレス太郎に視線を移す。
ゴンザレス太郎は自らの命と引き換えに限界突破でカンストを超えたステータスを更に極限突破で2乗にして自由を取り戻した。
全身が赤く染まり蒸気の様な物が吹き出る!
「フーカを泣かせるなぁあああああ!!」
『だけど君はもう用済みなのだよ』
そう告げたそいつは背中の羽を飛ばした。
左右から1枚ずつ飛び出した羽は目の前で衝突し一瞬にしてエネルギーの塊となる。
『君から教わった対消滅、お礼に味わってくれ』
その場を光が包み込み、膨大なエネルギーがうねりを上げてゴンザレス太郎を吹き飛ばす!
光が発生した真下の地面にクレーターが出来る。
だが、その場に居たそいつとフーカの体だけはまるでその部分だけ泡に包まれている様にエネルギーが避けて、二人は無傷のままゴンザレス太郎だけを無力化した。
吹き飛ばされて地面を転がりながら数百メートル離れた場所で動かなくなるゴンザレス太郎。
その体が原型を留めているのに驚きを見せ、そいつはゴンザレス太郎へ向けて語りかける。
『この娘は返してもらうよ、もし何かこの私『冥』に言いたい事があるなら明日まで待っててあげるよ。この世界が終わるまではね』
そう言ってそいつはフーカの手を取り、とんでもない速度で空を飛んでいく・・・
それと共に世界に満ちていた何かが消えて人々は次々と目を覚ます。
何があったのかを知るのは瀕死の状態で倒れてるゴンザレス太郎ただ一人だけであった。