異世界ツクール   作:昆布 海胆

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第13話 襲われたアイ、それにキレるピコハン

「なに?!断られただと?!」

 

ピコハン達から税金の支払いを断られ、領主の元へ戻った部下は有りのままを報告した。

結果は予想通り、領主のキャベリンを怒らせる事になった。

 

「は、はい。どうにも村長の少年は人捨てされた者らしく…」

「だからあんな腐池の奥地に村が出来たわけか…」

 

腐池とはピコハンが最初にたどり着いた濁った池だ。

ピコハンは何ともなかったが、生き物にとってあの池の水はまさに毒なのであった。

なのであの土地に住もうなどと考える者は今まで居なかったのだ。

だが偶然にもピコハンが見つけた湧水のお陰であの周囲が浄化されており、更には腐池のお陰で獣や魔物もあの土地には寄り付かない隠れた良地でもあったのだ。

 

「くそぅ、ならば次の手だな…おい!噂のトレジャーハンターは居たのか?」

「いえ、今回は村長を名乗るその少年とそこで商いを行っている代表のルージュとか言う女しか会いませんでした」

「そうか、ならばどんな手を使っても構わんから引き抜いてこい!」

「へっ?そ、それは金銭的にもですか?」

「あぁ、ダンジョンを一人で進んで宝を持ち帰れるような者ならば幾らかかっても元は取れるしな」

「か、畏まりました」

 

そうして配下の男は出ていく…

領主のキャベリンも配下の男もダンジョンを攻略しているのは噂になってる全身武装した大男と思っていたのだが、実際は村長として会ったピコハンだと言うことをまだ知らない。

 

「くくくっ俺に逆らった村なんぞ滅ぼしてくれるわ…」

 

領主の笑い声が響く…

 

 

 

 

 

「一体どう言うことなんだ?」

 

あれから数日、ピコハンの村近くに潜伏して人の出入りをチェックしている配下の男だが、出入りするのは職人やルージュくらいのものであった。

それはそうだろう、職人は仕事が休みになれば自宅へ帰る。

ルージュは村の…いや、ピコハンの為に毎日様々な事をしている。

それ以外の人は共有箱が在るので村から出る必要が殆ど無いのだ。

売買に関してもルージュの親の店と共有箱を通して村から出ずに行えるのである。

しかも配下の男が探しているのは一人でダンジョンを攻略していると言う全身武装した大男である。

そんな人物が居るわけないのだから…

 

「くそっ!もしかしたら別の出入り口が在るのか?!」

 

領主もこの配下も予測していなかったのであろう、前回ピコハンがダンジョンから持ち帰った物の量が多すぎて処理が追い付かず、今現在も魔物は素材取り、アイテムはルージュを通じて売買を行っているのでダンジョンに行く理由が無いのだ。

なのに売り上げに毎日盛り上がる村の様子を外から眺めていた男はそう考えても仕方ないだろう。

 

「くそっこうなったら・・・」

 

そして、この配下の男は一番やってはいけない事を行ってしまう・・・

 

「あの娘なら・・・片腕だし人質には最適だろう・・・」

 

夜の更けた村の中、ピコハンの寝室の水差しを補充する為に、湧き水の所へ水を酌みに出た片腕の少女アイを標的にした男の部下が物陰からアイに襲い掛かった。

 

「っ?!」

「動くなよ、まだ死にたくはないだろう?命が欲しかったら黙って1回頷け」

「・・・・・・」コクン

 

片腕に加え片目と言う事で死角も多く、拘束するのも簡単なのである。

何せ片腕を押さえてもう片方の手で首などを絞める事が出来るのだから。

アイを押さえた部下はアイの背後から腕を締め上げ男が正面から話しかける・・・

 

「この村にダンジョンを単独で攻略している男が居るだろう?そいつの元へ案内しろ」

「・・・・」コクン

 

アイを後ろから羽交い絞めにした状態で男達はアイの案内で4人が住んでいる家に向かう。

そして、案内された場所に着いて男は怒りを露にする!

