達也の腹部を貫いたまま腕を固定された冥、腕が抜けず達也の『一刀両断』をその身に受けた。
「ぐっ…ん?」
瀕死の達也が使ったこのスキル、それを観測者の冥は勿論知っていた。
『一刀両断』その効果は『一生に一度しか使えない望むモノを斬るスキル』…
しかし、なんとこのパンドラから生まれた『一刀両断』は達也のプロアクションマジリプレイでスキルを付け直すと再度使用できるのである!
これはフーカもサラも『転生タイムリープ』を転生してから再度使用できたことからも事実であった。
だが問題はそこではない、瀕死の達也が一体何を切ったのか?である。
「き…貴様、一体何を切った?!」
冥が自身で変化を発見できない事に苛立ちを見せ、苦々しい表情で達也に問う。
腕は間違いなく達也の腹部を貫いており、このままでも達也は死を待つだけなのは変わらない。
そんな達也が悪足掻きで意味の無いことをする筈がないと冥は知っているのだ。
その時、冥の片目が突然見えなくなり、ポロリと顔から外れ落下した。
それを密着したまま達也は優しく受け止めて微笑む。
「フーカは返してもらったぞ!」
そう、冥が入り込んでからも変化の無かった片目の黒目…
そこにはフーカが最後の力を振り絞り、己の残った全てをそこに退避させていたのだ。
だが…
「ふはは…ふははははははは!なんだ?命懸けでやったのがそれか?そんな絞りカスにもう用はない!全ての力は既に我が物なのだから」
事実、冥にとって必要なのはこの世界で使える肉体とフーカの持つ時間を進める力。
それを得た今、フーカは完全に必要の無い存在となっていたのだ。
「だが、一瞬とはいえ我を驚かせた罪は償ってもらおう」
「ぐ…ぐあぁぁぁぁあああ!!!!」
達也の腹部を貫いている冥の腕が激痛と共に達也を取り込み始める。
生きたまま細胞が溶かされ喰われていく…その激しい痛みに達也は苦痛の声を上げる。
達也の身体中の血管が浮かび上がり冥が達也を浸食していく、一気にはやらない…冥は達也を最後の最後まで苦しめるつもりなのだ。
それと同時に達也の魂も時間を進められる。
もはや達也に抵抗する術は無かった。
蛇に飲み込まれた小動物のように…後は死を待つだけである。
通常で…あれば…
そこで、達也は口を開いた。
「冥、お前の正体…それは現実世界の人間だろ?」
達也のその言葉に驚いたのか、冥の腕の浸食が止まる。
達也はそのまま続けた…
「お前はこの世界の物語の読者、視聴者、プレーヤー…どれかは分からないがこの世界、2次元か何かは分からないが、そういう世界に入ることを望み実現させた者なのだろう」
冥は達也の言葉に驚きを通り越して恐怖の目を向ける。
それが達也の言葉が真実だと認めることに繋がっているのだが、冥は気付かない。
知る筈がない、理解ができる筈がない…
だからこそ冥は困惑した、だが…
「お前はもう俺に取り込まれるだけだ。これ以上話す必要はない」
冥は浮かび上がった疑心を無視し、そう告げ浸食を再開する。
既に達也の体は内部から浸食され、冥を引き剥がせば命に関わる所まで取り込まれていた。
だが達也は笑みを浮かべる。
「あぁ、そうだな・・・」
そう冥に告げ目を閉じる。
そして、冥に最後の言葉を告げる。
「なぁ知ってるか?『転移』ってな…行った事の在る場所にしか行けないけど…座標さえ合ってれば高さは自由に決めれるんだ」
「…? 一体何を言って・・・」
冥は途中まで口にして、目を閉じたままの達也の笑みを見てゾッとする恐怖を感じた。
自分をこの状況からどうにか出来る筈が無いのは分かっている。
だが、達也の表情は絶望の『ぜ』の字も浮かんでいないのだ。
「お別れだ冥!」
腹部に突き刺さっている腕を掴んでいた手は既に一体化していたが、もう片方の手は自由に動かせた。
その手を冥の頬に添え、そのまま達也は最後のスキルを発動させる!
「『転移』!」
その瞬間二人の体はその場から消え去るのであった。