異世界ツクール   作:昆布 海胆

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第8話 死闘女王蟻!

常に死角を狙って襲いかかってくる蟻の化け物、本能なのだろうか?

視線を向けると動かなくなるので、逆に対処は楽であった。

 

「よっ!」

 

背後から襲われる前に駆け出し、正面の蟻の頭部に短剣を突き刺し、飛び越えるように背後に回って頭部から後頭部にかけて切り裂き一匹を仕留める!

表面は硬かったが突き刺して押し潰すように切り裂いたのだ!

 

「ほらよっ!」

 

仕留めた蟻が倒れそうになるのでその背中を蹴って押し出す!

その一匹を蹴り飛ばせば包囲網は抜け出せて、残った六匹は全部正面だ。

視線さえ向ければ動きが鈍くなるのをそこまでで察知したピコハンは端から順に倒していく、乱戦になれば危険だったかもしれないが、確実に一匹ずつ仕止めていける状況に持ち込めれば現在のピコハンにとってそれほど恐ろしい敵ではなかった。

 

「お前で最後っだ!」

 

蟻の主な攻撃が硬い顎による噛み付きだけだったのも対処がしやすかった理由だろう、複数ある脚は獲物を捕らえるのには使われず、人間の足のように細かな機動力の為だけに進化した形だったので特に苦労することなく殲滅する事ができた。

だが…

 

「おかしいな?死んでない…のか?」

 

そう、ピコハンがダンジョン内の魔物を倒すと必ず出る光の粒子が蟻の魔物からは出なかったのだ。

試しに一匹の蟻の死体を蹴ったが反応もなく不思議に思ったピコハンであったが。

 

「まぁ出ないのが普通なんだよな」

 

と根本的な事を考えてとりあえず共有箱を組み立てる事にした。

折り畳んだ状態でほ2リットルのペットボトルくらいのサイズで、腰に装着していたそれを開いて組み立てると10キロのミカン箱位のサイズになり中身が見えなくなった。

箱の中がもう一つの箱と繋がった証拠だ。

そして、蟻達の死体を一体ずつ足を曲げながら中へ入れていく。

 

「凄いなこれは!」

 

ピコハンが驚くのも無理は無いだろう。

初めて使った共有箱は、誰でも知識として知っていても驚くものだ。

その中は異空間のようになっており、入れれば入れるほど蟻の体重が体と共に消えていくのだ。

倒した計8匹の蟻を直ぐに収納したピコハンは蟻の出てきた大部屋の開いた穴へと足を踏み入れた。

 

中に入れた魔物の死体はルージュがヒロネスと共に定期的に取り出して剥ぎ取りを行ってくれるし安心だ。

そして、蟻が死んでいるかどうかも、共有箱には生物は体の一部しか入れられない事から死んでいた事が判明した。

 

その穴を暫く進んで少し開けた場所を覗き込んだらそいつは居た。

先程の蟻達の倍はある巨大な体に背中にサナギみたいな灰色の管が付いており、そこから今産み落とされようとしている蟻が居た。

その巨大な生き物は蟻を生み出している姿からまさに女王蟻と呼べる存在であった。

そして、その女王蟻は蟻を生みながら何かを喰っていた。

肌色のそれは口の中へ消え口元から血が溢れる。

ピコハンは吐き気を感じたが、その下に動く何かを見つけて即座に飛び出した!

 

「いたい…いたいよ…」

 

消え去りそうなその声の主はボロ巾を一枚纏っただけの黒髪の少女であった。

既に左腕と右目がなく、切断面は溶かされたのかドロドロになり血があまり出ていなかった。

そのお陰で出血多量で意識を失わなかったのが幸いした。

飛び出したピコハンはその少女に女王蟻の前足が迫っていたのを短剣で止めた!

 

ガキンッ!

 

だが短剣は女王蟻の前足を切断できず、まるで金属とぶつかったような音と共にピコハンは押される!

