異世界ツクール   作:昆布 海胆

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第33話 愛するフーカの為に神すらも裏切る!

「嘘だろ・・・なんなんだよこれ・・・」

 

達也がスキル『サーチ』を使用し、この世界でのフーカの居る場所までやって来た。

そこは病院であった。

そして、目の前の状況に固まる。

扉には『面会謝絶』の文字が表示されており、看護士の格好をしたマネキンが立ちはだかっていた。

 

「ようこそ、ゴンザレス太郎君」

「お前・・・こっちの世界のダマか?」

「そうだ」

 

達也はダマを無視して扉を見詰める。

その向こうにフーカが居る、だが達也の前に居るダマは彼を通そうとはしない。

 

「君は全て知っているようだな・・・」

「そっちこそ何処まで知ってるんだ?」

「あっちのダマから伝わってる事は知ってるさ」

 

周囲に人の気配がしない、人払いを行なうスキルを発動させているのか?

達也は目の前のダマの言葉に耳を傾ける。

 

「君には悪いがこの世界を守る為だ。ここで大人しくしていてもらおう」

「フーカは?」

「もう彼女は・・・そして、観測者を解き放つ訳にはいかないのでな」

 

ダマが語りだす。

この世界に観測者が侵入したことが過去にも何度もあった。

その度に世界は無茶苦茶にされ、観測者が生き絶えるまで幾度と無く世界を作り直した。

そして、この世界を統治する3人の神は観測者をこの世界に解き放たない為に幾つかの対策を行なった。

その一つが今のフーカであった。

 

「君が居た世界からこっちの世界に移動するのにはこっちの世界の肉体が必要だ。だがその肉体の持ち主は基本的に仮死状態にならないと向こうに行けなくした。それが対策の一つだ」

 

達也にもそれは理解できた。

マリスによって殺された事でゴンザレス太郎としてゲームの中の世界へ行ったのだ。

だが達也は仮死状態になっただけで死んではいなかった。

もし達也の体に観測者が乗り移ってこの世界にやって来ていたら、別の対策が取られていたのだろう。

 

「君も知っての通り観測者はこの世界のどんな力でさえも取り入れ自身を強化したり出来る。なので我々神の力を持ってしても討伐する事は不可能なのだ」

「だから、手っ取り早く元の肉体の持ち主と共に殺すと言うわけか」

「理解が早くて助かるよ」

 

ダマは笑みを浮かべる。

その顔をみて達也は怒りに拳を強く握る・・・

だがダマの行動は確かに仕方ないのだ。

本当にあの世界の冥がその力を持ってこの世界で自由を得たら世界は間違い無く滅ぼされる。

ゴンザレス太郎として達也があの世界で対消滅を実現させたが、冥はこの世界でも同じように何の制限も無くあれを再現できるのだ。

まさに片手間で世界を滅ぼす事が出来る力を手にしている、その上ゴッドウエポンの力を持ち、時間にすら干渉する事すら出来る。

 

「今回の観測者、冥は過去に類を見ない最強最悪の存在だ。もし自由になったらこの世界だけではなく大変な事になるだろう」

 

ダマは達也を説得する。

と言ってもダマは達也がどうこう出来るとは思ってない。

ゴンザレス太郎としての達也の事は、あの世界で強いという事しか知らないのだ。

 

「分かった。だが、俺はフーカに会う」

「聞いていたか?もう彼女は居ない。マリスの話では既に彼女の意識は冥に・・・」

「約束・・・したんだ・・・遠い、遠い昔だけど・・・絶対に助けるって」

 

達也は歩み始める。

それを止めようと手を伸ばすダマ。

だがその体に触れた瞬間にダマは手を引っ込める。

 

「うそ・・・ありえ・・・ない・・・」

 

一瞬だが触れた事で達也のステータスを理解したのだ。

コード『限界突破』により理論値のもう一桁上のステータスを所持している達也はダマでは止められない。

だがダマも道を譲るだけではない。

 

「む、無駄よ!観測者を外へ出さない為の究極の結界がその中には張られているから!」

 

ダマの横を素通りして面会謝絶と描かれたドアを開くと部屋の中央にベットが一つあった。

その上で様々な機械と接続され延命処置を受けている女性が一人眠っていた。

その姿はフーカとは似ても似つかないが、達也はそれがフーカだと確信していた。

理由はない、直感である。

そして、達也は彼女を中心に球体状に存在する結界を見て小さく笑い口にする。

 

「スキル『プロアクションマジリプレイ』発動」

 

そして、操作を少しした後・・・

そのまま結界を素通りしてその中へと入って行った。

 

