「外だ・・・」
ダンジョンから出ると雨はあがっており、雲の切れ間から日光が差し込んでいた。
生きている・・・
それだけが全てであった。
「お腹空いたな・・・」
ピコハンは手に持っていた武器代わりの人骨をダンジョンの入り口に立てかけて近くを探した。
そして、ダンジョンから歩いて5分くらいの森の中に池を見つけた。
だが・・・
「汚いな・・・」
そう、池は酷く濁っており、試しに少し手で掬ってみたが、細かなゴミの様な物が大量に含まれていた。
とても飲み水にも使えそうに無く、ピコハンはその場を後にする。
だが直ぐに思い直してその池に戻ってきた。
「これだけ大きな池だ、もしかしたら何処からか水が流れ込んでいるのかも・・・」
そう考えピコハンは池をぐるりと回り込む…
すると池の少し離れた場所から湧き水が出ているのに気が付いた。
試しに手で掬うと湧き出て直ぐの水は透明で、なんとか飲めそうだった。
恐る恐る口に含んでみると・・・
「美味しい・・・」
喉が限界まで渇いていたと言うのもあるが、湧き出て直ぐの水は冷たくとても美味しかった。
家に帰ることの出来ないピコハンは、この場所を基点に生活する事を決めた。
幸い湧き水の近くには小ぶりな果実が実っており、少量ながら口に入れられる物が得られた。
「生き抜くんだ。例え一人でだって・・・」
ピコハンはその日からそこで暮らし始めた。
枯れ木を敷き詰め、落ち葉でベットを作り、雨が降っても大丈夫なように木で作った屋根に葉を大量に乗せて住処を作った。
だが強風が吹くと葉は飛び、直ぐに断念した。
特にもう直ぐ秋から冬に変わり始める。
果実もそれ程取れるわけでもない…このままでは死ぬのは目に見えていた。
そして、決意する。
「ダンジョンに潜るか・・・」
ダンジョンには様々なアイテムが落ちている、その話は以前にも聞いていた。
特に浅い階層でも稀に拾われる『マジックアイテム』と呼ばれる不思議な物が在れば生活は一変する。
武器を持った大人が数十人で命懸けで手に入れると言う話は既に頭から抜け落ち、ただ生きる為・・・
それだけを目的にピコハンはその日、再びダンジョンに入った。
入り口に置いて置いた人骨を手にし、奥へ進むと人間くらい在る巨大なナメクジが動いていた。
その体内には子供くらいのサイズの昆虫らしきものが入っており、喰われたのだと理解した。
「動きは遅そうだが、邪魔だな・・・」
通路はそれ程広いわけでもなく、気付かれずに交差するのは少し難しそうだ。
だが、移動している様子を見る限り動きは非常に遅そうだ・・・
「倒したらまたアレが出るのか試しておくか・・・」
ピコハンは前回こうもりを殺した時に出た光の様なものを思い出し、それが体内に入ったら自分が強くなったと解釈していた。
実際に筋力も少し上がっているのだが、空腹と睡眠不足と言うのもありその実感が沸かなかったのだ。
ピコハンは人骨を振り上げる!
そして、ナメクジが横向きに移動しているその体に持っていた人骨を叩き付けた!
「ぐぢゅ!」
生々しい音と共に、ナメクジは体を叩いた拍子に口から体液を吐き出した。
先ほどの体内にあった昆虫の様な生き物が吐き出され、ナメクジは苦しそうにしているのでチャンスとばかりに再び人骨を振り上げ、ナメクジの胴体に叩き付けた!
「ぶぢゅぎゅ!?」
更に体液を撒き散らし、なめくじは動かなくなった。
そして、その体からあの光の塊みたいな物が飛んできてピコハンの体内に入る。
それと共にやはり体が強化されたのを確認したピコハン。
魔物を殺せば強くなれるのなら…この辺りの魔物を狩り尽くしてやる!
どうせ寝床も無いんだ、危険を全部排除してから休めば良い!
そう考えドロドロに崩れ始めたナメクジを放置して、そのまま更に奥へと進む。
そして、ピコハンは目を疑った。
「なん・・・だこれ・・・」
通路の様な道を進んだ先に在ったのは、少し広めの空間でそこに張り巡らされた蜘蛛の糸。
それを人骨で取り払い、広い空間の中へと進むとそいつは居た。
人型の何かを糸でグルグル巻きにして宙につるし上げ、そこで食事をしているようだった。
ピコハンは他にも糸に摑まっている人間が居るのに気付いた。
だがどれもコレも既に息をしておらず、一目で死んでいるのは明白だった。
それらの死体を見ていたら、一つの死体の腰にぶら下がった剣を見つけ、それに手を伸ばした。
「糸に・・・触れないように・・・」
そして、死体の腰に装着された鞘から剣を引き抜いて手にする。
だが抜ききる時に剣の端が蜘蛛の糸に触れたのだろう。
突如食事を止めた上に居た蜘蛛がこちらを向いて近付いて来た。
やはり予想通り糸に触れたら獲物が掛かったと本能で理解して襲い掛かってきたのだ!
「やるしか、ないか・・・やってやるよ!」
ピコハンは剣を構えて蜘蛛と対峙した!
その光景を薄れいく意識の中で見ていた一人の人物が居た。
蜘蛛の糸に捕らわれて数週間、生きているのが不思議なくらい衰弱している一人のトレジャーハンターであった。
自分以外は全員死んだ。
それを理解しているその人物は蜘蛛の糸に縛られながらも運よく、ここまで喰われる事も無く生き続けていたのだった。
「だめだ・・・にげろ・・・」
かすれたその声はピコハンには届かない。
トレジャーハンター12名がこの蜘蛛の魔物1匹に全滅させられたのだから仕方あるまい。
だが、その人物は目を疑う事となる。
それは、ピコハンと蜘蛛の戦いを見たからだった。