地面に靴の跡を残しながら押し下げられ耐えるピコハン、その背後に居る少女が動かないのをチラリと見て…

 

「下がってろ!」

 

その言葉にビクッとした少女は立ち上がり走ろうとするがよろけて転ぶ。

片腕を失ってバランスが取れないのだ。

そして、ピコハンを超えるように少女に迫る蟻のもう一本の前足。

 

「くそがぁぁぁぁぁ!!!!」

 

押されてた前足を短剣を斜めにして反らして女王蟻の懐へ飛び込むピコハン!

そこに先程生まれたばかりの蟻の魔物が迫る!

 

「邪魔だぁ!」

 

先程戦って弱点が分かっていたピコハンは下から蟻の喉に短剣を突き刺し絶命させる!

それを見た女王蟻は生み出した蟻が殺されて怒ったのだろう、少女に向かっていた前足をピタリと止めて標的をピコハンに向けて払うように動かした!

とっさにジャンプしてその前足の払いを飛び越えたピコハンであったが、前足は2本在るのだ!

空中で身動きの取れないピコハンはもう一本の前足に吹き飛ばされ、横の壁まで吹っ飛び壁に叩き付けられた!

 

「がはぁ!?」

 

幸い短剣で直撃は避け、背中から壁に当たったので致命傷は負わなかったが、背中を強打した事で呼吸が詰まる。

四つん這いになって苦しむピコハンの頭上に影が見えたと思ったその次の瞬間、そこに蟻の前足が突き刺すように降り下ろされたのであった。

 

「あぁ・・・」

 

それを見た少女はもしかしたら助かるかも知れないと考えていた自分の考えの甘さを理解した。

本来このダンジョンで魔物を1対1で倒せる人間なんて居るわけが無いのだ。

しかも相手はただの蟻ではなく倍近くは在る巨大で凶暴な女王蟻。

しかし、次の瞬間女王蟻の首元に何かが突き刺さった!

 

「自分の足の味はどうだ!」

 

突き立てられた前足をギリギリでかわしたピコハンは関節を短剣で叩き切ってその足を蟻に向けて投げつけたのだ!

 

「GIGIGIGIGIGI!??!?!」

 

なにが起こったのか理解が追いつかない女王蟻の混乱した様子を見て、行けると踏んだピコハンは短剣を左手に握り女王蟻の前足を登る!

それを振り払おうと女王蟻は前足を振る!

だがピコハンがしがみ付いて離れない!

それを見た女王蟻はピコハンをほおリ投げようと前足を持ち上げた。

ピコハンはチャンスとばかりに女王蟻の頭部目掛けてダイブした!

そして、左手に握った短剣を女王蟻から見えないように飛び掛り右手で突き刺すような仕草で目を狙う!

女王蟻はそれを避けようと上体を動かした。

 

「引っ掛かったな!」

 

ピコハンの本命は右手ではなく左手!

空中に居るピコハンの外側へ向けて体を動かした女王蟻だったが、空中でピコハンが体を捻って右手ではなく左手から短剣が投げつけられるのをその目で見た!

そして、その短剣がそれを見つめる女王蟻の左目に突き刺さる!

 

「GYAGAGAGAAGAGAGAGAGAGAGAA!!!!?」

 

悲鳴にも似た叫び声と共に頭部を振って刺さった短剣を抜こうとする!

その隙にピコハンは女王蟻の背に着地した。

その手に握られているのは一応腰に付けた巾着袋の中に取っておいた先程の部屋で戦った蟻の牙!

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!!!」

 

その牙で女王蟻の背中を刺す!刺す!刺す!刺す!刺す!

蟻の魔物の中でも一番強度の高い牙は女王蟻の背中を抉り、悶え苦しむ女王蟻!

卵を産むために下半身は管に繋がっていて自由な身動きが取れないのだ!

蟻の体の形的に背中を取られたら反撃の手段が殆どない。

知って知らずかは分からないが、ピコハンはベストポジションで女王蟻の背中を抉り続け・・・

女王蟻の体から光の粒子が浮かび上がったのを確認しピコハンはその手を止めた。

 

「やった・・・」

 

その言葉と共に女王蟻の上体は地面に落下し、喉に刺さっていた前足が更に奥まで刺さり後頭部まで貫いて確実に息の根を止めるのであった。


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