異世界ツクール   作:昆布 海胆

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第5話 予想以上の急展開でいきなり家を持つ事になったピコハン

「止まれ」

 

ピコハンは生まれ育った『ファーの村』にルージュを背負って戻って来ていた。

だがピコハンの顔を知っている村の門番はピコハンを中には入れない。

特にこの世界では戸籍的なモノが身分証明にもなり、村を出て何処かに行く時は自らの身分を証明する『プレート』と呼ばれる板を持って出ないといけない。

これが無いと何処の町であろうが、村であろうが、中には入れない様に国で定められていているのだ。

主に盗賊対策なのだが、これが逆に利用されて盗賊が旅人から奪い取って堂々と街に入る事件も起きているのだが、そっちには対応が全くされてないのであった。

 

「プレートを提示して貰えるか?」

 

門番はピコハンがプレートを持ってない事を知っている、その上で聞いてきたのだ。

過去にもダンジョンから逃げ帰った捨てられた子供は居たが、こうして一人残らず村には入れて貰えず餓死するか魔物の餌になるのである。

 

「すまない、私のはこれだ・・・」

 

背負っていたルージュが自分のプレートを門番に提示する。

 

「これは!?スクルド商会のルージュ様?!」

「あぁ、私がルージュだ」

 

門番は態度を急変させた。

それもその筈、スクルド商会のTOPであるアルスはルージュの父であり、数日前から近辺にルージュの捜索願いが出されていたからだ。

 

「し、少々お待ち下さいませ」

 

そう言い残して門番は村長の所へ駆けて行く・・・

一人しか居ない村の門番がそこを離れてどうするのか?

そんな事を考えつつも勝手に中に入ろうとはせずにその場で待つピコハン。

 

「重くない?」

「大丈夫ですよ」

 

村の入り口で立ち尽くしているだけになったのでルージュは会話の切欠として話しかける。

それに普通に受け答えするピコハン。

だがそもそもそれが異常なのである。

ピコハンの身長が135センチに対して、ルージュの身長は148センチ、この体格差で幾ら痩せているとは言えルージュを負ぶったままその場に立ち続けると言うのは並大抵の事ではない。

特に人間の体と言うのは同じ姿勢を続ける事にかなりの負担を受けるように出来ている。

例えば肩幅より少し広めに足を開いてそのまま立ち続けるとその辛さが分かるだろう。

鍛えていない人なら10分以上そのまま立ち続けるのはかなりの苦痛を伴うからだ。

 

「ふふっ、本当に逞しいのね」

「そうかな?ルージュが軽いからだよ」

 

いつの間にかお互いに呼び捨てに出来るくらい仲が良くなっている二人、ルージュにとっても今後仕事のパートナーとしても取引を持ちかける気持ちで居てるので気兼ねなく話せると言うのが嬉しかった。

そして、待つこと数分後…門番が村長を連れて戻って来た。

 

「おおお、ルージュさんですな?御無事でなによりですじゃ」

「ありがとうございます村長さん、こちらのピコハンさんにダンジョンで助けられましてね」

 

勿論村長もピコハンがダンジョンに捨てられたと言う事は知っている。

人捨ては両親がその区域の長に許可を得てから行うと言うのが決まっているので、ピコハンの両親も村長にピコハンをダンジョンに捨てる事に同意をしていたからだ。

そのピコハンがダンジョンでスクルド商会のTOPの娘を救出したとなると少し厄介だと考えていた。

戸籍すらも捨てられているピコハンは村の一員としては認められないので報酬等は情報代くらいにしかならないのである。

 

「それで、村長さんとお話があるのですが・・・」

「分かりました。お聞きしましょう」

「一時的にピコハンも同席させていただいても?」

「むぅ・・・仕方ありませんね、必ずルージュさんと一緒に居ると言う約束でならば許可しましょう」

 

こうしてピコハンは村の中に入れた。

その後、ピコハンは応接で待機させられ、ルージュと村長が別室で話し合う事数十分。

久々に地面じゃない場所で横になれたピコハンはそこで仮眠をとっていた。

 

 

 

 

「ピコハン、起きてくれピコハン・・・」

「ん?」

 

どれくらい寝ていたのだろうか、目を覚ましたピコハンの横にはルージュが座っており笑顔を向ける。

 

「交渉成立だ。早速明日からあの泉の場所に家を建てて貰う事になった。」

 

 

 

 

そして、これがピコハンがこの世界にその名を届かせる第一歩であるとこの時はまだ誰も知らない・・・

 

 

 

 

数日後、村長の家から出ないと言う約束でルージュと共に寝泊りさせてもらっていた二人。

遂にその日、ルージュの父アルスが村にやって来てピコハンに感謝と今後の取引について話をした。

そして、ルージュが新しく建てられたピコハン専用の家に別の従業員と一緒に住み、そこでダンジョンから得た商品を取引すると言う形が約束された。

その日の午後、ピコハンはその新しく建てられた建物に来ていた。

 

「これが・・・俺の家・・・」

「違うぞピコハン、私達の家だ」

 

そして、ピコハンとルージュを家で待っていた一人の長身の男性が頭を下げる。

 

「お待ちしておりました、ピコハン様、ルージュ様。自分はヒロネスと申します」

 

ピコハン自身、この予想以上の急展開に頭が追いついていないのだが、そんな事は関係なく話は進む。

こうしてこの3人での新しい生活がこの日始まったのであった。


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