そこは以前ピコハンとルージュが応対した建物だったからだ。

 

「本当にここなのか?!」

「・・・」コクコク

「嘘では無いようだな、ではお前はもう用済みだ」

 

男が頷くとアイの首に触れていた部下の手に力が入る。

片腕を固定され身動きの取れないアイは首を振って足をばたつかせ抵抗するが、首を締め上げてる手によってアイの体は持ち上がりその指がアイの首に食い込む・・・

このままアイを殺しピコハンを殺しダンジョン攻略者を金と地位で引き抜けば全ては上手くいく。

そう短絡的に考える程、男も切羽詰っていたのだ。

 

やがてバタついていたアイの手足から力が抜けて・・・

アイはゆっくりとその目を閉じていく・・・

彼女は擦れた声で最後の一言を搾り出した・・・

 

「ピ・・・コ・・・・・・」

 

男は目を疑った。

部下に少女を殺せと命令し、背後から腕を固め首に減り込んでいた手で少女は持ち上げられていた筈だった。

だがドゴンっと言う音がしたと思ったら部下の男は肩から先が無くなっており、少女を抱き上げるピコハンが立っていたのだ。

 

「う・・・あ・・・ぐぁああああああああああああああ!!!」

 

遅れて絶叫を上げると共に、腕があった場所から血を吹き出させながらその場に倒れ苦しみ悶える部下の男。

そして、少し離れた場所に男の物と思われる腕が空から降ってくる。

あの一瞬でアイのピコハンを呼ぶ声を聞きつけ、ピコハンは窓から飛び出して一瞬でそこまで移動し、首を絞めていた腕を蹴り千切りアイを救出したのだ。

 

「ケホッエホッ・・・」

「アイ、大丈夫か?」

「ぴ・・・ピコハン・・・」

 

ピコハンの胸に顔を埋めてすすり泣くアイの頭を撫でながら間に合って良かったと安堵しつつ、目の前の領主の配下と名乗った男を睨みつけるピコハン。

 

「ひ・・・ひぃいいいい!!!」

 

男はその場にへたり込み後ろに下がりながら震える、よく見れば股の部分が漏らしたと一目で分かるくらい濡れていた。

完全な戦闘体勢となったピコハンの殺意が男に突き刺さっていたのだ。

絶対強者からの殺意はまるで絶対強者に捕食される餌と同じで、助かる術が無いと瞬時に理解するには十分であった。

これでアイがもし死んでいたらこの場で既に男は息をしていなかっただろう。

間一髪ピコハンが間に合って助かったからこそ二人はまだ現状生かされているのだ。

倒れた片腕を失った男もピコハンの殺意を直接向けられている訳ではないのにも関わらず失神していた。

それくらい今のピコハンの存在は強者として本能に伝達するレベルに達していたのだ。

 

「ち・・・ちがうんだ・・・」

 

かろうじで口から出た言葉がこれだった。

一体この現場を押さえられて何が違うと言うのか・・・

 

「これは領主の意思なんだな?」

「あ・・・あうっ・・・あぁ・・・」

 

ピコハンの殺意を直接浴びさせられた領主の配下はあまりの恐怖に言葉にならない…少しして口から答えるのを諦め、頭を上下に何度も動かす。

それを確認したピコハンはアイを抱き締めたまま家の中へ入っていく・・・

配下の男は自分の命が運よく助かった事でやっと我に返り、部下の男が倒れているのを放置しそのまま逃げ出した。

本人は気付いていなかったがピコハンの殺意に当てられて髪が全て真っ白になり、一気に20歳は老け込んでいた。

 

 

 

「ど、どうしたんだ?!」

 

家の中に居たルージュはピコハンに抱き抱えられているアイを見て声を裏返す。

 

「先日来た領主の配下に殺されかけた・・・暫くアイを頼めるか?」

「ダーリンまさか・・・」

「あぁ、お礼しに行って来る」

 

そう言ってルージュも見た事の無い程怒りに満ちた表情のピコハンは家を出て行く。

一応連絡用にいつもの折りたたんだ共有箱は携帯して、外に出たら一気に駆けて行く。

そして、領主の元へ急いで帰ろうとする配下の男を見つけその後を付ける。

馬に乗って移動する人間に見つからないように、隠れながら走って追いかけるという人間離れした事を行いながら、ピコハンは馬で1時間程の場所に在る領主の豪邸に遂に辿り着くのであった。


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