異世界ツクール   作:昆布 海胆

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第36話 世界の最後の秘密

二人が消えた病室に一人の女神が顕現した。

ソッと地面に落ちているフーカの魂が入った眼球を拾い上げ、それを大切に両手で包み込んで再び姿を消す。

この世界のデウスであった。

 

「まさか本当にやり遂げるとはね・・・流石もう一人の私が惚れるだけあるわ」

 

白い部屋に戻ったデウスは座ってニヤけているマリスに微笑む。

 

「彼、やったわよ」

「そらそうさ、もう一人の私が惚れて一緒に居たいって言うくらいだもん」

「本当、二人も奥さん作った上に、神で在る私達まで惚れさせる人間なんて後にも先にも彼くらいだよね」

 

あっちの世界のデウスはまるで王族の様な話し方だったのに、こちらの世界のデウスは普通の女の子の様だ。

だがそれはワザとデウスがもう一人の自分をそうやって創ったからであった。

 

「しかし、ここまで本当にあんたの計画通りに進むというのは驚きだったわ」

「神スキル『変動未来選択』を舐めてもらっては困るわ」

「でもこの未来しか本当に無かったの?」

 

嬉しそうに真っ白なマリスは口を歪ませて尋ねる。

長い茶色の髪を手でまるでハーブを弾く様に撫で…デウスは答える。

 

「勿論!」

 

彼女こそこの物語の道筋を決定させた張本人であった。

フーカの魂は彼女の手の中からもう一人のデウスの手に渡る。

そして、その魂を予定通り一つに戻す。

 

千佳と言う生まれつき体の弱い女の子が居た。

彼女はかつて観測者と呼ばれる一人の異世界人であった。

この世界に来る事を望みそれを叶えた一人の人間でおる。

本来ならこの世界に現われると共に、この世界が防衛システムを作動させ排除に動くのだが、彼女の入った体は非情に弱かった。

いや、正確には彼女の存在の力が強すぎたのだ。

結果、千佳と言う少女はまともに日常生活を送れないほど弱弱しい命として存在し、防衛システムの起動を必要としないと判断された。

 

時は流れ千佳が遂に死を迎えるその日、デウスは数ある未来の中から、自由に自ら好きな未来を選んで確定させる事が出来る神のみが持つスキル『変動未来選択』を発動させた。

選ぶのは彼女が生き続けられて、もう一つの世界が救われて、更に自らが惚れる相手を守る未来であった。

 

その為にデウスは3つの事を行った。

 

1つ、千佳の魂が巨大すぎて人間の体ではそれを制御しきれないので、その魂を2つに分けた。

その1つをゲームインゲームの世界へ転生させ、フーカとして生まれ変わらせる、もう一つは時が来るまでデウスの元で保存され、時と共に別の体に入れられる。

その別の体に入れられた方に元の世界の記憶を持たせて・・・

そう、心ない天使の体を持つチカこそ、もう一人のフーカなのである。

なのでフーカが先にこの世界に戻ってしまったので、肉体が存在しない事で世界を渡る壁をチカは通過できなかったのである。

 

2つ、マリスを焚き付け達也をもう一つの世界に送らせる。

そもそも彼が居なければデウスの計画は成り立たない、数ある未来の中で唯一救いのあった選択を選ぶ為に彼の力が絶対に必要だったのだ。

星の数ほど居る様々な世界の組み合わせの中で、世界の因果に接触し全てを超える存在になり得る唯一人の存在・・・

ゴンザレス太郎を生み出すのに必要だったのだ。

 

3つ、観測者を神以外の手で葬らせる。

正確には神の力を持ってしてもこの異世界ツクールの世界に入り込んだ観測者を倒す事は不可能である。

その為、観測者が入ってしまった世界は滅ぼされるか神が滅ぼすしか方法が無かった。

だがそれをもしどうにか出来る方法があるとするならば、それを実際に実現させる。

それが成れば今後の世界を滅ぼさなくても対処が可能になるのだから・・・

 

未来を選択できる力を持つデウスだからこそ一人苦悩し、その力を使ったデウスはマリスの見詰めるそれを見る。

達也が冥と名乗る観測者と最後の一瞬を繰り広げているその映像を・・・

この世界ともう一つの世界の3人の神、彼女達は別人では在るが同一人物でも在る。

神の身でありながら恋心を抱いているその相手、達也がやってくれるのを信じそれを見詰める。

達也もこっちに来る前に全てを聞いていた。

その上で唯一観測者を倒す方法を考え、現在実戦をしていたのだ。

 

「でもアンタには達也が勝つって分かってるんでしょ?」

「どうかな、私が選べた唯一の未来は、彼なら観測者を倒せるって未来ってだけだから」

 

達也の前では狂った様に話すマリスも素ではこんなモノであった。

在る意味照れ隠しもあったのかもしれない。

達也の事を元から知っていたのだから・・・


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