「え、えぇ?!嘘っ?!」

 

その結界を一目見て達也は理解していたのだ。

それはかつてサラの兄であった魔王子アーサーが持っていたユニークスキル『冥狂死衰』で発動させた結界と同じものだったのだ。

となれば達也にはあれが在る、そう・・・

コード『建物素通り』である。

結界の中へまるで結界なんて存在していなかったように歩いて入り、達也はフーカの直ぐ横で立ち止まる。

 

「や、止めなさい!」

 

ダマが結界の外で叫ぶが達也は止める気なんて毛ほども無かった。

懐から取り出したのはいつものラストエリクサーである。

既に達也はスキル『絶対浄化』を発動させており、呪いや病気と言ったモノは全て近付くだけで浄化されている。

後は彼女の体を癒すだけなのだ。

達也はその蓋をいつもの様に抵抗無く開ける。

一瞬にして空気に溶け込んだラストエリクサーは結界を素通りして病院内に居る全ての人の怪我を治し、10分以内に息を引き取った死人すらも生き返らた。 その事で病院内は大騒ぎになっていたりする…

だがそんな事は気にせずにベットで横たわるフーカの肉体を見詰める。

 

「頼む・・・残っててくれ・・・」

 

達也の願いが届いたのか、その女性は目をゆっくりと開いた。

真っ赤な右目と真っ黒な左目のオッドアイが天井からの光に眩しそうに瞳孔が収縮する。

少しして落ち着いたのかキョロキョロと周りを確認してゆっくりと上体を起こす。

 

「あぁ・・・なんてこと・・・この世の終わりだわ・・・」

 

ダマが後ろでブツブツ言っているが、気にせずに達也は女性を見詰める。

やがて女性が達也に視線を向けて口元を大きく歪める。

 

「くくく・・・礼を言わないとな、お前にまさか助けられるとは思わなかったよ」

 

低い声、間違い無く冥である。

それでも達也は冥の入った女性を見詰める。

次の瞬間達也は後方へ吹き飛ばされ、結界に背中をぶつける。

既に建物素通りは解除していたのだ。

 

「ちっ・・・」

 

達也の口から痛みを我慢しながら毀れた一言・・・

それを聞いて冥は嬉しそうに笑う。

だが自身を包み込んでいる結界に気が付き、不機嫌そうな表情に一変する。

 

「これは・・・あぁそう言う事か」

 

冥が気付いた。

それを理解した達也は冥に襲い掛かる!

一瞬で間合いを詰めたその動きはまるで瞬間移動の様であったが、それをカウンターで冥は達也を更に吹き飛ばす。

結界に背中を叩き付けられ、痛みに顔が歪んでいる達也を見てニヤリと笑いながら冥は口にする。

 

「知ってるぞ、これはあの結界だな。つまりお前のスキルで通り抜けられる」

 

そう、冥は観測者・・・

達也があの世界で魔王子アーサーを助けた時の事も知っているのだ。

ダマは既に安全な場所に逃げたのであろう、姿を消していた。

 

「さぁ、お前がここに居るという事はあの世界は見捨てたのだろ?折角助けてくれたんだ。愚痴ぐらいは聞いてやるよ」

 

冥が達也を見下し立ち上がる。

伸ばし続けられていた長い髪が床に届く。

達也は何も言葉を発さずに冥を睨みつけた。

この世界で唯一正面に立つことが出来る達也だが、それでもやはり力の差は確定的であった。

例え今『極限突破』で突撃しても殆ど何も出来ずに無力化されるのは分かりきっている。

 

「ふふっ安心しろ、この世界を遊びつくすまでは滅ぼすつもりは無い。お前は最後まで生かしておいてやるよ」

 

達也は変わらず冥を睨みつけている。

その表情が苦痛と悔しさに満ちて居ると勘違いした冥、愉快そうに聞いてもいないのに語り始める・・・

 

「安心しろ、今の私はこの女の全てを取り込んだ。お陰で時間を加速も減速も出来るようになった私は完全体と言うに相応しいだろう。全てはお前の功績だ」

 

嬉しそうにそう告げていた冥であったが、それを睨み続けていた達也が突然何かに気付いたように表情を変えた。

そして、突然達也の気配が変わり口元に笑みが戻った・・・

 

「見つけた・・・」

 

そして、達也は全てを賭けた最後の突撃に出る!

 

「コード『極限突破』発動!」

 

地面を蹴った事で床が変形し、達也の体が音速を超えた時に出る空気の壁を破った音が部屋に響く!

冥に向かって一気に襲い掛かったのであったが、次の瞬間そのタツヤの腹部に冥の拳が貫通しているのであった。


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