異世界ツクール   作:昆布 海胆

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第15話 キャベリンを追い詰める!

「舐めるな!」

 

腰に挿していた剣を砕かれたのには驚いたが、警備隊長を任されるだけあって様々な事態にも対応できる様に訓練をしているのであろう。

ピコハンに一体どうやって腰の剣を破壊されたのかは気にせずに、ユティカは振り向き様に裏拳を放つ!

だがピコハンはそれを軽く手で受け止める。

 

「かかったな!」

 

そのまま回転を利用してユティカはピコハンの手首をもう片方の手でつかみ、腰をピコハンに当てて回転しピコハンを持ち上げるように投げる!

見事な一本背負い投げである!

しかも相手の背中ではなく頭から落とすように調節している辺り伊達に警備隊長を任されているわけではないのだろう!

 

「うわぁ?!」

 

逆さまになったピコハンの驚く声が出たが、予想していた衝撃が来ない事に違和感を感じ、頭を上げて逆に驚かされたのはユティカであった。

 

「なっ…」

 

ピコハンを投げるのに使った腕一本でピコハンは倒立をして自らの体を支えていたのだ。

だがそれでもユティカは止まらない!

すぐさまピコハンの腕から手を離して逆になったその顔面目掛けて蹴りを放つのだが・・・

片手倒立していたピコハンは腕を曲げ地面に肘を着いて体を動かす。

横にずれた事でユティカの蹴りは顔面ではなくピコハンの肩に当たるのだが、その衝撃を利用したようにピコハンは半回転する!

実は当たる直前で肘を軸に手の平で地面を押して回転していたのだが、周りで見ていた警備の者達はその異常な光景に目を疑う。

 

「よっと」

 

まるで寝転んだ状態から起き上がるように、ピコハンは半回転してその勢いで足を着いて立ち上がる。

ユティカはピコハンと再び対峙するが先程の一方的な攻撃にも拘らず、身につけていた武器を全て破壊されるだけでピコハンは傷一つ負っていないと言う現実が彼女の心に重く圧し掛かる。

 

「お前・・・本当に人間か?」

「あぁ~それ傷付くわ・・・」

 

ユティカに言われたその言葉にあからさまに落ち込むピコハン・・・

だがその仕草にも隙が全く無く、ユティカは勝ち目が無いのを実感していた。

それでも警備隊長と言う立場が彼女を動かした!

何も考えずにただ思いっきり振りぬいた拳、その拳がピコハンの左頬にヒットした!

 

「おおお!!」

 

周りの警備の者が遂に攻撃が当たった事に声を上げる。

更に反対の拳がピコハンにヒットする!

周りの人間は最初こそ攻撃が当たった事に感動していたが、直ぐにそれに気が付く。

ピコハンは一切回避を行なっていないのだ。

 

「うぅぅぅぅ・・・くそっ・・・くそぉおお・・・」

 

何度も何度もピコハンの顔面を捉えるユティカの拳。

だがピコハンの顔に一切のダメージは無い。

それはまさしく避けるまでも無いを体現していたのだ。

 

「気は済みましたかお姉さん?」

 

拳がヒットした状態で止まったのでピコハンは口を開く。

ユティカはもう涙目であった。

今までこの仕事に就いて警備隊長の立場を得るまで鍛えて来た毎日がまるで意味を成していない、その事実が悔しくて仕方がないのだ。

 

「だまれ・・・黙れ黙れ黙れー!!!」

 

ユティカの方が身長20センチほど高いにも関わらず、まるで駄々を捏ねる彼女の様にユティカはピコハンを叩く。

それを困ったな・・・と言う顔で見ているピコハンは遂に手を出した。

今までこの屋敷の人間には一切危害を加えていないピコハンだったが、ユティカの顎先を掠らせる様にデコピンしたのだ。

 

「へっあれっ・・・」

 

その場に崩れるユティカ、意識はハッキリしているのに立ち上がる事が出来ない事実に驚く。

ピコハンのデコピンがユティカの顎に当たり、その振動がユティカの脳を揺らしたのだ。

思うように体が動かなくて座った姿勢でピコハンを見詰めるユティカの顔にピコハンの手が伸びる・・・

そして・・・

 

