「くそっ・・・戻れない・・・」
ピコハンは左に3回曲がって入ってきた通路ではなく同じ部屋に出た事を確認後、来た道を戻り右に3回曲がったのだがそこは同じような部屋であった。
片面4メートル程のその部屋には変わらず前後左右上下の枚のドアが在る部屋で、今まで通った部屋と何も変わらない造りだった。
「今更かもしれないけど・・・」
ピコハンは腰に下げてた女王蟻の足から作った剣でドアに傷を付けた。
一番怖いのは前回同様同じ場所をループしている事だろう。
もし最初からこれを行なって、来たドアと進むドアに印を付けて行ってればここまで困らなかったかもしれないが、今更悩んでも仕方がない。
一応入ってきたドアを『入』、通るドアを『出』と印を付けて次の部屋へ進んでいく・・・
流石女王蟻の足で作った剣であろう、軽く擦るだけでドアに傷が付き、剣の方は刃こぼれの気配が全く無い。
そうして印を付けながらピコハンは進み続けた。
法則性も何も分からないので、まずは端まで行ってみようと真っ直ぐに進み続けたのだ。
そして、ドアを5枚進んだ時に変化は起きた。
「うわぁ?!」
ドアを開けて中に入った瞬間にピコハンは正面に落下したのだ!
焦ったが、身体能力には自身の在るピコハンは落下先に在るドアに上手く着地した。
4メートルの高さから落下したので、普通の人間なら捻挫や骨折をしていても不思議ではないだろう。
一般的住宅の2階よりも高い高さから落ちると考えればそれがどれくらい危険かは直ぐに予想が付く事だろう。
「あぶねぇあぶねぇ・・・」
上手く両手を付いて着地したピコハンはドアが勢い良く閉まる音に反応して上を見上げる。
それは今通って来たドアが閉まった音だったが、ピコハンは落ち着いて今起こった事を考える。
「ドアを真っ直ぐ歩いて通ったら正面に落下した。まるで重力の方向が変化したように・・・」
それに一つの仮説が完成する。
同じ場所に戻る筈のルートを通っても戻れない、ドアを潜ると重力の方向が変化した。
それはつまり・・・
「ドアが隣の部屋のドアに繋がっている訳じゃない事がこれで確定だな」
空間が歪んでいてドアとドアが繋がっている。
そう考えないと現状納得が出来ないのである。
だがこの世界の子供であるピコハンに空間がどうのこうのと言う発想は無かった。
ただ、ドアが何処かのドアに繋がっているという漠然とした事しか分からなかったが、それで十分である。
「と言う事は・・・」
ピコハンは自分が着地しているドアを見詰めゆっくりと開ける。
そして、頭を突っ込むと予想が現実となっていた。
下方向のドアを開けた先は上下が逆だったのだ。
「うぉっ気持ち悪っ!?」
それはそうだろう、首を境に転地がひっくり返っているのでまるで上下から首に圧力が掛けられているような感じになっていたからだ。
とりあえずピコハンはその部屋に進む。
一応先程と同じように傷を付けて今度は横方向へ進む。
そして、そこで初めて変化が現われた。
「トレジャーハンターの遺体か?」
その部屋の角に白骨死体が座り込んでいたのだ。
大きさ的に自分と同じくらいの子供の死体だろう。
そして、ピコハンはその死体の横にノートの様な物を見つけて手に取った。
それを見てピコハンは驚愕の事実を突きつけられるのであった。
『今日も出られない、ドアは空間が繋がっているのか進んでいるのかもわからない』
『今日も出られない、どうにもドアに付けた傷は勝手に修復されているようだ』
『今日も出られない、幸い共有箱を通じて外と連絡が取れるのが救いだ』
『今日も出られない、一体何百・・・いや何千のドアを潜っただろう・・・』
『今日も出られない、一体何日同じ部屋しか見ていないのか分からない』
『今日も出られない、せめて魔物が出たり宝が在ったりすると変化があっていいのだが・・・』
『今日も出られない、俺は一体何をしにここへ来たんだろう・・・』
『今日も出られない、最近寝ているとドアが俺を誘ってくる・・・』
『きょうもでられない、どあが・・・どあが・・・』
『きょうもでられない、おれは・・・ちがう・・・これは・・・』
『きょうも・・・でられ・・・あははははは、そうかそうだったのか・・・』
『きょうも・・・でられ・・・ここがせかい・・・これがせかい・・・』
『きょう・・・でら・・・はらへった・・・』
『きょう・・・でら・・・いやだ・・・しにたく・・・ない・・・』
『きょ・・・し・・・ぬ・・・』
『い・・・・や・・・・・・・・だ・・・・・・』
メモはここで終わっていた。
ピコハンはそれを見て驚愕に震えていた。
その筆跡は間違い無く・・・自分の物だったからだ・・・