スキルを発動させ、体育倉庫に在ったマットを床に敷いて、そこで仮眠をとるゴンザレス太郎。
少ししてフーカがゴンザレス太郎のおでこをペシペシ叩いて起こす。
寝付いて直ぐなので寝ぼけることなく、目を覚ましたゴンザレス太郎を見て聞いていた通りだとフーカは驚く…
「本当、状態の項目が変な記号になってるわ」
フーカは右手で前髪を持ち上げてゴンザレス太郎を見る。
この仕草で見えるようになるオッドアイが彼女の魅力を高める…
(駄目だ駄目だ、俺にはシズクちゃんって人が…)
勝手にシズクを脳内彼女にしているが、別に今は単なる友達である。
そんな事をゴンザレス太郎が考えているとは知らないフーカ、ポケットからリップクリームを取り出してゴンザレス太郎に渡した。
「これを増やせばいいの?」
「えぇ、まだ未使用だし売っても良い値段で売れると思うわ」
この世界でも女性の化粧品は作られているが、現代日本みたいに量販店等が在るわけではなく、職人が一つ一つスキルを使って作るのでその価値は非常に高い。
ゴンザレス太郎は一度そのリップクリームを道具袋に入れて再び取り出す。
そして、床に敷かれたマットの上にそれを捨てた。
「あっ…」
話しには聞いてたが、やはり高級品のリップクリームを捨てられるというのに少し反応してしまったフーカ。
小さく声を出したが、それを気にせずゴンザレス太郎は道具袋に手を入れて再びそこからリップクリームを取り出す。
「頭では分かってるつもりだったけど、実際に見て改めて驚いたわ…」
フーカが見つめてるのを気にせずに、ゴンザレス太郎は再びマットにリップクリームを捨てる。
そして、また道具袋からリップクリームを取り出して…
「あはは…あははは…本当何なのそのスキル?!」
質問形式になってるのできっと神力を消費しているのだろう、だがそんなことはお構いなしとフーカは興奮した様子で声を大にして話し出す。
だがしかし、それが不味かった。
「ん?誰かいるのかー?」
体育倉庫の外を偶然通りがかった教師がその声に反応して見に来たのだ。
マットの上には高級品のリップクリームが幾つも転がっている、これを見られるのは不味い!
ゴンザレス太郎は声から教師の存在に気付き、慌てて一か八かの賭けに出た!
「誰だー?お前らなにやって…」
勢いよく体育倉庫のドアが開けられ教師が中に入ってくる!
だが教師はそこで動きを止めてしまった。
丁度発せられたゴンザレス太郎の言葉に驚いたのだ。
そこには二人の男女が居た。
女の方は体力測定でぶっちぎりの最下位を記録したことで有名な二年生のフーカであった。
しかし、男子生徒は誰か分からなかった。
何故ならば彼は敷かれたマットの上に居て、その顔が確認できなかったからだ。
そして教師が二人を確認したと同時にゴンザレス太郎は叫んだ。
「前からずっと好きでした!俺の彼女になって下さい!」
それは見事な土下座であった。
額を完全にマットに付けている為にゴンザレス太郎の顔は確認出来なかったのだ!
そして、それを見た教師は…
「青春の一ページを満喫しろよ若者共」
っと小さく呟いて体育倉庫を後にする。
そう、ゴンザレス太郎はマットの上に在ったリップクリームをその体で隠して、教師から見えないようにするためにうずくまったのだ!
だがそれだけでは明らかに不自然、なのでその姿勢を取ってるのに一番分かりやすく一目で理解が出来て、尚且つ教師に乱入されない方法を取ったのだ!
暫しの沈黙…
体でリップクリームを隠しているゴンザレス太郎からは教師がまだ居るか分からない、なので暫くその姿勢で居たのだが、フーカからなんの反応も返ってこなかったのでゆっくりと顔をあげて…チラリと教師が居ないのを確認した。
「ふぅ…間一髪だったな」
そう言った時に気付いた。
下から見上げるようにしたから分かったのだ。
フーカが顔を真っ赤にしてモジモジしているのに…
「あっあの…フーカさん?」
「ご、ごめんなさい!ちょっと考えさせて下さい!」
そう言ってフーカは走って体育倉庫から出ていった。
一人残されるゴンザレス太郎とリップクリーム…
「あれ?これなんか…ヤバくね?」
フーカの勘違いもそうなのだが、ゴンザレス太郎は『アイテム減らない』状態のままなのである。
とりあえずリップクリームを全て回収して持ち物を落としたりしないように慎重に帰宅するのであった。