「おいおい、危ないじゃないか」

 

ピコハンの声と共にユティカは目を疑う。

ユティカの顔面目掛けて矢が飛んで来ていたのをピコハンが掴んでいたのだ。

 

「うるさい黙れ化け物め!」

 

そこにはピコハンから逃げ帰ったライマがボウガンの様な物を構えて立っていた。

その後ろには領主のキャベリンも居た。

 

「ラ・・・ライマ様・・・何故・・・」

「うるさいこの役立たずめ!警備隊長とか言って威張ってたくせに肝心な時に役に立たない屑め!さっさとそいつを取り押さえろ!お前ごと撃ち殺して役立たせてやるよ!」

 

ユティカは完全に心が折れた。

今まで自分が守って来たキャベリンの本音がユティカにぶつけられて、彼女の戦う理由が無くなったのだ。

それをちらりと確認したピコハンは飛んで来た矢を握り潰して放す。

 

「ひっ!く・・・来るなら来い化け物!」

 

キャベリンは威勢良くピコハンに怒鳴る!

ライマは完全に逃げ腰だが、キャベリンを一応は守ろうと必死なのは理解できた。

そして、ライマが今度は直接ピコハンに向けてボウガンを向ける。

 

「お、お前さえ、お前さえ居なければ・・・」

 

そして、その矢がボウガンから放たれたのをピコハンは確認して、真っ直ぐに突っ込んだ!

その速度はこの場の誰にも肉眼で確認出来ないほどの速度であった。

しかも自分に向かって飛んで来ている矢を歯で噛んで止めてそのボウガンごと残っていたライマの片手を両手で挟み潰した!

 

「へっ・・・ひぃあ・・・ひゃああああああああ!!!」

 

壊れたボウガンの破片が手に突き刺さり、更にピコハンによって潰された事で悲鳴を上げるライマ。

その場に膝を付いて自分の手を見つめるライマにピコハンは告げる。

 

「これはそこのお姉さんに矢を放ったおしおきだ」

「えっ?」

 

ピコハンの言葉にユティカは驚く。

そしてユティカは高鳴る鼓動に気付く。

自分よりも年下だが、遥か高みに居るその少年ピコハンに対しての感情に戸惑いを感じていた。

 

「ひっひぃぃいいいい!!」

 

最後の護衛のライマが悲惨な目に遭わされた事を目の当たりにして、キャベリンは後ずさりをして走り出す。

しかし、それを嬉しそうにピコハンは追い掛ける。

真面目に走れば一瞬で捕まえられるにも関わらず、獲物をいたぶる様に付かず離れずの距離を保ったまま追い掛けていく・・・

 

キャベリンは追いつかれそうだが全力で走っていれば追い付かれないのが分かったのか、適当に部屋のドアを開けて中に逃げ込んだ。

そしてドアを押さえるのだがドア横の壁を突き破ってピコハンは部屋の中へ飛び込む!

 

「うぎゃあああああああああ!!!」

 

慌ててドアを開けて廊下へ逃げ出すキャベリン。

そのドアを人型にぶち破って追い掛けるピコハン!

 

廊下の角を曲がればショートカットして壁をぶち破って追い掛けてくるピコハン。

普段運動しないキャベリンが動けなくなるのは直ぐであった。

 

「はぁーはぁーはぁー、も、もう勘弁してくれ!」

 

へたり込んでピコハンの方を向いて片手を広げて待てとジェスチャーしながら叫ぶキャベリン

 

「俺から言う事は一つだけだ、お前の命令で俺の家族が傷付いた・・・」

 

復讐だ・・・間違いない、自分は殺される・・・

そう確信したキャベリンは漏らした。

そして、ピコハンから告げる。

 

「お前が元凶なんだから村まで来てちゃんと謝れ!」

 

 

 

 

「…えっ?」

 

ピコハンの言葉に領主キャベリンは言われている意味が理解できないのであった。


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